メチャお得と言われるホンダCB1000ホーネット。動力性能や各部の構成を考えると……やっぱりイイね!

欧米では事情が異なるのかもしれないが、日本人の感覚で一昔前と比べると、最近のリッターバイクは相当に高額になった。そんな状況下で、スポーツバイク好きにとって救世主になり得るモデルが、ホンダが2025年1月から国内市場への導入を開始したCB1000ホーネットだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダCB1000ホーネット……1,342,000円

日本仕様のボディカラーは、スタンダード:パールグレアホワイト、SP:マットバリスティックブラックメタリック。海外の一部の地域では、グレーメタリックやレッドも存在。

“ガワ”を変えただけではない

新型車の試乗記で冒頭からこんなことを言うのも何だけれど、2025年1月からホンダが日本市場での発売を開始したCB1000ホーネットに対して、僕はあまり関心を抱いていなかった。と言うのも、まず前任に当たる2代目CB1000Rの乗り味が個人的にはいまひとつピンと来ていなかったし、ネオクラシックの要素を取り入れた独創的なデザインの2代目CB1000Rとは異なり、初代の路線に回帰したかのようなストリートファイター然としたルックスも、僕としては腑に落ちなかったのだ。

ところが、試乗前日に広報資料を読み込んだら印象が一変。実は当初の僕は、2代目CB1000Rの“ガワ”を変えただけだろうと思っていたのだが、CB1000ホーネットは主要部品のほとんどが新規開発なのである。その事実を理解した僕の中では、新世代の大排気量並列4気筒CBに対する期待がムクムクと膨らむこととなった。

先代とはエンジンもフレームも別物

現代のリッタースポーツネイキッドのフレームはアルミ製が主役だが、CB1000ホーネットは既存のシリーズと同じスチール製を選択。

CB1000ホーネットの広報資料で、僕が最初に興味を惹かれたのは、ツインスパータイプのスチールフレームを新規開発したことと、2017~2019年型CBR1000RR(SC77)がベースのエンジンを採用したこと。初代/2代目CB1000Rとその兄弟車のCBF1000シリーズが、フレーム:モノバックボーンタイプ、エンジン:2004~2007年型CBR1000RR(SC57)がベースだったことを考えると、完全な別物に進化を遂げたわけである。

それに加えて2代目CB1000Rと比較するなら、スイングアームを片持ち式→両支持式に変更したこと、リアサスペンションを直押し→リンク式に改めたこと、シートを21mm低くしたことなども(830→809mm)、注目するべき要素だろう。いずれにしても2代目CB1000RとCB1000ホーネットの写真を見比べて、共通点を感じるのはフロントまわりの一部のパーツくらいで、“ガワ”を変えただけという僕の見方は大間違いだったのだ。

前任車がピンと来なかった理由

前述したように、僕は2代目CB1000Rの乗り味がいまひとつピンと来ていなかった。その主な理由は、硬質な振動と乗り心地の悪さである。と言っても、他メーカーならそのあたりは許容範囲だったような気はするが、これまでの試乗を通して、ホンダの並列4気筒車=超スムーズで超快適というイメージを抱いていた身としては、荒っぽいフィーリングがどうにも解せなかったのだ。

2代目CB1000Rのコンセプトは”ネオスポーツカフェ”。その思想を広めるべく、後に同様のデザインを採用する650、300、250、125が登場。

さらに言うなら、インパクトやパンチが希薄なことも、個人的には気になる要素だった。もっともそういう特性は、裏を返せば扱いやすさにつながるので、ホンダらしいという見方はできるのだが、2018年に他の媒体の仕事でリッタースポーツネイキッド/ストリートファイターのイッキ試乗を体験した僕は、激戦区でライバル勢に打ち勝つには、2代目CB1000Rにはもっと強烈な主張が必要じゃないか?と感じたのだ(当時の僕が最も衝撃を受けたのはKTM 1290スーパーデュークRで、次点はアプリリア・トゥオーノV4とBMW S1000R)。

他メーカーのライバル勢とは異なる魅力

ではそんな気持ちを抱えならがら今回の試乗に臨んだ僕が、CB1000ホーネットにどんな印象を抱いたのかと言うと、いい意味でホンダらしいと思った。まず振動と乗り心地の問題は程よい塩梅で解消されていて、低めに設定されたシートと合わせて考えると、ライバル勢よりフレンドリーで、幅広い使い方ができそうである。

ただしもうひとつの個人的なテーマ、主張の強さについては微妙なところだった。前任車を思い出すと、エンジンはパワフルになっているし(最高出力は、スタンダード:152ps、SP:158ps。2代目CB1000Rは145ps)、車体は軽快感と信頼性が向上しているものの、だからと言って他社のライバル勢のように、刺激や官能性やキレ味などいう言葉が思い浮かぶわけではない。そういう意味では、物足りなさは解消されていないのだが……。

