マイナーチェンジかと思いきや! 実際に乗ると軽快感に磨きがかかったと感じられた。|第5世代PCX試乗記

初代から続く“パーソナルコンフォートサルーン”というコンセプトに加えて、第5世代は“プレミアム&パワフルPCX”というキーワードを新たに設定。当記事では日本市場の主役となる125を素材として、新しいPCXの魅力を紹介しよう。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダPCX……379,500円

2010年に初代が登場したPCXシリーズは、2014年以降の2代目、2018年以降の3代目、2021年以降の4代目を経て、2025年からは5代目に進化。なお近年のPCXの生産拠点は、ベトナム、インドネシア、タイなどで、日本仕様はベトナムで生産。

いろいろな意味で衝撃的&画期的

既存のスクーターとは一線を画する、“小さな高級車”としての資質が評価され、世界中で大人気を獲得しているPCXシリーズ。改めて振り返ると僕にとっての歴代PCXは、いろいろな意味で衝撃的&画期的だった。

初代PCXのデビューは2010年。2012年には排気量拡大仕様の150が登場。

まず10年に試乗した初代で僕が驚いたのは、125ccスクーターらしからぬ?と言いたくなる抜群の安定性と快適性。もっとも初代の美点はそれだけではなく、高級感や利便性という面でも、既存の原付二種の常識に収まらない性能を獲得していたのだ。

2014年から発売が始まった2代目は、ライバル勢に先駆ける形で灯火類をフルLED化。

初代に続いて個人的に印象深いのは、2018年に登場した3代目の走り。2012年から発売が始まった150のパワフルさや、2014年にデビューした2代目が行った堅実な仕様変更も特筆すべき要素ではあるけれど、フレームをアンダーボーン→ダブルクレードタイプに変更し、前後タイヤ幅を拡大した3代目の上質で堅実なハンドリングは、初代と2代目を明らかに超えていたのである。

2018年に登場した3代目は、シャシー関連部品を中心とした大改革を敢行。

ただし歴代PCXシリーズの中で、僕が最も意外性を感じたのは、2020年に発売された4代目かもしれない。エンジン+シャシーを全面新設計し、リアブレーキをドラム→ディスクに変更し、もともと大きかったトランクスペースをさらに拡大した4代目は、またしてもあらゆる面で先代以前を凌駕していたのだから。しかも、排気量を149→156ccに拡大した兄貴分と、ハイブリッド仕様となるe:HEV(初代ハイブリッドの登場は2018年)の出来も秀逸で、3種類の4代目を体験した僕の頭の中には、“完成形”という言葉が浮かぶこととなった。

全面新設計車として2020年から展開が始まった4代目は、後輪を14→13インチ化。

もっとも、近年の125/150~160cc前後のスクーターの世界は激戦区で、数年ごとの刷新がマストになりつつある。だからこそPCXも2025年型でモデルチェンジを行ったのだが、3/4代目の驚異的な進化を体感した身としては、仕様変更の中心がデザインで、エンジン+シャシーの基本設計を4代目から継承する5代目には、物足りなさを感じなくもなかった。ところが……。

流麗でスポーティなデザインにシビれる

基本的に普段の試乗記で、僕はルックスに関する言及をほとんどしない。とはいえ、今回の試乗でさまざまな角度から5代目を眺めたら、優雅でスポーティなデザインにシビれてしまったので、以下にその印象を記したい。

5代目のデザインで僕が最初に興味を惹かれたのは、シリーズ初の逆スラントノーズを採用し、正面から見た際のヘッドライト下部の左右幅をわずかに広げ、そこから下部に向かって絞り込まれた、グラマラスなフロントカウル。それに加えて、フロントとは一転して、シャープで軽快でスーパースポーツ的な引き締まったラインを描くサイドパネル+リアまわり、存在感が増したシグネチャーライトや左右独立式となったヘッドライトも、5代目のデザインを語るうえでは欠かせない要素だ。

ちなみに、ムキ出し&メッキ仕上げという独創的な構成を廃止し、スクーターとしては一般的なカバー付きになったハンドルに対して、広報写真を見た時点での僕は違和感を抱いたものの、現車を前にしたらアッサリ肯定派に転身。初代から継承してきた“パーソナルコンフォートサルーン”というコンセプトに加えて、5代目のキーワードである“プレミアム&パワフルPCX”を実現するためには、ケーブル/ハーネス類がほとんど外部に露出しない、この構成の採用は不可欠だったに違いない。

そして先代以前とは異なる手法を随所に導入しながら、PCXらしさを失っていないことも、5代目の美点である。スクーターに限った話ではないけれど、ロングセラーモデルでこういった一貫性を感じる車両、先代以前のユーザーのほとんどが納得できそうなデザインは、近年の2輪の世界ではかなり貴重ではないかと思う。

