このベスパP125Xは筆者が住む近所にあるガソリンスタンドの店主が所有していたもの。スタンド内の休憩室に展示されていたもので、もう何年も動かしていない状態だった。休憩室のガラス越しに青い車体を見たとき、思わず客でもないのに「見せてください」と店内へ乗り込み長話してしまった。そんなことを何度か繰り返した後、「手放そうかと思っている」という店主に「譲ってください」と願い出て5万円で譲ってもらったのだ。その時点で何年不動だったのか不明なものの、以前は動いていたという話だったので復活させるのもカンタンだろうと目論んでいたのだ。
状態を良く確認せず自宅まで運び込んだベスパP125Xを洗車がてら観察してみた。するとゴムマットに隠れていたフロアにはサビ穴が無数に空いていた。そうなのだ、古いベスパボディにモノコック構造を採用していて、ほとんどの部分が鉄板でできている。おまけにフロアは水平で水や湿気が溜まりやすいからサビが進行しやすい。このP125Xも見事に古いベスパらしい姿になっていた。
洗車で判明したのはボディを全塗装した過去があること。なんでもそうだが洗車して各部を観察するのが、この手の中古車再生では役に立つ。状態を把握しないとどうやって先へ進むのか判断もできないからだ。ボディはこうなったらサビを落として補強するしかない。ではエンジンは? ということで混合燃料(古いベスパの2サイクルエンジンは燃料へオイルを混ぜる混合方式を採用している)をタンクへ注いでキーをオン。チョークを引いてキックすること数回、なんと呆気なくエンジンは再始動してくれた。これでエンジンやキャブレターをオーバーホールしなくて大丈夫と結論付けた。
では問題のフロアをなんとかしよう。ひとまず外せるものはエンジンだろうとフロントフォークだろうと外していこう。結果的にボディを横倒しにしてしまったが、こうすることでエンジンは一人でもボディから分離することができる。下から見るとフロアのサビが想像以上に進行していることも判明した。
フロアのサビをひと目見て、その後のサビ落としに苦労することが想像できた。少しでもラクするため、ここはケミカル剤でサビを落とすことを試してみよう。フロア全面に塗って紫色に変色しているのはスプレー状の「ネジザウルスリキッド」という製品。ホームセンターで1480円ほどで購入したものだ。
スプレーして放置するとみるみるサビが化学変化してくれるというので30分以上このままにした後、水で何度も洗い流して中和させた。その結果、やっと本来あるプレスラインや穴の場所などが判明することになった。ただ水洗いするのでボディ内部へドライヤーなどで風を送り乾燥させないとサビが再発してしまうだろう。
ボディ内が乾燥したらサビ落としの鉄板であるワイヤーブラシの登場だ。結局人力でゴシゴシやるわけだが、元の状態からやっていたら何日もかかる。今回試したケミカル剤は時間短縮に有効だったと断言しよう。ちなみにフロアの裏側だけでなくリヤフェンダーの内側も同じようにサビを落としている。
フロアのサビ落としは完璧でなくても良い。というのもサビの上から塗ってサビが進行しないように転換させてしまう塗料を用いるのだ。POR-15という製品で100ml入りの缶が1500円ほどで手に入る。これを全面に塗布しつつ、サビ穴の上にガラス繊維を乗せて、さらに上からもう一度POR-15を塗り固めてしまうのだ。こうすることでサビの進行を止めつつ鉄板の強度も上げることができる。
こちらの画像がPOR-15を乾燥させたところ。ガラス繊維に染み込んだPOR-15は繊維ごと硬化してくれるので剥がれてくることもない。唯一の問題点はこの上から塗料を吹いてもノリが悪くキレイに塗装できないこと。だから普段見えないフロアなどに使う分には良いが、ボディ表面へ使うには向いていないのだ。
塗料のノリが悪いことを忘れていてフロアの上も同じように処理してしまった。後から塗装できないことに気づくも、時すでに遅し…。まぁ素人仕事なので完璧を求めず先に進もう。
せっかくエンジンが降りているので全体をまず清掃する。2サイクルエンジンはオイル汚れが激しいので、清掃するのも大変。半日ほどかけて清掃したらエンジンに付いているリヤブレーキを分解する。この年式のベスパは前後ともドラムブレーキなので整備性は悪くない。
