未舗装路もなかなかイケる、これは良い250ccアドベンチャーだ。Vストローム250SX試乗記

ネイキッドのジクサー250をベースに開発された軽二輪アドベンチャー、Vストローム250SXの日本仕様がついにリリースされた。生産国であるインド仕様との違いは、液晶メーターにスマホ連携機能がないことと、標準装着タイヤの製造メーカー、あとはサリーガードの有無ぐらいで、油冷単気筒エンジンのスペックなど主要諸元についてはほぼ共通となっている。日本市場では併売となる水冷2気筒のVストローム250より7万7000円安いこのニューフェイス、まずは単騎インプレッションをお届けしよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

スズキ・Vストローム250SX……569,800円(2023年8月24日発売)

2002年に登場したVストローム1000に端を発するシリーズの末弟として誕生した250SX。インドでは2022年4月に発表、5月より販売がスタートしている。なお、「SX」はスポーツ・クロスオーバーの頭文字だ。
車体色は写真のパールブレイズオレンジのほか、チャンピオンイエローNo.2、グラススパークルブラックを用意。日本仕様なのでサリーガードは装備されていない。エンジンアンダーカウルはスチール製だ。

油冷シングルの張りのあるエンジンフィールが好印象だ

初代Vストローム1000の誕生から21年。この間に650、250、1050、800と徐々にラインナップを拡充していき、シリーズ累計販売台数は44万台(!)を超えるというから、Vストロームはまさに日本を代表するアドベンチャーツアラーファミリーといっても過言ではない。

そんな世界的にも大人気のシリーズに「250SX」という末弟が加わったのは昨年のこと。5月に生産国のインドで発売され、一足先にバイク館イエローハットが日本へ輸入。それを筆者はクローズドコースで試乗している(記事はこちら)。ヤマハの名車ツーリングセローに乗る身でありながら、短い試乗の間に買い換えを検討するほど、私はこのニューフェイスに惚れてしまったのだ。

あれから半年以上の時が流れ、今年8月下旬、ついにVストローム250SXが国内の正規ラインナップに加わった。すでにVストロームミーティングや鈴鹿8耐などで実車が展示されていたので、標準装着タイヤがMRF製からマキシス製に変わることは認識していた。これについては、併売されるVストローム250との差別化を図るため、日本仕様はよりグラベル向きの銘柄を選んだという。メーターについては、インド仕様はスマホとの連携機能である「スズキライドコネクト」を採用するが、日本仕様はこれが省略されてしまった。少々残念ではあるが、マイナーチェンジによるアップデートに期待しよう。

このVストローム250SX、ベースとなっているのはジクサー250で、249ccの油冷単気筒エンジンについては基本的に共通。ダイヤモンドフレームはシートレールを専用設計とし、スイングアームを延長。フロントホイールは17インチから19インチに大径化し、ブレーキディスクは前後ともジクサー250より大きなものを採用している。164kgという車重はジクサー250より10kg重いものの、水冷2気筒のVストローム250よりは27kgも軽いのだ。

まずはエンジンから。この油冷シングルについてはジクサー250や同SF250で何度か体験しているが、あらためてスムーズな回転上昇に感心する。それは単にクランクのイナーシャが少ないことや、ショートストローク設計というだけではなく、フリクションロスの低さも要因として挙げられ、結果として不快な微振動の少なさにつながっているように思う。

今回試乗した群馬県の嬬恋エリアはアップダウンが大きく、急な上り勾配では4,000rpm以下のトルクがやや薄いと感じるが、そこから先ではレッドゾーンの始まる10,000rpmまでスムーズに吹け上がり、張りのあるスロットルレスポンスも好印象だ。このレスポンスについては、スロットルを開ける方向だけでなく閉じる方向に対しても忠実であり、特に滑りやすい未舗装路でのコントロール性の良さを生んでいる。トラクションコントロールやライドモードなどの電子デバイスは採用されていないが、これだけ扱いやすければ不満はないだろう。

なお、高速道路の走行は叶わなかったので計算したところ、トップ6速100km/hでのエンジン回転数はおよそ6,600rpmだ。ちなみにVストローム250は7,400rpmなので、12%ほど低い回転域で高速巡航できることになる。ベースとなったジクサー250はWMTCモード値を上回る実燃費が多数報告されていることから、Vストローム250SXにも優れた経済性が期待できそうだ。


安定性を重視したハンドリング、これならオフも行ける!

ライディングポジションは、ホンダのCRF250Lやヤマハのセローのようなトレール車よりもわずかにボリューム感があり、軽二輪でありながらアドベンチャーモデルらしいまとまりを見せる。シートは後方の座面が広く、ウレタンには適度なコシ感があることから、これなら長時間のツーリングでもお尻は痛くならないだろう。

ジクサー250よりもホイールベースが95mm長く、フロントに19インチホイールを採用していることから、250SXのハンドリングは安定指向が強めだ。とはいえ、それは安心して身を預けられるタイプのもので、決して頑固というわけではない。今回は試せなかったが、例えばキャンプ道具などをリアキャリアに満載した状態で走ると、この安定性をありがたく感じるだろう。

ハンドルの押し引きできっかけを作り、バンク角主体で旋回していく。これは多くのアドベンチャーモデルに共通するものであり、初見のルートでは「絶対に曲がれる」という安心感につながる。純粋な旋回力だけなら、前後に17インチのオンロードタイヤを履くVストローム250に一歩譲るが、250SXは車体の軽さが大きなアドバンテージとなる。前後のサスペンションについては、超高速で知られるスズキの竜洋テストコースで破綻を来さないレベルに鍛え上げ、そこから乗り心地を改善していったというだけあり、一人乗りでも硬すぎるということはなかった。余談だが、オフロードでの動きをよくしたければ、プリロードを標準値から下げるといいようだ。

ブレーキについては、オンロードと未舗装路の両方で扱いやすいフィーリングにまとめられており、デュアルABSの介入についても特に不満はなかった。それと、ウインドスクリーンやシュラウド、ナックルカバーによる防風効果も良好で、これもアドベンチャーモデルとして高く評価できる要素の一つだ。

軽二輪という枠の中で、価格も含めて良バランスを追求したアドベンチャーモデル、それがVストローム250SXだ。今回の試乗を終えた時点で、筆者の中でツーリングセローからの乗り換えは「検討」から「決定」へと変わった。


ライディングポジション&足着き性(175cm/64kg)

Vストローム250よりもハンドルの絞り角が少なく、よりアドベンチャー的なライディングポジションを形成。シッティング、スタンディングともに快適で、シートの座り心地も優秀だ。
シート高はVストローム250やジクサー250の800mmに対し、835mmを公称。身長175cmの筆者でもご覧のように両かかとが浮いてしまうが、腰下がスリムかつ車重が軽いので、恐怖心は全くない。

純正アクセサリーのローシートを購入する際は要確認!

ローシート装着
ローシート装着

純正アクセサリーとして用意されているローシート(2万5520円)を試してみる。標準装着品よりも座面が約25mm低くなるが、ウレタンが薄くなった分だけシートのエッジが太ももの裏に強く干渉してしまい、足着き性自体はほとんど変わらないという結果に。また、ウレタンのストローク感も減ってしまい、硬い座り心地に。足着き性の向上を目的にローシートの導入を検討されている方は、購入前にショップで確認されることを強くお勧めする。

キーワードで検索する

著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一