トライアンフ試乗記|新型タイガースポーツ660の買い時は今。大幅に充実させた機能面に満足を得た。|トライアンフ試乗記

イギリスの老舗二輪雑誌が2022年のバイク・オブ・ザ・イヤーに選出したのが、トライアンフのタイガースポーツ660だ。2025年モデルはクルーズコントロールやコーナリングABS、双方向クイックシフターなどを追加しながら、価格は据え置きとなっている。新たに登場した800も秀作だが、660のコスパの高さも見逃し厳禁だ!

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

トライアンフ・タイガースポーツ660……112万5000円~(2025年2月発売)

タイガースポーツ660
タイガースポーツ800

今年新登場した800より27万円、およそ20%も安く、車重は7kg軽いのがタイガースポーツ660だ。サイレンサー形状が大きく異なるほか、DRLやウインドディフレクターの有無、ラジエーターシュラウドの形状などからも800との見分けが付く。

トライデント660
デイトナ660

タイガースポーツ660/800とプラットフォームを共有する2台。ロードスターのトライデント660は2021年に発売され、2025年はタイガースポーツ660と同様にクルコンやコーナリングABS、双方向クイックシフター、スマホ連携機能、そしてライディングモードに〝スポーツ〟を追加した。99万5000円~。95psを発揮するミドルウエイトスポーツのデイトナ660は2024年に発売された。108万5000円~。

車体色は4種類。サファイアブラックが112万5000円。ルーレットグリーン、カーニバルレッド、クリスタルホワイトの3色が1万3000円高の113万8000円だ。2年間走行距離無制限のグローバル保証が付帯する。

スポーツモードの追加でエキサイティングな走りも可能に

今から3年前の2022年、イギリスの老舗二輪雑誌であるMCN(モーターサイクルニュース)が、トライアンフ・タイガースポーツ660をバイク・オブ・ザ・イヤーに選出した。その時の記事がネットで閲覧できるので目を通してみると、「これはスポーツアドベンチャーの姿を借りたハーフカウルのストリートトリプルである」と総評を述べている。この表現はまさに言い得て妙と言えるだろう。MCNは乗り心地とブレーキ/エンジン/信頼性と品質/ライバルとの価値といった各項目で満点を与えながら、一方でクルーズコントロールとスマホ連携機能がないことを不満点に挙げていた。ちなみに、新登場のタイガースポーツ800を紹介するトライアンフの本国公式YouTubeには、660よりもパワフルなことを歓迎するコメントが多数書き込まれている。MCNは「660のエンジンはフレンドリーだ」とほめていたが、とはいえ非力に思っている欧米ライダーも少なくないようだ。

こうしたさまざまな要望を反映したのが、新しいタイガースポーツ660と言えるだろう。2025年モデルは、MCNに指摘されたクルーズコントロールとスマホ連携機能を標準装備しただけでなく、モアパワーの手段としてライディングモードに“スポーツ”を追加した。さらに、双方向クイックシフターや最適化コーナリングABSまで採用しながら、価格はまさかの据え置きとなっている。800の新登場によって660は脇役になってしまった感はあるが、追加された装備の数々を知ると、圧倒的なコストパフォーマンスの高さが見えてくるだろう。

660cc水冷4ストローク並列3気筒エンジンのハードにおける変更のアナウンスはなし。最高出力はトライデント660と同じ81psで、最大トルク64Nmの90%以上を全回転域で発揮する。2025年モデルではクルーズコントロールと双方向クイックシフターを追加。さらにロードとレインの2種類だったライディングモードに「スポーツ」を加えて3種類に。スリップアシストクラッチを引き続き採用する。なお海外では、EUのA2免許やオーストラリア/ニュージーランドのLAMSに準拠したリストリクターキットが用意されている。

1軸バランサー付きの660cc水冷トリプルは、最高出力81ps/最大トルク64Nmというスペックに変更はない。アイドリングから中回転域までは若干ザラついたような微振動が出るが、これはトリプルならではの脈動感と捉えることもできる。トライデント660が登場する以前のストリートトリプルのような、回転上昇時における表情の変化はやや薄まった感がある。しかし、ピークトルクの90%以上を全回転域で発揮するという設計は伊達ではなく、3000rpm付近の低回転域からでもスルスルとコーナーを立ち上がることができてしまう。

