500kmの試乗で見えてきたこと。スズキ・Vストローム1050、ビッグツアラーとしてさらなる進化を体感

スズキのフラッグシップモデルはHayabusaだが、人気のアドベンチャー系カテゴリーを代表するモデルにVストロームがある。今は250、650、800と豊富なバリエーションを揃え、その頂点に君臨しているのが今回の1050である。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 スズキ

スズキ・Vストローム1050…….1,628,000円

リフレクティブブルーメタリック/マットブラックメタリックNo.2

キャンディダーリングレッド/マットブラックメタリックNo.2
グラススパークルブラック/マットブラックメタリックNo.2
ボッシュ製の6軸IMU(慣性計測ユニット)を搭載している。車体の姿勢や動きをリアルタイムで検知する。S.I.R.S.(スズキ・インテリジェント・ライド・システム)の要となるハイテクデバイスだ。

初代モデルは、高性能スポーツ・アドベンチャー・ツアラーの欧州市場向けDL1000 V-Stromとして開発され、2002年に投入された輸出専用モデルだった。補足するとアドベンチャー風スタイルの中にスポーツモデルの要素を取り入れた新ジャンル商品としてのデビュー。VはV ツインエンジンの搭載を示しStromは「風の流れ」を意味するドイツ語から由来したネーミングだそう。
搭載エンジンは、1997年登場のTL1000Sで新規開発された水冷DOHC4バルブの横置き90度V ツインを基本に専用の出力特性へチューニングされたもの。当初のボア・ストロークは98×66mmのショートストロークタイプで排気量は995cc 。
2007年のマイナーチェンジを経て、2013年の新型投入時にシリンダーボアを2mm拡大。ボア・ストロークは100×66mmの1036ccへスケールアップされた。国内市場に初投入されたのは、それが手直しされて2014年6月に新発売されたV-Strom 1000 ABSである。「ワイルド&スマート」をデザイン・コンセプトとしたスタイリングは、クチバシをイメージさせるフロントアッパーフェンダーや高さと角度を調節できる可変風防の装備。そして同社初のトラクション・コントロール・システムや多機能メーターなど、先進電子デバイスの積極的な導入を披露していた。
その後2017年に縦型2灯式ヘッドランプやナックルガードを装備し全面改良を実施。スポークホイールを履くV-Strom 1000XT ABSも追加投入され、650も含めたバリエーションは4機種に増強された。
 
そして2019年のEICMA(ミラノショー)で新型V-STROM 1050と同XTが新登場。翌2020年4月に国内発売された。ネーミングが1000から1050へと一新されたが、搭載エンジンは基本的にそれまでと変わらず、排気量は1036ccである。
開発コンセプトは「The Master of Adventure (冒険の達人)」。プレスインフォメーションから引用すると“長距離ツーリングで快適に走行を楽しむことができるよう、エンジン性能を向上し、電子制御システムや装備の充実を図った”と言う。
スタイリングは、1988年にスズキ初のアドベンチャーバイクとして発売されたDR750Sをモチーフに仕上げられ、アルミ製テーパー形状のハンドルバーも採用されていた。
一番大きな進化は、何と言ってもボッシュ製6軸IMU(慣性計測ユニット)を搭載。最先端の電子制御技術がフルに投入されていること。SDMS(スズキ・ドライブ・モード・セレクター)を始め、S.I.R.S(スズキ・インテリジェント・ライド・システム)を搭載。さらにV-STROM 1050XTにはクルーズコントロールやヒルホールドコントロール他、ブレーキ制御系も含めて実に盛り沢山のハイテク電子制御技術がフルに投入されている。
2022年9月には一部仕様変更されクィックシフトシステムを新採用。またXTにかわるバリエーションモデルとして新たにV-STROM 1050DEを新設定。フロントのスポークホイールが21インチへ拡大されるなど、未舗装路での操縦安定性が高められた。海外市場向けから順次発売開始され、今回の試乗車は、300台の年間販売目標を掲げて2023年2月から新発売された国内仕様。ブイストロームが欧州デビューを果たしてから20年を超える歴史を積み重ねた同ブランドの頂点に君臨するモデルである。

