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トライアンフの1200のスクランブラーは、伝統的なデザインを受け継いだマシンである。
このマシンの特徴は単なるイメージだけでなく、本気でオフロードライディングを想定した作り込みをしていること。
非常に個性で、個人的にも今最も気になっているバイクである。
そんなスクランブラーに、より親しみやすくなった1200Xが加わったと聞いて興味津々で試乗させていただくことになった。
スクランブラースタイルを身近に楽しむことができる1200Xが新登場
伝統的なバーチカルツインのスクランブラーを気軽に楽しむために新しく登場してきたのがスクランブラー1200Xだ。
これまでトライアンフのスクランブラー1200には、オフロード性能を追求した1200XEの他に、オフロード色を若干弱めたベースモデル的存在の1200XCがあった。
XCのサスストロークはXEほど長くなかったが、それでもシート高は840mm(1200XEは870mm)。足つきが良いとは決して言えなかった。
トライアンフのスクランブラーには乗りたいけれど、オフロードはほとんど走らないので、足つきを含めてオンロードでの使い勝手を向上させたモデルが欲しい。そんなユーザーの声を受けて、新しくスクランブラー1200Xが生まれることになったわけだ。
気軽に1200ツインを楽しめる
マシンを前にしてみるとサスペンションは思い切って短くされていることが分かる。気になるのはサスペンションの変更でハンドリングがどうなっているかということ。
21インチのフロントホイールを装着したうえでサスストロークを縮めているから、もしかしたらオフロードバイク的なヒラヒラ感があるバイクなのかもしれないと思っていたのだが、走り出してみたら正反対の特性であることが分かった。安定成分が強いハンドリングだったのである。
車体をバンクさせたときにステアリングが一瞬遅れて反応するのは大径フロントホイール特有の動きなのだが、バンクしたあとで舵角が大きめについていく。単に直進性が強いだけでなくハンドル周辺が重くなっているようなフィーリングだ。
重心が低くなればバイクは安定性が高くなる方向になるから、そういった足回りの変更による影響もあるのかもしれないが、おそらくはマシンの味付け。
個人的には、もう少しシャープにバンクさせられた方が好みではある。コーナーももう少し楽しめるようになるはずだ。しかしこのモデルを求めているライダーたちの多くにとっては、テスターの好みよりも現状のハンドリングの方がマッチしているはずだ。
ノンビリとツインの鼓動感を楽しみながら走らせるのに向いたハンドリングになっているからである。
実はこのバイク、バンク角がかなり浅くなっていて、勢いよく交差点などに侵入すると乗り方やライダーの体重によってはステップが接地してしまうこともあった。それくらい思い切って車高を落としているのである。
中途半端なところを狙わず、足つきと扱いやすさを最優先にした結果だろう。
ツインエンジンは更にフィーリングが向上
水冷のボンネビル・ツインエンジンは高回転の特性が改善された。回してみるとかなり元気な走りを見せてくれる。ただ、そもそも高回転を常用して楽しむような特性ではないから、低中速域の太いトルクを生かして余裕のある走り方をし、時々大きくスロットルを開けて迫力ある加速感を楽しむような走り方が似合う。
このエンジンの特性は、直進性が強めなハンドリングとのマッチングも良い。浅いバンクで旋回しているときもスロットルを開けるとリアタイヤに駆動力がかかって気持ちよく立ち上がっていくことができる。
足回りが変更されたことでオフロードの走破性はどうなっているのだけろう?
サスペンションストロークが短くなったから、ギャップをハイスピードで通過するような走り方はできないし、大きな凸凹ではお腹がつかえてしまうかもしれない。
しかし、21インチフロントホイールはオフロードで頼りになる。シートが低くなったことで足つきも良くなったから、旅先で林道が出てきたとしても十分に楽しむことができるだろう。
アクが薄まったことでスクランブラースタイルとツインエンジンのフィーリングを多くの人が楽しめることだろう。それだけでこのバイクには大きな存在意義があるのだと思う。
ポジション&足つき性(身長178cm 体重76kg)
唯一無二のビックスクランブラー1200XE
オフロード色が強いスクランブラー1200XEも各部が刷新された。
本格的スクランブラースタイルは相変わらずの大迫力。
長いリアサスペンションによって、大きく垂れたスイングアームからは本気のつくりであることがうかがえる。
90年代からヴィンテージモトクロスの魅力を追いかけてきたテスターにとっては、たまらないスタイルである。
ただ、実際に跨ってオフを走るとなると最初は少し勇気がいる。シート高は870mm。タイガー900ラリープロと同じだか、こちらはシート高を調整することは出来ない。
最初は丁寧にスロットルを操作したつもりだったが、トルクがあるからエンジンはモリモリと力を発揮。トラクションコントロールを解除するオフロードプロモードを選択したこともあり、低回転で走っていても滑りやすい路面ではリアタイヤは簡単にグリップを失う。
しかし、そこで終わらないのがこのバイクの良いところ。そのままスロットルを開けた状態で待っていると270度クランク独特のトラクションによって路面をタイヤがガッチリとグリップするようになり、大きなマシンを気持ちよく加速させていく。
同時に試乗したタイガー900ラリープロに比べると相当に荒々しい感じがする。最近は車体や足回りが進化して乗りやすいバイクが増えたが、スクランブラー1200XEの場合は積極的に車体を操らなければならない。この感覚が実に面白い。
ちなみに当初感じた威圧感は走り出した瞬間に霧散していた。丁寧な操作も必要だが1200ccという重さを強く感じることはなかったからである。さすがに小排気量のバイクのよう思いっきりオフを攻めたりする気にはなれないが、こういった点がデメリットには思えないのがこのバイクの魅力だ。
本気でオフを走ろうと思ったら他のビックオフローダーには敵わないし、取り立てて軽快というわけでもない。けれど適当なペースで走ってもバイクと遊んでる感じは遥かに大きい。
バーチカルツインをぶん回し、砂煙を盛大に上げながら走るなんて遊び方はこのバイクでしか出来ない。速さを求めるのではなく、オフを遊ぶマシンなのである。そしてそれこそがスクランブラーというカテゴリーの本質なのではないかと思う。
実はスクランブラー1200で本格的なダートを走ったのは今回が初めてだった。手強いところもあったけれど、想像していた以上に面白いというのが正直な印象。もっと色々な場所を走ってみたくなるバイクである。