日産とBMWの日独スポーツクーペ2台比較試乗で見えた真実

日産フェアレディZ×BMW 240i xDrive比較試乗「雨のワインディングで走ると性格の違いは歴然」

ピュアFRスポーツに乗っているという感覚をしっかりと味わわせてくれるZと、電子制御LSDや4WDで仕上げられたM240i。
ピュアFRスポーツに乗っているという感覚をしっかりと味わわせてくれるZと、電子制御LSDや4WDで仕上げられたM240i。
ニッポンのスポーツカーの代名詞でもあるフェアレディZが7代目へと生まれ変わった。13年振りのフルモデルチェンジであり、待ち望んでいたファンも多いであろう。受けて立つのはBMWが誇る3.0リッター直6ツインターボを搭載するM240iだ。走り比べてみた結果、見えてきたのは意外な結論であった。

BMW M240i xDrive Coupe
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Nissan Fairlady Z

基本骨格から見直したZ

同じ3.0リッターターボユニットを搭載するスポーツクーペ。あいにくのコンディションとなったワインディングでの評価ははたして……。

雨上がりのワインディングにハイパワーFRの組み合わせは、いくら走り込んできた道であったとしても緊張感が伴う。共に公道初試乗の2台であるから本来であれば気分は高まっているのだが、今日ばかりはちょっと憂鬱だ。

それもそのはず、日産フェアレディZは最高出力405PS、最大トルク475Nmを発生させる3.0リッターV6ツインターボの力を、リヤ2輪だけで受け止めようというのだ。

開発陣もそこは苦労の連続だったという。Zは基本的に先代モデルをベースとしたもので、試作段階では先代モデルにそのままスカイライン400Rのエンジンを搭載。スポーツ走行も可能とするために、そこに十分な冷却性能を発揮させようとすると、なかなかのジャジャ馬となった。曲がらないし、トラクションも不十分な仕上がりだったという。

そこからは基本骨格の見直しの連続だった。例えばフロント側はサイドメンバーがキャビンに接する部分に対してレインフォースを追加。クロスメンバーにさらにメンバーを追加する対策も行っている。リヤ側はバックドアの開口部を強化し、乗り心地を改善。それはトラクション性能にも効いてくるのだろう。足まわりはハイキャスタージオメトリーを採用したほか、ダンパーはツインチューブからモノチューブへと変更。ちなみに油圧だったパワーステアリングはラックアシストの電動へと変わっている。

まずは4駆のM240iから試乗

一方のBMW M240i xドライブクーペ(以下M240i)はその名が示す通り4WDであるが、基本ベースとしてはFRであり、フロントに対してはアシスト的に駆動を与えている。

搭載される直列6気筒ツインスクロールターボエンジンはなかなかの数値を叩き出している。最大出力こそ387PSだが、最大トルクは500Nmである。

特徴的なのはMスポーツ・ディファレンシャルという電子制御式フル可変ロック機構を標準装備していることだ。ちなみにZは先代のビスカスLSDから機械式へと変更している。今回のM240iにはファスト・トラック・パッケージがオプション装備されていた。足まわりについてもアダプティブMサスペンションと名付けられた電子制御可変ダンパーが備わり、モード毎に乗り心地を変化させることが可能。ちなみにタイヤはランフラットではない。

ウエットパッチが残る路面状況なら4駆が有利だろうと、M240iから乗る。走り出せば直6ならではの滑らかさ際立つサウンドが周囲を包み込んでくれて心地良い。アクセルが求める通りにトルクが発生する一方で、レブリミットへ向けての盛り上がりも忘れていない伸び感のある仕立てはさすがだ。一方でブレーキのペダルコントロールもしやすくリニア。見事な調教だ。

スポーツプラスモードを選択し、足を引き締めたとしても、程よくロールやピッチが残されており、前述したペダルコントロール性を利用しながら前後荷重を操れる。ランフラットタイヤを履いていないこともあり、乗り味のしなやかさが際立っていた。

フェアレディZにあるFRの魅力とは

もちろんM240iは4WDなのでテールが危うい状況に近づけばフロント側にトルクを流すことで、どんなシーンでも落ち着いている。純粋なMシリーズのようなレーシングな仕立てではないが、ロードゴーイングスポーツとしてはなかなかのバランスだ。

続いてはいよいよZに乗り換え、パーキングからスタートさせる。タイトターンからの走り出しは、砂利が浮く低μ路だったこともあり、リヤの機械式LSDがしっかりと仕事をしていることを感じさせる。リヤタイヤのイン側がチャッチャッチャッと音を発しながらの発進は、“フェアレディ”という名のクルマにしては少々体育会系だ。

だが、ワインディングを走り出せばシャシーはフラットに保たれ、路面変化もきちんと受け止めている。無理に引き締めず、ストロークをしっかりと持たせているところは好感触。先代までの課題であった直進安定性も向上した。地に足ついた仕立てはM240iに負けない。

エンジンはわずか1600rpmから(M240iは1800rpm)最大トルクを発生することもあって、低中速域のトルクが豪快だ。それがパンチのある走りに繋がっている。M240iほどではないがエンジンの伸び感もなかなかだ。

意外な好敵手

同じスポーツ志向のクーペとはいえ、駆動方式の違いもあってまったく異なる性格の2台の比較試乗となった。

コーナリングGがピークに達し、機械式LSDと豊かなトルクがミートした瞬間、FRならではの世界が顔を出す。今日のようなウエット路面ならなおさらだ。瞬間的にテールが悲鳴を上げる危うさが時として襲ってくる。もちろん、そこから先はスタビリティコントロールが働き安定域に戻すのだが、たった一瞬のリヤがズルッと行くあの感覚がヤバイものを扱っていると気づかせてくれる。ピュアFRスポーツに乗っているという感覚をしっかりと味わわせてくれるのが魅力的だ。

そのZから改めてM240iを見ると、美女と野獣で言うところの呪いが解けたかのような仕上がりだ。電子制御LSDや4WDの存在はかなり大きい。対するZは今回のような環境下では野獣のままだ。

だがそれが悪いわけじゃない。機械と人間が直結し、本能的に危険を察知させてくれる。それなら、たまに野獣の本性を見るのも悪くない。それもまたスポーツカーの面白さのひとつなのだから。

REPORT/橋本洋平(Yohei HASHIMOTO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年12月号

SPECIFICATIONS

日産フェアレディZバージョンST

ボディサイズ:全長4380 全幅1845 全高1315mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1620kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCターボ
総排気量:2997cc
最高出力:298kW(405PS)/6400rpm
最大トルク:475Nm(48.4kgm)/1600-5600rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40R19 後275/35R19
燃料消費率:10.2km/L(WLTC)
車両本体価格:646万2500円

BMW M240i xドライブクーペ

ボディサイズ:全長4560 全幅1825 全高1405mm
ホイールベース:2740mm
車両重量:1710kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2997cc
最高出力:285kW(387PS)/5800rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1800-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前225/40R19 後255/35R19
燃料消費率:10.9km/L(WLTC)
車両本体価格:758万円

【問い合わせ】
日産自動車お客さま相談センター
TEL 0120-315-232
https://www.nissan.co.jp

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

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著者プロフィール

橋本 洋平 近影

橋本 洋平

いまはなきジェイズティーポ編集部に所属したことをきっかけに自動車雑誌業界に入り、その後フリーランス…