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Nissan FAIRLADY Z
昨年ニューヨークで初めてその姿を現し、初代S30をオマージュしたデザインが話題を呼んだ7代目「フェアレディZ」。そのステアリングを日産のテストコースであるHPG(北海道陸別試験場)で、いち早く握ることができた。
フェアレディZにおける話題の焦点は、その大きく刷新された外観に対して、中身がフルモデルチェンジではなくビッグマイナーだということだろう。先代Z34型のFR-Lプラットフォームを踏襲しながら、そのロングノーズの下にはスカライン「400R」譲りのV型6気筒ツインターボを押し込んだ。
19インチホイールとLSDの組み合わせがべストチョイス
基本的なアーキテクチャーは、前述したV6ツインターボをフロントに搭載して、リヤタイヤを駆動するFRレイアウトに変わりなし。トランスミッションには改良された6速MTを継続採用した上で、7速ATは9速ATへとアップデートされた。
ラインナップは全部で4種類。ベースグレードと「Version T」(9ATのみ)が18インチタイヤとオープンデフの組み合わせとなる一方で、「Version S」(6MTのみ)と「Version ST」、そして「Proto Spec」には19インチタイヤに加えて、なんと今回から機械式リミテッド・スリップ・デフが標準装備された。
さてせっかちな読者のために、結論を急ごう。筆者の見解としては、断然19インチと機械式LSDの組み合わせがベストである。あとは好みに応じて、インテリアの仕様を選べばいい。もちろんベースグレードを手に入れて、自分好みのZに仕上げるというなら、それはそれで大いにありだ。
ちよっと怖くてかなり気持ちいい加速感
19インチ仕様を勧める最たる理由は、やはり「VR30DDTT」のパンチ力だ。振り返ればZ32以来のツインターボ。しかしその最高出力は280馬力規制の頃から実に405ps/6400rpm、最大トルクは475Nm/1600-5600rpmにまで高められた。先代Z34のバージョンNISMOが搭載した3.7リッターV6(355ps/374Nm)と比べても、実に50ps/101Nmもの出力アップである。
そんな「VR30DDTT」も、さすがはいまどきのターボだけあって、その出力特性は大排気量NAのような従順さであり……と言いたいところだが、それはちょっとだけ違う。
確かにアイドリング+αの領域から最大トルクを発揮するその特性で、常用域におけるドライバビリティはすこぶるいい。9速ATはもちろん6速MTに至っても、低回転ではスナッチもなく、ショートシフトしていくだけでするすると速度が上がる。高いギヤからひと踏みしても、きっちりトルクがついてくる。とても従順なエンジンである。
しかしその回転が4500rpmを超えたあたりから、二次曲線的にブーストが跳ね上がる。いや、そう感じてしまうほど分厚くフラットなトルクが車速を跳ね上げ、その加速がトップエンドまで頭打ちすることなく続くのである。そしてこの加速感が、ちょっと怖くてかなり気持ちいい。
滑らかなドライブフィールはアストンマーティン並みか
唯一残念なところがあるとすれば、それはサウンドだ。19インチ装着車はいま流行りのサウンドエフェクトによって彩りが添えられており、これがなかなかに聞き応えのある音色に演出されてはいるようだが、ターボの宿命か騒音規制への対応か、高回転ではこれが排気を押し潰したような、無粋なエキゾーストに変わってしまう。とはいえ総合的に考えれば、十分刺激的。野蛮な演出が好まれない今の時代に、よくこれだけ遠慮の無い、エッジの効いた出力特性を与えたものだと思う。
これを迎え撃つシャシーは、予想を上回る出来映えだった。特に素晴らしかったのは、路面に吸い付くように、滑らかなターンインだ。
ブレーキのタッチは、対向ピストンでも片押しキャリパーでも同じように上質。そしてペダルを踏み込んでフロントに荷重をかけていくと、ダンパーが驚くほどしなやかに沈み込む。さらにブレーキをリリースして切り込んでいったときの荷重の移り方、フロントタイヤの接地感、ロールスピードといった、全てのモーメントが恐ろしく上質。
近年、これほど滑らかな動きをするハイパワーFR車は、クラスこそ大きく違うがアストンマーティンくらいではないだろうか? ライバルと言えばトヨタ スープラや次期BMW M2クーペといったところだが、アジリティ重視の2車に対し、フェアレディZはその懐の深さが何よりの魅力である。
車体全体に渡って施された剛性強化
