Dセグメントの枠を超えてプレミアムに進化したメルセデス・ベンツ Cクラスを検証する

新型Cクラスがデビューして見えた、メルセデス・ベンツ主力3兄弟の本音

メルセデス・ベンツ Cクラス/Eクラス/Sクラスのフロントスタイル
メルセデス・ベンツ Cクラス/Eクラス/Sクラスのフロントスタイル。
近年は大幅にそのラインナップを増やしているメルセデス・ベンツだが、中心となるのはやはりC/E/Sの3クラスであることは今も変わらない。生まれ変わったCクラスを中心にこのセダン3台を比較、見た目ではわからない違いと相似点を探ってみよう。

Mercedes-Benz C-Class × E-Class × S-Class

大幅に進化した新型メルセデス・ベンツ Cクラス

メルセデス・ベンツ C 200 アヴァンギャルドの走行シーン
メルセデス・ベンツ C 200 アヴァンギャルドの走行シーン。1.5リッターのガソリン4気筒ターボは204ps/300Nmを発揮し、さらに15kW/200NmのISGが備わる。2.0リッターのディーゼルもラインナップし、それにもISGが搭載される。

滑らかで簡潔な面で構成された姿は、遠目に見ると、特に後方からのスタイルはEやSクラスと簡単に見間違えるほどである。もちろん意図的なものだろう。そもそも、またも大きくなった新型Cクラスの全長はほぼ4.8m、ホイールベースは2865mm、ということはちょうど3代目Eクラス(W211)に相当する堂々としたサイズで、Cクラスの前身に当たる190 Eが全長4.5m以下の5ナンバーサイズだったことを考えると、もはや立派なアッパーミディアムクラスである。

新型C 200 アバンギャルドのボディサイズは全長×全幅×全高が4785×1820×1435mm、ホイールベース2865mmというもので、従来型最後期のC 200 ローレウス・エディションと比べるとそれぞれ+80/+10/+5/+25mmの増加となる。シンプルで奇をてらわないデザインゆえにちょっと大人しく、保守的に映るかもしれないが、中身は今年春に発売された新型Sクラスに遜色ない先進機能満載である。

Sクラスにも遜色ないデジタルインストゥルメントパネルを採用

メルセデス・ベンツ C 200 アヴァンギャルドのインテリア
ドライバー正面に12.3インチ、センターに11.9インチのディスプレイを備えたコクピットはSクラスとも共通のデザイン。楕円形のエアコン吹き出し口がアクセントだ。

1993年デビューの初代から数えて5世代目に当たる新型はセダンとワゴンが同時に発表された。近年はFWDのコンパクトなSUVモデルなどを積極的に投入してラインナップを拡充しているメルセデス・ベンツだが、主力モデルはやはりセダンである。中でも最もコンパクトな後輪駆動モデルであるCクラスは、2014年発売の先代だけでこれまで250万台以上を販売(国内でも約10万台)、1982年発売の190シリーズから数えると総計では1000万台を超えるという。文字通りメルセデス・ブランドを支える中核モデルである。

本来はセダンのC 200及びC 220 dが最初に国内導入される予定だったが、当初の見込みよりも遅れて、まずガソリン1.5リッターターボ+ISGのC 200 アヴァンギャルドのみが導入された。試乗車はそれにベーシックパッケージとAMGライン、さらにリヤアクスルステアリングといったオプションが加えられた仕様である。

新型Sクラスと見紛うばかりのさらに大胆にデジタル化されたインストゥルメントパネルにまず驚くが、注目はガソリン、ディーゼルともにエンジンがすべて4気筒に統一され、かつトランスミッションにモーターを内蔵するISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を搭載したこと。いわば全車電動化されたことになる。さらにEV航続距離およそ100kmのプラグインハイブリッドC 350 eも来年半ばには追加されるという。

