古臭くて鈍重そう?

試乗車は1960年代のR50/2。細部の改良が行われているものの、基本構成は1955~1960年のR50と同じ。

レーサーレプリカ全盛期の1980年代にバイクに目覚めたにも関わらず、僕は若い頃からクラシックバイクに興味津々だった。

そして1990年代中盤に2輪メディアの仕事を始めてからは、記事化を前提にして、国内外のいろいろな旧車を経験したけれど、アールズフォークを装備する1955~1969年のBMW、日本では“旧タイプ”と呼ばれるモデルは、30代中盤までは守備範囲外と感じていた。

その主な理由はルックスだ。同時代のイギリス車やイタリア車、日進月歩の勢いで進化を遂げていた日本車と比較すると、古臭くて鈍重そうに見える旧タイプには、あまり興味が持てなかったのである。

などと書くと、マニアの皆様からお叱りを受けそうだが、BMWが1969年から発売を開始した/5シリーズが、ルックスも乗り味も若々しくなったことを考えると、当時の同社もそのあたりを危惧していたに違いない。

/5シリーズの旗艦として、1969年から発売が始まったR75/5.

ただし30代の中盤でR50Sを体験し、以後はさまざまな旧タイプを体験した現在の僕は、このシリーズ全般に好感を抱いている。

その背景には、年齢と経験を重ねた自身の趣向の変化があるのだが、BMWの歴史を俯瞰してみると、第1号車の1923年型R32に端を発するボクサーツインが旧タイプでひとつの完成形に到達したからこそ、1969年以降の同社は次のステップに進んだのではないか……という気がするのだ。

旧タイプならではの魅力

久しぶりの旧タイプとなるR50と対面して、僕が最初に感心したのは親しみやすさだった。

もっとも、車体の左面に正対して行う横踏み式のキックや、フロントブレーキをかけた際に前輪が浮き上がるような挙動を示すアールズフォークには、慣れないうちは違和感を覚える人がいるはずだが、/5以降のボクサーツインと比較すると、重心が低くて車格感が小さな旧タイプは、乗り始めの心理的な抵抗が少ないのである。

では肝心のライディングフィールはどうかと言うと、今回の試乗で感じた旧タイプならではの魅力は3つ。

まず1つ目は、車体とエンジンのシルキーさだ。ハンドリングは安定指向で、エンジンの主張は控えめだが、旧タイプの挙動と反応はどんな場面でもしっとり穏やかで、乗り手はマシンが自分の支配下にあることを感じながら、自信を持って走ることができる。

ちなみに、旧タイプのエンジンは大別すると4種類で、最高出力は、R50:26hp、R50S:35hp、R60:28hp、R69S:42hp。当時の基準で考えてもR50とR60は非力だが、今回の試乗で力不足を感じたかと言うと、意外にそうでもなかった。

もっともマスツーリングに参加したら、場面によっては遅いと感じることはありそうだけれど、ピストンが小さくて軽く、圧縮比が低く、カムシャフトのプロファイルが穏やかなR50は、他の兄弟車より振動が少なくて吹け上がりが滑らかで、僕はその特性にかなりの好感を抱いたのだ。

アールズフォークとテレレバー

続いて述べたい2つ目の魅力は、フロントまわりのしっかり感。前述したようにアールズフォークは独特の挙動を示すものの、同時代のテレスコピックフォークと比べれば、荒れた路面での走破性やブレーキング時の安定感は、やっぱり抜群。

そしてその特性を把握した僕は、もしかしたら1993年以降のBMWがボクサーツイン車に採用したテレレバー式フロントサスは、アールズフォークの再現を意識したのかも?……という印象を抱いた。

もちろん、構造は完全に別物なのだが、フロントまわりに絶大な信頼感が抱けることや、制動時のノーズダイブを抑えていることは、アールズフォークとテレレバーに共通する要素である。

3つ目の魅力は、レシプロエンジン時代の航空機を思わせる乗車感。

この点は現代のボクサーツインでもよく話題になるけれど、車格が小さく、ライダーとエンジンの距離が近い旧タイプ以前のボクサーツイン車は、エンジン内に縦置きされたクランクシャフトが、車両全体の“芯”としてライダーの胸の下で回っている感覚が、/5シリーズ以降より得やすいように思う。

