走りは超キビキビ、色はハデハデ! 排気量175ccの街に程よいスクーター、KRV180TCS|キムコ

コミューターとして実用性に重きが置かれることが多いスクーターですが、スポーツバイク顔負けのアグレッシブな走りを実現した、いわゆるスポーツスクーターも存在しています。身近な日本製スクーターでいえば、ヤマハTMAX560が代表的なスポーツスクーターになるでしょう。そんなTMAXのライバルモデルとなるのがキムコAK550です。アルミフレームに53.5psの最高出力を発生する水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンを搭載した、まさにスーパースポーツスクーターがAK550です。KRV180TCSはそのAK550のアグレッシブなDNAを継承した軽二輪スポーツスクーターなのです。

写真:山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
協力:キムコジャパン/コネクティングロッド

キムコKRV180TCS……561,000円(消費税込み)

250ccクラスに迫るパワー感とスポーティな走りを支える足回りを持つ快速モデル

台湾メーカーのキムコはいまや、世界的なスクーターブランドとして認知されています。それだけにラインナップも豊富で、世界中のライダーのニーズに対応しています。それら豊富な車種構成の中には、スポーツ性を前面に押し出したモデルも存在しています。KRV180TCSがそうです。

「スクーターにハイレベルのスポーツ性って必要?」というのが僕個人の意見です。スポーティな走りを楽しみたいならスーパースポーツモデルに乗ればいいと思っているからです。いや正確には、思っていたからです。しかし、ヤマハTMAXに初めて試乗したとき、「より身近にスポーツライディングが楽しめるのもいいかも」と実感しました。以来、スポーツスクーターというカテゴリーもありだと認識を新たにしているのですが、見回してみれば、かたちだけスポーティというモデルも少なくありません。ところがキムコKRV180TCSは、アグレッシブな走りを許容するスポーツスクーターに仕上げられていたのです。

スタイリングデザインはまさしくスポーツスクーターで、眼光鋭い精悍な表情を見せています。しかしながらフラットフロアを採用していて、実用性にも配慮している点が他とは一線を画しています。足回りに目を移すと、前後13インチのアルミホイールに、大径ローターを採用したディスクブレーキが装備してあり、高いスポーツ性を垣間見ることができます。そして、なんといっても最大の特徴が独立スイングアームを採用していることです。これはフラッグシップのAK550やヤマハTMAX560にも取り入れられているシステムで、スクーターで一般的なユニットスイング方式ではなく、エンジンとトランスミッションはフレームに搭載し、バネ下重量の軽減とともにサスペンションの作動性を大幅に高めることができるというわけです。まあ一般的なバイクと同じシステムということなのですが、だからこそスポーツスクーターとしての性能を高めるために必要なシステムともいえます。さらに、エンジンとトランスミッションをフレームへコンパクトに搭載するために、キムコ独自の技術であるPTM(Power Transmission Matrix)を採用しています。これによってエンジンを前方へ搭載することが可能になり、重心を前方へ移動することに成功しました。結果、前後の重量配分を約50:50と最適化することができたのです。いうなればKRV180TCSは、スクーターの概念を打破したATスポーツモデルということができるのです。

シートに座るというポジションはスクーターのそれです。アップハンドルによってもたらされるリラックスした上体も違和感がありません。フラットフロアなので乗降性が良いのも、ライダーの体格に関係なく使いやすい部分です。ただし足つき性はあまり良くありません。シート高は795㎜ということですが、足を下ろしたときに開き気味になるので、結果として足が着けにくくなっています。感覚的には欧州製のスポーツスクーターに近いといった印象を受けました。

足つき性チェック(ライダー身長:178cm)

250ccクラスよりひと回りコンパクトなボディは、日常の足として使うにもちょうどいい。ポジションにも窮屈さはまったくなく、フラットフロアによる乗降性の良さも魅力的だ。ただしウインドスクリーンがないので高速走行では風圧を受けることになる
シート高は795㎜で、このクラスのスクーターとしては高めだ。身長178㎝の僕の場合は両足を着くことができるが、平均的な体格のライダーだとつま先が着く程度だろう。まあこのあたりにもスポーツスクーターらしさは出ているのだが

搭載するエンジンは、水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒で、排気量は175.1㏄。最近は150、160といった排気量のモデルが一般的になっていますが、それらより1割ほど排気量が大きく17psの最高出力を発揮します。出力、トルクともに150クラスと250クラスの中間的な性能ですが、これが一般道での加速性や高速走行での余裕につながっているのです。実際にスタートするとそれはすぐに理解できます。アクセルを開けたときのダッシュ力が強く、吹け上がりもダイレクトなので実にスピーディに走ることができるのです。パワーウェイトレシオは8.4kg/psを実現しているので、走りそのものが軽快に感じます。