ライディングモードは、スポーツ/ロード/レインの3種類。変わるのはスロットルレスポンスとトラクションコントロールの介入レベルだ。最も万能的なのはやはりロードモードで、加減速時におけるレスポンスは適切であり、またパーシャル時のマナーも良い。新設されたスポーツモードは、開度0度からの開け始めはもちろん、追い越しの際など中間開度から開け足した時の反応もロードモードより力強く、まるでパワーがアップしたようにすら感じられる。レッドゾーンは1万500rpm付近で、2速でそこまで引っ張ると速度は100km/hに迫る。十分以上にパワフルであり、これなら重いキャンプ道具を積んだ状態でも不満は感じないだろう。

エンジンでの不満点は二つ。一つはクルーズコントロールだ。一般的なクルコンは速度を決定したあと、ボタン操作で1~2km/hずつの増減速ができるが、タイガースポーツ660のそれは最初に設定した速度を維持するのみ。MCNをはじめ、クルコンを望んでいたライダーは少なからず落胆したに違いない。そしてもう一つはシフトペダルの形状だ。つま先と接触する部分が短く、何度かシフトチェンジをミスってしまった。なお、標準装備のクイックシフターについては、低いギヤでのシフトアップ時にやや大きめのショックが出るが、実用上は特に問題ないと言えるだろう。

シフトペダルは踏部が短いことに加え、手前のクランク状の部分にソールが触れるとシューズ全体が外側に弾かれるので、これも踏み外しの要因になっているようだ。

腰下でヒラヒラと操れるハンドリング、防風効果も非常に優秀だ

ハンドリングについては、完全にオンロードモデルのそれであり、これだけ大きめのカウルが付いていながら、倒し込みや切り返しはネイキッドのように軽快だ。特に大げさなアクションを加えなくても、幅の広いハンドルにきっかけを与えるだけでヒラヒラと腰下でマシンが傾き、ニュートラルな舵角で向きを変えていく。もしブラインドテストをしたなら「ホンダ車?」と答えてしまいそうなほど、クセのないハンドリングなのだ。

サスペンションは前後ともショーワ製で、作動性は良好だ。乗り心地は800の方がワンランク上だが、112万5000円という車両価格を考えると660も決して悪くはなく、ミシュランのロード5も十分にいい仕事をしている。

ブレーキセットは前後ともトライデント660と共通だ。ホイールトラベル量はトライデント比でフロントが30mm、リヤが20mm増えているが、フロントブレーキを強くかけても車体がピッチングしすぎることなく、安心して作動させられる。2025年モデルから採用されたオプティマイズドコーナリングABSは、今回の試乗において介入するシーンこそなかったが、ライダーにとって大きな安心材料であることは間違いない。

ショーワ製φ41mm倒立式カートリッジフロントフォークは非調整式。ホイール径は前後17インチで、標準装着タイヤはミシュラン・ロード5。フロントブレーキはニッシン製ピンスライド片押し式2ピストンキャリパーとφ310mmディスクの組み合わせで、2025年モデルはオプティマイズド(最適化)コーナリングABSを採用する。

タイガースポーツ660の長所は防風効果の高さだ。スクリーンの高さは7段階に調整可能で、上端が絶妙に反り返っていることから、最下段でも胸元に当たる走行風を効果的に減じてくれる。また身長にもよるだろうが、175cmの筆者の場合は最上段まで上げると高速道路において非常に快適で、その調整が片手でできるというのは非常にありがたい。

スクリーンは高さを7段階に調整可能。内側のバーを片手で操作するというシンプルな仕組みだ。ちなみにウインカーはセルフキャンセリング式で、オートとマニュアルが選択可能。

