目次
BMW M2
AT x MT
スリリングな初代とは一線を画する新型M2
世界のエンスージアストの垂涎の的であり続けているM3は、世代を追うごとにどんどん大型化・高性能化してきた。先代F80系では全長が4.7m弱まで達して、それは「もう5では?」とツッコミを入れたくもなった。同時に4シリーズ=M4として独立したクーペは、かつて世界一美しいラグジュアリークーペとして名をはせた初代6シリーズに匹敵する車格に達していた。
大型化・高性能化はクルマの進化として王道だ、しかし、一方では初代のE30系といわずとも、その次のE36系やE46系までの「コンパクトボディに強靭な心臓を詰め込んで、アマチュアドライバーが公道でも溜飲が下げられる」というリアル感への郷愁を生みつつあったのも事実である。そんな一般庶民(?)の深層心理を見透かしたように、先代M3/M4の2年後となる2016年にBMWが放ったのが初代M2だった。
初代M2は3シリーズより明確にコンパクトかつベーシック設計の2シリーズに、M3/M4と同等の心臓(発売当初は量産型N55の高出力版、後に登場したコンペティションでM謹製のS55型を搭載)を詰め込んでいた。4.5mを切る短い全長を肉感的なオーバーフェンダーで包んだ“小生意気”なボディに、明らかに過剰な動力性能を組み合わせた初代M2の走りは、M3/M4とは別種のスリルに満ちていた。
フロント19、リヤ20インチのミックスタイヤ
その後、1シリーズがFF化されると「M2はどうなる?」とマニア筋をやきもきさせたが、結局は2ドアクーペだけはFRとして残り、M2も姿を現した。ただし、新しい2シリーズクーペは、これまでのように3/4シリーズの明確な下級生ともいいきれなくなった。
というのも、それ以外の1/2シリーズがFF化されたことで、新型2クーペは、その軽量高剛性ボディ構造をZ4と、アルミを多用したフロントサスペンションまわりを4シリーズと多くを共有することになったからだ。さらにインテリアデザインは3/4シリーズと共通化された。つまり今の2クーペは1/2シリーズの2ドア版ではなく、3/4シリーズのショート版と理解するのが、最も実像に近くなったからだ。
そんな2クーペをベースに仕立てられた新型M2も、そのスペックを観察するとなんとも興味深い。
フロント19インチ、リヤ20インチのタイヤサイズはM3/M4と共通で、1615/1605mmという前後トレッドも同じくM3/M4と同寸である。それもあって、ワイドトレッドを包むために広げられた前後フェンダーは、先代以上に派手なブリスター形状となり、新型M2のアイコン的な意匠となっている。そうやって拡幅された1885mmという全幅も、M3よりはわずかに小さいが、M4と同寸である。
一方で、全長やホイールベースは当然のごとく、M3/M4より明らかに短い。2745mmというホイールベースは110mm短い。さらにオーバーハングを徹底的に切り詰めた全長はM3/M4より225mm小さく、4.5m台を維持する。
FRやMTに固執するアナログ派マニア向け
……と、ここまでの事実を総合すると、新型M2もハードウェアの基本構造はほぼM3/M4と共通で、もはや対等なバリエーションと捉えるべきだろう。そう考えると、新型M2の走りが、スリリングだった先代とは別物の安定感に満ち満ちているのも、すっと腑に落ちる。
全長は切り詰められているが、1700kg強という車重は同じ2WD同士ならM4のそれと選ぶところはない。これは基本骨格を共有しつつも、高価な軽量部材をM3やM4ほど多用していないということだろう。同時に、パワートレインもM3/M4と同ユニットだが、最高出力や最大トルクは(少なくとも今のところは)M2専用の微妙に控えめにチューニングされている。基本ハードウェア構造が対等になったゆえか、商品としてのヒエラルキーに応じた差別化は、これまで以上に繊細かつ巧妙になっているのだ。
M3やM4も、一部にMTや2WDを残す(国内ではM4のみ)とはいえ、今やAT+4WDが本来の姿ともいえるクルマになってしまった。考えてみれば、いまだにFRやMTに固執する(筆者も含めた)アナログ派マニアの受け皿として新型M2が残されたからこそ、M3/M4が吹っ切れたいう見方もできる。
MTとしてはすこぶる良好な操作性
今回は6速MTと8速ATという2台の新型M2の同時試乗……という幸せな取材になったが、M3やM4の例でも分かるように、性能でも効率でも本命は今や完全にATだ。実際、カタログ燃費も加速性能も、すべてATが上回る。MTにはお約束の回転合わせ機能も備わるが、その変速はM2が使うトルコン式ATでも人間の何倍もスピーディだ。
3や4よりあえて控えめな調律の直6ツインターボは低回転から柔軟だが、本来の性能は少なくとも4000rpm以上、できれば5000rpm以上を要する高回転ユニットであることに変わりない。やはりギヤが2つ多いATのほうが、その美味しい部位を堪能しやすい。
こうなると、6速MTの存在価値はもはや“マニアの嗜み”以外のなにものでもない。だが、レバーフィールも先代よりわずかに改善しており、この種の大トルクFRのMTとしては操作性もすこぶる良好だ。
M3やM4と共通DNAをもつボディやサスペンションに加えて、Mディファレンシャルも標準装備する新型M2は、460PS、550Nmという動力性能を完全解放しても、それはあますところなく推進力=トラクションに転換してくれる。少なくともドライ路面なら、先代のようにわずかなドライビングミスで良くも悪くもスリリングな展開におちいることも、まずない。
Mの最新ダイナミクス制御を完備
エンジン、ダンパー、パワステ、ブレーキ(そしてMTのオートブリッパー)の設定を任意に組み合わせて記憶させられるステアリングボタンは当然、M2にも備わる。さらに、走行シーンに応じてADASの介入レベルを選べる「Mモード」やドリフトレベルをきめ細かく設定できる「Mトラクションコントロール」など、最新Mの自慢のダイナミクス制御は、新型M2にもあますところなく装備される。
このように、新型M2はハードウェア的にはM3やM4を含めたファミリーの1バリエーションというべき存在となった。先代M2がある意味で郷愁誘うMだったとすれば、新型は「ドリフトも含めた軽快さを求める人向けのM」ということか。先代特有の危うさを懐かしむマニア筋もおられるだろうし、その気持ちは理解できる。しかし、「コンペティション」や「CS」といった今後の展開を想像するに、基本フィジカルが大幅に進化したM2が、さらにどう化てけていくかも楽しみだ。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年8月号
SPECIFICATIONS
BMW M2(MT)
ボディサイズ:全長4580 全幅1885 全高1410mm
ホイールベース:2745mm
車両重量:1710kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:338kW(460PS)/6250rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2650-5870rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
車両本体価格:958万円
BMW M2(AT)
ボディサイズ:全長4580 全幅1885 全高1410mm
ホイールベース:2745mm
車両重量:1730kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:338kW(460PS)/6250rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2650-5870rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
車両本体価格:958万円
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