とにかくデカい、だからイイ。ハーレーダビッドソンCVO ROAD GLIDE。ハーレーのフラッグシップを冨士スピードウェイで試乗。

猛暑続きの8月、冨士スピードウェイで報道関係者を対象にハーレーダビッドソンの試乗機会が与えられると言う話を耳にした。ひょっとして「キング・オブ・ザ・バガーズ」のレースマシンに乗れるのか!?と早とちりな想像をしてしまったが、実は同社最高級プレミアムモデル「CVO」の試乗会が開催されたのである。

PHOTO &REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
取材協力 &PHOTO●HARLEY-DAVIDSON JAPAN
CVO Road Glide(右)とCVO Street Glide(古典的デザインを醸すバッドウィング・フェアリングを採用)

ハーレーダビッドソン・CVO ROAD GLIDE…….5,497,800円〜

ダークプラチナ/ピンストライプ

CVO Road Glide
ウイスキーニート/レイヴンメタリック…….6,212,800円
CVO Street Glide
ウイスキーニート/レイヴンメタリック…….6,212,800円

前モデルの117に対してストロークを3.5mm伸ばして排気量を1972〜1977ccにスケールアップされた、最新のMilwaukee-Eight™121 VツインのOHVエンジン。

伝統を主張するティアドロップの22.7Lタンク。
Road Glideのアッパーカウル。
「シャークノーズフェアリング」と呼ばれる斬新なデザインが採用された。

今回の試乗車は6月8日に予約販売が開始されたCVOロードグライド。同社のバリエーションは現在6種のカテゴリーに分類されているが、それはグランド・アメリカン・ツーリングのジャンルに属している。
象徴的モデルとしてはエレクトラグライドやロードグライドが有名。しかしCVOは、さらにその上に君臨する最高級を誇れるモデルとして投入された最新鋭機種だ。
ちなみにCVOとはCustom Vehicle Operationの略称。ごく簡単に言うと同社最高峰のモデルで、最新機能と専用コンポーネントが奢られ、生産台数も限られる別格のプレミアムブランドなのである。
主にフロントのフェアリグデザインで差別化されて同時デビューした同ストリートグライドは、基本的に共通で販売価格も同じ。価格は何と約550万円。豪華グランドツアラーのロードグライド・リミテッドに至っては約650万円也。同社フルバリエーションの中でもひときわ高価な最上級グレードとして設定されている。

写真からもわかる通りフロントフェンダーやフェアリングなどのエクステリアデザインを一新。またフロントホイールのサイズが21から19インチに変更されている。
試乗車のロードグライドはシャークノーズフェアリングと呼ばれる斬新なデザインを披露し、ワイドになったフロントスクリーンも新設計。
スクリーンの下部には走行風を積極導入できる開閉フラップ付きエアダクトがあり、両脇に装備された調節可能なエアコントロールベーン(フラップ)も相まって、暑さにも寒さにも対応して快適性の向上が図られている。
標準装備されるサイドバッグも含めて全体に進化したエアロダイナミクスを追求。先代モデル比でカーゴスペースは68Lから62Lへ減少しているが、サイドカバーデザインも含め、フェアリングから後方へ流れる全体的な空力特性を向上させたそう。

そして最もインパクトの大きな変更点は、Milwaukee-Eightと呼ばれる搭載エンジンが、117から121キュービックインチへ排気量が拡大されたこと。加えてドライウイエトが375kg。先代モデル比較で15kgもの軽量化を果たした点も見逃せない。
言い換えると排気量は1923ccから1977ccへとスケールアップ。しかもボアアップというお手軽な手法ではなく、あえてストロークアップという手段を採用している。
つまり103.5mmのシリンダーボア(内径)はそのままに、クランクが設計変更されてストローク(行程)が先代の114.3mmから117.5mmへと3.2mm 延長されて、よりロングストロークなエンジンへと変更されたのだ。
圧縮比は10.2:1から11.4:1へと高圧縮比化され吸排気系も一新。それに伴い主に排気ポート周辺を狙ってシリンダーヘッドが水冷化されている。
結果的に3,500rpmで発生する最大トルクは169Nmから183Nmへ約8%向上。最高出力は9.5%向上し、先代の78kw(105HP)/5,450rpmから86kw(115HP)/5,020rpmへ強化された。
先代より低い回転域で高出力が発揮されただけでなく、VVT(可変バルブタイミング) の制御も熟成変更され、より広いパワーバンドを確保。燃費性能も3~5%の向上を果たしたと言う。諸元表によれば、15.9km/Lから16.7km/Lへと進化しているのも嬉しいポイントなのである。