今回の試乗では、それが悪いこととは思わなかった。と言うのも、近年のリッタースポーツネイキッド/ストリートファイターは先鋭化が進んでいて、2018年と比べると、敷居が高めの車両が増えている。そんな中でホンダならではの扱いやすさを維持し、どんなライダーでも気軽に乗れてどんな用途にも気軽に使える一方で、現代ならではの運動性能がきっちり味わえて、その気になれば相当な速さが堪能できるCB1000ホーネットが、僕としては貴重な存在と思えてきたのだ。

上級仕様となるSPは、ブレンボ製スタイルマキャリパーやオーリンズTTX36リアショック、クイックシフター、最高出力向上に貢献する排気デバイスなどを採用。

しかもCB1000ホーネットのスタンダードの価格は、2代目CB1000Rより30万円以上安い134万2000円なのである(上級仕様のSPは158万4000円)。現代のリッタースポーツネイキッド/ストリートファイターの価格が、150万円以上は当たり前で、200万円前後が珍しくなくなっていることを考えると(ドゥカティ・ストリートファイターV4SやBMW M1000R・Mコンペティションは300万円オーバー‼)、このバイクはムチャクチャお買い得と言っていいんじゃないだろうか。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

現代のリッタースポーツネイキッド/ストリートファイターの基準で考えるなら、シートが低めのCB1000ホーネットのライディングポジションはフレンドリーな部類。もっとも、両足がベッタリ接地するためには最低でも170cm以上の身長が必要。ただし、シート下がスリムに絞られているので、身長160cm台のライダーでも大きな不安は感じないようだ。

ディティール解説

テーパータイプのアルミ製ハンドルを含めて、コクピットのカラーはブラックで統一。ガソリンタンク左右には、デザイン上のアクセントとなる樹脂製カバーが備わる。
スマホとの連携が可能な5インチフルカラーTFTメーターは、ディスプレイを3種から選択可能。3+2種が存在するライディングモードの設定は、左上に絵柄で表示。
左右スイッチボックスは、CB750ホーネットやXL750トランザルプなどと共通。メーター内の表示切り替えと設定変更は、左側の十字ボタンで行う。
 
スロットルは電子制御式。ニッシン製のフロントブレーキマスターシリンダーはラジアルポンプ式で、リザーバータンクはスモークタイプ。
シートはスーパースポーツ然としたデザイン。メイン部の座り心地は意外に良好だったものの、タンデムはなかなか厳しそう。積載性を意識した装備は一切ナシ。
キーで脱着できるタンデムシート下には収納スペースが存在するけれど、容量は非常に小さく、レインウェアの積載も難しい。ETC2.0ユニットは標準装備。
エンジンのベースは2017~2019年型CBR1000RR(SC77)。本来の最高出力は192psだが、常用域重視の刷新が行われたCB1000ホーネットは、スタンダード:152ps、SP:158ps。
前任に当たる2代目CB1000Rが、吸気通路のダウン→サイドドラフト化を行っていたのに対して、CB1000ホーネットはベース車と同じダウンドラフト吸気を維持している。
φ41mm倒立フロントフォーク(ショーワのSSF-BP)とφ320mmフロントディスクは、2代目CB1000Rの基本構成を継承。ただし、フロントブレーキキャリパーはトキコ→ニッシンに変更。
2代目CB1000Rではφ256mmディスク+片押し式2ピストンキャリパーだったリアブレーキは、φ240mmディスク+片押し式1ピストンキャリパーに刷新。アルミスイングアームは新規開発。
リアサスペンションはボトムリンク式で、ショックユニットはショーワ。純正指定タイヤのブリヂストンS22とダンロップ・ロードスポーツ2は、各社にとって一世代前のハイグリップスポーツ。
 
フロントマスクはストリートファイター然とした雰囲気。ネオクラシックテイストでヘッドライトが丸形だった前任車と比べれば、多少の防風効果が期待できそうだ。

主要諸元

車名:CB1000ホーネット
型式:8BL-SC86
全長×全幅×全高:2140mm×790mm×1085mm
軸間距離:1455mm
最低地上高:135mm
シート高:809mm
キャスター/トレール:25°/98mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:999cc
内径×行程:76.0mm×55.1mm
圧縮比:11,7
最高出力:112kW(152ps)/10000rpm
最大トルク:104N・m(10.6kgf・m)/9000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.285
 2速:1.777
 3速:1.500
 4速:1.333
 5速:1.137
 6速:0.967
1・2次減速比:1.717・3.000
フレーム形式:ダイヤモンド(ツインスパー)
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック(プロリンク)
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:211kg
使用燃料:無鉛プレミアウガソリン
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:22.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:17.7km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…