ちなみに今回、新型Zはサスペンションシステムにモノチューブダンパーを採用しているのだが、開発陣はそのダンパー径を通常よりも太くすることでオイル容量を増やし、ガス圧の反発を抑えた。2008年に発表された先代より90kgほど重くなった車両重量(ベースグレード比較)に対してスプリングレートは当然上がったが、むしろダンパー減衰力は弱めることができたのだという。そしてこうした足周りの熟成が得られた背景には、フロントセクションからリヤアンダーフロア周り、リヤハッチに渡って全域で補強を入れて引き上げたボディの剛性向上がある。
とはいえ新型フェアレディZが、完璧なシャシー・ファスターになっているかというと、筆者はそう感じなかった(そこが魅力でもあるのだが)。たとえばダウンヒルから駆け下りてターンするようなアベレージの高いミドルコーナーでは、18インチタイヤとオープンデフの組み合わせだとリヤにむずむずとした接地性の無さを感じる時がある。もちろんそこからアクセルを踏み込んでも、途端にリヤがブレイクしてしまうなんてことはないだろう。しかしその先に、挑んでいくことを躊躇する自分がいる。
初心者はもちろん上級者まで楽しませる「ダンスパートナー」
だからこそ開発陣は、メンテナンスが必要となる機械式LSDをわざわざ上級グレードに用意し、さらにデフ/トランスミッションの温度計までインストールしたのだろう。また細かい技ではあるが、フロントバンパーとリヤハッチに小ぶりなスポイラーを付けた。だから筆者は、この組み合わせを推す。
ちなみにその効果ははっきりと体感できる。180km/hのリミッターを効かせながら走った弱ウェットの高速周回路。わずかなアールでこれほどにLSDが走安性を高めるとは思わなかった。
簡単な対処法としては、もう少しリヤダンパーの伸び側減衰力を高める方法があると思う。しかしそれでは、フェアレディZの持つ滑らかな走りが損なわれてしまう。だからこのしなやかさを損なわずさらなる次元へフェアレディZをステップさせる手段があるとすれば、それは空力だと思う。そして今以上を望むドライバーには、「バージョンNISMO」が用意されることになるのではないか。
総じて新型フェアレディZは、筆者の予想を大きく超えてきた。日産はGT-Rの走りを「アルティメイトドライビングプレジャーの追求」と表現する一方で、このフェアレディZを「ダンスパートナー」だと語った。最初は「何甘ったるいことを言っているんだか」と呆れたが、なるほどだ。コイツはレーシングカーではないけれど、まごうかたなきスポーツカーである。そのステップさばきは、ダンス初心者はもちろんキレッキレの上級者まで、きっと満足させてくれるはずだ。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/日産自動車
SPECIFICATIONS
ニッサン フェアレディZ
ボディサイズ:全長4380 全幅1845 全高1315mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1570kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2997cc
最高出力:298kW(405ps)/6400rpm
最大トルク:475Nm(48.4kgm)/1600-5600rpm
トランスミッション:6速MT/9速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前255/45R18 後245/45R18
車両本体価格(税込):524万1500円
【問い合わせ】
日産自動車お客さま相談センター
TEL 0120-315-232
【関連リンク】
日産自動車 公式サイト
LINE-UP
グレード | トランスミッションタイプ | 車両本体価格(税込) |
フェアレディZ | 6MT | 524万1500円 |
フェアレディZ Version S | 6MT | 606万3200円 |
フェアレディZ Version ST | 6MT | 646万2500円 |
フェアレディZ Proto Spec | 6MT | 696万6300円 |
フェアレディZ | 9MT-ATx | 524万1500円 |
フェアレディZ Version T | 9MT-ATx | 568万7000円 |
フェアレディZ Version ST | 9MT-ATx | 646万2500円 |
フェアレディZ Proto Spec | 9MT-ATx | 696万6300円 |