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25年の歴史を誇るスズキ・フラッグシップ
昔からのバイク好きならよくご存じの通り、スズキのフラッグシップといえばハヤブサだ。1999年に登場した初代モデル以来、大排気量の高性能スポーツ、いわゆる「メガスポーツ」というジャンルを牽引してきた1台で、現行モデルの3代目も根強い人気を誇っている。
ハヤブサが長年に渡り世界中で大きな支持を受けている理由には、初代モデルが完全ストック状態で、市販量産車初の実測300km/h以上をマークしたことが大きいだろう。かつて「市販車最速」と謳われた伝説は今も息づいており、その高性能を公道でフルに引き出すことこそできないものの、筆者を含めた多くのファンをいまだに魅了し続けている。
なお、筆者が12年間所有していた2代目ハヤブサ(当時の正式名称GSX1300ハヤブサ)は、2008年型の輸出仕様車、いわゆる逆輸入車(カナダ仕様)だ。2代目の国内仕様車が発売されたのは2014年なので、筆者が購入した時、ハヤブサは逆輸入車でしか手に入らなかった。インナーカウルなどに貼られたコーションラベルなどが英語になっていたことも、どこか高級な輸入車を手に入れたようなプレミアムな感じがして、とてもうれしかったことを覚えている。
余談だが、スズキが、2023年6月30日に発表した300台限定の「ハヤブサ25周年記念カラー」は、まさに筆者が所有していた2代目の車体色、オレンジ×ブラックをかなり忠実に再現していると思える。発表時に写真を見て、かつての愛車との日々を思いおこしたほどだ。
現行モデルはよりアグレッシブなデザイン
そんなハヤブサ現行モデルの実車を見て、まず感じたのが、エッジの効いたフロントカウルのデザインなどにより、よりアグレッシブな雰囲気となったことだ。2代目モデルは、全体的に流麗なフォルムと、フロントとリヤのカウル左右にあるコブ(膨らみ)が特徴的で、どこか戦闘機をイメージさせる感じだった。
対して、現行モデルは、より野獣のごとき迫力を感じる。ちなみに、テールカウルは、どこか初代モデルを彷彿させるデザイン。個人的には2代目のデザインの方が好きだが、テールランプ下に装着されているスポイラーだけはなかなかいい。ちょっと4輪のGTレーサーを感じさせて好印象だ。
現行ハヤブサのボディサイズは、全長2180mm×全幅735mm×全高1165mm、ホイールベース1480mm。一方、筆者が乗っていた2代目は、全長2190mm×全幅735mm×全高1165mm、ホイールベース1480mm。現行ハヤブサは、全長こそ少し短くなったが、全体的なサイズ感はほぼ同じといえるだろう。
跨がってみて違いを感じたのが、ステアリングの位置。2代目モデルは、身長165cmの筆者では、ステアリングがやや遠い印象だったが、現行モデルは少しライダーに近くなった気がする。そのためか、ライディングポジションも、2代目ほど前傾姿勢はきつくない。また、実際に乗った際も、例えば、街乗りの渋滞路など、10〜20km/hといった定速走行時に、車体のコントロールがよりやりやすかった。
エンジンの始動性が向上し、出発時の手間も少なくなった
イグニションをオンにし、エンジンをスタート。1339cc・水冷4サイクル直列4気筒が奏でるエンジンサウンドは、相変わらず迫力満点の重低音で、聴いているだけで気分が高揚する。
現行モデルでは、エンジン始動時に、ギアをニュートラルにしておけば、クラッチレバーを握らなくても、スタータスイッチを押せばエンジンを始動させられるようになった。以前のスズキ車は、筆者が所有していた2代目ハヤブサを含め、ほとんどのモデルで、ギアをニュートラルにしても、クラッチレバーを握らないとエンジンを始動できない設定だったのだ。もちろん、現行モデルでも、ギアが1速などに入っている時は、クラッチレバーを握る必要はあるが、ニュートラル時にレバー操作が不要になったのはとても便利。始動時の手間などが低減されている。
加えて、「スズキイージースタートシステム」の採用で、スタータスイッチをワンプッシュするだけでエンジンが始動。冬場など、エンジン始動にやや時間が必要なときでも、スイッチを操作する時間が短いのも有り難い。
SDMS-αの3モードは特性の変化が分かりやすい
クラッチをミートして発進。低回転域からのスムーズなパワー特性は、大排気量車ならではで、信号待ちからのスタートなどでも、相変わらず余裕の走りで交通の流れをリードできる。
