見た目は最新!だけどドロドロとしたパワーフィーリングはやっぱりモトグッツィ。|V100マンデッロ試乗記

ついに水冷化された縦置き90度Vツイン搭載のV100マンデッロは、次世代のモトグッツィを牽引していく存在になるのか?
写真:徳永 茂
協力:ピアジオグループジャパン https://www.motoguzzi.com/jp_JA/

V100マンデッロ……2,200,000円

最新の電子制御システムが支える安心の走りと90度Vツインが放つ独特の乗り味

1921年設立とイタリア最古のバイクメーカーであるモトグッツィの最新モデルがV100マンデッロです。最大の特徴は新開発された水冷DOHC4バルブ縦置き90度Vツインを採用したことです。
盛んにレース活動を展開していた1950年代のモトグッツィは、500㏄V8エンジン搭載のレーシングマシンをマン島TTに参戦させていました。当然ボク自身はそんな時代のことは知りません。モトグッツィといえば縦置き空冷90度Vツインエンジンの印象しかありません。事実ラインナップを見てみるといまも、全モデルが縦置き90度Vツインエンジンを搭載しています。しかも駆動方式はシャフトドライブです。ある意味、その組み合わせがモトグッツィのアイデンティティといえるのかもしれません。
そうした伝統を継承しながらも、V100マンデッロに採用したエンジンはまったくの新設計で、ライドバイワイヤをはじめとした電子制御システムをフルに導入した、まさに次世代エンジンなのです。もちろんユーロ5に適合させています。この新型エンジンがどんな走りを披露してくれるのか楽しみです。

次世代スポーツツアラーとしてさまざまな機能を持たせた

「モトグッツィ」に対していまも強く残っている印象は、縦置き90度Vツインエンジンのドロドロとしたパワーフィーリングと、シャフトドライブの強烈なクセです。というのも実は、もう40数年前のことですが、初めて乗ったモトグッツィのモデルが850ルマンⅡでした。カウルを含めてシャープなラインで構成されたボディスタイリングがとにかくカッコ良くて、シートに跨り低くセットされたハンドルに手を添えた瞬間、レーシーな気分になったことを覚えています。ところがエンジンを始動しアクセルを軽くブリッピングすると、車体は半端なくグラリと左右に揺れ、大げさな言い方をすると、足を踏ん張っていないと倒れてしまいそうになるほどでした。トルクのあるエンジンはドロドロとした鼓動感というか躍動感があり、実に魅力的なパワーフィーリングでした。しかし、あまりにもシャフトドライブのクセが強いために、交差点を曲がるのにも気を遣いました。スタイルもエンジンもいいけど操作が難しいバイク、それが僕のモトグッツィの印象なのです。  以来、現在まで登場してきたモトグッツィの大半のモデルに試乗してきました。モデルチェンジされるたびあるいはニューモデルが登場するたびにシャフトドライブのトルクリアクションは減少していきました。その結果ドンドン乗りやすくなりました。一方、エンジンレイアウトに関しては相変わらず縦置き90度Vツインを堅持していて、鼓動感のあるパワーフィーリングは健在です。性能面ではライバルのスーパースポーツに及びませんが、サーキットではなく一般道を走るバイクであることを考えれば、十分なパフォーマンを発揮してくれます。

さて、モトグッツィ創業100年目に新たに登場したV100マンデッロですが、縦置き90度Vツインエンジンにシャフトドライブという伝統はしっかり継承されています。ボディデザインは全体に流麗なスタイリングとなっていて、いかにも現代的なバイクといった印象です。しかし装備されたフロントカウルはエッジの効いたシャープなデザインとなっていて、かつてのルマンを思い起こさせます。そのカウルに装備してあるウインドスクリーンは、電動式の高さ調整機能を備えています。さらに、ライディングモードに応じてカウルサイド(燃料タンク両側)にあるディフレクターの高さを自動的に調整する可変式エアロフラップが採用されているのが特徴で、ウインドスクリーンとエアロフラップにより風圧を最大で22%減少できるということです。長時間の高速走行では疲労軽減に大いに役立ちそうです。エアロフラップはレインモードのときはつねに開き、ツーリングモードでは設定された速度(70km/h)で開くシステムになっています。ロードとスポーツモードでは作動しません。

