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ホンダ・CRF250L……621,500円(2023年1月26日発売)
あらためて感心するエンジンのフレキシブルさ
リーズナブルな価格帯のオン・オフモデルとして2012年に初登場し、2021年型でオフロード性能を強化するなどフルモデルチェンジを実施したホンダ・CRF250L(2021年型の試乗インプレッションはこちらから)。前後のサスストロークを伸長し、専用シートを採用する〈s〉がタイプ設定されているが、今回試乗したのはスタンダードモデルの方だ。
まずはエンジンから。この2023年型で令和2年排出ガス規制に適合した249cc水冷シングルは、最高出力、最大トルクとも前年モデルから変更はなく、WMTCモードでの燃費がわずかに減少した程度だ。実際に走らせてみると、単気筒ながら相変わらず2,000rpm付近から粘り強く、スロットルの開け始めはギクシャクしない程度に反応がいい。20km/h前後で流れている渋滞路では、半クラッチを使わずとも1速のままトコトコとついていけるほどで、これは低回転域から燃調や点火時期などが完璧にセッティングされている証拠だ。また発進加速についても、6,000rpmあたりでポンポンとリズミカルにシフトアップしていけば、後続を余裕で引き離すことができるほどに力がある。
スロットルを大きく開けると、7,000rpmからさらにパワーが盛り上がり、レッドゾーンの始まる10,500rpmまで気持ち良く伸び上がる。そして、高回転域を多用することがストレスにならないように、1次バランサーによって不快な微振動が抑えられている点も好印象だ。サイレンサーから耳に届く排気音はシングルらしい歯切れのいいもので、それでいて主張しすぎないボリューム感なのもうれしい。
同じ水冷シングルでも、KTM・250アドベンチャーほどの弾けるようなパワーフィールは持ち合わせないが、渋滞路や林道、そして高速道路に至るまで、どんなシチュエーションでも扱いやすいという点においてはCRF250Lに軍配が上がる。クラッチレバーの操作力の軽さやスムーズなシフトフィールも含め、熟成を重ねたことで非常に完成度の高いパワーユニットになったと言えるだろう。
たまに林道を走る程度の用途なら、〈s〉よりもSTDを推す
続いてはハンドリングだ。今回の一部仕様変更は主に排出ガス規制によるものであり、車体に関しては前年モデルからほぼ変わっていないことが、最新のパーツリストからも確認できる。とはいえ、車体色がモトクロッサーイメージのエクストリームレッドから、都会的な印象のスウィフトグレーになったことで、デュアルパーパスに興味がなかった人からも注目を集めることになりそうだ。
CRF250Lのホイールトラベル量はフロント235mm、リア230mmで、〈s〉の260/260mmより短縮されてはいるものの、マウンテントレールとして名を馳せたヤマハ・セロー250の225/180mmよりも長く、オフロード性能の高さが想像できるだろう。
街中やワインディングロードなど舗装路での走りは、まるで水を得た魚のようにキビキビとしている。車体がスリムで軽量なことと、エンジンのレスポンスの良さが最大の要因だが、ほかにも加減速で発生する車体のピッチングが大きすぎないので、間髪を入れずに旋回へ移行できるというサスセッティングの絶妙さも挙げられる。ブレーキについては、フロントが強力なだけでなく、倒立フォークを含むフロント周りがその荷重をしっかりと受け止めてくれるので、狙ったラインをトレースしやすいのだ。
今回はフラットな林道も走ってみた。ガレた場所や泥濘地など、路面状況がさまざまに変化するルートではあったが、1~2速を行ったり来たりするようなペースであれば車体に関して何ら不満はなし。付け加えると、欲しいタイミングでエンジンの駆動力がグッと得られることから、セロー250よりも扱いやすいとすら感じた。そして、ハンドル切れ角が大きい(現行モデルは未発表だが先代は左右各45度を公称)ことや、いつでも両足を地面に着けるというシート高の低さは、未舗装路での心理的ハードルを大いに下げてくれる。
デュアルパーパスの王道を往くCRF250L。そのパフォーマンスや魅力は新排気ガス規制適合後も不変だった。〈s〉よりもシート高が50mm低いことから足着き性の良さがクローズアップされがちだが、オンロードでの軽快な走りには光るものがあることから、街乗りメインのバイクとしても強くお勧めできる1台だ。