【BMW・R1300GS海外試乗記】10年に一度のモデルチェンジ。バイク界のキング「GS」 の新たな時代への展開。軽量化、高出力化、そして一足飛びのアジリティーを見る。|解説編

およそ10年に一度、BMWモトラッドは主力商品であるGSのアイコニックなモデル、Rシリーズを刷新してきた。前回の大チェンジから10年。今なお人気の衰えないR1250GSシリーズの次世代を担うR1300GSを発表した。あらゆる面においてこれからの10年を占うのに足る王道を守りつつ大胆な手法で「目的」への距離を詰めてきたのである。

REPORT●松井 勉 TSUTOMU MATSUI
Photo&取材協力●BMW Motorrad

始まりは5年前。

BMW・R1300GS

R1300GSの開発責任者を務めたライナー・フィグスによれば、大型化、重量化というアドベンチャーバイクの流れを軽量、コンパクトな方向に転換したい、という想いから新型の開発をスタートさせたという。実際、ヨーロッパ仕様での比較では先代にあたるR1250GSよりR1300GSは12kgの軽量化に成功し車重は237kgとなっている。それをライディングの一体感、楽しさに昇華させるため、レイアウト設計も徹底された。
まずエンジン。2013年のモデルチェンジで水平対向2気筒エンジンは水冷化された。同時に居吸気排気レイアウトをダウンドラフトへと刷新。乾式単板だったクラッチを湿式多板としてエンジンクランクケース内前方へと移設。別体式のミッションはそのままながら、短縮されたエンジン全長はスイングアーム長へと割り当てられた。
ダウンドラフトレイアウトの恩恵で、ステアリングネック直後に吸気ボックス、ライダー側に重たい燃料タンクを低く搭載することで走りの良さを追求。この乗り味こそGSシリーズの人気を不動のものにした。2018年に後期型としてリリースされたR1250GSに採用された可変バルブリフト+バルブタイミングの採用も、クラス最高のトルク値となり扱いやすさを大幅にアップ。さらにファンを増やすことに。
こうした利点はR1300GSにも受け継がれるが、新設計となったエンジンはさらに詰めてきた。

新生ボクサーエンジンの飛躍。

まず排気量は1254ccから1300ccへ。ボア×ストロークは106.5mm×73.0mmと、先代よりもボアを4mm拡大し、ストロークは3mmショート化された。圧縮比は従来モデルよりも高い13.3:1へ。別体だったトランスミッションはいよいよクランクシャフト下に並べるレイアウトすることで、エンジン全長も大幅に短縮。またケース右側に設置されていたスターターモーターは、クランクケースの上に移動された。

トピックとしてはクランクシャフトとコンロッドの結合位置関係から構造上、左右のシリンダー位置が前後にずれるのはやむを得ない水平対向エンジンなのだが、新型では先代まで進行方向に対してシリンダー後部側にあったカムチェーンを、左シリンダーは後部、右シリンダーは前部にレイアウトすることで、クランクケースから生えるシリンダーの前後のズレを補正して見せた。カムチェーンを覆うカバー形状が左右で異なることになるのだが、そのへんは上手く処理している。
スペックを見るとこのエンジンは先代よりも7kWと6N.m向上した107kW/7750rpm、149N.m/6500rpmというスペックを得ている。これはドゥカティ、KTM、ハーレーダビッドソン、トライアンフといったライバルと比較をすると、最高出力では劣るものの、最大トルクでは他を圧倒する差を付けているのは先代同様。1300GSでは3600rpmから7800rpmの広い範囲で130N.m以上を発揮する。
エンジは単体で3.9㎏の軽量化を達成しているほか、スイングアームピボット下部に短縮化でうまれたスペースに大型のスレンレス製排気コレクターを配置したことでセカンダリーマフラーとして車体右側に装備されるマフラーを小型化することにも貢献している。