競合車はカワサキ・ヴェルシス650やヤマハ・トレーサー7であり、トライアンフは両車をかなり研究したであろうことが伝わってくる。トレーサー7は日本未発売なので比べられないが、ヴェルシス650の価格は115万5000円であり、カワサキケアモデル(3年間の定期点検とオイル交換代が車両価格に含まれる)ということを考慮しても、タイガースポーツ660は日本においても十分以上に競争力がある。予算が許すなら同じベクトル上にある800を勧めるが、今年の660なら満足度は同等以上と言えるだろう。

ライディングポジション&足着き性(175cm/65kg)

上半身がほぼ直立するため、視野の広さが印象的なライディングポジション。膝の曲がりが緩やかなので長時間のツーリングでも疲れにくいはず。
シート高は835mmを公称する。身長175cmの筆者が両足を地面に下ろすと、ご覧の通りかかとがほんの少しだけく。足着き性は良好と言えるだろう。

ディテール解説

リヤブレーキはφ255mmディスクと片押し式シングルピストンキャリパーのセット。スイングアームは鋼鈑プレス製で、ホイールトラベル量は前後とも150mmとなっている。トライデントの120/130mmよりも長めだ。
リヤサスペンションはリンク式のモノショックで、油圧プリロードコントローラー付き。800は伸び側減衰力調整機構を持つが、660にはない。
アルミ製テーパーハンドルを採用。燃料タンク容量は17.2Lで、フューエルキャップにはトライアンフのロゴマークあり。
左側上部にクルーズコントロールボタンを追加したスイッチボックス。DRLボタンの有無が800との相違点だ。電子制御スロットルを採用しているのでスロットルワイヤーがない。
メーターパネルは上段が半円LCD、下段がスクエアなTFTという組み合わせだ。これまでオプション扱いだったスマホとの接続機能「My Triumph コネクティビティシステム」が標準装備になったのは朗報だ。
車名ロゴの入る800に対し、660のシート表皮はプレーンなタイプだ。グラブバーは上半身を支えやすい高さにあり、なおかつ握りやすさを考慮した断面形状となっている。
試乗車にはETC車載器が備え付けられていた。ご覧の通り本体をスマートに取り付けられるのはうれしい。
灯火類はオールLED。テールカウル下部に見える四角い凹みは一体型パニアマウントだ。

タイガースポーツ660(2025年モデル) 主要諸元

●エンジン、トランスミッション
タイプ:水冷並列3気筒DOHC12バルブ
排気量:660cc
ボア:74.0mm
ストローク:51.1mm
圧縮比:11.95:1
最高出力:81ps(59.6kW)@10,250rpm
最大トルク:64Nm@6,250rpm
システム:ボッシュ製マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射、電子制御スロットル、ライディングモード3種類(RAIN、ROAD、SPORT)
エグゾーストシステム:ステンレススチール3into1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレススチールサイレンサー
駆動方式:Xリングチェーン
クラッチ:湿式多板ワイヤー式、スリップアシスト
トランスミッション:6速

●シャシー
フレーム:チューブラースチールペリメーターフレーム
スイングアーム:両持ち式、スチール製
フロントホイール:チューブレス5スポーク 17×3.5インチ、アルミニウムリム
リアホイール:チューブレス5スポーク 17×5.5インチ、アルミニウムリム
フロントタイヤ:120/70ZR17
リアタイヤ:180/55ZR17
フロントサスペンション:Showa製41mm径倒立式セパレートファンクションカートリッジフォーク(SF-CF)、トラベル量150mm
リアサスペンション:Showa製油圧プリロード調整機能付きモノショックRSU ※伸び側減衰力の調整可能
フロントブレーキ:310mm径フローティングダブルディスク、2ピストンキャリパー、OCABS
リアブレーキ:255mm径シングルディスク、シングルピストンスライディングキャリパー、OCABS
インストルメントディスプレイとファンクション:LCDマルチファンクションメーター、TFTカラースクリーン

●寸法、重量
全長:2,070mm
ハンドルを含む横幅:835mm
全高(ミラーを含まない):1400mm
シート高:835mm
ホイールベース:1420mm
キャスターアングル:23.1º
トレール:97mm
車体重量:208kg
燃料タンク容量:17.2ℓ
燃料消費率:4.7L/100km(21.3km/L)

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…