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欧州勢はライダーエイドな電子制御を惜しみなく盛り込む
今や二輪業界でネオクラシックと並び一大勢力となっているアドベンチャーモデル。フロントホイール径は17インチ、19インチ、21インチの3種類に大別され、数字が大きいほどオフロードでの走破性が高い傾向にある。一方、前後17インチのワイドなオンロードタイヤを履いたモデルは、もはやアドベンチャーの姿を借りたスポーツツアラーと言っても差し支えない。
今年3月に発売されたハスクバーナ・モーターサイクルズのノーデン901(174万5000円)や、そのベースとなったKTMの890アドベンチャー/R(162万9000円~)は、フロントに21インチ、リヤに18インチホイールを採用していることからも分かるように、オンロードもオフロードも満足に走れることをコンセプトとしている。
501cc以上1,000cc以下で日本に正規輸入されているフロント21インチのアドベンチャーモデルとしては、ほかにBMWのF850GS/アドベンチャー(158万円~)や、トライアンフのタイガー900ラリー/プロ(170万5000円~)などがある。これら海外勢に共通するのは、ライダーエイドな電子制御技術が惜しみなく盛り込まれていること。ノーデン901で言えばライドモードの切り替えを始め、バンク角に応じたトラクションコントロールやABS、クイックシフター、スマホとの接続を可能にする純正アクセサリーなどなど、十分以上の内容となっている。ちなみに、BMWのF850GSには電子制御サスのダイナミックESAを盛り込んだパッケージが用意されており、それを選択すると車両価格は181万5000円となる。
採用するのはABSのみというテネレ700のシンプルさが際立つ
さて、日本勢でフロント21インチのアドベンチャーモデルと言えば、まずホンダのCRF1100Lシリーズ(163万9000円~)が思い浮かぶが、排気量的にノーデン901や890アドベンチャー/Rの直接のライバルとなりそうなのはヤマハのテネレ700(128万7000円)だろう。海外勢よりも圧倒的にライダーエイドな電子制御が少なく、挙げられるのは任意にリヤをカットできるABSのみとなっている。とはいえ、このシンプルさがテネレ700の魅力であり、205kgという車重の軽さや車両価格の安さにつながっていると言えるだろう。
テネレ700の688cc水冷並列2気筒エンジンはMT-07がベースで、最高出力は73psを公称。吸排気系を専用設計とし、FIのセッティングを変更している。270度位相クランクによる快活な吹け上がりや鼓動感はMT-07ほどではなく、低中回転域でのトルク感も薄め。だが、CVキャブを思わせる優しいレスポンスや、レブリミットまでフラットに回転が上昇する特性により、トラクションコントロールなど不要と思わせるほど実に扱いやすい。
これに対し、ノーデン901や890アドベンチャー/Rが搭載する889cc水冷並列2気筒エンジンは、テネレ700より32psも多い105psを発揮する。とはいえ、極低回転域からの忠実なレスポンスと、適切に介入するトラクションコントロールにより、扱いやすさと安心感はテネレと同等かそれ以上だ。そして、条件が過酷になるほど、またライダーの疲労が蓄積するほど電子制御に助けられるシーンが増え、ハイテクの進化に感心しきりだ。
今年はフロント21インチアドベンチャーのビンテージイヤーに
2022年はドゥカティからデザートX(193万9000円)が、アプリリアからはトゥアレグ660(154万円~)が発売される予定だ。さらにMVアグスタは昨年のEICMAでラッキーエクスプローラープロジェクトと題して2台のアドベンチャーモデルを発表するなど、フロント21インチ車のラインナップは増える一方だ。現時点で発表されている内容によると、やはりこれらもハスクバーナやKTMと同様に数々のライダーエイドシステムを盛り込んでおり、ゆえにテネレ700のシンプルさが際立ってくる。ヤマハは前後17インチのトレーサー9 GT(145万2000円)というフル電脳モデルをラインナップしており、これがあるからこそ他社との差別化が図れているのだろう。
日本人の体格や走れる環境を考えると、もう少し排気量が小さくてもいいから軽量コンパクトなモデルが欲しいところだが、それは今後に期待するとして、今年はフロント21インチ・アドベンチャーのビンテージイヤーになる可能性は十分にあろう。