KTM250アドベンチャー試乗|390? いえいえ、250ccでも十分でした。

KTMのTRAVELカテゴリーに属すアドベンチャーシリーズは何と全9車種もの豊富なバリエーションを展開している。その中の最後発として2020年12月に新登場。390からシリーズ末弟の座を受け継いだ250はフレッシュなモデルである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●KTM Japan 株式会社

※2021年5月18日に掲載した記事を再編集したものです。
価格やカラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

KTM・250 ADVENTURE……. 679,000円

カラーバリエーション

 KTMは1290スーパーアドベンチャーRを筆頭に豊富なバリエーショを揃えている。同カテゴリーのバイクが欧州を中心にジワジワと広まり、市場拡大が世界に及んだ背景のひとつにKTMへの人気があった事は見逃せない。
 レースに直結したブランドイメージを提唱し、当初は頂点の本格派モデルをリリースしていたが、今ではより多くのユーザーをターゲットに、搭載エンジンや価格面でも敷居を下げ、バリエーションを充実化。
 その中に投入されたシリーズ最小の最新モデルが今回の250である。
 インドで製造される390の兄弟モデルで、大胆に言うとエンジンの排気量が違う以外は基本的に共通だ。
 もちろん250は価格面でも親しみやすい商品として成立させるべく、コストダウンを徹底。例えばヘッドランプはLEDではなく、H4バルブを使用。デザインもコンパクトなフロントマスクに仕上げられた。
 WP製のフロントフォークも、ダンパーの調節機構は省略されている。クイックシフターやスマホとの連携等、390ではオプション対応している事も250には用意されていない。
 その他では液晶メーターがモノクロ式で機能面でもシンプルなタイプを採用。装着タイヤはサイズこそ共通だが、390が履く韓国産のコンチネンタルよりもブロックパターン・デザインが少しばかりオンロード寄りのインド産MRF製タイヤが装着されている。
 ただ、前後サスペンションのストロークは全く共通。車体サイズもしかりで、基本的な面では同じなのである。

 排気量の異なるエンジンも基本構造は共通で、トランスミッションも同じ。二次減速比はドリブンスプロケットが390の45丁に対して250は46丁が採用され、総減速比が少し低めに設定された。
 小さなエンジン搭載によるパワーダウンに対応した当然の処置だが、1丁だけの変更で済んでいる所がむしろ意外な事で驚きを覚える。
 その要因はボア・ストロークの大きな変更にある。390は89×60mmという大胆なまでのショートストロークタイプ。一方250は同じくショートストロークながら、72×61.1mm。内径÷行程でボア・ストローク比を算出すると390は1.483。250は1.178であり、スクエアに近くなっている。
 しかも興味深いのは、ストロークが390よりも1.1mm長く設計されている点にある。想像するに、排気量のダウンサイジグによるピークパワーの減少はともかく、実用域ではパワー不足を感じさせない出力特性の構築が徹底追求されたのではないだろうか。
 ツインカム4バルブの水冷エンジンは、22kW(30ps)/9,000rpmの最高出力を発揮。最大トルクは24Nm/7,250rpmを誇る。これは傑作エンジンとして評価の高いヤマハ・WR250Rのデータに肉薄しているのである。

不足を感じさせない流石のハイパフォーマンス。

 試乗車に跨がった瞬間、アッこの感覚は身に覚えがあると思った。それもそのはず、既報の390アドベンチャーと瓜二つ。仮に目隠ししていたら、ハンドルスイッチに触れるまで、両車の区別はつかないだろう。サイズ感覚は同じ、重さ感覚も同様でまさに兄弟モデルならではである。
 尺度を250のバイクとして見ると、車体は大きく立派。車重もやや重めな感触。足つき性も不安に感じられるレベルではないが、両足を出すと爪先立ちで支えることになる。

 シート高は855mmあるので無理もない話だが、その一方で乗車位置の高い見晴らしの良い乗り味はいかにもアドベンチャースタイルのそれであり、同時にツアラーとしての快適性も感じられる。
 オフ性能が追求された、いわゆるデュアルパーパス系モデルと、アドベンチャー系スタイルを取り入れたツアラーモデルとの中間的なポジショニングにあり、これが絶妙な魅力的キャラクターを生み出していると思えた。

 走り始めると390の走りと比較しても決して引け目を感じることのない、快活なスロットルレスポンスを発揮。
 もちろん高回転域のシャープさやスロットルレスポンスで魅せるパンチ力は劣って当然なのだが、実用域では250も十分に元気良くなかなかどうしてパワフルに走る。少なくともパワー不足は感じられない。
 3,000rpmを超えると頼れるトルクが膨らみ中速域のパワーバンドが広く扱いやすい。極低速域の粘り強さはそれなりだが、市街地から郊外、高速道路までオールマイティーな高性能ぶりを発揮してくれるのである。
 レッドゾーンの始まる10,000rpmまでは難なく吹き上がるし、バランサーのおかげで不快な振動もない。6速トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は6,000rpm。感覚的にも余裕の走りを披露してくれる。ちなみにローギヤで5,000rpm回した時のスピードは25km/h。参考までに390では5,500rpmと29km/h(あくまでメーター読み、回転計は250rpm刻み)だった。