搭載エンジンは、水冷横置きの90度V型ツイン。直打方式のDOHC4バルブヘッドを持つ。Vバンクの間にはφ49mmスロットルボディの電子制御スロットルシステムが採用されている。
写真からわかる通り、気筒当たり2本のスパークプラグを使用したデュアルスパークテクノロジーを採用。シリンダーヘッド中央と、セカンダリープラグを側面にレイアウト。それぞれ独立したイグニッションコイルを搭載。常に適切な位相差点火時期制御されている。

重量感を伴う走りには、落ち着きのある快適性が感じられる。

試乗車を目の前にすると、その車体は大きく立派。流石リッタークラスのアドベンチャーツアラーらしい堂々の佇まい。ただ、より本格的なオフロード色の強い(スポークホイールを履く)タイプと比較すると、そのスケール感は決して大き過ぎない。
立ち気味の角度でフロントスクリーンが装備され全高は1470mm。ホイールベースは1555mm。これはライバル車と比較しても一般的なレベルと言える。
大きめな20L容量の燃料タンクこそ、それなりのボリューム感を漂わすが、下半身はダイヤモンドフレームに吊り下げられた横置きVツインエンジンのため、意外とスマートに見える。最低地上高も165mmに過ぎない。
早速跨がってみると、シート高が850mmあるわりに足付き性が良い。詳しくは足付き性チェックの欄を参照頂きたいが、両足の指の付け根でしっかりと地面を踏ん張ることができ、普通にバイクを支える時の不安感が少なく、筆者の体格でも無理なく扱えた。
ただし242kgある車両重量はそれなりにどっしりとした手応えがあり、取り回しや乗り降りの扱いは慎重になる。全体的なキャラクターはいかにもロングツアラーらしい。
フロントスクリーンは前方中央のレバー操作で簡単に固定解除ができ、上下50mmの範囲で11段階にも高さ調節ができる。決して大きなサイズではないが、ナックルガードも含めてウインドプロテクションはなかなか優秀。 純正オプションのアルミトップケースやサイドケースセットを装着すればさらに機能的で立派なツアラーに仕上げることができるだろう。ただ、グリップヒーターやETC機器がオプション設定なのは残念なポイントだ。

エンジンを始動すると軽くスルスルとした回転フィーリング。感覚的にそれは図太くはないが、トルク不足が感じられるわけではない。むしろスムーズで優しいスロットルレスポンスでその扱いやすさが好印象である。
坂道発進でもクラッチミート時に微妙にエンジン回転が高まり(ローRPMアシスト)難なく発進できる。またヒルホールドコントロールが働き、ブレーキの解除操作から開放される。これはライダーアシスト装置のひとつで、例えば上り坂で停止した時、ブレーキ操作を止めても約30秒間はブレーキ力を保持してくれるというもの。ライダーは普通の平地と同じ発進操作をするだけで、発進(クラッチミート)と同時にブレーキ力が自動解除される。バイクは後退することなく素直に発進できると言うわけだ。
クルマの運転操作では、右足でブレーキとアクセルを踏み分ける関係で、坂道発進時の後退を防ぐありがたい装置として知られているが、バイクの場合アクセルとブレーキはそれぞれ個別に操作するのが普通なので、ブレーキ力解除と発進操作を同調させる扱いはそれほど難しいことではない。
さらに言うと、坂道の傾斜を利用して切り返しターンをしたい様な時、下り坂で速やかに後退したい場面では逆にこの機能が邪魔になる。もちろんこの装置は任意でOFFすることもできるから使い勝手はライダーが自由に選べば良いわけだ。

