歴史から紐解くブランドの本質【GM編】

GMの創業時から続く類い希なるマーケティング戦略【歴史に見るブランドの本質 Vol.23】

300台のみ生産された最初期型の1953年型シボレーC1コルベット。2シーターコンバーチブルモデルとしてデビューした。
300台のみ生産された最初期型の1953年型シボレーC1コルベット。2シーターコンバーチブルモデルとしてデビューした。
自動車メーカーは単に商品を売るだけではなく、その歴史やブランドをクルマに載せて売っている。しかし、イメージを確固たるものにする道のりは決して容易ではない。本連載では各メーカーの歴史から、そのブランドを考察する。

戦略的マルチブランドの成功

キャデラック、ビュイック、シボレー、オールズモビル、ポンティアックなど早くから多彩なブランドで異なるターゲット層に幅広く訴求した。

ゼネラルモーターズ。日本語で言えば「総合自動車」とでもいう意味だろうか。この連載では自動車ブランドを取り上げているが、GMは自動車ブランドではない。GMは企業名であって、消費者と向き合っているのはシボレーやキャデラックといった製品ブランドである。このような複数のブランドを活用して戦略的にマルチブランドを展開し、大成功したのがGMなのである。

創設者ウィリアム・C・デュラントは馬車の製造会社を経営していたが、1904年に自動車会社ビュイックを買収した。そして1908年に他の自動車会社も買収するため、持ち株会社としてGMを創立する。GMは設立当初から巨大企業化を見据えて既存の自動車会社を買収するという、企業経営的視点でスタートしたのだ。1910年までにオールズモビル、キャデラック、オークランド(後のポンティアック)をはじめ、短期間に多くの自動車会社を傘下に収めた。

このような性急な買収が経営を圧迫し、社を追われることとなったデュラントは新たにシボレーを設立する。シボレーは大成功し、その資金で再びGMの経営権を手に入れ、シボレーもGMの傘下とした。しかし資金面でデュラントを支えていたデュポン家は、そのデュラントを追い出して後に名経営者となるアルフレッド・スローンを社長に据え、今に至る「GM帝国」の基礎が築かれた。

異なるターゲットを幅広く

1940年の2500万台生産記念パーティで握手する創設者ウィリアム・C・デュラント(左)とアルフレッド・スローン会長。

GMの買収攻勢はアメリカ国内にとどまらなかった。1925年にイギリスのボクスホール、1929年にはドイツのオペル、1931年にオーストラリアのホールデンと買収、まさにグローバル企業となった。

GMのユニークなところは買収した企業のブランドをそのまま活用し、GMの名を一切出さないことである(例外は商用車ブランドのGMC)。そしてブランドの序列と性格付けを明確に分けて、異なるターゲット層を幅広く押さえるマーケティング手法を早い時期から展開した。

その当時、T型フォードに集中して大量生産していたフォードとは対照的なやり方だ。エンジンやシャーシなどは共通化を進めてコストダウンを図りながら、各ブランドで性格(ターゲット層)とクラス(価格帯)をわけ、販売台数と収益性を高める戦略である。

旧モデルの陳腐化で成功

1924年、偉容を放つミシガン州デトロイトにあったGM本社ビル。

ベーシックな大衆車であるシボレーを底辺に、スポーティで派手なポンティアック、やや保守的な中級グレードのオールズモビル、アッパーミドル向け上級グレードのビュイック、豪華な高級車のキャデラックとし、販売網も分けることで消費者からはそれぞれ別のメーカーのように見えるようにしたのである。欧州やオーストラリアではあたかも地元ブランドであるかのごとく感じさせることに成功した。

GMが取り入れたもうひとつの画期的なマーケティング手法が「モデルイヤー」つまり「○○年式」という形で毎年デザインを変えて旧モデルの陳腐化を図るやりかたである。メカニズムはほとんど変えないまま、内外装を一新して「新型」を大々的に訴求したのである。これらの施策は大成功し、1920年代末にはフォードを抜いて世界最大の自動車会社となったのである。

1958年に誕生したスバル360。

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1973年第21回東アフリカサファリラリーを駆けるダットサン240Z。ドライバーはシェカー・メッタ。

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著者プロフィール

山崎 明 近影

山崎 明

1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。1989年スイスIMD MBA修了。…