上級グレードが必ずしもベストではない? CB1000ホーネットのスタンダードとSP仕様を、同条件でじっくり比較

上級仕様となるSPの価格設定が、相当に良心的であることは間違いない。とはいえ、2台のCB1000ホーネットを同条件で比較した筆者は、あらゆる面でSPが優位ではなく、スタンダードにも立つ瀬があると感じたのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダCB1000ホーネットSP……1,584,000円

2025年1月から国内販売が始まったCB1000ホーネット/SPは、ツインスパータイプのスチールフレームに2017~2019年型CBR1000RR(SC77)がベースのエンジンを搭載。スタンダードのフロントフォークアウターはシルバー、前後ホイールはブラックだが、SPはいずれもゴールド。

相当に良心的な価格設定

少し前に当サイトに掲載したスタンダードに続いて、この記事で紹介するのはCB1000ホーネットSPの乗り味である。ちなみに、僕がこれまでに体験した同一車両の仕様違いを振り返ってみると、スタンダードより上級仕様のほうが明らかにイイ‼と感じることが多かったものの、このモデルの場合は必ずしもそうではなかった。

並列4気筒エンジンはCBR1000RRの最終型がベース。エアクリーナーボックスやエアファンネルは専用設計だ。

本題の前に外観から判別できるSPの特徴を記しておくと、フロントのブレンボ製スタイルマキャリパー、オーリンズTTX36リアショック(スタンダードはニッシン・ショーワ)、アップ&ダウンに対応するクイックシフター、パワー・トルクアップに貢献する排気デバイスなど。スペックはほぼ同一だが、最高出力・最大トルク・装備重量は異なっている(スタンダード:152ps・10.6kgf-m・211kg、SP:158ps・10.9kg-m・212kg)。

エンジンの回転数に応じてバタフライバルブの開閉を行う排気デバイスはSPならではの装備で、あえて目立たない形で設置。

そんなSPの価格は、スタンダード+24万2000円の158万4000円。スタンダード用の純正アクセサリーとして準備されているクイックシフターが2万6950円、アフターマーケット市場で販売されているブレンボ製スタイルマキャリパーが左右セットで12~13万円前後、オーリンズTTXリアショックが20万円前後という事実を考えると、相当に良心的な設定と言っていいだろう。

SPならではの魅力

CB1000ホーネットのスタンダードとSPを同条件で試乗して、最初に感じたSPの美点はクイックシフターだった。僕は通常のギアチェンジを面倒と感じるタイプではないのだが、クラッチレバーに触れることなく、シフトアップ時にスロットルを戻すことなく、シフトダウン時にエンジンの回転数を合わせる意識も必要なく、ギアチェンジが気軽にスコスコ行えるイージーな感触を知ると、やっぱりこの機構は便利で魅力的だと思う。

それに続いて感じたSPの美点は排気バルブ……と言うより、エンジン特性だ。最高出力は6psしか違わないものの、SPの6000rpm近辺からの吹け上がりはスタンダードとは別物で、シャープにして豪快なフィーリングが堪能できる。もっとも、だからと言ってスタンダードにトロいとか非力などという印象を抱いたわけではないし、扱いやすさならスタンダードのほうが上?という気がしなくもないのだが、高回転指向の並列4気筒が好きなライダーならSPに軍配を上げたくなるだろう。

ただし残念ながら、ブレンボ製スタイルマキャリパーとオーリンズのTTX36リアショックの美点は把握できなかった。それどころか後者に関しては、標準セッティングは良路+高荷重域を前提にしているようで、至るところに凹凸が存在し、思い切った荷重をかけづらい一般公道では、ショーワ製を採用するスタンダードのほうが、ハンドリングが軽快で、乗り心地が良好だったのである。

もちろん、サーキットのような快走路ならブレンボ+オーリンズの優位性を感じるはずだし、TTX36の守備範囲を考えると、セッティング次第でスタンダードと同等以上の軽快なハンドリングや良好な乗り心地が実現できるだろう。とはいえ、今回の試乗で一般公道のさまざまな状況を走った僕は、スタンダードのフロントブレーキとリアショックがSPに劣るとは思えなかったのだ。