さて、今回は高速ツーリングも含めて約500km走行した。大きく重いバイクだけに、近所の足代わりに使う気にはならないが、遠くへ行く時は俄然頼りになり、実際快適だ。
前方視界が広く感じられる目線の高い乗り味。腰の位置よりも膝が下がるシートとステップ段差にある余裕。そしてどっしりとした重さが貢献する落ち着きのある乗り心地が素直に心地良い。補足しておくと、シート/ステップの段差に余裕があると、下肢の筋力を駆使していつでもスッとステップに立ち上がることができる。路面からの衝撃をいなすことも容易。
さらにニーグリップも含めて各筋力をバランス良く使うのが楽で、シートへ加わる体重も分散軽減されて、ロングランでも尻が痛くなりにくいのである。
スロットルをワイドオープンすると、ひとつひとつの燃焼(爆発)具合にはどこか穏やかな雰囲気も感じられるが、歯切れの良いリズムで軽やかに吹け上がる。9,250rpmからのレッドゾーンへも難なく飛び込む伸びの良さも秀逸。粗暴な感じはなくなかなかに鋭いレスポンスも上品に調教されている感じ。
SDMS(スズキ・ドライブ・モード・セレクター)はA.B.C.の3 段階に選択可能。モード状態はメーターに明示されるし変更操作もハンドル左手スイッチで簡単にできる。要はスロットルレスポンスの鋭い元気良い走りの「A.」とレスポンスが穏やかになる「C.」。その中間的な「B.」が選べるが、通常は特に切り替える必要性はあまり感じられなかった。なぜなら、A.でハイパフォーマンスを発揮しても、基本的に出力特性はとても扱いやすかったからだ。
筆者がオーナーだったら、多分普段はどこを走るにもA.に入れっぱなし。特別エコランに徹したい時か、タンデムや雨天時走行でC.を選ぶという使い方になるだろう。
トラクションコントロールや、モーショントラックブレーキも自分好みへ最初に設定してしまえばそれで良い。
この他にもS.I.R.S (スズキ・インテリジェント・ライド・システム)は賢い前後ブレーキ制御も果たしてくれるが、通常のツーリングで各機能が走行フィーリングの中で体感できる類のものではない。
 
高速道路では直進安定性に優れ、疲労度の少ない乗り味が大きなチャームポイント。峠道では、決してクイックではないが、素直に身を翻す軽快な操縦性が気持ちよい。
いずれも右手のひと開けで、思い通りの加速力を発揮できる十二分なパワーフィールも侮れないポテンシャルがある。
ツアラーにはロードスポーツタイプから派生するモデルもあり、ウインドプロテクションや高速クルージングに優れた性能を発揮するが、日本の交通環境の中を行くと、しょせん最高速は120km/h止まり。そう割り切ると、上体を起こして風に立ち向かうアドベンチャーツアラーであるブイストロームの快適機能性もまた魅力がある。特に工事中や突然の砂利道、傷んだ舗装路のギャップを通過するようなシーンでは、ストロークに余裕のあるサスペンションの良さが際立ち、そんなシーンでの乗り心地の良さに満足させられることだろう。
アドベンチャー的な旅情がそそられるという意味でも価値あるビッグツアラーであることは間違いない。小気味よく決まるクィックシフターとクルーズコントロールの恩恵に預かりながら、遠くまで苦もなく行ける格好の相棒となってくれるのは間違いない。
ちなみにローギアでエンジンを5,000rpm回した時の速度は43km/h。6速トップギアで100km/hクルージング時のエンジン回転数は3.700rpmほど、120km/hでは約4,400rpm。
また満タン法計測による実用燃費率はトータルで21.4km/L。モード燃費の諸元値(19.3km/L)よりも好結果を記録した。渋滞の少ない首都高速と郊外の走行では24.4km/Lをマーク。 おそらく一般的なツーリングなら1Lで22km前後は走れ、満タン航続距離がゆうに400km を超える実力もまた魅力的である。

ヒルホールドコントロールシステムを搭載。左ハンドルスイッチで簡単にOFFすることもできる。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

ご覧の通り両足の踵は浮いているが、足付き性は及第点。シート高は850mm。重量級のビッグツアラーとして、足付き性とのバランスは程良いと感じられた。片足付きの場合は、さらにしっかりと地面を踏ん張ることができる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…