新感覚!? クラッチ操作無しでスタート&ストップ。新しいバイク体験を実現するホンダ「CB650R E-Clutch」

ネイキッドスポーツモデルの「CB650R E-Clutch」は、プラットフォームを共有するミドルクラスのスポーツモデル「CBR650R E-Clutch」とともに、世界で初めてE-Clutchを採用した市販車だ。E-Clutchは、ホンダが開発したクラッチを自動制御するシステムで、発進時や停車時、また走行中のシフトアップ&ダウン時にライダーのクラッチ操作が不要になる。ホンダは独自開発のDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)のほか、スーパーカブなどに採用されている自動遠心クラッチ、スクーターなどに採用されているCVTなどさまざまな機構の変速機、しかもクラッチレバーを持たない変速機をさまざまなモデルに搭載している。このE-Clutchは、それらの機構とは構造が異なる。またE-Clutchはクラッチレバーがあり、従来通りのクラッチ操作が可能であると言うことも特徴だ。今回の試乗では、そのE-Clutchについても色々と試してみたが、その印象をお伝えする。

REPORT:河野正士(Tadashi Kono)
PHOTO:山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
衣装協力:クシタニ

400ccモデル並みの軽量&コンパクトな車体とSS譲りのエンジン

まずはバイクとしての「CB650R」について、お話ししたい。「CB650R」が佇む姿は、とてもコンパクトだ。650ってこんなに小さかったっけ?と思うほど。ボディ側面に650の文字が見えなければ、400ccといっても疑わないほどだ。これは、とても良いことだ。

ホンダCB650R Eクラッチ……1,089,000円

CB650Rがデビューしたのは2019年。ネイキッドスポーツモデルとして長く親しまれて生きたCB650Fの後継モデルとして開発された。当時の資料を読むと「スポーツバイクの根源的な楽しさを深めた”新世代CBシリーズ”としてエキサイトメントを高めた」とコンセプトが記されている。そのためにマスの集中化を図り、直列4気筒エンジンを搭載した、と。

直列4気筒エンジンは横幅が広く、それによってエンジンの存在感が強調される。しかし「CB650R」は、そのエンジンが主張してこない。400ccなみのコンパクトな車体であるにもかかわらずだ。それだけ「CB650R」のエンジンがコンパクトにデザインされているのはもちろん、マスの集中化を図り、モダンな車体デザインによって優れたパッケージに仕上げられている証拠だろう。

エンジンはしっかり躾けられている。のろのろとクルマの後ろを走る市街地や、景色を楽しみながら走ることができる郊外など、低速域も中速域もじつになめらかで、それでいて力強い。650ccという排気量のメリットをあらゆる走行シーンで感じることができる。そして、もし良いワインディングに出会ったなら、そこでのスポーツライディングも十分に堪能できる。バシューッ!と伸びる高回転域は実に気持ちが良く、コーナーでの切り返しも軽い。スポーツバイク好きがペースを上げてワインディングを走ってもその走りに応えてくれるだろうし、サーキット走行だって楽しめるだろう。

MCUとモーターがクラッチを操作する「E-Clutch」

そして「E-Clutch」である。「CB650R E-Clutch」のほか、ホンダの「E-Clutch」装着車には、一般的なマニュアル操作のバイクと同じく、クラッチレバー、湿式多板コイルスプリング式クラッチ(一般のバイクのなかには乾式または単板、ダイヤフラム式のクラッチは存在するが)、シフトペダルは存在する。「E-Clutch」装備車は、それらのアイテムを使った、マニュアル操作も可能だ。

↑エンジン右側のクランクケースカバー上部に設置される「E-Clutch」ユニット
↑車体を引いてみると「E-Clutch」装着による違和感は無く、そのユニットのコンパクトさがよく分かる

しかし「E-Clutch」は、ライダーに代わってモーターが自動的にクラッチ操作を行うために、発進や停車に必要な半クラッチ、シフトチェンジに必要なクラッチ操作が必要ない。そのクラッチを切る/繋ぐという操作は、MCU(モーター・コントロール・ユニット)から指令を受けた、エンジン右側のクランクケースカバー上にセットされる「E-Clutch」ユニット内の2つのモーターが行っている。このMCUはエンジンを制御するECU(エンジン・コントロール・ユニット)とCAN(キャン/コントローラー・エリア・ネットワーク)と呼ばれる相互通信システムで繋がり、走行している車両のあらゆるデータを収集し共有。「E-Clutch」システム作動時はもちろん手動クラッチ操作時も、トラクションコントロールも含めて、車体を一体制御している。

