ヤマハから国内向け電動スクーターが久々に登場! その実力はいかほどか。「E01」試乗レポート

報道関係者に配布された資料によると、「E01 は商品として市場投入予定はありません」と朱文字で明記されていた。新規開発モデルに違いはないのだが、売り物では無いと言う異例の発表会。その背景には、「将来のEV市場本格化に向けた実証実験を展開」へ動き出したヤマハの姿勢表明。カーボンニュートラル社会を見据えた将来への戦略のひとつが示されているのである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ヤマハ発動機株式会社

ヤマハ・E01…….月々20,000円(3ヶ月利用期間限定リース料)

 一般市販モデルでは無い、つまり「売り物ではありません」と明言されながらも、これまで培われてきたヤマハEVとは異なり、E01は新たな製品開発と今後への展開を表明している様に見える。
 新しい特徴を端的に表現すると、125ccクラスの電動スクーターである事。搭載バッテリーが固定式である事。この2点が大きなポイントである。
 車体サイズで比較するとNMAXとほぼ同レベル。前後の装着タイヤも同じ13インチサイズである。
 両車の違いで目立つ部分を拾い出して行くと、E01は全高が70mm高く軸距は10mm長いが、シート高は逆に10mm低い。大きく違うのは車重が158kgで、NMAXより27kgも重い。
 また満充電で走れる航続距離は約100km。NMAXの場合はモード燃費率にタンク容量を掛けると約300km。いずれも走り(使い)方によって左右されるが、NMAXが約3倍ものアドバンテージを持つことは明らかである。

 だた125ccスクーターの一般的な使われ方を考えると、その差はそれほど大きな弱点とは言えないのかもしれない。むしろ100km走ってくれるなら十分ではないかと言う考え方が浮かんで来る事も否定できないだろう。
 実際近所への足代わりに使うケースでは数km~ぜいぜい10km。通勤等のヘビーユーザーでも1日40~50km程度走れるなら事足りる。航続距離は燃費率と同様、走り方によって大きく左右されるので、実用性能がどの程度かは未だ不明だが、諸元通りの性能を発揮するなら1日置きの充電で賄えそうである。
 ただ、付属のポータブル式充電器では、満充電までの所要時間が14時間なので、空に近い状態からの充電では、帰宅後の夜間充電だけでは足りないケースも出てきそう。
 おそらく帰宅直後に充電を開始し、翌朝の出社前まで毎晩を補充電に当てる。その繰り返しで必要な航続距離が余裕を持って賄えられるだろう。

 肝心な事を言い忘れる所だったが、そうした実用上の中でのバッテリーの消耗具合、充電管理との関係性、使い方との相関関係等、位置情報も含めて多くの詳細状況を把握すべく、あくまで実用実験のデータを収集するのがE01投入の主たる役割だ。
 100台限定だが3ヶ月のリース契約で貸し出され、使用後は期限内に必ず返却。月々2万円で最新のEVスクーターの走りを自由に楽しめる。
 その間の実用走行データーがヤマハの専用サーバーに自動送信され、今後のEV開発や充電インフラ整備等に役立つと言うのである。
 興味ある方はぜひ、ヤマハのWebサイトを覗いてみることをお勧めしたい。

 バッテリースペースが巨大だが、モーターはコンパクト。ベルトドライブによる駆動系も含めてリヤまわりの仕上がりはスッキリとスマートに見える。
 もともとスクーターはメカ部分をカバーされるデザインだが、近い将来を担うE01はさらに一歩進めて、細部まで化粧カバーを採用。カジュアルな服装で乗るのにも汚れる心配は少ない。

250ccエンジンを凌ぐビッグトルクを発揮する高回転型コンパクトモーター。ヤマハ独自の平角太巻き線技術を採用。
起動時から2,000rpmまで低速域でピークトルクを発揮するのが電動モーターの特徴。クラッチもミッションも不要。
E01のバッテリー。バッテリーの開発速度は日進月歩とは言え、まだまだ大きく重い、そして高価であるのが欠点。
レイアウト的には同じ。燃料タンクの代わりにバッテリーを搭載。その後方に変速機を持たない小さなモーターがセットされ後輪はベルトで駆動。スクーターの標準形となっているユニットスイング方式から解放され、リヤのバネ下重量を大幅軽減。サスペンションの素直な動きには優位性がある。

 走行モードは右手のスロットル操作に対するレスポンスを変えている。パワーモードはポテンシャルの全てを発揮。標準モードはトルクが少し控えられている。そしてエコモードはパワー&トルク共にセーブされて最高速も60km/h程度になるが、航続距離が伸びるのである。
 EVならではの特徴はスロットルを戻す(閉じる)と回生ブレーキが働き、減速しながらの発電でバッテリーが充電される。
 またリバースモードが採用されており、電動後退が可能。ガソリンエンジン車のNMAXより車両重量は27kgも重いが、取り扱いは楽になる。