新型Cクラスは強力なISGがアシスト

メルセデス・ベンツ C 200 アヴァンギャルドとE 200 スポーツの走行シーン
現行のEクラスは2016年に登場し、2020年夏に大幅なマイナーチェンジが行われた。AMGラインが標準装備となったエクステリアはスポーティさに溢れる。試乗車のE 200 スポーツ(写真左)の他に2.0リッター直4のガソリン&ディーゼルや出力違いの3.0リッター直6、さらにプラグインハイブリッドも用意する。

C 200用ガソリンエンジンは、新開発の1.5リッター4気筒ターボで、204ps/5800〜6100rpmと300Nm/1800〜4000rpmというスペックを持つ。従来型C 200に搭載されていた1.5リッター直4ターボは184ps/5800〜6100rpmと280Nm/3000〜4000rpmだったから、パワーアップだけでなく、低回転域のトルク増強が図られていることが分かる。前述のように新型のパワーユニットはすべてISG搭載のマイルドハイブリッド仕様となった。

従来型C 200は同じ48V駆動ながらBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)を採用していたが、新型はトランスミッションケースに内蔵されたISGとなって補機類ベルトも省かれ、全車ISGを前提とした9Gトロニックを搭載する。ベルト駆動式は大トルクには対応できない弱点があるが、新型は15‌kW(20ps)と200NmをいわゆるEQブーストとして得られる。従来型C 200のBSGは最大で10‌kW&160Nmだったからその違いは明白だ。

比較用として連れ出したE 200 スポーツには先代C 200と同じ1.5リッターターボ+BSGが搭載されている。現行型Eクラスは16年に発表された5世代目で、20年秋にマイナーチェンジを受けたばかりだ。5m級のEクラスでもパワーにまったく不足はないのだから当たり前だが、新型C 200のスタートダッシュはかなり強烈だ。エンジンそのものも従来型よりトップエンドまでスムーズに回るが、やはり低中速域での逞しさが印象的、強力になったISGのアシストが効いているといえる。

ラグジュアリーそのものの乗り心地。やはりSクラスは別格である

メルセデス・ベンツ S 400 d 4マティックの走行シーン
2021年1月にフルモデルチェンジを行った新型Sクラス。世界を代表するラグジュアリーサルーンとして、快適性と走行性能だけでなく安全性や快適性能を高いレベルで実現している。試乗車は3.0リッターの直6ディーゼルを搭載したS 400 dで、他に3.0リッター直6ガソリンのS 500 4マティック、4.0リッターV8を搭載したS 580 4マティックをラインナップする。

もう1台の新型Sクラスは3.0リッター直6ディーゼルターボを積むS 400 d、当代随一との呼び声高い直6ディーゼルはマイルドハイブリッドシステムなしでも驚くほど静粛、スムーズかつパワフルだ。エアサスペンションによるその乗り心地はまるで走る天然温泉のようにまったり快適で、しかも安定して矢のように直進する。新型CクラスはSクラス譲りの新機軸を数多く搭載しているが、ラグジュアリーそのものといった乗り心地だけでやはりSクラスは別格である。

とはいえ、コンベンショナルなサスペンションを持つEクラスもCクラスも乗り心地に不満があるわけではない。バランスのとれたEクラスに対して、C 200はスポーツサスペンション(AMGラインに含まれる)を備える割には、うねりがある山道などでは姿勢変化がやや大きく感じたが、ラフなハーシュネスなどは感じられず、むしろ実用域では予想以上に当たりが柔らかく、十分にしなやかな足まわりを備えているようだ。それでもC 200が明確にスポーティなのは、まずロック・トゥ・ロックわずか2回転の、まるでアルファロメオのようなクイックなステアリング(従来より約10%クイックになった)を装備しているためだ。