どこまでも悠然と快適に走れる魅力は大きい。

冒頭に記した通り、試乗は冨士スピードウェイの本コース。ハーレーダビッドソン恒例のフェスティバルとして良く知られている“ブルースカイヘブン2023”が開催される会場内で実施された。
試乗時間は正直言って不十分だったが、スロットルを存分に開けられる環境だったので最新モデルの大きな進化ぶりはしっかりと感じとれた。パドックで試乗車を目前にすると、フェアリングとLEDランプから成るフロントマスクのデザインが斬新。より軽快で保守的な雰囲気のストリートグライドとはおもむきが異なりそれぞれに魅力的。
2Lエンジンを搭載する重量級バイクの存在感は流石にスケールが大きく、車両全体のボリュームに圧倒される。ドッシリと身構える堂々の風格はいかにもハーレーダビッドソンらしい。それを楽しむ乗り味もまたしかりである。
ただ先代モデルと比較すると、いくらかスラッとした雰囲気。実際に全長は50mm短縮された2410mm。全体的に洗練されたエアロデザインに19インチ・フロントホイールとワンサイズ(2mm小径化)細いフロントフォークの採用が効いているのか少しスマートに見える。1625mmのホイールベースに変更は無いが、最低地上高が20mm高くなり、シート高は40mm高い720mmになった点もそう感じさせてくれる要素かもしれない。
車重はおよそ400kg。細身で非力な筆者にとっては何とも恐れ多い巨大なバイクである。しかし特に大きな不安を覚える必要はないのが、ハーレーダビッドソンらしいところ。絶対的な重さはあるが、その扱いやすさには意外な程の優しさがあるからだ。

早速跨がってみると、先代モデルよりもシート高は高め。腰を低く深く落とし込むと言うよりは普通に跨がる感じ。それでも足つき性に難は無く、先ずは安心感を覚える。
伝統的デザインのティアドロップタンク容量は22.7L。ハンドルに手を添えると相変わらずグリップが太く左右両レバーも指に当たる部分の幅が厚い。目に見える所、身体に触れる部分の感触から、改めて大きく立派なバイクであること、設計基準となるライダーの体格に日本人と欧米人には大きな差があることを再認識させられる。
だからこそ、その雄大なサイズ感と重量感に憧れを抱く気持ちが理解できる。見た瞬間、跨がった瞬間に格別の存在感を漂わす超弩級のビッグバイクとして、長年築きあげられて来たた同ブランドならではの誇らしさが満喫できるのである。
ただ、筆者の体格でもライディングポジションは特に大き過ぎることはなく、至って自然と無理なくくつろげる点が好印象だった。
先代モデルと比較するとアップハンドルのグリップエンドが左右に開き気味(水平寄り)に変更されていて、抑えやすさと操舵のしやすさと言う意味で少しスポーティな感触。背筋が伸びて姿勢良く乗れる感じで、目線位置も若干高く前方の見晴らしが良い。その乗り心地はとても開放的である。

新エンジンの出力特性は、穏やかな感触と頼れるビッグトルクが絶妙にバランスされている。巨体を難なく自在に加速させる底力は十分な太さがある。各ギヤでの守備範囲が広く、VVTの働きで粘り強さも一級である。どのギヤポジションでも右手のスロットルを開けさえすれば、太いトルクを遺憾なく発揮しつつ穏やかにかつスムーズに吹き上がる。そのパワーフィールはまさにフレキシビリティに富んでいる。
一方大きなフェアリングも素晴らしい。ヘルメットのシールドを閉め忘れる程、確かなウィンドプロテクション効果が発揮され、ヘルメット周辺での乱流騒音も感じられない。
郊外の一般道路を流すような心地よさをキープしながら至って快適な高速クルージングが可能。試乗ステージがサーキットなので、ついつい走行速度が上昇するが、その乗り味は至って平穏なのである。前方にコーナーが迫り来るも緊迫感に欠ける大らかな乗り味には要注意。でも少しばかりオーバースピードで進入しても、スッと向きを変えて行ける操縦性の素直さには大きな進化が感じられた。このタイプのバイクでコーナーを攻め込もうとは思わないが、動力性能と操縦性に関するポテンシャルの向上ぶりには驚かされた。しかも操舵フィーリングは常に軽快である。
車庫からの出入り(押し回し)は確かに重労働だが、いざ走り始めてしまえば、小回りUターンも含めて常に軽々と扱えてしまう。
まるでサイズの大きなアメリカンカウチに腰掛けているかのような寛ぎを得たまま、疲れ知らずで遠方まで楽に移動できてしまう乗り味はやはり魅力的。
いかにもアメリカンな発想であるキング・オブ・ザ・バガーズのようなレースマシンになるのもある種納得の出来ばえ出来ばえなのである。

どの様なバイクでも仕事柄いつも冷静かつ気軽に試乗させて頂いてはいるが、ふと気付くとこのCVOロードグライドの価格は小型の大衆乗用車(4輪)がゆうに2台買えてしまえるほど高価。
そんなプレミアム・モデルのオーナーになる時のシーンや生活ぶりについて、色々と想像を膨らましてみた。高価な製品を悠々と乗る姿そのものにも、贅沢な悦びを感じられると言う価値も大きいのではないだろうか。
試乗車は、それに相応しい伝統と風格と、確かな資質を備えているのである。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…