このように書くと複雑に思えるかもしれないが、操作はいたって簡単。ギアがニュートラルの状態でメインキーを回してイグニッションをONにすれば、「E-Clutch」システムは自動的にアクティブになる。あとはクラッチレバーを握らず、シフトペダルを踏んで1速に入れ、アクセルを開ければバイクは走り出す。クラッチ操作に慣れたアタマとカラダには、クラッチレバーを握らずギアを踏み込むのに躊躇するが、それは最初だけ。

↑「E-Clutch」の分解図。写真右側に見える銀色の2つの円柱状パーツがクラッチ操作を行うモーターだ
↑システム概要図。車両走行におけるさまざまなデータを収集し、ECUとMCUが相互通信しながらシステムを稼働させている

スタートしたあとは、思いのままに走れば良い。アクセル操作のスピードや開度の大きさは、ライダーの意思を表している。ゆっくりスタートしたければゆっくり/小さくアクセルを操作すればそのようにバイクが動き出し、速く/大きくアクセルを操作さすればクラッチが繋がるエンジン回転数が変化し、半クラッチ状態が長く続きつつ鋭く加速する。そのライダーの意志と「E-Clutch」の反応のシンクロには慣れが必要かもしれないが、あらゆる回転域で「E-Clutch」のクラッチ操作は絶妙で、こりゃ自分より上手いなと思ってからは、何の疑いも不満も無くなったほどだ。単なる発進や停車ではなく、絶妙なハンドル操作やバランスが必要となる坂道での発進/停車やUターンでは、最初は気が気では無くギクシャクしてしまった。しかしその主要因は「E-Clutch」システムを信用できない自分が余計な操作や動きをしてしまったこと。これもシステムの習熟度が増し、システムへの信用度が上がったあとには、自分で操作する以上のスムーズな動きが実現できた。

シフトアップ/ダウンは、もっとシンプルだ。シフトアップまたはダウンしたいタイミングでシフトペダルを操作するだけ。クイックシフター付き車両の操作と同じだ。しかし車体側は少し違った操作をしている。シフト操作に合わせて点火をカットしているのは同じだが、それにくわえて微妙な半クラッチ操作を入れているという。CB650Rはワイヤー式スロットルを採用しているために、他の電子制御スロットル採用車のように、ECUがシフト操作を関知しエンジン回転数を自動的に調整するオートブリッピング機能は装備されていない。かわりに半クラッチを絶妙に入れてシフトアップ/ダウン時に、選択先ギアとのギア比の差によって生じる衝撃を吸収しているのだ。またこの、絶妙な半クラ機能を活かして、クラッチ操作無しでも、シフトダウン時にアクセルを煽ってライダー主導でエンジン回転数を合わせることもできる。

初心者にメリット大の「E-Clutch」。ベテランも新世界を開くきっかけに

個人的には、たとえ渋滞路であってもクラッチ操作が苦になったことも、ツーリングやワインディング走行時にシフト操作が面倒になったことも無い。したがって、クラッチ操作が無くなる「E-Clutch」に、さほど魅力を感じていなかった。しかし実際に使ってみるとあっという間にクラッチ操作レスの走行に慣れていまい、これもまたアリかな、と思えるほどだった。したがってクラッチ操作がストレスになるっているライダー、またはクラッチ操作に慣れていないライダーには、「E-Clutch」の効能は大きいだろうと容易に想像が付く。そしてコレに慣れると、クラッチ操作必須のバイクは、それだけで減点対象になるかもしれないと思うほどだ。

したがって、排気量650ccという大型車両ではなく、クラッチ操作がストレスになりやすい自動二輪免許保有者が乗れる排気量400cc以下車両への装着したほうが、ホンダが狙っている幅広いキャリアのライダーにアプローチできるのではないかと考えた。と、ここまで考えたところで、「CB650R E-Clutch」は欧州でも発売され、そこには初心者を対象にした出力制限車両“A2ライセンス仕様”がラインナップされていることに気がついた。そして2025年のモーターサイクルショー開催直前に、軽二輪カテゴリーの大人気モデルに、ホンダ「レブル250 E-Clutch」がラインナップされた。うん、納得。

もちろん「E-Clutch」は、初心者だけがメリットを享受できるシステムではない。クラッチ操作を省略することで他の操作に集中することができ、ベテランライダーでもライディングの新たな楽しみを見つけられる可能性を大いに秘めている。その扉を開けるには、実車を試してみるしかない。チャンスを見つけて、いや造り出して「CB650R E-Clutch」に乗ってみることを、是非お薦めする。

ライディングポジション&足つき(170cm/65kg)