その上試乗車にはこのクラスとしては初めてというリヤアクスルステアリングも備わっていたからなおさらだ。60km/h以下では逆位相に最大2.5度、それ以上の速度域では同位相に同じく2.5度後輪を操舵するこのシステムのおかげで、ボディが大型化したにも関わらず最小回転半径5m、リヤステアリングなしでも5.2mを誇る。最近のモデルを例に挙げれば、ニッサン ノート オーラが5.2mである。RWDの有利性はあるけれども、Cクラスの取り回しの良さが際立っていることが分かる。しかもUターンや駐車時にはびっくりするほど切れるものの、走行中は車速や舵角に応じて適切に制御されているらしくあまり意識することがなかった。シャープだが、不自然に感じないレベルでスポーティなハンドリングである。

使いこなせないほど多彩な新機軸と同時に価格もアバンギャルドな1台

メルセデス・ベンツ Cクラス/Eクラス/Sクラスのリヤスタイル。
新型Cクラスは多くの機能をSクラスと共有し、クラスを超えたラグジュアリーな装備と活発な走行性能を得た。その代償として車体価格は跳ね上がり、ライバルのBMW 3シリーズやアウディ A4と比較して大きく開いた価格差をどう見るか。

気になるのはC 200 アヴァンギャルドで654万円からという価格だ。試乗車のようにベーシックパッケージ(15.4万円)、AMGライン(32.6万円)、リヤアクスルステアリング(14.5万円)といったオプションを加えると700万円台前半にも達する。従来型に比べてざっと50万円アップといった感覚だろうか。

無論、全車ISG搭載の上にさらに進化した安全運転支援システムやSクラス同様のタッチスクリーン式11.9インチディスプレイをはじめとするインフォテインメントシステム、片側130万画素相当の高解像度を持つウルトラハイビーム付きデジタルライトなど、最先端装備を満載しているからには価格アップも仕方のないことではあるが、それでもライバルのBMW 3シリーズやアウディ A4と比べると二段階ぐらい上昇したのは事実である。3シリーズやA4には500万円を切るモデルもラインナップされており、シリーズの中心価格は500万〜600万円といったところ。したがって直接比較するには現時点では価格差が開きすぎた。

将来的にはメルセデスもC 180などもっと簡潔なグレードも導入するのだろうが、今のところCクラスは、使いこなせないほどの新機軸が盛り込まれた、ひとり飛び抜けてプレミアムなDセグメントセダンである。ライバルを圧倒的に突き放す、まさしく性能も価格もアヴァンギャルドな新型を日本のユーザーは当然だと納得するのか、あるいはちょっと先進的すぎると評価するのか? これから順次導入されるISG付き4気筒ディーゼルモデルやプラグインハイブリッドも含めて、私たちもこれから腰を据えて検証しなければならない。

REPORT/高平高輝(Koki TAKHIRA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2021年 12月号

【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ C 200アヴァンギャルド
ボディサイズ:全長4785 全幅1820 全高1435mm
ホイールベース:2865mm
車両重量:1700kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1494cc
最高出力:150kW(204ps)/5800-6100rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/1800-4000rpm
モーター最高出力:15kW
モーター最大トルク:208Nm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後225/50R17
燃料消費率(WLTC):14.5km/L
車両本体価格(税込):654万円

メルセデス・ベンツ E 200スポーツ
ボディサイズ:全長4940 全幅1850 全高1455mm
ホイールベース:2940mm
車両重量:1720kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1496cc
最高出力:135kW(184ps)/5800-6100rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/3000-4000rpm
モーター最高出力:10kW
モーター最大トルク:38Nm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/40R19 後275/35R19
燃料消費率(WLTC):12.8km/L
車両本体価格(税込):793万円

メルセデス・ベンツ S 400d 4マティック
ボディサイズ:全長5210 全幅1930 全高1505mm
ホイールベース:3105mm
車両重量:2180kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2924cc
最高出力:243kW(330ps)/3600-4200rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1200-3200rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後255/50R18
燃料消費率(WLTC):12.5km/L
車両本体価格(税込):1338万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610

【関連リンク】
・メルセデス・ベンツ 公式サイト
http://www.mercedes-benz.co.jp/

キーワードで検索する

著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させてい…