パラレルツインの新境地 !? 休憩時や撮影中に過去最高……と言いたくなるレベルの人数から話しかけられた。|ハーレーダビッドソンX350・1000kmガチ試乗2/3

ハーレーダビッドソンらしいスタイルでありながら、普通自動2輪免許で乗ることが可能で、現代的なライディングが楽しめる。そんなX350が多くの人から注目を集めるのは、改めて考えると当然のことなのかもしれない。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ハーレーダビッドソンX350……69万9800円

同時発売されたX500の排気量縮小版……と誤解する人がいるようだが、X350とX500は完全な別物。なお最高出力/車重/軸間距離は、X350:36ps/195kg/1410mm、X500:47ps/208kg/1458mm。

頼もしいエンジンと、軽快なハンドリング

コレはコレで、大いにアリじゃないか。第1回目で述べたように、X350に対する僕の第一印象はあまり芳しくなかった。でも2週間をかけて1000kmを走った現在は、自分の趣向に合致するかどうかはさておき、このバイクがしっくり来る人は少なくない気がしている。

と言うのもX350で走る1000kmは、決してツラくはなかったのだ。初乗り時は腑に落ちない点があったものの、2度のツーリングと街乗りに使ってみると、ノルマの距離をサクッとクリア。そしてさまざまな場面を走る中で僕が感心したのは、昨今の500cc以下では貴重な、360度位相クランク:等間隔爆発のパラレルツインだった。

ただし当初の僕はX350のエンジンに対して、全域でスムーズに回って振動がきっちり抑え込まれていても、2気筒らしい燃焼感が希薄で、グッと来る要素が見当たらない……という印象を抱いたのである。ところが距離が進むにつれて、180度位相クランク:不等間隔爆発の他社製パラレルツインとは一線を画する、スロットル操作に対する従順にして柔軟な反応と、頻繁なギアチェンジを要求しない大らかな特性が(ツーリング中は4~6速がオートマ感覚で使えた)、何だか頼もしく思えて来たのだ。

ちなみにX350の排気音は、ドドドドッやダダダダッではなく、普通に走っているときはズヴォッで、ここぞという場面でスロットルを大きく開けるとズヴァッ‼ 改めて考えると、180度や270度位相は言うまでもなく、既存の360度位相クランクとも異なる滑らかなフィーリングは、パラレルツインの新境地?と言えなくはない。

そういった事実を認識した僕は、自分自身が2気筒エンジンに対して何らかの抑揚、高揚感や鼓動感などを求めるタイプのライダーだったこと実感。逆にそういった要素を欲していないライダーの場合は、フレンドリーなX350のエンジンに好感を抱くんじゃないだろうか。

一方の車体で興味を惹かれたのは、車格をそんなに大柄に感じないこと。もっとも195kgの車重と1410mmの軸間距離は、近年の基準で言うなら500~750ccクラスの数値なのだが、ハンドリングはなかなか軽快で、前述したエンジン特性のおかげもあって、力不足を感じる場面はほとんどない。とはいえ、峠道でのコーナリングでは前輪の接地感が物足りなかったし、悪路での凹凸吸収性は上質とは言えなかったのだけれど、それらはタイヤを日欧の良品に変更すれば(純正タイヤはマキシス・スーパーマックスST)、アッサリ解決しそうな気がする。

なお振動が非常に少ないエンジンと大柄な車格のおかげで、高速巡航は至って快適だった。トップ6速での回転数は、80km/h:5200rpm、100km/h:6400rpmで、最高出力発生回転数は8500rpmだが、10000rpm近辺まで回せば、150km/h前後のスピードが出そうである。

ブランドの実力を改めて実感

さて、ここまでは普通にインプレを記してみたものの、実は今回の試乗で最も印象的だったのは、休憩中や撮影中、信号待ちなどで、過去最高……と言いたくなるレベルの人数から話しかけられたことだった。それも全員が好意的にして笑顔で、“ハーレーがこんなの作ったんだ”、“中免で乗れるんだよね?”、“やっぱりXRのスタイルはカッコいいな”、“今までのハーレーは興味がなかったけど、コレは乗ってみたい”などと言うのである。そんな言葉を聞いた僕の中では、このバイクは性能だけで評価するべきではない、という意識が芽生えて来たのだ。

もっとも今回の試乗当初の僕は、強豪がひしめく現在のアンダー400ccクラスで、X350を選択する理由は見つけづらいかも……と、思っていたのである。その背景にあったのは他メーカーのライバル勢で、パラレルツインのネイキッドにこだわるなら、性能的にはヤマハMT-03やカワサキZ400のほうが格段に優勢だし(いずれのモデルも、X350より軽くて小さくてパワフル)、外車に興味があるなら、KTM/ハスクバーナやBMW、トライアンフの単気筒も視野に入れるべきではないかと。

でもX350に興味を抱くライダーにとって、ライバル勢との比較は(おそらく)どうでもいい話で、ハーレーダビッドソンらしいスタイルでありながら、普通自動2輪免許で乗れることや、現代的なライディングが楽しめることこそが重要なのだ。そしてそういう視点でバイクを語れるのは、やっぱりハーレーダビッドソンならではだろう。などと書くと、他メーカーの関係者やファンの皆様がお怒りになるかもしれないが、今回の試乗を通して僕は、ハーレーダビッドソンというブランドの認知度の高さ、そして“いつかはハーレーダビッドンに乗ってみたい”と感じる人の多さを、しみじみ実感したのである。

X350に課せられた役割

日本車には必ずしも当てはまらないが、現代の海外製アンダー400ccモデルの大半には、自社製品に興味を抱いてもらうきっかけ、ディーラーに足を運んでもらう呼び水、という役割が課せられている。そしてX350の試乗を目的としてディーラーを訪れるお客さんの中には、エントリーユーザーやリターンライダーがたくさんいるはずで、そういう人が気軽に乗れること、そういうバイクが昨今のハーレーダビッドソンには無い……ような気がすることを考えれば、現状のキャラクターは正解なのだろう。

余談だが、近年になってアンダー400cc市場に進出した海外メーカーの多くは、ステップアップに最適な車両として、100~150万円前後で購入できる600~900cc車を準備している。現在のハーレーダビッドソンにそういったモデルは存在せず、最も排気量が小さくて最も安価な車両は975cc/188万8000円~のナイトスタースペシャルだが、QJモーター/ベネリのラインアップに700~800ccパラレルツイン車が存在することを考えると、今後はXシリーズの長兄が登場するのかもしれない?

タイヤサイズは太目のF:120/70ZR17・R:160/60ZR17。現代の日本で販売されているアンダー400ccで同じサイズを採用するのは、兄弟車のベネリTNT249SとカワサキZX-4R/RRのみである。

主要諸元

車名:X350
全長×全幅×全高:2110mm×──mm×──mm
軸間距離:1410mm
最低地上高:143mm
シート高:777mm
キャスター/トレール:24.8°/100mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:353cc
内径×行程:70.5mm×45.2mm
圧縮比:11.9
最高出力:27kW(36PS)/8500rpm
最大トルク:31N・m(3.16kgf・m)/7000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.167
 2速:2.055
 3速:1.555
 4速:1.332
 5速:1.190
 6速:1.000
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:195kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13.5L
乗車定員:2名

キーワードで検索する

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…