下半身の収まりは非常に良い。ニーグリップもしやすく、以前のようにシリンダーヘッドにヒザが当たってしまう心配もない。ヒザの曲がりが穏やかな点も快適性を考慮したツアラーらしい設定だ
ハンドルはセミアップタイプのパイプハンドルが装備されている。そのため上体がアップライトな乗車姿勢となり、長時間走行での疲労を抑えてくれる
815㎜のシート高ながら、シート形状がワイドなので数値から想像するよりはシートを高く感じる
ライダー身長は178cm。両足のつま先が着く程度の足つき性だ。小柄なライダーには少しばかり気になるところかもしれない

シート高は815mmとなっていて、リッタークラスのバイクとして数値的にはそれほど高くありません。しかし実際に跨ってみると、ワイドなシート形状のため予想していたよりは足つきの良さを感じませんでした。とはいえ、実用上不便を感じることはないし、平均的な体格の人ならば不安を覚えることはないでしょう。車重は233kgありますが、車体の引き起こしにそれほど重さは感じませんでした。まあ押し歩きには難儀しますけど。

このモデルはスポーツツアラーという位置づけにあるので、乗車姿勢に窮屈さはありません。セミアップのパイプハンドルに手を添えると上体はわずかに前傾しますが、ウデやクビへの負担はほとんどなく、高速走行にちょうどいいポジションといった印象です。ステップ位置もやや前寄りにあるので、ヒザの曲がりが穏やかなのもツーリングでの快適性に結び付くと思います。

コンパクトブロックと呼ばれる新開発されたエンジンは、モトグッツィ伝統の縦置き90度Vツインのレイアウトとしながらも、水冷DOHC4バルブの高性能エンジンとしている。しかし特性はあくまでも低中速型で、独特の鼓動感も特色だ

V100マンデッロに搭載されたエンジンは、コンパクトブロックと呼ばれる新設計の水冷DOHC4バルブ90度Vツイン。V85 TT の「スモールブロック」より103mm 短いコンパクト設計になっています。排気量は1042㏄で、モトグッツィ伝統の縦置きレイアウトを継承しながらも、ミッション一体型のクランクケースとするなど、次世代型にふさわしいパワーユニットに仕上げられています。

そんな新型Vツインを始動させると、ショートタイプのマフラーから重厚で力強いサウンドを放ちます。昔のモトグッツィなら始動しただけで車体がグラリと揺れたものですが、いまのモデルにそれはほとんどありません。まったくないわけじゃありませんが、指摘されなければシャフトドライブであることさえ気づかないほどです。  ライディングモード切り替えやスクリーン作動はすべて手元のスイッチで操作できます。そこでまずは、ライディングモードをロード、スクリーンはもっとも低い位置にセットしてスタートしました。

クラッチレバーの操作はとても軽くてギアの入りも確実です。この辺りはしっかりと現代の仕様になっています。アクセル操作に対してのレスポンスは、リニアで使いやすいだけでなく、回転上昇、加速性ともにスムーズです。そうしたパワーフィーリングの中にVツインらしい鼓動が伝わってくるのがなんとも心地よく感じました。バランサー内蔵のため不快な振動はなく、トルク感を伝えてくる鼓動だけが体を支配します。

走行中にもライディングモードの切り替えができるのが利点で、今回の試乗中にもモードを切り替えながら走行してみました。ロードからツーリングモードへと切り替えてみると、パワーフィーリングに変化はありません。資料を見てみると、パワーモードは同じで、トラクションコントロールの介入度が一段階高い設定になっています。レインモードではトラクションことロールの介入度がさらに一段階高くなり、パワーモードも穏やかな特性になる設定です。たしかにレスポンスがわずかに穏やかになりますが、極端なパワーダウンはなく、通常走行ならこれでも十分だと感じました。最後にもっともパワフルな特性となるスポーツモードに切り替えてみたのですが、たしかにパンチの効いたパワーフィーリングになるのですが、極端な変化を見せるわけじゃないので、ラフなアクセル操作さえしなければ自然なライディングが継続できます。いずれにしても、走るシチュエーションによって瞬時に切り替えられるので、さまざまな路面状況、天候の中を走るツーリングでは高い効果を発揮してくれ、安全な走行をサポートしてくれるはずです。

プレミアムバージョンのSタイプには、オーリンズ製電子制御サスペンション、クイックシフターが装備されるが、スタンダードタイプではKYB製の前後サスペンションが装備。クイックシフターはオプションとなっている。しかし6軸IMUの採用でコーナリングABS、トラクションコントロールといった最新の電子制御システムはスタンダードタイプにも装備されている。したがって、現時点で高レベルの安全性を確保しているモデルだといえます。

