電脳性能はミドルクラス最強。659cc、100馬力、アプリリアRS660試乗

2018年のEICMAで発表されたアプリリアの〝コンセプトRS660〟が、ほぼそのままのスタイリングでついにリリースされた。RSV4に搭載されている1,077cc水冷V型4気筒のフロントバンクをベースとした659cc並列2気筒エンジンは、最高出力100psを公称。アルミツインスパーフレームはピボットレスとされ、600ccクラスのフルカウルモデルとしては最軽量となる183kgを達成。クラスを超えた数々の電子制御システムも注目に値しよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
問い合わせ●ピアッジオグループジャパン(https://aprilia-japan.com/)

2021年6月7日に掲載した記事を再編集したものです。
価格や諸元、カラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。
ドゥカティの初代モンスターなどを生み出したミゲール・ガルーツィ氏がRS660のチーフデザイナーを務める。車体色はエイペックスブラック(試乗車)、ラバレッド、アシッドゴールドの3種類。
特徴的な3眼ヘッドライトはオールLED。ウインカーを内蔵したデイタイムランニングランプ、トワイライトセンサーによるオートヘッドライト機能、さらにコーナリングランプまで搭載している。

排気量以上の力強さ。電スロのセッティングはほぼパーフェクト

アプリリアがミレニアル世代(20歳前半~30歳後半)に向けて放つ新コンセプトのニューモデル、それがRS660だ。レースレギュレーションに縛られない659ccという排気量、ミドルクラスのフルカウル車としては非常に軽い183kgという装備重量、そして、1000ccスーパースポーツ並みの最新ライダーアシストシステムなど、まさに新しいジャンルを創造したモデルといってもいいだろう。

ところが、このRS660を走らせてみると、どこか懐かしさを覚えた。90度Vツインと同じ爆発タイミングが生む瑞々しい鼓動感、ピボットレスフレームによるしなやかさとスリムさ、そして前傾姿勢が深すぎない快適なライディングポジション……。こうしたいくつかの特徴が、1997年に登場したホンダのVTR1000F(日本での名称はファイアーストーム)に通じるのだ。もちろん、排気量や車重、設計年度に大きな開きがあるのは承知の上だが、最高出力はRS660の100psに対して、VTR1000Fは110ps(国内仕様は93ps)と非常に近しく、どちらも「扱いきれるパワー」としてスペックを設定したところに、共通した狙いを感じずにはいられない。

まずはその新設計エンジンから。659ccの水冷並列2気筒DOHC4バルブのエンジンは、270度位相クランクを採用。これは90度Vツインと同じ爆発間隔となり、180度や360度位相よりもトラクション性能に優れるのが特徴だ。このRS660は総合電子デバイスのAPRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)を採用しており、選択したライディングモードによって各種の電子制御が連動して切り替わる。具体的には、トラクションコントロール、ウィリーコントロール、エンジンブレーキ、エンジンマップ、ABSの5種類だ。ライディングモードは公道用に3種類、トラック(サーキット)用に2種類の計5パターンで、それぞれに任意設定用のカスタムモードがあるので、デフォルトは3種類となる。

一番穏やかなコミュートモードでスタートする。驚いたことに、同じ2気筒のカワサキ・ニンジャ650やヤマハ・MT-07、スズキ・SV650よりも低回転域から明らかにトルクが厚く、感覚的には750ccクラスに近い蹴り出し感がある。これには車重の軽さも効いているようだ。APRCに含まれるクイックシフターは、4,000rpm以下でのシフトアップ時にややショックが出るのと、ストロークセンサーの伸縮が原因でニュートラルが出にくいのが難点だが、シフトダウン時のブリッピングは適切であり、積極的に活用したい電子デバイスの一つだ。

次に、ダイナミックモードに切り替える。トラコン、エンブレ、エンジンマップ、ABSのレベルが1段階ずつ上がり、明らかにスロットルのオンオフにおけるレスポンスがダイレクトになる。いよいよ排気量を疑うほど高回転域でパワフルになり、ワインディングロードでの走りが瑞々しくなる。一方で、2,000rpm以下でわざとガバ開けしてもスナッチすることなく加速し、砂の浮いたスリッピーな路面でもトラコンの介入による失速感は最小限。ライド・バイ・ワイヤーを含む電子制御の調教もここまで進んだのかと感心しきりだ。


シャシーのしなやかさが荒れたアスファルトの峠道で威力を発揮

 ハンドリングも優秀だ。ニンジャ650やホンダのCBR650Rなどは、スポーティなフルカウルをまとってはいるものの、実際には安定性に重きを置いたツアラーに近い操安性となっている。それらに対してRS660は、この先鋭的なスタイリングのイメージそのままのキレのいいハンドリングが構築されている。付け加えると、4気筒の600ccスーパースポーツよりも高い旋回力を引き出しやすいといっても過言ではない。

車重が軽い上にクランクシャフトが短いので、倒し込みや切り返しなどロール方向の動きが軽快であり、また車体の傾きに対して舵角の付き方も早いので、ハンドルの押し引きだけでもタイトに向きを変える。そこにフロントブレーキを駆使してピッチングの動きを加えるとさらに旋回力が高まるので、気が付けば無心で峠道を楽しんでいた。

サスペンションは、リヤのバネレートがやや高めなのか大きなギャップで突き上げられることが何度かあったが、それでも旋回中のラインを大きく乱されないのは、後輪が受けた外乱をヘッドパイプに伝えにくいピボットレスフレームのおかげかもしれない。特に路面の荒れた峠道では高剛性なスーパースポーツよりも安心感が高く、おそらくサーキットでも多くのライダーはRS660で好タイムを出せるに違いない。