ライダーの趣向でベストは異なる

そんなわけで甲乙が付け難いCB1000ホーネットのスタンダードとSPだが、あえて言うなら、ツーリング指向のライダーにはスタンダード、速度レンジが高いワインディングロードがメインステージで、年に何度かはサーキット走行会に参加するライダーにはSPが向いている、ということになるのだろうか。と言っても、スタンダードでサーキットが楽しめないわけではないし、SPがツーリングを不得手としているわけでもない。

スタンダードのフロントブレーキキャリパーはニッシンで、リアショックはショーワ。クイックシフターと排気デバイスは装備しない。

ちなみに、ツーリングもワインディングロードもサーキットも好きな僕の場合は、試乗直後はSPのリアショックを自分好みに仕上げるのがベストと思ったものの、今現在は差額の24万4000円でできる遊びを考えて、スタンダードを購入したほうが、充実したバイクライフが送れるのかも?……と感じているのだった。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

昨今のリッタースポーツネイキッド/ストリートファイターの乗車姿勢は、運動性重視で攻撃的な雰囲気を感じることが多いけれど、CB1000ホーネット/SPは意外に安楽で、街乗りやツーリングも余裕でこなせそう。他メーカーのライバル勢と比較するとシートは低い部類で、809mmという数値はスタンダードとSPに共通だが、乗車1Gでのリアショックの沈み込みには差異があって、足つき性はSPのほうがわずかに良好。

ディティール解説

ヘッドライトは4灯式で、その上部はアイブロウタイプのポジションランプを設置。標準装備のETCのアンテナはヘッドライトカウルの内部に収まっている。
ハンドルはアルミ製テーパータイプで、マウント部には振動対策用のラバーを設置。グリップラバーは1990年代から継承してきた、ホンダの定番品だ。
メーターは5インチTFT。左上に絵柄が表示されるライディングモードは、標準のスタンダード/スポーツ/レインに加えて、ユーザーが任意で設定できる2種を準備。
セパレートタイプのシートはスーパースポーツ然とした雰囲気。メインシートはボルト留めで、前部をギュッと絞ったデザインからは、足つき性に対する配慮が伺える。
サイドカムチェーン式の並列4気筒エンジンは、CBR1000RR(SC77)の最終型がベース。公道走行を前提にして、ピストンやカムシャフト、ミッションなどを専用設計している。
スタンダード:152ps、SP:158psという最高出力は、近年のリッタースポーツネイキッド/ストリートファイターでは低い部類。ちなみに欧州勢は、200ps前後が普通になっている。
スタンダードには存在しないメカニズムとして、SPはマフラーの前部にバタフライタイプの排気デバイスを設置。
スタンダードでは純正アクセサリー扱いとなるクイックシフターを、SPは標準装備。シフトロッド上部にはセンサーが備わる。
フロントブレーキキャリパーはラジアルマウント式4ピストンで、スタンダードはニッシン、SPはブレンボを採用。ブレーキホースも各車各様だが、φ320mmディスクは両仕様に共通。
リアブレーキはφ240mmディスク+ニッシン製片押し式1ピストンキャリパーで、ホイールはF:3.50×17・R:5.50×17。純正指定タイヤはブリヂストンS22とダンロップ・ロードスポーツ2の2種。
左トップキャップにプリロード、右に伸圧ダンパーアジャスターを備えるφ41mm倒立フロントフォークは、ショーワのSSF-BP。基本構成はスタンダードと同じだが、SPのダンパーロッドは専用設計。
リアサスペンションはボトムリンク式で、フルアジャスタブル式のショックユニットはオーリンズTTX36。スタンダードが採用するショーワ製と比較すると、伸圧ダンパーが強めの印象だった。
 

主要諸元 

車名:CB1000ホーネットSP

型式:8BL-SC86
全長×全幅×全高:2140mm×790mm×1085mm
軸間距離:1455mm
最低地上高:135mm
シート高:809mm
キャスター/トレール:25°/98mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:999cc
内径×行程:76.0mm×55.1mm
圧縮比:11,7
最高出力:116kW(158ps)/11000rpm
最大トルク:107N・m(10.9kgf・m)/9000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.285
 2速:1.777
 3速:1.500
 4速:1.333
 5速:1.137
 6速:0.967
1・2次減速比:1.717・3.000
フレーム形式:ダイヤモンド(ツインスパー)
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック(プロリンク)
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:212kg
使用燃料:無鉛プレミアウガソリン
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:22.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:17.7km/L(1名乗車時)



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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…