分解したドラムを清掃しつつ、ブレーキシューを外してバックプレートからサビを落とす。各リンク部は入念に汚れやサビを除去してグリスを塗布しつつ、何年前のものか不明なブレーキシューは新品に交換する。シューは今でも新品が入手可能でネット通販でも1000円前後。フロントとリヤを合わせても2000円ほどで購入することができる。
エンジンをボディへ戻す前にフロアを仕上げよう。元から付いていたセンタースタンドはサビが進行していてゴムの内部が腐食によりモゲてしまった。そこでこれまた新品をネット通販で購入。スタンドはゴム付きで3800円ほど、金具やスプリングも新品にしてプラス2000円ほどかかった。またリヤブレーキペダルの内部を清掃してワイヤーを通しておく。
スタンドが付けばボディが自立してくれるのでエンジンを元に戻そう。P125Xはエンジンにリヤブレーキだけでなくサスペンションも付く。元のサスペンションは抜けきっていたため、これも新品に交換する。これまたネット通販で6600円ほど。とはいえ走りを支える部品なのでケチらずに行こう。
エンジンをボディへ戻したら、同時に各ワイヤー類を通しておこう。今回はシフトワイヤーだけアウターごと新品に交換したが、リヤブレーキやスロットルワイヤーなどはインナーだけ新品にした。アウターごとのシフト用は2本セットで1500円ほど、インナーだけの場合は各数百円なので大した出費にはならない。
続いてフロント周りへ移る。抜いていたフロントフォークを戻すにはステム上下につくベアリングの状態をよく確認すること。今回は上下ともサビが進行して再使用不可な状態だったので、これまたネット通販で購入。どちらも200円前後なのでここまで分解したら毎回新品に交換しても良いだろう。
フロントフォークを戻したらフロントのサスペンションとブレーキも整備しよう。サスペンションを分解すると、こちらもリヤ同様抜けきっていたので、これまた新品にする。フロント用は絶えず外から見えるため純正風にこだわり、グレーのモノを選んだが7700円もした。また露出しているフォークはサビを落として銀スプレーで化粧直ししている。
前後サスペンションを装着したらタイヤを組みたいが、元のタイヤはカチカチに硬化してヒビ割れも発生している。そんなタイヤで走り出すなど自殺行為に等しいので、まずはホイールからタイヤを外そう。P125Xには組み立て式の合わせホイールが採用されているので分離してサビを落としてからタイヤを組む。
書くだけならカンタンそうだが合わせホイールの組み付けには若干のコツが必要。以前の記事を参照してほしい。またタイヤは3.50-10のミシュランS1を購入。前後で8000円ほどだろうか。タイヤを組む前にフロントブレーキも分解してブレーキシューを新品交換している。ただ、こちらはシューがプレートと固着していて外すのと組み直すのに丸2日ほどかかる大手術になってしまった。
車体代+修理代、総額10万8129円でした。
昨年の春先に5万円で手に入れた1978年式ベスパP125X。それから1年と4カ月を使って路上復帰まで素人作業で整備を繰り返してきた。果たして走り出すまでにいくらかかったのだろう。
部品代:4万1399円
ケミカル・油脂類代:1万6730円
合計:5万8129円
最後の最後でシフトワイヤーの組み間違えなどあり、なかなか手こずったレストア計画だったが、1年と数ヶ月かけて無事に完了した。総費用は5万8000円オーバーとなり、車両購入額を上回る結果となった。都合10万円ちょっとだが、現在古いバイクは軒並み相場を上げている。同じ程度のP125Xを買おうと思うと30万円から40万円は見なければならないから、金額だけ見ればオトクに感じるだろう。けれど、その間の苦労を考えると微妙なものだし、1年以上も手元にあって乗れない日々が続く。手っ取り早く乗りたい人にレストアは向いていないと断言しよう。ただ、ここまで自分で手を入れると、どこか調子悪くなってもすぐに診断できるし手も入れられる。どの道トラブルは付き物の古いベスパなのだから、イチから直してしまえば結果的に良いともいえる。結論が出しづらいけれど、予算がないからレストアを試してみることをオススメしたい!