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本当に本物のモータースポーツ直系
自動車レースの最高峰、フォーミュラ・ワン世界選手権(F1)において、数々の栄冠に輝いてきたホンダ。近年ではレッドブル・レーシングにパワーユニットを供給し、2021年にマックス・フェルスタッペンがドライバーズチャンピオンを獲得、本格参戦を終了した。しかしホンダは2022年以降もホンダのパワーユニットを使用するレッドブル・レーシングに対して、ホンダ・レーシング(HRC=ホンダのモータースポーツ活動を担う会社)を通して2025年まで支援を継続する。
その結果レッドブル・レーシングは2022年にドライバーズチャンピオンとコンストラクターズチャンピオンのダブルタイトルを獲得。2023年も開幕から10連勝を飾っている(2023年7月1日現在)。そして2023年5月末、ホンダは2026年から再びF1へ本格参戦することを発表。アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チームに対してパワーユニットを供給するワークス契約を結んだ。参戦と撤退を繰り返してはいるが、ホンダとF1は切り離して考えることができない。それほどF1のイメージが強いホンダなのに、そのF1の技術をダイレクトに感じられるような、スーパーカーやハイパーカーはこれまで市販されていない。
せっかくF1に参戦し、輝かしい成績を残しているのに、そのイメージを体現するような市販車がないのだ。F1と関係が深いフェラーリやメルセデス・ベンツ、マクラーレンにはそのようなハイパーカーが存在するし、2009年に撤退したトヨタにすらレクサスLFAがあるのに……。NSXがあるじゃないかという向きもあるかもしれないが、初代も2代目も高性能なスポーツカーではあるけれど、そのハンドリングやエンジンレスポンス、シフトフィーリングなどに“フォーミュラ・ワン”は見いだせない。ホンダファンにとっては悲しい現実だ。
デスモセディチと異なる立ち位置
ところがバイクの世界となると様子が異なってくる。市販車ベースのレースへの参戦を前提としたホモロゲーションモデルに、ホンダのワークスマシンと同等の性能を与えられた市販車、楕円ピストンを採用したオンリーワンのロードバイクなど、ホンダは時折スーパーでハイパーなバイクをリリースしている。その最たるものが今回紹介する「RC213V-S」だ。
2015年に発売されたホンダのRC213V-Sは、MotoGPのワークスマシンRC213Vを公道走行できるようにした市販車である。2008年に発売されたドゥカティのMotoGPレプリカマシン「デスモセディチRR」と立ち位置が似ているように感じられるが、その成り立ちはまったく別物だ。
そもそもMotoGPクラスのマシンはプロトタイプが原則で、フレームとエンジンはレース専用とする純レーシングマシンで、四輪で言えばまさにフォーミュラ・ワン。デスモセディチRRにしても基本は市販ロードバイクであり、そのエンジンや車体などにMotoGPマシンの技術を投入して開発された、“レプリカ”マシンであった。それに対しRC213V-SはMotoGPマシンそのものをベースとして、公道走行に必要な最低限の改修が施された“本物”のMotoGPマシンなのだ。
基本デザインはMotoGPマシンと同じ
具体的な改修ポイントは、
① 一般的な環境下での整備のため、ニューマチックバルブ→コイルスプリング式バルブ、シームレストランスミッション→従来型のトランスミッションへ変更。
②公道走行するため、灯火器類、スピードメーター、ホーン、バックミラー、ナンバープレートホルダー、触媒付きマフラーの追加。
③公道走行時の実用性を確保するため、タイヤ、ブレーキディスク、ブレーキパッドなどの仕様やハンドル切れ角の変更。スマートキー機構やセルスターター、サイドスタンドの追加
といったもの。
マシンの根幹をなす、運動性能を高めるためマスの集中化が徹底的に図られたフレームや燃料タンク、スイングアームなどの基本形状や構成、材質、製法はMotoGPマシンを踏襲。専任の技術者によって高精度に製造、組み立てられている。公道走行のため外装類の細部は異なるが、基本デザインは同じだ。軽量で高剛性なカーボン製でMotoGPマシン同様のモノコック構造のシートカウルによってシートレールが廃されている。灯火器類などを外し、別売りのスポーツキットを装着してサーキット仕様にすれば、ワークスマシンRC213Vの世界に近い速度域と操縦フィールを体感できるという。
バイクとしては驚異的な2190万円という価格ではあったが、世界で初めてとなる公道仕様の本物のMotoGPマシンとしては破格のバーゲンプライスであった。まさにホンダにしか販売できないハイパーバイクである。世界中のどのメーカからも、今後このようなマシンは発売されないだろう。