と言っても、僕はレシプロエンジン時代の航空機を体験したことはないのだが、R50を走らせていると、BMWがもともとは航空機エンジンメーカーだったことに、何となく合点が行くのだ(もっとも、1940年代以前のBMWが生産した航空機用エンジンは直列6気筒やV型12気筒、星形14気筒などで、ボクサーツインは手がけていない)。

ライダーの心を和ませてくれる

R50に限った話ではないものの、旧タイプの試乗で僕がいつも感心するのは、緩やかなカーブが続く海沿いの道路を流したときや、田舎道を淡々と走ったときの充実感だ。

その感触は“癒され感”と言い換えてもいいのだが、現代の視点だとミドルサイズのボクサーツインが一定のリズムで粛々と回り、車体の姿勢変化が少なくても乗り心地が良好な旧タイプは、普通に乗っているだけでライダーの心を和ませてくれる。

/5以降のボクサーツイン車や他機種でそういった感触が味わえないわけではないけれど、旧タイプの“癒され感”は特別なのである。

だから僕としては、BMWに現代の技術で古き良き時代の資質を再現して欲しいのだが、/5シリーズを発表したとき以上に若々しさを追求し、ボクサーツインは1200cc以上のモデルに限定している現在の同社が、旧タイプのような500/600cc車を作る可能性はほとんど無いだろう。

ディティール解説

ハンドルバーは低めのセミアップタイプ。ヘッドライトボディに収まる速度計はVDOで、ステムシャフトの上部にはフリクション式のステアリングダンパーを設置。
旧タイプのガソリンタンクは、2種類が存在する。ツールボックスへのアクセスは、17ℓの標準タンク:左から、24ℓのビッグタンク:上から。
試乗車が装着するのはサドルタイプのソロシートのみだが、同形状のタンデムシート、前後一体型のオーソドックスなダブルシートも存在。
エンジン上部に電装系部品を設置せず、内部にチェーンを使用しないこの時代のボクサーツインは、とにかくコンパクト。68×68mmというボア×ストロークは、BMWの第1号車となった1923年型R32以来、長きに渡って継承してきた数値だ。
フロートが別体式でティクラーを備えるキャブレターはビングで、口径はR60と同じ24mm。なおスポーツ仕様のR50SとR69Sは26mmだった。
フロントサスペンションはアールズフォーク。イギリス人のアーネスト・アールズが考案したこの機構の美点は、フロントまわりのノーズダイブを抑制できることと、横剛性の確保が容易なこと。
ブレーキドラムは前後φ200mmで、フロントは2リーディング、リアはリーディング・トレーリング。タイヤサイズは前後とも3.00-18。
後輪駆動は伝統のドライブシャフト+ベベルギア式。スイングアームの素材は、左が円形のテーパーパイプで、ドライブシャフトを内蔵する右は楕円パイプ。タイヤ交換を容易にするため、リアフェンダーの途中にはヒンジが備わる。
「創業時の思想を継承する、最後のボクサーツイン 1955年に登場したBMW R50」【旧車探訪記 1/3】 | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

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主要諸元

車名:R50
全長×全幅×全高:2125mm×660mm×980mm
軸間距離:1415mm
最低地上高:135mm
シート高:725mm
エンジン形式:空冷4ストローク水平対向2気筒
弁形式:OHV2バルブ
総排気量:494cc
内径×行程:68mm×68mm
圧縮比:6.8
最高出力:26hp/5800rpm
始動方式:キック
点火方式:フライホイールマグネトー
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:キャブレター(ビングφ24mm)
トランスミッション形式:常時噛合式4段リターン
クラッチ形式:乾式単板ダイヤフラムスプリング
ギアレシオ
 1速:4.171
 2速:2.725
 3速:1.938
 4速:1.540
2次減速比:3.18
フレーム形式:ダブルクレードル
懸架方式前:アールズフォーク
懸架方式後:スイングアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:3.50×18
タイヤサイズ後:3.50×18
ブレーキ形式前:φ200mm機械式ドラム
ブレーキ形式後:φ200mm機械式ドラム
乾燥重量:195kg
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名