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自動車におけるトンマナ
WEB関係の方々とお話をする時によく「トンマナ」という言葉を耳にします。トーンは調子、マナーは方法や流儀を指す元々は広告業界の言葉ですが、デザインの雰囲気やイメージ、色、書体などの要素に一貫性を持たせるために用いる「トーン&マナー=全体の雰囲気」という意味を指す時に使われています。
そして最近、感性品質領域に関してもこのワードを用いることが多くなってきたように感じます。例えば、
・ディスプレイ表示のUI(ユーザーインターフェイス)のフォントや背景イメージとインパネ周辺デザインとの「トンマナ」が合っているか。
・インパネとコンソールの加飾パネルの「トンマナ」が同調しているか。
など、統一感の一つの定義とする使われ方になりつつあります。
そしてこのトンマナも、少し俯瞰してみるとさまざまな形で見えてくることがありますが、ここで前回と同様にメルセデス・ベンツAクラスを例としてフロントドアにフォーカスしてみます。
(この部位一帯を“ドアトリム”と呼びます)やや旧年代の型式ですがご容赦下さい。
前回「感じさせる品質」で述べたように、インパネを主とすればこれは従的なデザインの考え方として比較的シンプルな表情をしているように見えますが、まずデザイン表現として顕在している(わかりやすい)部分についてピックアップすると、スイッチなどの機能要素、アームレスト周辺のアウトライン、スピーカーグリルの形や穴の流れ方…など、それぞれのフォルムが違っていてもアウトラインの表情やRの柔らかさ具合がそれぞれ相似形になっていることで感じさせる秩序や、表皮と樹脂部を共にグロス(艶の具合)をハーフマットなトーンで合わせており、素材が違えど質感のバランスが取られているという印象です。
ドアトリム全体におよぶトンマナ
ただ、ここまでだと一般的なデザイン評価に留まるところなのですが、よく見てみるとドア全体のトンマナ、そしてひいてはインテリア空間としてのトンマナを生んでいる要素が、実はこのドアトリム全体の多岐にわたって散りばめられているのに気付くことができます。
注目いただきたいのは、あまり注視しないようなドアの端末部分やサッシあたりの処理、モールのしまい方、さらにはロック部分のパネル切り欠き部分の形状まで、ラインや末端処理の丸みや表情に実はトンマナがちゃんと考慮されていて、この集積した要素それぞれが「韻を踏んで」統一性を構成していると考えられます。
デザイナーはスケッチやクレイにおいてスタイリング作業を行なうときこのような配慮をするのは当然であり、そのレベルや美意識を追求することこそが真髄でもあるでしょう。でもそれがデザインとして表現する場所、デザイナーが触れることができる範囲、開発フローの一過程だけではなく、設計や製造段階を経て最終的な商品になるところまでデザイナーが施したトーン&マナーが本来の見せ場として具現化できた、といえることが本当の「トンマナ」の実現なのではないでしょうか。
トーン&マナーの完成度=感性品質のレベル
製品化されたドアとして見たときに、スッと腑に落ちるようにデザインの表現と狙いを感じさせているのか。感性品質視点では是非そこを考えたいところです。
クルマの購入を検討しようとする時、その人が対面するのはクレイやスケッチではない、プロダクトとしての姿です。そこで与えられる商品全体としての印象の質がとても大切であるはずです。
メルセデス・ベンツAクラスの例は、デザイン過程で造成される外観要素を起点としながら、設計から製造過程に至るまでそのトンマナの完成度を緩めずに具現化した結果そのものであると思います。
実際このモデルのデザインは、ドアはもとより主役級のインパネにもこの同様の考え方が投影されているからこそ、前回述べたようにこのクルマがどのメーカーでも感性品質的に高い評価を得ている、その真意であるのです。
次回はその感性品質の評価をメーカーがどのように行っているかについて触れてみたいと思います。