剛性を上げた車体構成。

これまで2世代、およそ20年にわたってGSのメインフレームはトレリス構造のスチールチューブフレームだった。新型では鋼板を用いた薄型楕円チューブ形状のメインチューブとガッチリとしたC型シェイプのピボット回りの構成を摂るメインフレームと、アルミダイキャスト製リアフレームの分割構成となった。メイン部分は左右幅をタイトにしたものの、フレーム内の幅そのものは細身の楕円チューブにより確保されているから、内部に搭載するパーツレイアウトにも有利なものとなる。
また、R1100GSから継続採用されている前輪懸架方式、テレレバーにも改良が加えられた。EVOパラレバーと命名されたシステムそのものはこのR1300GSが初採用するものではない。過去にHP2スポーツ、R1200Sのフロントエンドに採用されたことがある。テレレバーをお復習いすると、Aアームを前輪の上に設けたブラケットにあるボールジョイントで結び、そのピボットをエンジン側に持つこと、フロンフォークに見える部分にサスペンション機能はなく、ストロークに合わせスライドするのみ。リア用モノショックと同様のショックユニットを装備し、操舵と吸収の仕事を分割させた足回りである。変化したのはアッパージョイントの部分。従来モデルまではフロントフォーク(スライドチューブと呼ぶ)のトップキャップの部分にジョイントボールを装着し、アッパーフォークブラケットに見える部分をその受けとしていた。Aアームで支持したフロントエンドがサスペンションストロークにより弧を描くように前方に前輪が移動するので、この動きに同調させるためだ。
あらたにAアームとの結合部分に可動部分の動きを吸収するベアリングを採用し、サスペンションがストロークする時に弧を描くように作動するテレレバー特有の動きをステアリングヘッドの部分で吸収するような構造とし、フォークインナーチューブ上部は一般のバイク同様ブラケットに固定されている。これによりフロント回りの剛性を上げ、あらゆる場面でのハンドリング正確性を狙ってきたのだ。
可動部とハンドルブラケット部分をわけ、リンクプレート(フレックスエレメント)で結ぶことでハンドルバーそのものは、サスペンションがストロークする際、フロントエンド全体が動くテレレバー独自の動きとは同期しない構造としている。この点はR1300GSが採用した初めてのシステムとなる。
駆動系でもドライブシャフトに入る2箇所のユニバーサルジョイントを大型化し、サスペンションがストロークした時でもシャフトの回転にストレスがかかりにくい構造へとするなど、様々な工夫がほどこされている。

ライダーを前方に。車体を短く。

アルミダイキャスト製のサブフレームは後輪が巻き上げる雨や、ダート走行時の埃、飛沫でライダーを汚さないようデザインされた。また全体には短くし、後部にはナンバープレートホルダーを長く伸ばす等して最近のネイキッドのようなディテールを見せている。これも車体前方にライダーを乗せることでアジリティーを上がる方向へのアプローチだ。
メインフレームが横から見ると「くの字」型になっているのはS1000RRなどでにも用いられた手法と似ていて、燃料タンクをアルミ製として高い所のマスを低減。同時に外装もスリムに低くおさえることができる。スクリーン回りのボリューム感も1250GSよりも明らかに小ぶりかつサイドディフレクターを透明なパーツで造ったこともあり、直前の路面確認もしやすさも格段にアップ。跨がっても、これらにより車体のボリューム感はすっかり薄れているのだ。これらが走りにどう影響したか。後編でお伝えしたい。

