東京にもあった、天空の里! ゆるカブツーリング第8弾 奥多摩町・留浦地区

出発前にドライブチェーンを調整

前回のツーリング中に、ガチャガチャとドライブチェーンから異音が発生するのが気になりました。なので今回のツーリング前に張りの調整と注油をすることにしました。
スーパーカブのドライブチェーンはチェーンカバーに覆われていて直視できません。しかしカバーを外さなくても張りや注油ができるようにカバーの一部に開口部が設けられています。開口部はゴムの蓋でふさがれているので、それを開ければチェーンを確認できます。張りをチェックしたところやはり弛みが大きくなっていました。
張りの調整はまず、センタースタンドで車体を立てて、リアホイールのアクスルシャフトを緩め、スイングアーム後部にあるチェーンアジャスターで後方へ引くと張りの弛みを小さくできます。アジャスターの固定はダブルナットになっているので、外側のナットを緩めてから調整用ナットを絞めていきます。スイングアームに目盛りがあるのでそれを目安にします。張りの状態をチェックしながら絞めていくのですが、弛みが20~30㎜になるようにします。車体右側のチェーンがないほうのアジャスターも同様に締めていきますが、左右が同じになるように調整します。調整が終了したらアクスルシャフトを固定し、アジャスターのダブルナットをしっかり締めます。その後、手でリアタイヤを回転させながらドライブチェーンにチェーンルブを噴霧していきます。ひと通り終わったら手でリアタイヤを回転させ、スムーズに回ることを確認したら、ドライブチェーン調整は完了です。ちなみに、スーパーカブ110のドライブチェーンは420サイズのノンシールチェーンなので、ときどきは注油してやる必要があります。
センタースタンドで車体を立てて、リアホイールのアクスルシャフトを緩める
アクスルシャフトは右側のナットを緩めていくが、左側のボルトにもレンチを当てて緩める
ドライブチェーンの針の調整は、スイングアーム後部にあるアジャスターで行う
ドライブチェーンの確認はチェーンカバーのカブにあるゴム栓を開けて行う
ゴム栓を開けるとドライブチェーンが現れ、張りの状態や油分の有無をチェックできる
張りを調整した後、チェーンルブでドライブチェーンに注油しておく