600ccモデルとしては非常にコンパクトなライディングポジション。膝の曲がりも自然で、ごく自然な位置にグリップが来る。両足を地面に伸ばすと、両足のつま先深く地面居着けることが出来る

ディテール解説

排気量648cc直列4気筒水冷4ストロークDOHC4バルブエンジン搭載。軽いシフト操作とシフトダウン時に発生するエンジンブレーキのショックを和らげるアシスト&スリッパークラッチや、ON/OFFできるHSTC(ホンダ・セレクタブル・トラクション・コントロール)も搭載
4本のエキゾーストパイプを並べてレイアウトした美しい排気系は、エンジン下で1本にまとめられ、極短のサイレンサーに繋がる。サイレンサー出口はやや上向きにデザインされ、ライダーに爽快な4気筒サウンドを届ける
フロントブレーキは、φ310mmフローティングディスクとラジアルマウントキャリパーをダブルでセット。ホイールは専用設計の中空アルミGDC(重力鋳造)製5本Y字スポーク
リアブレーキは、φ240mmシングルディスクとシングルポッドキャリパーの組み合わせ。ホイールは、フロント同様、中空アルミGDC製5本Y字スポーク。スイングアームはアルミ一体鋳造製
シフト周りには、クイックシフターとよく似たセンサーがセットされる。走行中のシフト操作では、このセンサーがシフト操作を関知。他の操作系センサーからの情報と合わせてエンジンの点火カットや、MCUから指令を受けたモーターがクラッチ操作を行う
フレームはスチール製。スチールが持つしなやかさを活かして剛性バランスが整えられている
フロントサスペンションは、インナーチューブ径41mmのSHOWA製SFF-BPフロントフォークを採用
リアショックユニットは、リンクを持たないモノクロスタイプ。プリロード調整機能付き
シートはライダーとパッセンジャーの座面が分かれるセパレートタイプ。ライダーシートの先端は細く絞られ、足つき性が良い。シート高は810mm
キー操作で取外しできるパッセンジャーシート下には、ETC機器などもセット可能な収納スペースがある
左ハンドルにはTFTディスプレイに表示されるさまざまなメニューを操作&選択できるマルチファンクションスイッチをセット。LEDイルミネーションにより、夜間の操作性も向上
この写真でも分かるとおり、CB650Rのスロットルはワイヤー式である
ヘッドライトはLED。クラシカルな丸型ヘッドライトを想起させるラウンドシェイプをデイタイムランニングライトで描き、その中央にLEDのヘッドライトユニットをデザイン。上面をスラント形状とすることで空力効果も高める
4灯の大型LEDを配置したテールランプ。高い被視認性と実現
アルミテーパータイプのハンドルバーを採用。フラット気味で、垂れ角もほとんど付いていないが、コンパクトな車体とマッチしてリラックスしたライディングポジションが獲れる
さまざまな情報を表示する5.0インチTFTフルカラー・ディスプレイ。背景色はホワイトとブラックを選択可能。環境光を関知して自動的に切り換えるオートも選択可能。「E-Clutch」システム稼働時は、右側縦のインジケーターライト列にグリーンの「A」マークが点灯する
「FANCTION」メニューから「Honda E-Clutch」から「E-Clutch」そのもののシステムをON/ OFF設定できるとともに、シフトペダルの荷重(要するに反応)もHARD/MEDIUM/SOFTから選択することができる
任意でシフトアップ回転数を設定すると、その回転数になるとタコメーターが点滅して知らせるシフトアップモードも用意されている。写真は、その設定画面

CB650R E-Clutch 主要諸元

■全長×全幅×全高 2,120×780×1,075mm
■ホイールベース 1,450mm
■最低地上高 150mm
■シート高 810mm
■車両重量 207kg
■エンジン形式 水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒
■総排気量 648㏄
■ボア×ストローク 67.0mm×45.0mm
■圧縮比 11.6:1
■最高出力 70kW(95PS)/12,000rpm
■最大トルク 63N・m(6.5kgf・m)/9,500rpm
■燃料供給方式 FI
■燃料タンク容量 15L
■フレーム ダイヤモンド
■サスペンション(前・後) SHOWA製SFF-BP41mm倒立タイプ/122mmストローク・モノショック/プリロード階調整&125mmストローク
■変速機形式 6速リターン
■ブレーキ形式(前・後)310mmダブルディスク×ラジアルマウントキャリパー・240mmシングルディスク×シングルピストンキャリパー
■タイヤサイズ(前・後)120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W)
■価格 ¥1,089,000-

キーワードで検索する

著者プロフィール

河野 正士 近影

河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…