 舗装路を走る限り、車体の重さは適度に感じられ、ツアラーとして穏やかな乗り味に貢献している。直進安定性も含めて、常に落ち着きのある挙動に終始。
 フロントに19インチサイズのホイールを組み合わせたところは、主に舗装路を旅するロングツアラーとして絶妙で快適な走りを披露してくれる。峠道での操縦性もユッタリ感が伴う。
 250としては大きめな車体は乗り心地が良いし、ダートに遭遇しても心強いオフ性能の高さを備えている安心感も侮れないものが感じられる。
 アドベンチャーの名に相応しい総合性能の高さが、なかなか魅力的なのである。

足つき性チェック(身長168cm)

アドベンチャーモデルらしい大柄な車体。シート高は855mmで兄貴分の390と同じ。ご覧の通り両足の踵は大きく浮いてしまう。

ディテール解説

シリーズ一連の統一されたヘッドランプデザインだが、250は上下寸法が短め。ヘッドランプも12V60/55WのH4バルブが使用されている。ポジションライトやウインカーはLED式だ。
リーディングアクスルタイプのフロントフォークはWP製。シングルディスクローターはφ320mm。BYBRE製対向4ピストンの油圧キャリパーがラジアルマウントされている。
390とそっくりなツインカム4バルブの水冷エンジン。実際、共通部品は多いがボアストロークは異なり、390と比較すると同じショートストロークタイプながらボアストローク比はスクエアに近い。
オーバル断面形状の右出しアップマフラーも390 ADVENTUREのそれとそっくり。
リヤのモノショックユニットはWP製のAPEX。白いコイルスプリングはプリロードを10段階調節できる。
リヤのディスクブレーキはφ230mmのローターにBYBRE製シングルピストンのピンスライド式油圧キャリパーを採用。タイヤはインド最大手のMRF製チューブレスを履く。
テーパードタイプの黒いパイプバーハンドルにはナックルガードが標準採用。メーター下の中央には12Vアクセサリー電源ソケットも標準装備されている。
至ってオーソドックスで使いやすいハンドル左側スイッチ。下から順に咄嗟の時にも押しやすいホーンボタン、ウインカー、ディマー。そして向こう側に人差し指で扱うパッシングスイッチがある。
至ってシンプルなハンドル右側スイッチ。上の赤いのはエンジンキルスイッチ。下の黒いのが始動用スタータースイッチだ。
モノクロ液晶ディスプレイが採用されたコンビネーションメーター。390と比較するとシンプルだが、それでも多彩な情報表示がなされている。
前後長の長いダブルシートはセパレート式。リヤ、そしてフロントの順に取り外す事ができる。
左サイドカバーにあるロックにイグニッションキーを挿し込んで右に回すとリヤシートのロックが解錠される。
LEDランプが採用されたテール&ストップランプ。兄貴分の390と同じデザインだが、両車はナンバープレートの違い(緑枠の有無)で見分けることができる。
テールのグラブバーやハンドルのナックルガードの装備がアドベンチャーらしい雰囲気を醸す。

⬛️主要諸元⬛️

車名:KTM・250 ADVENTURE
軸距(mm):1,430
最低地上高(mm):200
シート高(mm):855
車両重量(kg):159(半乾燥)
乗車定員(人):2
燃料消費率(km/L):32.3

エンジン種類:水冷4ストロークDOHC 4バルブ単気筒
総排気量(cm3):249
内径×行程(mm):72×61.1
圧縮比:12.5:1
最高出力(kW[PS]/rpm):22[30]/9,000
最大トルク(N・m /rpm):24 /7,250
始動方式:セルフ式
バッテリー:MF 12V 8Ah
燃料供給装置形式:スロットルボディφ38mm。 Bosch製電子制御式燃料噴射
点火装置形式:非接触制御電子式点火
燃料タンク容量(L):14.5
潤滑方式:ウェットサンプ
潤滑油量(L):1.7
クラッチ形式:湿式多板式(機械式パワーアシストスリッパークラッチ)
変速機形式:常時噛合式6速
変速比:
 1速:2.667(12:32)
 2速:1.857(14:26)
 3速:1.421(19:27)
 4速:1.143(21:24)
 5速:0.957(23:22)
 6速:0.840(25:21)
1次減速比:2.667(30:80)
2次減速比:3.067(15:46)
キャスター角(度):26°30′
タイヤ(前/後):100/90-19M/C 57S TL / 130/80-17M/C 65S TL(チューブレス)
ブレーキ形式(前/後):油圧式ディスク / 油圧式ディスク(Bosch製9.1MB 2チャンネルABS)
懸架方式(前/後):テレスコピック式 / スイングアーム式
サスペンションストローク(前/後mm):170/177
フレーム形式:スチール鋼管製トレリスフレーム・パウダーコート塗装

製造国:インド

⚫️試乗後の一言!

アグレッシブなエンジンフィールと大柄車体の安定感が印象的。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…