【BMW・R1300GS海外試乗記】スペインの一般道の速度制限は90km/h。そこで感じたキング「GS」の、秘められたポテンシャル

スペイン、マラガ周辺を舞台に開催されたR1300GSのメディア試乗会。舗装路はもちろん、オフロードコースを使った試乗も時間を掛けて行われた。セグメントではキングとも呼べる販売数を誇るGSはどのように走りを変えてきたのか。現地テストの印象を共有したい。

REPORT●松井 勉 TSUTOMU MATSUI
Photo&取材協力●BMW Motorrad
今回、オンロードはベーシックなR1300GSを走らせた。前後キャストホイールを履く。
オフロード試乗はR1300GS トロフィーを走らせた。サスペンションはフロント190mm、リア200mmのストロークで標準車同様のもの。

軽い!の一言が思わず口を突く。

BMW・R1300GS

試乗セッションは舗装路からだ。ハンズフリーのキーを受け取りR1300GSに近寄る。R1300GSというクラスから考えたら外観意匠から受けるボリューム感は意外なほど少ない。スリムさと上に行くほど幅を絞ったデザインや、ライダーの目線からフェンダーに向けて伸びやかに続くラインもそう思わせるのかもしれない。
大きさも性能の一つ、と思っていたアドベンチャーバイク界に一石を投じるのは間違いないだろう。そして車体レイアウトの妙もあってサイドスタンド(アルミダイキャスト製になった!)から起こす時の軽さも印象的。エンジン単体で3.9kg、リチウムイオンバッテリーの採用で2.5kgなど慣性モーメントに効くパーツが軽くなっている恩恵はちょっとした取り回しからも伝わってくる。エコ、レイン、ロード、ダイナミック、ダイナミックプロと舗装路用ライディングモードが用意されているが、路面を朝露が濡らすこの時間、しばらくはレインモードで走行した。

1250とは異なるパワー感

試乗したトロフィーモデルでは前後のシートの表面がフラットで前後に体を動かしやすい設定だった。

始動したエンジンは1250 よりも乾いた排気音を奏でている。これも以前とは違う、という主張をするようだ。少し重くなったように感じるクラッチを繋ぐとスルリと動き出す。それでいて1250のような徹頭徹尾太いトルク感というのとも違う。二次減速比、1速のレシオは先代と同じなので、一次減速がややハイギアード化された影響ではなかいと思う。ちなみにギア比でいえば、5速と6速が1250よりも高めてあり、クルージング時に回転数を抑え燃費などに配慮した設定のようだ。
話を戻す。会場から一般道に向けて曲がった瞬間、新型GSの進化を明確に感じた。ハンドリングが軽いのだ。曲がろうと思った方向にバイクを寝かせた瞬間、フロントタイヤが即座に向きを変える印象なのだ。これは切れ込んでコワイ、という類いではなく、正確なハンドリングとアクセル操作に従順なエンジンのトルクデリバリーとが相まって信頼のおける乗りやすさとなっている。

30分ほど走行し、レインからロードへとライディングモードを変更した。ロードモードのほうがアクセル初期の反応が良くそこからの加速も一体感がある。

市街地は30km/hから50km/h、市街地を出ると一般道の速度制限は90km/hとなるスペイン。ラテンの国の特徴で無茶をする人は少ないが一様にペースが速い。3500rpmあたりから力量を増すトルクと相まって4速、5速、時々3速を駆使しながら海岸線から山に入り込んだワインディングを楽しむ。スペインの片田舎の道がまるで広くなったかのような気持ちなのだ。

ブレンボ製のブレーキも制動力、タッチとも1250時代よりもスポーツ寄りに味付けした印象で、ほとんど指一本でコントロールできる。減速しながらのカーブへのアプローチでの一体感も上質だ。ギャップの通過もスムーズ。動きはゆったり、しかし収束も速い。路面のアンジュレージョンに対し電子制御されるサスペンションの追従性は高く、グリップ感もしっかりと伝わってくる。

ライディングモードをダイナミックプロというもっともスポーツよりにして走ってみた。アクセルレスポンスはさらに素早さを増し、前後のピッチングも少なくなった。パワフルだが右手の操作に神経を使いすぎることがない。ここまで走るとむしろサーキットに行
ってさらに高い領域を体験したくなるほどだ。どんな速度域でも自分の思いとバイクの動きにズレがない。これはR1300GSの大きなポイントだ。

試乗ルートは高速道路へ。ワインディングの軽快差とは裏腹にここでは安定感ある走りを見せる。パワーの余裕はさすがで、追い越し加速時にはかなりのペースまで速度を上げたが、安定感は崩れない。それでいて車線変更の動きに重さもない。小型になったウインドシールドだがその効果も抜群。ノーマル、ハイの2段階に調整出来るスクリーンを低い位置のまま快適に高速道路移動をこなせた。

トピックスでもあるアダプティブクルーズコントロールと、後方接近警報を行うため前後に装備したミリ波レーダーの恩恵で、高速道路では従来のクルーズコントロールには戻れないほど快適な走行を味わえた。車間時間設定や前車に追いついた時の原則設定もライディングが上手い、としかいいようがない。信頼できる装備だ。