バランスシャフトを2本採用したエンジンは、振動が少なく、そのぶんスムーズなパワーフィーリングを発揮し、走行は上質です。適度に振動があるほうがパワフルに感じることももちろんありますが、KRV180TCSは静粛に速く走ることができるのですから、現代的であることはまちがいありません。さらにトラクションコントロールも装備しているので、雨などで滑りやすい路面でも不安を抱くことなくアクセルを開けていけるのもうれしい部分です。

今回の試乗でもっとも印象的だったのがハンドリング特性でした。独立スイングアームによってロードホールディング性が良いことは、走りだしてすぐに実感します。一般的なスクーターの場合、段差を乗り越えたり荒れた路面を走るとバタバタと跳ねることが多く、リアタイヤの接地感は希薄です。しかしKRV180TCSはサスペンションがよく動いてくれ、タイヤをしっかりと路面に着けてくれます。低速ではフロント周りに重さを感じて、当初はそれが違和感として残ったのですが、スピードが高まるにしたがってナチュラルなハンドリングとなり、しかも軽快性も高まってきます。コーナーへのアプローチで車体をバンクさせる際にもスポーツバイクを操っているようにスーッと倒し込めるし、素早い切り返しにもしっかり追従してくれます。スポーツハンドリングという表現があるのかはわかりませんが、スクーターの域を超えた軽快でスポーティな走りを実現しているのはたしかです。ABS装備のブレーキの効き、コントロール性も高いし、つねに安定感があるので、トラクションコントロールと合わせて、どんな路面状況にも安心感を持って走行できると思いました。それでいてスクーターらしい実用性も兼ね備えているのですから、まさに万能型スポーツスクーターといえるんじゃないでしょうか。

ディテール解説

パワーユニットの水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒エンジンは、同軸トランスミッションとしたことにより軽量・コンパクト化を実現。さらにKYMCO独自の技術PTM(Power Transmission Matrix)により前後50:50の重量配分でフレームに搭載が可能となった
スクーターでは一般的なユニットスイング方式ではなく、エンジンとトランスミッションをフレームへ搭載し、独立スイングアームを採用。これによりバネ下重量を軽減でき、リアサスペンションの負担を減らして良好な作動性を実現。結果、路面追従性を高め、運動性能を大幅に向上させた
フロントには正立フォークを装備。ブレーキにはΦ270㎜ウェーブディスクに2ポットキャリパーを装備。しっかりとした剛性があり制動力も高い。ABSはもちろん装備していて、安全性を高めると同時にライダーに大きな安心感を提供してくれる
ツインLEDヘッドライトとLEDデイタイムランニングライトを組み合わせたマスクは、スポーツモデルらしい精悍な表情を作り出す
上方に跳ね上げられたテールスタイルがスポーティ。テールランプをはじめとする灯火類はすべてLEDを採用している
アップタイプのパイプハンドルが装着されているので、ガジェット用のマウントを装備しやすい
メーターにはデュアルLCDメーターを採用。ハンドル側には一般的なインジケーターに加え、ABS、TCSインジケータ―が表示。メーター本体にはスピード、エンジン回転数、水温、走行距離など多彩な情報が表示される。視認性も良好だ
左手にスイッチ類が集中的に配置。TCS切り替えスイッチも装備
スマートキーにより操作するメインキー。左には給油口が配置。Type-AのUSB電源ソケットには5V2Aの通常タイプとQC3.0急速充電対応のものが装備されている
右手にはセルスターターとハザードスイッチが配置されている
キーレスシステムを採用している。そのため走行する際にはスマートキーを携帯する。盗難抑止効果もある
スポーツスクーターらしい硬質な座り心地のダブルシート
シート下のトランクスペースは25L容量。ヘルメット1個が入る。夜間での使用に備えて後部にはLED照明が設置されている。スクーターの利点のひとつだが、シート下トランクスペースはショッピングやツーリングに重宝する

主要諸元

エンジンタイプ 水冷4サイクルSOHC4バルブ単気筒
総排気量 175.1cc
内径 × 行程 Ø62mm × 58 mm
圧縮比 11.2:1
最高出力  12.5kw / 8000rpm
最大トルク 15.48Nm / 6500rpm
変速機型式 CVT
始動方式 セルフ式
燃料装置 フューエルインジェクション
車両重量 143kg
全長 × 全幅 × 全高 1,960mm × 755mm × 1,115mm
シート高 795mm
軸距 1,400mm
燃料タンク容量 7.2リットル
タイヤ(前) 110 / 70-13
タイヤ(後) 130 / 70-13
ホイール アルミニウム
ブレーキ形式(前) 270mm 油圧式シングルディスク+ABS
ブレーキ形式(後) 234mm 油圧式シングルディスク+ABS
カラーラインナップ 
 ディープアクアマリン BG317MA
 フラットシルバー NH393FA
 フラットパープル RR257FA
 ブラック WN001SA
メーカー保証 3年間
生産国 台湾

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…