【マクラーレン クロニクル】 初のアルティメット・シリーズ「マクラーレン P1」を解説

マクラーレン初のアルティメット・シリーズ「P1」が究極のモデルであるという理由【マクラーレン クロニクル】 

エンジン最高出力と最大トルクは、エンジンが737PSと720Nm、エレクトリックモーターは179PSと260Nmという数字で、システム全体では916PSの最高出力と900Nmの最大トルクを発揮することが可能。
エンジン最高出力と最大トルクは、エンジンが737PSと720Nm、エレクトリックモーターは179PSと260Nmという数字で、システム全体では916PSの最高出力と900Nmの最大トルクを発揮することが可能。
2012年のパリ・サロンで、そのプロトタイプが世界初公開され、翌2013年のジュネーブ・ショーでオフィシャル・デビューを飾ることになった「マクラーレン P1」。初のアルティメット・シリーズを解説する。

McLaren P1

マクラーレン自身にとって究極モデル

バッテリー及び電源を収めるハウジング、そしてマクラーレンが20世紀に生み出したスーパースポーツの最高傑作とも評される「F1ロードカー」との血筋を感じさせる。

マクラーレン「P1」の誕生は、マクラーレンのプロダクト・ポートフォリオに、新たに究極を意味する「アルティメット・シリーズ」が誕生した瞬間でもあった。生産台数はパリ・サロンの段階では500台ほどとコメントされていたが、ジュネーブではそれは375台に縮小され、希少価値がさらに高まったこともデビューの瞬間を見た者の大きな驚きだった。

MP4-12CのP11に続く、P12の社内コードを掲げて開発が進められたこのニューモデルが、なぜ「P1」のネーミングを得るに至ったのか。それはPのイニシャルがレースの世界を長く生き抜くとともに、数多くの勝利を獲得してきたマクラーレンにとって、きわめて重要な意味をいくつも持つからにほかならなかった。Position、あるいはPole、そしてPodium、その第一の場所は、常にマクラーレンのためにあるべきなのだ。

P1はアルティメット・シリーズという、マクラーレン自身にとっても究極作であり、また他社のライバルと比較してもその優位性は確かなものである。それをP1というシンプルなネーミングは表現しているのだ。

フランク・ステファンソンの手になるデザイン

自動車を構成するメカニズムや空力的な付加物などをシュリンクド・ラップ、すなわち可能なかぎり小さなデザイン要素で包み込むという哲学が用いられた。
自動車を構成するメカニズムや空力的な付加物などをシュリンクド・ラップ、すなわち可能なかぎり小さなデザイン要素で包み込むという哲学が用いられた。

じっさいにP1を見た者がまず魅了されたのは、もちろんそのスタイリングだったに違いない。当時マクラーレン・オートモーティブ社のデザイン部門を率いていたのは、BMWからそのキャリアをスタートさせ、その後フィアットグループへと移籍し、フェラーリではF430を、またマセラティではMC12をスタイリングしたことでも知られるフランク・ステファンソン氏、その人であった。2008年にマクラーレンへと活躍の場を求めた彼は、もちろんP1以前にデビューしたMP4-12Cでも手腕を奮い、マクラーレンのロードカー復活に大きく貢献した。

氏のデザインは、常に自然界にある創造物を強く意識して描かれている。それは生体模倣とも呼ばれるもので、自然界の動植物がその進化の過程で得たデザインを工業製品に採り入れていくという考えである。そして自動車を構成するメカニズムや空力的な付加物などをシュリンクド・ラップ、すなわち可能なかぎり小さなデザイン要素で包み込むという哲学が、優秀なエンジニアとともに、このP1では実現したと彼はP1のデビュー時に語った。

P1の基本構造体となっているのは、もちろんカーボン製のモノコックで、P1の時代は「モノケージ」と呼ばれた。タブやルーフを始め、エンジンエアインテーク、バッテリー及び電源を収めるハウジング、そしてマクラーレンが20世紀に生み出したスーパースポーツの最高傑作とも評される「F1ロードカー」との血筋を感じさせるルーフ・シュノーケルまでをも含めた、このモノコックの重量はわずかに90kg。もちろん当時のロードカーとしては史上最軽量レベルの数字である。

ゼロエミッション走行も可能

ミッドには3.8リッターV型8気筒ツインターボエンジンと高効率モーターが搭載される。最高出力と最大トルクは、エンジンが737PSと720Nm、エレクトリックモーターは179PSと260Nmという数字で、システム全体では916PSの最高出力と900Nmの最大トルクを発揮することが可能になる。組み合わされるトランスミッションは7速のSSG。ちなみにこのP1は、走行中の回生充電に加え約2時間の外部電源からの充電も可能。エレクトリックモーターのみによる、いわゆるゼロエミッション走行もわずかな数字ではあるが10km以上が可能とされる。

コクピットはマクラーレンの常で、機能性を重視したシンプルなもの。ただしこのP1のステアリングには重要なスイッチが左右に分かれてふたつ備えられている。それはF1由来の技術であるDRS(ドラッグ・リダクション・システム)と、エレクトリックモーターの動力をフルに発揮させるIPAS(インスタント・パワー・アシスト・システム)の各々がそれだ。

1000PS仕様の「P1GTR」も

「F1GTR」の生誕20周年を記念して登場した1000PS仕様の「P1GTR」。
「F1GTR」の生誕20周年を記念して登場した1000PS仕様の「P1GTR」。

前後のサスペンションは油圧で車高とスプリングレートを変化させるレース・アクティブ・シャシー・コントロール。これはMP4/12Cで採用されたプロアクティブ・シャシー・コントロールをさらに進化させたものだ。ブレーキはフロントに390㎜径、リアに380㎜径のベンチレーテッドディスクを、またタイヤサイズは各々245/35ZR19、315/30ZR20と前後異径の設定となっている。

走りは、やはり刺激的の一言に尽きる。0→100km/h加速は2.8秒、そして0→200km/h加速は6.8秒、0→300km/h加速を16.5秒で達成し、最終的に350km/hの最高速へと至る加速フィーリングはその象徴的な例だ。ニュルブルクリンク北コースでのラップタイムは、7分以下とのみマクラーレンからは発表されたP1。その後「F1GTR」の生誕20周年を記念して、1000PS仕様の「P1GTR」が登場したことや、さらにそのロードバージョンとなる「P1LM」が5台限定で販売されたことも、忘れてはならないP1シリーズでのトピックである。

写真はル・マン24時間を制した「F1GTR」。グランドエフェクトのためのさまざまな機構やエアブレーキとしての機能も果たす可変式リヤウイングなどの採用が認められない代わりに、リヤには大型のウイングを装着している。

モータースポーツの世界でも伝説となった「マクラーレン F1」の活躍を振り返る【マクラーレン クロニクル】

オンロードを走れるF1マシンと形容される「マクラーレンF1」。だがF1は、車両規定による制約がない分、逆に当時のF1マシンよりもはるかに進化した存在だったという。今も伝説のロードカーとして語り継がれる「F1」を2回に分けて解説する後編。

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…