走りだしてまず実感するのが、高い安定性を実現しているということです。しっかりした直進性があるのはもちろん、極低速でもフラツクことなく、文字通り地に足のついたような操縦安定性を見せます。じゃあハンドリングが鈍重なのかというとそんなことはありません。たとえば交差点を曲がるといった低速ターンにおいて、非常に素直に向きを変えることができます。軽快性を前面に押し出したハンドリング特性ではないのですが、ニュートラルで素直なハンドリングはだれにでも扱いやすいものです。なにより、ツアラーということを考えれば、こうした安定志向のハンドリングのほうが安心して操作できますし、疲れにくいものです。同様にブレーキに関しても、入力初期からガクッと効くタイプではなく、ジワリと確実に制動してくれる特性なので安心感が大きいと感じました。

新型エンジンを引っ提げ、最新のテクノロジーを導入して登場したスポーツツアラーであるモトグッツィV100マンデッロは、いかに快適でバイクとしてのスポーツ性も楽しませるか、といった要求に見事に応えたモデルに仕上がっていると感じました。伝統と革新の融合、いうのは簡単ですがそれを実現するには高い技術力とライダーの感性を熟知していないと実現しません。100年以上に及ぶ長い歴史を持つモトグッツィだからこそ、伝統と革新の融合ができたのだと思いました。

ディテール解説

電動ウインドスクリーンを採用。もっとも低い位置にセットするとスポーツバイクのような雰囲気になる
もっとも高い位置にウインドスクリーンをセットすると、走行風をより多く抑制し、雨天時にも有効だ
可変式エアロフラップは通常、タンクサイドにインテグレートされたかたちで収まっている
レインモードおよびツーリングモードで70km/hを越えたとき、ご覧のようにエアロフラップが開く
メーターは5インチTFTカラーディスプレイを装備。昼夜を問わず視認性が高い。また表示機能も多彩で、ツーリング時にはとくに役立ってくれそうだ。表示切り替えもスイッチ操作で簡単に行える
電動ウインドスクリーンの操作やクルーズコントロールなどのスイッチは左手に集中
セル/キルスイッチ、ヘッドライト切り替え、モード切り替えスイッチは右手に配置
レインモード
スポーツモード
ロードモード
ツーリングモード
コーナリングライト機能を備えたフルLEDヘッドライト
セパレートタイプのシートは、パッセンジャーの快適性にも配慮した形状となっている
4ピストンのブレンボ製モノブロックキャリパーを採用したΦ320mmダブルディスク装備のフロントブレーキ
ブレンボ製2ピストンキャリパー採用のΦ280mmディスク装備のリアブレーキ
ドライブシャフト内蔵の片持ちスイングアームにKYB製モノショックを装備したリアサスペンション。プリロード、減衰調整機構付き
KYB製Φ41mm倒立フォーク採用のフロントサスペンション。プリロード調整、減衰調整機構を備える

主要諸元

形式:水冷 縦置き 90°V型 2気筒 DOHC 4バルブ
総排気量:1.042cc
ボア×ストローク:96 x 72 mm
最高出力:115Hp @8.700 rpm
最大トルク:105 Nm @6.750 rpm
燃料供給方式:電子制御フューエルインジェクション ライド・バイ・ワイヤ
駆動方式:シャフトドライブ
クラッチ:湿式多板油圧クラッチ
トランスミッション:6速
フレーム:チューブラースチールフレーム
スイングアーム:アルミ製, 片持ちスイングアーム
フロントサスペンション:
KYB製Ø41mm倒立フォーク、プリロード・リバウンドダンピング調整式、130mmホイールトラベル
リアサスペンション:
KYB製モノショック プリロード、リバウンドダンピング調整式、130mmホイールトラベル
フロントブレーキ:
Ø320mmダブルディスク, Brembo製4-ピストンモノブロックラジアルキャリパー、ラジアルマスターシリンダー、コーナリングABS
リアブレーキ:Ø280mmディスク, 2-ピストン Brembo製キャリパー, コーナリングABS
フロントホイール:120/70 R17 アルミ製キャスト 17” x 3.5”
リアホイール:190/55 R17 アルミ製キャスト 17” x 6”
全長/全幅:2,125 mm/ 835 mm
シート高:815mm
ホイールベース:1.475mm
燃料タンク容量:17L
車両重量:233Kg ※走行可能状態(燃料は 90%搭載時)
装備品:
DRL付きフルLEDヘッドライト, ベンディングライト, LEDウィンカー, 
コーナリングABSトラクションコントロール, クルーズコントロール,
ライディングモード, フルカラーTFT メーター, アダプティブ・エアロダイナミクス, 
電動ウィンドスクリーン

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…