防風効果や空力の改善を実感

さて、ここからはようやく乗り味の話だが、5代目は運動性能向上に貢献する仕様変更を行っていない。だから当初の僕はコレといった期待はしていなかったものの、走り始めてすぐに車体の動きの軽さを感じた。おそらくその原因は、バーエンドからハンドル内部に移動した振動緩和用のウェイトと、フロントサイドカバーのスリム化だろう。と言っても、後者の主な目的は足元のスペース拡大なのだが(事実、先代以前と比べると広々していた)、脛とくるぶしで挟む部分が狭くなった効果なのか、5代目は車格感が小さく、車体の動きを軽く感じるのだ。

さらに言うなら車体の動きの軽さには、空力の改善も利いているのかもしれない。と言うのも、5代目の外装部品は単にデザインを変更しただけではなく、防風性能でも進化を遂げているのだが、ライダーへの風当たりが弱くなったことに加えて、走行風の整流が先代以前より巧みになっている……ようなのである。などと書くと不思議な印象を持たれそうな気がするけれど、ホンダは昔から空力をハンドリングの味付けに利用しているので、5代目もその点をきっちり追求したのではないだろうか。

まあでも、エンジン+シャシーは不変だから、5代目の基本的な運動性や安定性は4代目と同様である。その事実をどう感じるかは人それぞれだが、4代目を“完成形”と感じた僕にとって、変わらないことはマイナス要素ではない。それどころか、やっぱり非の打ちどころが見当たらないことが、何だか嬉しくなってきたのだ。

そんな5代目PCXにあえて異論を述べるとすれば、上級仕様のDX:デラックスが日本に導入されないこと。もちろんホンダモーターサイクルジャパンとしては、さまなまな状況を熟慮したうえで導入を断念したはずだが、これまでのPCXの人気と5代目の魅力を考えれば、+数万円を支払ってTFTメーターやリザーブタンク付きリアショックを装備するDXを購入したいライダーの数は、決して少なくない……と僕は思うのである。

2025年型PCX125のボディカラーは、マットスターリーブルーメタリック、パールジュピターグレー、パールスノーフレークホワイト、パールマゼラニックブラックの4色。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

ライディングポジションは至ってナチュラルで、スポーツバイクとツアラーのちょうど中間という印象。764mmというシート高は、近年の日本メーカーが販売する125ccスクーターでは平均的な数値だが、ステップスルー構造ではないうえに、サイドパネルの左右方向への張り出しがそれなりに大きいので、身長160cm以下のライダーは手強さを感じそう。そういう問題を解消するため、アフターマーケット市場では数多くのローダウンキットが販売されている。

ディティール解説

先代以前は一体式だったヘッドライトは、5代目では左右独立式に刷新。その上部に備わるシグネチャーライトの左右上端には、バイファンクションタイプのフロントウインカーが備わっている。
“抜け感”を意識して設計されたサイドパネル+リアまわりは、先代以前よりシャープで軽快な印象。テールランプは薄型化されたが、ハザードランプ使用時は従来型と同様のX型で点滅。
新規採用のハンドルカバーは、高級感とスポーティさを意識して設計。ケーブル/ハーネス類の露出はほぼ皆無になった。
視認性に優れるデジタルメーターの表示内容や配置は、4代目を踏襲しているものの、シルバーの外枠はデザインを変更。
シートベースとウレタンは4代目と共通。ただし、全面刷新を行った外装との調和を意識して、シートレザーは前後の分割ラインやステッチを刷新している。
シート下に設置されたトランクスペースは、30ℓの容量を確保。リード125の37ℓには及ばないけれど、たいていのフルフェイスヘルメットは収納できるようだ。
ワンタッチで開閉できるフロントインナーボックスには、500mlのペットボトルを収納することが可能。
フロントインナーボックス上部には、近年の2輪で急速に普及が進んでいるUSB Type-Cソケットを設置。
フットスペースを拡大するため、センターパネルは左右幅を縮小。その結果として負圧による走行風や雨の巻き込みが発生したが、フロントカウルにスリットを設けて問題は解消。
グローバル市場を念頭に置いて開発された水冷単気筒エンジンのeSP+は、実用性や耐久性、静粛性などを徹底追及。ドライブベルトは伝達効率に優れるダブルコグタイプを採用。
ブレーキディスクは前後ともφ220mmで、ブレーキキャリパーは、フロント:片押し式2ピストン、リア、片押し式1ピストン。ABSはフロントのみの1チャンネル式。
原付二種スクーターのタイヤサイズは前後同径が一般的だが、4代目以降のPCXは、フロント14インチ、リア13インチを選択。純正指定品はIRC SCT-006/007。

主要諸元

車名:PCX
型式:8BJ-JK05
全長×全幅×全高:1935mm×740mm×1125mm
軸間距離:1315mm
最低地上高:135mm
シート高:764mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:124cc
内径×行程:53.5mm×55.5mm
圧縮比:11.5
最高出力:9.2kW(12.5ps)/8750rpm
最大トルク:12N・m(1.2kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:無段変速(Vマチック)
フレーム形式:アンダーボーン
懸架方式前:テレスコピック正立式φ31mm
懸架方式後:ユニットスイング式 ツインショック
タイヤサイズ前:110/70-14
タイヤサイズ後:130/70-13
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:133kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:8.1L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:55.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:47.7km/L(1名乗車時)

キーワードで検索する

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…