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始まりは5年前。
R1300GSの開発責任者を務めたライナー・フィグスによれば、大型化、重量化というアドベンチャーバイクの流れを軽量、コンパクトな方向に転換したい、という想いから新型の開発をスタートさせたという。実際、ヨーロッパ仕様での比較では先代にあたるR1250GSよりR1300GSは12kgの軽量化に成功し車重は237kgとなっている。それをライディングの一体感、楽しさに昇華させるため、レイアウト設計も徹底された。
まずエンジン。2013年のモデルチェンジで水平対向2気筒エンジンは水冷化された。同時に居吸気排気レイアウトをダウンドラフトへと刷新。乾式単板だったクラッチを湿式多板としてエンジンクランクケース内前方へと移設。別体式のミッションはそのままながら、短縮されたエンジン全長はスイングアーム長へと割り当てられた。
ダウンドラフトレイアウトの恩恵で、ステアリングネック直後に吸気ボックス、ライダー側に重たい燃料タンクを低く搭載することで走りの良さを追求。この乗り味こそGSシリーズの人気を不動のものにした。2018年に後期型としてリリースされたR1250GSに採用された可変バルブリフト+バルブタイミングの採用も、クラス最高のトルク値となり扱いやすさを大幅にアップ。さらにファンを増やすことに。
こうした利点はR1300GSにも受け継がれるが、新設計となったエンジンはさらに詰めてきた。
新生ボクサーエンジンの飛躍。
まず排気量は1254ccから1300ccへ。ボア×ストロークは106.5mm×73.0mmと、先代よりもボアを4mm拡大し、ストロークは3mmショート化された。圧縮比は従来モデルよりも高い13.3:1へ。別体だったトランスミッションはいよいよクランクシャフト下に並べるレイアウトすることで、エンジン全長も大幅に短縮。またケース右側に設置されていたスターターモーターは、クランクケースの上に移動された。
トピックとしてはクランクシャフトとコンロッドの結合位置関係から構造上、左右のシリンダー位置が前後にずれるのはやむを得ない水平対向エンジンなのだが、新型では先代まで進行方向に対してシリンダー後部側にあったカムチェーンを、左シリンダーは後部、右シリンダーは前部にレイアウトすることで、クランクケースから生えるシリンダーの前後のズレを補正して見せた。カムチェーンを覆うカバー形状が左右で異なることになるのだが、そのへんは上手く処理している。
スペックを見るとこのエンジンは先代よりも7kWと6N.m向上した107kW/7750rpm、149N.m/6500rpmというスペックを得ている。これはドゥカティ、KTM、ハーレーダビッドソン、トライアンフといったライバルと比較をすると、最高出力では劣るものの、最大トルクでは他を圧倒する差を付けているのは先代同様。1300GSでは3600rpmから7800rpmの広い範囲で130N.m以上を発揮する。
エンジは単体で3.9㎏の軽量化を達成しているほか、スイングアームピボット下部に短縮化でうまれたスペースに大型のスレンレス製排気コレクターを配置したことでセカンダリーマフラーとして車体右側に装備されるマフラーを小型化することにも貢献している。
剛性を上げた車体構成。
これまで2世代、およそ20年にわたってGSのメインフレームはトレリス構造のスチールチューブフレームだった。新型では鋼板を用いた薄型楕円チューブ形状のメインチューブとガッチリとしたC型シェイプのピボット回りの構成を摂るメインフレームと、アルミダイキャスト製リアフレームの分割構成となった。メイン部分は左右幅をタイトにしたものの、フレーム内の幅そのものは細身の楕円チューブにより確保されているから、内部に搭載するパーツレイアウトにも有利なものとなる。
また、R1100GSから継続採用されている前輪懸架方式、テレレバーにも改良が加えられた。EVOパラレバーと命名されたシステムそのものはこのR1300GSが初採用するものではない。過去にHP2スポーツ、R1200Sのフロントエンドに採用されたことがある。テレレバーをお復習いすると、Aアームを前輪の上に設けたブラケットにあるボールジョイントで結び、そのピボットをエンジン側に持つこと、フロンフォークに見える部分にサスペンション機能はなく、ストロークに合わせスライドするのみ。リア用モノショックと同様のショックユニットを装備し、操舵と吸収の仕事を分割させた足回りである。変化したのはアッパージョイントの部分。従来モデルまではフロントフォーク(スライドチューブと呼ぶ)のトップキャップの部分にジョイントボールを装着し、アッパーフォークブラケットに見える部分をその受けとしていた。Aアームで支持したフロントエンドがサスペンションストロークにより弧を描くように前方に前輪が移動するので、この動きに同調させるためだ。
あらたにAアームとの結合部分に可動部分の動きを吸収するベアリングを採用し、サスペンションがストロークする時に弧を描くように作動するテレレバー特有の動きをステアリングヘッドの部分で吸収するような構造とし、フォークインナーチューブ上部は一般のバイク同様ブラケットに固定されている。これによりフロント回りの剛性を上げ、あらゆる場面でのハンドリング正確性を狙ってきたのだ。
可動部とハンドルブラケット部分をわけ、リンクプレート(フレックスエレメント)で結ぶことでハンドルバーそのものは、サスペンションがストロークする際、フロントエンド全体が動くテレレバー独自の動きとは同期しない構造としている。この点はR1300GSが採用した初めてのシステムとなる。
駆動系でもドライブシャフトに入る2箇所のユニバーサルジョイントを大型化し、サスペンションがストロークした時でもシャフトの回転にストレスがかかりにくい構造へとするなど、様々な工夫がほどこされている。
ライダーを前方に。車体を短く。
アルミダイキャスト製のサブフレームは後輪が巻き上げる雨や、ダート走行時の埃、飛沫でライダーを汚さないようデザインされた。また全体には短くし、後部にはナンバープレートホルダーを長く伸ばす等して最近のネイキッドのようなディテールを見せている。これも車体前方にライダーを乗せることでアジリティーを上がる方向へのアプローチだ。
メインフレームが横から見ると「くの字」型になっているのはS1000RRなどでにも用いられた手法と似ていて、燃料タンクをアルミ製として高い所のマスを低減。同時に外装もスリムに低くおさえることができる。スクリーン回りのボリューム感も1250GSよりも明らかに小ぶりかつサイドディフレクターを透明なパーツで造ったこともあり、直前の路面確認もしやすさも格段にアップ。跨がっても、これらにより車体のボリューム感はすっかり薄れているのだ。これらが走りにどう影響したか。後編でお伝えしたい。