東京とは思えない秘境に気分が盛り上がる

東京の最西端に位置する奥多摩は、東京という言葉から連想する都会的な情景とは程遠い山間部が中心の地域です。そんな奥多摩を八王子と甲府を結ぶ国道411号線(青梅街道)が東西に貫いていて、小河内ダムによってできた奥多摩湖の先で大月へと至る国道139号線を分けています。さらに国道139号線で深山橋を渡ったところから奥多摩周遊道路に入ることができます。
1973年に開通した奥多摩有料道路は、奥多摩町と檜原村とを結ぶ全長19.7kmのワインディングで、観光道路として人気を集めています。1990年に無料開放され奥多摩周遊道路に名称を変更。利便性を高めたと同時にさらに身近なツーリングルートとして多くのライダーに親しまれています。現在も休日の奥多摩湖畔には数多くのライダーが集まり、奥多摩の風景や道を満喫しています。
そんな奥多摩の最奥部、観光で訪れるドライバーやライダーもいない山奥が留浦地区です。国道411号線の峰谷橋の信号を北に向かって行ったあたりから留浦地区に入ります。峰谷川を遡っていく道は進むほどに狭くなっていき、小さな集落の先で左に道を分けます。左の林道をたどると峰集落に至り、まっすぐに進んでいくと奥集落にたどり着きます。この二つの集落が東京の天空の里なのです。
峰集落は海抜650m~950m、奥集落は海抜1000mほどの高所に、山の斜面にへばりつくように民家が寄り添っています。そんな情景はまさしく天空の里で、まるで身をひそ
めるかのようにひっそりとたたずんでいます。
峰集落は海抜650m~950mの標高差およそ300mの山の斜面に民家が点在する天空の里だ。奥集落よりは住民が多く、山里の風情にあふれている
峰集落から遠望した奥集落。東京最奥部にある山岳集落で、山の斜面に民家や畑が点在する風景は、まさに天空の里。もっとも高い場所で海抜970mあり、下界に比べて季節の移ろいも遅い
ソメイヨシノが満開を迎えた4月、麗らかな陽気に誘われて東京に残された天空の里へスーパーカブで向かいました。吉野街道から青梅街道を走りつないで向かったのですが、ちょっと寄り道して廃線を見に行きました。JR青梅線の終点は奥多摩駅ですが、1952年から1957年まで東京都水道局が小河内ダム建設の資材運搬用として敷設した東京都専用線小河内線、通称水根貨物線が奥多摩駅からダム直下の水根駅間で運行されていました。廃線からすでに70年近く経っていますが、至る所に遺構が残されているのです。鉄オタでもある僕は、秘境駅や廃線をめぐるなどのツーリングもよくします。ということで今回も、水根貨物線の廃線も見ながらツーリングしたというわけです。
数軒の民家が軒を連ねる堺地区に立ち寄る。ここでは頭上に水根貨物線第四境橋梁のガーダー橋を見ることができるのだ。僕が生まれた昭和30年にこの橋を、貨車を牽引した蒸気機関車が走っていたのかと思うと、自分も老朽化したものだと感動するのだった
国道411号線に架かる第一水根橋梁
現在は工事車両などが置かれているが、カブのすぐ横がかつての水根駅
水根駅へのアプローチとなる第二水根橋梁
とまあそんな感じでマイペースで走ること2時間ほどで小河内ダム横の奥多摩湖畔に到着しました。奥多摩水と緑のふれあい館前の駐車場にはすでに何台ものバイクが止められていました。休憩がてら館内を見学し、きらめく湖面を眺めながらのんびりしました。
湖を横目に国道411号線をさらに西に進みます。赤色が特徴的な峰谷橋の信号を右に曲がり国道を離れます。峰谷川を遡上する道はやがて小さな集落に出会います。民家や作業所、それに唯一の商店が生活を感じさせます。集落の中ほどに左に上る道が分かれています。スーパーカブでその分かれ道をたどりました。道は一段と狭くなると同時に勾配もきつくなります。落石や枯れ木などが散乱していて、日陰になっている箇所は苔が生えているので気が抜けません。そんな山道をしばらく上って行った先に峰集落は開けていました。10数軒の民家と小さな畑が山村らしい佇まいを見せていました。この辺りで海抜650mほど。道はさらに上っていき、何軒かの民家をかすめながら行き止まりとなりました。もっとも高い場所に1軒の民家があり、そこが海抜950mです。山の斜面にある峰集落は約300mもの標高差があるのです。奥多摩の山々の眺めが見事な天空の里に人の姿は見かけませんでしたが、その代わりに何匹ものサルが我が物顔で道を占拠していました。
峰集落から谷を挟んで東の山肌にも集落が見えました。桃色の花に包まれた奥集落です。分かれ道まで戻り、もう一方の道をたどりました。道の状態は峰集落へ通じる道と大差なく、クルマのすれ違いは困難です。そしてつづら折りで一気に高度を上げたところに奥集落はありました。山の斜面に数軒の民家が点在する天空の里は、赤やピンク、白などの鮮やかな色に染められていました。満開の花桃や桜が斜面を埋め尽くした光景は、まさに桃源郷です。狭く暗い山道を上り切った先で目にした風景に、思わず息をのみました。東京の最奥部にある天空の里は、春のわずかな期間、桃源郷となって迎えてくれるのです。
奥集落の海抜は約1000m。東京でもっとも高所にある集落でもあります。しかし年を追うごとに住民は減っていて、里に暮らしているのも高齢者ばかり。いわゆる限界集落で、そう遠くない時期に廃村になってしまうかもしれません。実際に奥多摩には廃村になった集落もあります。一極集中で東京都の人口は増え続けていますが、奥多摩のような山間部は地方同様、過疎化が進んでいます。峰と奥、このふたつの天空の里の風景も、近い将来見ることができなくなるのかもしれません。
小河内ダムの近くには広大な駐車場があり、バイク専用スペースも設けられている
東京都水道局のPR施設『奥多摩水と緑のふれあい館』にはレストランも併設している
1957年に完成した小河内ダムによってできたのが奥多摩湖だ。ダム近くにはに奥多摩水と緑のふれあい館が開館。資料館には自然環境やダム建設の様子、ダムに沈んだ小河内集落の民俗などが展示されている。旧青梅街道の水根集落の高台からは、小河内ダムと奥多摩湖を見晴らす
奥集落の風景1
奥集落の風景2
奥集落の風景3
奥集落の風景4
国道411号線に戻ってさらに西へ進み、気になっていた食堂に行きました。昭和のドライブインのような風情がなんとも雰囲気がある奥多摩湖レストセンター丸井亭です。名物の山菜釜飯で昼飯にする予定だったのです。広い店内も昭和の風情で、昔に戻ったような気分で釜飯を味わいました。
奥多摩湖には何カ所かに浮橋があるが、麦山の浮橋もそのひとつ
国道411号線沿いにある奥多摩湖レストセンター丸井亭。昭和のドライブインを思わせる佇まい
丸井亭の名物料理が山菜釜飯。小鉢2種と漬物、みそ汁が付いて1000円
こうして天空の里と山の幸を堪能したゆるカブツーリングですが、せっかくなので国道139号線を進んで山梨県小菅村、県道18号線で上野原市、そして県道522号線を走りつないで藤野へと抜けて、国道20号線で帰りました。今回のツーリングの走行距離は185㎞。消費したガソリンは約3L。食事代と合わせておよそ1500円の旅でした。

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…