 

充電方法は3パターン

 充電器は3種類ある。いずれも台湾CNS規格に準拠し、国内向けとしては独自の設計としたことに驚きを隠せないが、固定電池型スクーターの将来的な充電環境の標準形となっていくのか、他社との協調も含めてまだまだ発展途上にある事は間違いない。
 現実的な話をすれば、今回のリース(実証実験)のために充電器を自宅設置する事は考えにくい。リース希望者の多くはポータブル式で100V交流電源を取れる人が大多数になるだろう。
 PHEVやBEVの普及で家庭用充電器を設備済みケースも珍しくはなくなってきているが、現状ではそれをE01に利用することはできない。またE01用充電器が、今後近い将来に登場するEVスクーターで活用できる保証もないのが現状なのである。

ヤマハ EVの歴史

ヤマハの歴代EV。左からPassol(2003年発売時….240,000円)、EC-02(2005年発売時….209,790円)、EC-03(2010年発売時…….252,000円)、E-Vino(市販モデル….259,600円)。

静かにかつ強かに走るクールな乗り味。

 占有の駐車場にパイロンを置いて造られた二つのショートコースで開催された体験試乗会。
 シートに股がると足つき性が良く、ドッシリとした重量感と少しワイドなフォルムが相まって、落ち着いた雰囲気を覚える。
 比較試乗車としてNMAXが用意されていて、やはり重量差は大きいと思えたものの、その重さはロール方向へはあまり関与しない雰囲気で、扱いの障害となる程の重さは感じられなかった。
 125ccクラスとしては立派で上質な車格が醸しだされていると思えたのが正直な感想だが、例えばアクスルピボットが綺麗にカバーされてボルト/ナットが露出していない上品なデザインセンスも利いている。

 運転操作は一般的なスマートキータイプのスクーターと共通。イグニッションスイッチをONしてブレーキを掛けながらセルボタンを押す。実はセルモーターなんて存在しないのだが、右手のスイッチを押す事でモーターが起動していつでも発進できるスタンバイ状態になるのである。
 あとは右手のスロットルを開けるだけ。EVならではの特徴として、クラッチとギヤを持たない(例外もあるが)スムーズな走りが上げられる通り、無音で佇む停車時から、右手のスロットルを捻るだけで、スーッとスタートする様は改めて新鮮。
 しかも立ち上がり加速はなかなかの力強さがあり、実際その加速力は侮れない。
 最高出力こそNMAXのそれより少し控えめだが、最大トルクはなんと30Nmもある。ガソリン車と比較するとだいたい250ccクラスを凌ぐデータである。
 改めて比較試乗すると遠心クラッチが繋がり発進して行くNMAXに“もたつき”感を覚える程、E01は遅滞なくさっさと速度を増してくれ、なかなか気持ち良い。
 頭打ち感があるので、速度の上昇スピードは穏やかになって行くが、125ccクラスとしての実用域ではまさに生き生きと元気良く楽に、かつスムーズで静かに走ってくれるのが印象深い。
 右へ左への旋回も軽快。前後サスペンションのスムーズなフットワークも好感触。さらに走りのスムーズさは、スロットルを戻した時の回生ブレーキでも発揮され、低速域まで扱いやすいものだった。

 シート下にピタリと納まるポータブル充電器を家に置いて行けば、23L容量のメットインスペースとして活用できるのも良い。
 E01ならではのチャームポイントとしてリバース機能の採用も見逃せない。左手人指し指で扱うリバーススイッチを引きながら、右手でモードスイッチを押すと微速後退してくれる。
 狭い道での切り返しターンや、車庫入れなどでの扱いを助けてくれる便利機能が備わっている。その優雅な扱いやすさも魅力的である。

 もちろん心底興味深いのは、実用上の使い勝手にある。自動車用の充電インフラは既に広がりつつあるが、E01はそれを利用することはできない。
 現状ではあくまでも3機種用意された専用充電器が使用できるのみ。この充電器は他のEV用に使う事もできないそう。また搭載バッテリーを非常時電源として家庭用給電に活用する仕組みもない。

 7月からスタートする実証実験で得られるデータの集積やアンケート結果が、E01の次期開発市販モデルにどのように活かされていくのかが興味深く、今後の動向と展開に期待されているのである。

EVならではの高機能。両手のスイッチ操作で微速(約1km/h)後退ができる。跨ったままのバックにも便利。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

膝から下の車体はそれなりにボリューム感がありワイドだが、ご覧の通り足つき性は良好。シート高は755mm、膝に余裕を持って両足はベッタリと地面を捉えることができる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…