新世代ボクサーエンジンの透視図。カムチェーンが左右のシリンダーで位置を変えているのが解る。クランク下にミッションをしたこと、スターターモーターを上部へ移設したことでエンジンの後方部分のスペースを大きく拡げることに貢献。単体で3.9kg軽量化された。
メインフレームは鋼板を板金して楕円形状にしたチューブとC型のパネルパートで構成される。タンク設置部分がくの字となり下方にスペースを摂っているのが特徴。
リアサブフレームはアルミダイキャスト製。EVOテレレバーの構造はステムシャフト下側に軸受けベアリング、上部にはフレキシブルに可動する部分を設け、テレレバーの動きを吸収。トップブリッジとハンドルクランプ部分が別体な点も注目。
メインフレームとサブフレームの接合部分は面出構成された構造でライダーの足元を飛沫などの巻き上げた汚れ難くする機能も持っている。
メインフレームからつき出したステーに支えられるフロントフェイス回り。X状のDRL、LEDヘッドライトの上にACC用ミリ波レーダーが収まる。
空力のマネージメントにも力を入れた。タイト感を演出するアウターパネルに合わせウインドスクリーンも小型化。車体先端に近づいたこともあり整流効果はご覧のとおり。リアフェンダーにも下降する気流を造るほか内部構造で跳ね上げた水滴が下に落ちるようにした工夫がされた。
ACC、後方接近警報の要、ミリ波レーダーのセンシングイメージ。後方、死角からの接近、同等速度で併走するような場面でもライダーにミラー内にある△マークを点灯させて知らせる。
フロントブレーキはφ310mmのディスクプレートと対応4ピストンキャリパーで構成。
新生ボクサーエンジンは従来まであった空冷フィンがデザイン的にわずかに残るだけになった。
軽量化はサイドスタンド、センタースタンドにも及ぶ。ともにアルミ鍛造製になった。また、センタースタンドの踏面が折りたたみ式となる。ダート走行時スタンディングポジションでライディングしてもライダーの踵と干渉しないようにした配慮からだ。
リアのスイングアーム、ファイナルドライブケース周辺もスリムに。内部にあるドライブシャフトのユニバーサルジョイントを大型化。ストローク時でもスムーズな回転の確保とタフネスを上げている。リアブレーキはφ285mmのディスクプレートと2ピストンキャリパーを組み合わせる。この型から前後フル連動となった。
ノーズの前方、低い位置にヘッドライトを装着。新しいGSの顔だ。27
トロフィーモデルを除くGSシリーズはハンドガードにウインカーを装着。より被視認性を高めるのが目的だ。
中央のウインドスクリーンとノーズサイドに張り出す透明のデフレクター。絞り込んだノーズデザインを邪魔せずライダーの快適性を向上させている。
フロントテレレバーサスのAアームとショックユニット。フロントのサスペンションストロークは190mm。200mmストロークの長いスポーツサスペンションもオプション設定される。
標準モデルでシート高は850mm。ローシート、ハイシート、コンフォートシートなど様々なオプションを用意する。伝統的に採用されてきた装着位置を差し替えることでシート高を変えられる機能も踏襲。
ライダー用シート前方にはソフトパッドがタンク給油口付近まで延びる。まるでオフロードバイクのようなスタイルとなるい。オフロードランを楽しむ際、カラーパーツにニーグリップ傷などが付くのを気にせず楽しめそうだ。
大型の排気コレクターを装着したことでサブとして存在するR1300GSのマフラー。従来モデルの2/3ほどのサイズになった。
S1000RRなどと同様、ウインカーとテールランプ、ブレーキランプを一体化させた灯具を採用。LED光源を使う。BMWロゴのついたカバーに覆われているのは後方検知用のミリ波レーダー。
ライダービューからハンドルバー回りの左右から路面が見える仕立て。これもメーター回りを低くマウントした結果。
TFT6.5インチモニターは通常の表示の他メニューボタンで設定画面に入りスポーツから下層にアクセスすると回転計がメインの画面となる。ブレーキ力、トラコンの介入度、左右のバンク角などをリアルタイムで表示する。
燃料タンク前側、ステアリングヘッド後部に補充電可能なスマートフォン用コンパートメントがある。アプリケーション、BMWコネクテッドをインストールしてBluetooth通信のヘッドセットと合わせて様々な機能をメーターパネルに表示することができる。
最もベイシックなR1300GS。
R1300GS トロフィー。エンジンガード、スキッドプレート、オフロードタイヤ+スポークホイールを装備する。フロントのウインカーはハンドガードからスクリーン脇に移動する。
上級モデルとなるR1300GS オプション719。純正オプションの部品番号に由来するこの719モデルは、カムカバー、ステップ回りなどに上質な削り出しパーツを使う。パニアケース、トップケースはオプションながら、R1300GS用にデザインを刷新している。
外装、エンジンほかブラックパーツを多用したR1300GSトリプルブラック。

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著者プロフィール

松井勉 近影

松井勉

高3になる春休みに中型免許を取得した遅咲きタイプ。ハタチで限定解除、その歳からオフロードにはまる。…