前後ともブレンボ製のキャリパーを採用するブレーキは、入力によるコントロールの幅が非常に広く、全く不満がない。6軸慣性プラットフォームによるマルチマップ・コーナリングABSは、旋回中にブレーキングしてもマシンが起きにくいなどの特性を持つ。これの介入を明確に感じ取ることはできなかったが、安心材料としては非常に大きいものだ。

ZX-6Rよりも約4万円高い車両価格に驚かれた人も多いだろうが、これだけのライダーアシストシステムを搭載するミドルモデルはほかになく、そのどれもが効果絶大という点を考えると決して高すぎるとは言えない。それに、最先端のエアロダイナミクスを反映したスタイリングや高機能なヘッドライトなど、クラスを超えた見どころも数多い。バイクの新たな進化の方向性を示してくれた秀作と言えるだろう。



ライディングポジション&足着き性(175cm/64kg)

スーパースポーツよりもハンドルバー2本分ぐらい高めの適度な前傾姿勢で、膝の曲がりも緩やかなのでロングツーリングもこなせそう。左右くるぶし間が非常にスリムで、タイトに挟み込むとかかとがスイングアームに干渉するほどだ。
シート高は820mm。できるだけ前寄りに着座しても身長175cmの筆者で両かかとが浮いてしまう。それと、183kgという車重はこのジャンル最軽量だが、押し引きで感じる手応えはやや重めだ。

ディテール解説

RSV4に搭載されている水冷V4のフロントバンクを基とした新開発の659cc水冷パラツイン。ボア径81mmはそのままに、ストロークを52.3mmから63.93mmへと伸長している。270度位相クランクを採用し、ユーロ5をクリアしながら最高出力は100psを達成。
RS660に標準装備されるクイックシフターはダウンシフトにも対応。スイングアームがクランクケースのみで支持されていることが分かるだろう。
KYB製のφ41mm倒立式フロントフォークはプリロードと伸び側減衰力の調整が可能で、ホイールトラベル量は120mm。フロントキャリパーはブレンボ製のラジアルマウント対向式4ピストン。装着タイヤはピレリのディアブロロッソコルサⅡだ。
リヤキャリパーもブレンボ製だ。さまざまなパラメーターを常時監視し、旋回中の減速度とABSの介入を最適化するマルチマップ・コーナリングABSを標準装備。リヤサスはリンクレスで、ショックユニットはフロントと同様にプリロードと伸び側減衰力の調整が可能。ホイールトラベル量は130mmだ。サイレンサーの排気口は左右にあり。
トップブリッジと一体化されたセパレートハンドル。ライド・バイ・ワイヤーを採用しているためスロットルケーブルはない。ラジアルポンプ式のマスターシリンダーはブレンボ製だ。
4.3インチのカラーTFTメーターを採用。スマホとの接続を可能とするデバイス〝アプリリアMIA〟をオプションにて用意する。
左側のスイッチボックス。最上部のスイッチは主にクルーズコントロール用で、中段にある4つのコマンドボタンはメーターの表示切り替えやAPRCのセッティング変更などで使用する。ウインカースイッチがホンダ車並みに低い位置にある。
灯火類は全てLEDを採用。テールランプはコンパクトながら被視認性は非常に高い。
ウレタンがソフトなためクッション性に優れたシート。さらにオプションでコンフォートシートも用意される。
キーロックを解錠してタンデムシートを取り外すと、ライダー側も外せる仕組みだ。シングルシートカバーやリヤシートバッグなどが純正アクセサリーで用意される。

RS660 主要諸元

エンジン:4ストローク水冷並列2気筒DOHC4バルブ
総排気量:659cc
ボア×ストローク:81mm×63.93mm
圧縮比:13.5:1
最高出力:100HP(73.5kW)/10,500rpm
最大トルク:67.0Nm(6.83kg-m)/8,500rpm
燃料供給方式:電子制御燃料噴射システム、φ48mmツインスロットルボディ、ライド・バイ・ワイヤ エンジンマネージメントシステム
点火方式:電子制御イグニッションシステム
潤滑方式:ウェットサンプ
始動方式:セルフ式
トランスミッション:6速アプリリアクイックシフト(AQS)アップ&ダウンシステム
クラッチ:機械式スリッパーシステム付湿式多板クラッチ
フレーム:ダブルビームアルミ製フレーム
サスペンション(F):KYB製テレスコピック倒立フォークφ41mm リバウンド、スプリングプリロードアジャスタブル ホイールトラベル120㎜
サスペンション(R):アルミニウム製スウィングアーム モノショックアブソーバー リバウンド、スプリングプリロードアジャスタブル ホイールトラベル130㎜
ブレーキ(F):320mm径デュアルディスク、ブレンボ製ラジアルマウント 32mm 4ピストンキャリパー、ラジアルマスターシリンダー、メタルメッシュホース
ブレーキ(R) 220mm径ディスク、 ブレンボ製 34mm 2ピストン、メタルメッシュホース
ABS マルチマップ:コーナリングABS
ホイール(F/R):(F)3.5J×17 (R)5.5J×17 軽量アルミホイール
タイヤ(F/R):チューブレス ラジアル Front:120/70ZR17 Rear:180/55ZR17
全長/全幅:1,995mm/745mm
ホイールベース:1,370mm
シート高:820mm
重量:
 装備重量:183kg
 乾燥重量:169kg
燃料タンク容量:15L
環境基準:Euro5
燃費:4.9litres/100km
Co2排出量:116g/km

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…