舗装路での印象をまとめると、まるで前後17インチのスポーツツアラーにでも乗っているかのような走りで、多くのGSユーザーが舗装路のみをテリトリーにすることを考えたら現時点でR1300GSは充分にオススメできる仕上がりだ。今回、試乗は出来なかったが、アダプティブビークルハイトコントロール、つまり、車高が停車時に下がる仕様に停車時に跨がり、体験してみた。足回りを持ったモデルだが、850mmの標準仕様のシート高から820mmまで30mm下げてくれるから、足つき感は激変。183cmの私だと、膝がしっかり曲がるほどベタ足だった。母屋が軽いこともあって不安感が極めて少ないのが特徴。走行再開後すぐに標準の車高に電子的に戻す点で現状ある同種のシステムにアドバンテージを持っているようだ。

オフロードでも舗装路同様のキャラクター。

スペインでのクルージング性能は確かに素晴らしかった。速度域が高いこと、山岳路でもペースが速いこともあって新型GSの性能をフルに堪能てきた。高速道路での快適性もさすが。国内の速度域で少し高めらた5速、6速をどう感じるのかが興味深い。

300キロの舗装路試乗を終えた翌日、今度はダートセクションに向けて会場を後にした。BMWモトラッドと提携するエンデューロパーク・アンダルシアがそのテスト会場で、ガレ場、サンド、ウォッシュボード、ヒルクライム、スリッパリーなヒルクライム、ダウンヒル等、およそ世界の悪路が再現されている。

試乗車にはアドベンチャーバイク用ダートタイヤ、メッツラーのカルー4が装着されている。R1250GSにこのタイヤを装着すると舗装路では交差点などで小廻りするような場面で一瞬フロントに舵角がOEMタイヤより遅くなる傾向がでる。タイヤの特性なので当然なのだが、R1300GSの場合、その差がとても少ない。ブロックタイヤでもしっかりフロントエンドが転蛇反応をして遅れが気にならないレベルだった。それは舗装路移動を続けても同様で、ワインディングすら自然に楽しめる。タイヤの接地点から伝わる状況をしっかりつかめるので、不安がないのに驚いた。テレレバー回りの摺動抵抗を減らしたことを含め高いシャーシ性能が好印象を後押しするのだろう。

舗装路でここまで良いと、逆に路面がソフトなダートではどこかトリッキーな部分が出るのではないだろうか、と心配になった。ウォームアップで連れ出されたのはまずガレ場のシングルトラック。張り出した岩やブッシュを避けながらくねくねと進む。1速、ないしは2速でバイクの挙動を造りながら走ってゆく。車体が硬くて跳ね返されるような挙動がなくライダーの意思通りに走ってくれる。砂地に入った。そこでもアクセルを開けているだけで安定感をもって直進し続ける。むしろ頼もしい。ウォッシュボードでは剛性感のあるフロント回りが弾き飛ばされるのを未然に防ぎ、サスペンションがピッチングを吸収しながら走る。車体前後に変な慣性モーメントも働かない・・・・。正直これは先代とはレベル違いだ。

信頼関係を早期に築けたため、エンデューロプロというモード内で、トラクションコントロールの介入度を最弱、エンジンパワーデリバリーをダイナミックへと調整。再びコースへと向かった。ダイナミックは逆にオーバーだったようだが、それでも一体感はグンと高まる。舗装路があれだけ走って、林道レベル以上のオフロードをこんなに軽快にこなせるとは。

R1300GSは総合的にパフォーマンスをマルっと上げている!

スペインで体験したどんな道でも全方位1250GSから性能向上が確認できた。むしろ別次元に感じるほどのパートもある。加速力、舗装路でのアジリティーはそうだ。それでもGSらしさをしっかりと封入した造り込みはこれからの10年、もしかすると電動前に最後のジェネレーションになるのかもしれない、と想像するガソリン時代の集大成なのかもしれない、と思ったのだ。憶測の行方など解らないが、私が乗ったR1300GSは間違いなく最良の一台に仕上がっていた。

オフロード試乗をしたGSにはハンドルライザーを標準装備。従来モデルよりも園上げ幅は少ないが、スタンディングポジションがとりやすかった。
オフロード走行も意識した鍛造ホイールを新たにオプション設定。
リーン初期から深いバンク角までスムーズな感触でキレイに寝てゆく。装着していたメッツラーツアランスネクスト2がスポーツタイヤにかじるほどのハンドリングとグリップを感じられた。切り返しも軽い。
エンジン後方下部にある排気コレクターのサイズとサブマフラーのサイズ感が解る。スキッドプレートも肉抜きされている。
タイトコーナーから高速コーナーまであらゆるワインディングロードで自在感を確認できた。ロード性能だけでも素晴らしい。
ガレ場の中を行くシングルトラック、そのS字区間を走る。ライントレース性の確かさと同時に岩を避けやすい動きの自由度も兼ね備えている。
(写真上)少し手前で大きめにスロットルを開ける。最弱にしたトラクションコントロールが適度なスピンを許容し自在な姿勢に持ち込める。滑ったあとの慣性モーメントが少なくオツリをもらうこと無くそのまま直線的に立ち上がった。これは1250 GSよりも一体感がある。(写真下)硬い地盤に砂の浮いた滑りやすい下り左コーナーへのアプローチ。タイヤのグリップもあるが、ABSをフルに活かしながら慣性でリアを軽くブレークさせ、アクセルを合わせるタイミングを狙っているところ。そんな走りを組み立てやすいのが美点。

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著者プロフィール

松井勉 近影

松井勉

高3になる春休みに中型免許を取得した遅咲きタイプ。ハタチで限定解除、その歳からオフロードにはまる。…