街乗りでのエンジンフィールには、新・旧で大きな違いは感じられなかった。ただし、現行モデルには、「双方向クイックシフトシステム」が採用されており、ライダーがクラッチやスロットルの操作をせずにシフトアップ/ダウンを可能としている。しかも、このシステムは、3000rpm付近の低い回転数でもスムーズに作動するため、街乗りでのシフトチェンジがとても楽だ。当然、高速道路やワインディングでも効果は絶大で、ツーリング時の疲労をかなり軽減してくれた。
高速道路やワインディングなどでは、新・旧モデルで乗り味に大きな変化を実感した。特に、SDMS-α。これは、電子制御システムS.I.R.S.が持つ機能のうち、5つの制御設定をあらかじめ用意した3セットから選べるというもの。また、各制御を、ユーザーの好みに変更して登録できるユーザーセットも3つまで設定が可能だ。
SDMS-αで、事前の設定が施されている制御は、
・モーショントラックトラクションコントロールシステム
・パワーモードセレクター
・アンチリフトコントロールシステム
・エンジンブレーキコントロールシステム
・双方向クイックシフトシステム
だ。モーショントラックトラクションコントロールシステムは、リヤタイヤのスピンを検出した際、速やかにエンジン出力を低減する機能。パワーモードセレクターは、路面状況や走行条件に合わせ、エンジンの出力特性を3タイプから変更することが可能だ。
また、アンチリフトコントロールシステムは、前輪のリフトを抑えながら最大限の加速が得られる機構。スロットル全閉時に発生するエンジンブレーキの強さを変えられるのが、エンジンブレーキコントロールシステム。そして、前述した、双方向クイックシフトシステムが加わる。
なお、SDMS-αが事前に設定している3タイプのモードは、
・A(Active):上級者が積極的に走るのに適したモード
・B(Basic):一般ライダーが街乗りからワインディングまで幅広くこなせるスタンダードモード
・C(Comfort):初心者や雨天走行に適したモード
となっている。
2代目モデルにも、これも前述の通り、3つの走行モードを用意したSDMSが搭載されていた。だが、こちらは、フューエルインジェクションと点火システムを制御するエンジン制御マップが、A、B、Cの3タイプで設定されていただけ。つまり、エンジンの出力特性を変えられる程度だ。2代目には、トラクションコントロールなどはなかったため、当然ながら電子制御システムの統合的コントロール機能も存在しなかったのだ。なお、2代目のSDMSでは、Aがフルパワー、Bが中間の特性、Cが最もマイルドな特性になるようになっていた。
だが、筆者の場合、実際に乗った感じでAとBにあまり差を感じられず、雨の時などにCを使う程度だった。しかも、2代目ハヤブサは、アクセル開け始めのパワーの出方が比較的マイルドで、ある程度ワイドオープンにしなければ、唐突にパワーが出る感じではなかった。カタログ数値の最高出力は145.0kW(197.1PS)だが、かなりコントローラブルだったこともあり、筆者は多くのシーンでAモードを使うことが多かった。雨の日でも、あまり土砂降りでなければ、Aモードのまま走っていたほどだ。
一方、現行モデルのSDMS-αでは、A、B、Cの性格付けがかなり分かりやすくなっている。特に、Aモードでは、アクセルレスポンスがかなりよく、開け始めで一瞬タメがあった後、グーンとパワーが出てくる印象だ。一度は、不用意に1速でアクセルをワイドオープンしてしまい、フロントがパワーリフトしそうになったほどだ(前輪のリフトを抑えてくれるアンチリフトコントロールシステムのおかげで、実際にウイリーすることはなかったが)。
Aモードの加速感はかなり刺激的だ
ハヤブサは、2代目モデルでも、スロットルを握る右手にかなりの自制心が必要なバイクだった。だが、現行モデルをAモードに設定すると、さらにそれを凌駕するほど刺激的な加速感を味わえる。現行モデルの最高出力は138kW(188PS)と、カタログ数値では2代目の145.0kW(197.1PS)より多少低くなっている。ところが、Aモード時のパワー特性でいえば、感覚的には2代目よりパワーが増しているような印象すら覚える。
おそらく、Aモードは、例えば、サーキットなどのクローズドコースを走る時に、最も効果を発揮するのだろう。普通の公道を走る際は、街乗りから高速道路、ワインディングまで、ドライであればBモード、雨などで路面が濡れている時はCモードを選んでも、十分に走りを満喫できる。
ちなみに、現行モデルのSDMS-αでは、走行中でもアクセルを閉じていればモード変更が可能なこともうれしい。2代目モデルのSDMSでは、停車状態でないとモード切り替えができなかったからだ。
そのため、例えば、走行中に雨が降り出しBからCモードへ変更するといった場合も、路肩などにバイクを停止する必要があった。特に、路肩への駐停車が基本的に禁止されている高速道路の走行中は、次のPAかSAまで走らないと、モードの切り替えは不可能。その点、走っていても切り替え可能な現行モデルの方が、走行状況に応じたモードへより迅速に変更できるため、結果的により安全・安心に走れるといえる。
さらに、現行モデルでは、フロントブレーキにブレンボ製Stylemaキャリパーを採用するほか(2代目はトキコ製)、前後連動のコンバインドブレーキシステムなどの最新装備を持つ。2代目モデルよりも、ブレーキの制動力やコントロール性がより進化した印象だ。特に、下り坂のワインディングでは、コーナー進入時のブレーキングがとても安心してできる。また、2代目モデルには、ABSの装備もなかったため、急に前方へクルマが割り込んで来た際などに、何度か前輪がロックした経験もある。その点、ABS付きの現行モデルであれば、緊急時の制動でも、前輪がロックしずらいだろうから、この点でも安全性はより向上しているといえるだろう。
世界中のファンに支持され続ける理由を実感
現行モデルの価格(税込)は、215万6000円。筆者が所有していた2008年型の逆輸入車は、価格(税込)156万4500円だった。この価格差は、現在の消費税が10%なのに対し、2代目モデル購入時の消費税が5%だったことも影響している。そこで、税抜き本体価格で比較した場合、現行モデルが196万円で、2008年型2代目は149万円。それでも現行モデルは47万円高い。近年、バイクの価格は高騰しているとはいえ、約15年間でこれほど上がったことにはあらためて驚かされる。
ただし、現行モデルには、前述したほかにも、例えば、高速道路などで設定した速度で定速走行できる「クルーズコントロールシステム」など、ツーリングなどで快適となる装備が満載だ。さまざまな電子制御システムの搭載により、現行モデルの走りはより進化しているのは確かだけに、ある程度の価格アップはしかたないところかもしれない。
ともあれ、今回の試乗では、現行ハヤブサが、スズキの最新フラッグシップとしてふさわしい走りや装備を持つことを実感できた。本来持つ強大なパワーを、最新の電子制御システムなどで見事に調教し、幅広いライダーに乗りやすさや操る楽しさを堪能させてくれる。しかも、その圧倒的で存在感あるスタイルは、所有する喜びも存分に感じられる。
かつて、ハヤブサには、カワサキの「ZZ-R1100」やホンダの「CBR1100XXスーパーブラックバード」などのライバルも存在した。だが、今や、国産車で唯一ともいえるメガスポーツモデルがハヤブサだ。そんな希有なモデルだけに、今後も、世界中の「ブサ(ハヤブサの愛称)」ファンに支持され続けることだけは、間違いないだろう。
主要諸元
型式:8BL-EJ11A 全長×全幅×全高(mm):2,180×735×1,165 軸間距離(mm):1,480 最低地上高(mm):125 シート高(mm):800 車両重量(kg):264 燃料消費率(km/L):20.2(60km/h) 2名乗車時 WMTCモード値(km/L):15.4 1名乗車時 最小回転半径(m):3.3 エンジン型式:DXA1・水冷4サイクル・直列4気筒 弁方式:DOHC・4バルブ 総排気量(㎤):1,339 内径×行程(mm):81.0×65.0 圧縮比:12.5 最高出力(kW / rpm):138(188ps)/ 9,700 最大トルク(Nm / rpm):149(15.2kgf・m)/ 7,000 燃料供給装置:フューエルインジェクションシステム 点火方式:フルトランジスタ式 始動方式:セルフ式 バッテリー容量:12V-11.2Ah (FTZ14S) 潤滑方式:ウェットサンプ式 潤滑油容量(L):4.1 燃料タンク容量(L):20 クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング 変速機形式:常時噛合式6段リターン 変速比: 1速 2,615 2速 1,937 3速 1,526 4速 1,285 5速 1,136 6速 1,043 減速比(1次/ 2次):1,596 / 2,388 フレーム形式:ダイヤモンド キャスター(度):23 トレール(mm):90 ブレーキ形式(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/ 油圧色シングルディスク(ABS) タイヤサイズ(前/後):120/70ZR-17 M/C (58W)/190/50ZR-17 M/C (73W) 舵取り角左右(度):30 乗車定員(名):2