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Aston Martin Valiant
38台にはアロンソ分も含まれる
「レーシングカーの要素を取り入れた『ヴァラー』が欲しい」というフェルナンド・アロンソのリクエストによって生まれたのが「アストンマーティン ヴァリアント」だ。アロンソは2001年にF1にデビューし、2005年に当時最年少でドライバーズチャンピオンに輝き、2回のF1ワールドチャンピオンを獲得した、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームのエースドライバーである。
43歳の今も現役のF1ドライバーとして君臨するレジェンドからのリクエストで誕生した、38台限定のスペシャルエディションの開発に関わったのは、ビスポークサービス部門である「Q by Aston Martin」のエキスパートたちだ。そのひとりであるサム・ベネッツ氏によるプレゼンテーションが東京・青山のThe House of Aston Martin Aoyamaで行われた。
前述のとおりベースとなるのは昨年のアストンマーティン110周年記念で誕生したヴァラーだ。1970年代後半に登場した「V8 ヴァンテージ」、あるいはそのヴァンテージをベースに仕立てられたル・マン24時間用レーシングカー「RHAM/1 マンチャー(Muncher)」からインスピレーションを得て開発されたヴァラーもまた、110台の限定車である。べネッツ氏によれば、ヴァリアントの限定38台はマンチャーのVINナンバーに由来するといい、ここにはアロンソ分も含まれるという。
ストウサーキットで仕上げたシャシー
ヴァリアントは、レーシングドライバーのオーダーだけあって、ヴァラー同様の公道仕様でありながらサーキット走行を強く意識している。その詳細はリンクの車両紹介記事をご覧いただきたいが、ざっくりと説明すると、最高出力745PS、最大トルク753Nmを発揮する5.2リッターV12エンジンに、ヴァラー同様ビスポークの6速MTを組み合わせたフロントエンジンリヤドライブのスポーツカーである。なお最高出力はヴァラーよりも30PSアップとなる。
このご時世に大排気量V12エンジンとマニュアルトランスミッションを組み合わせた好事家向けの限定車である。これまでにもアストンマーティンは、コレクション性の高いスペシャルエディションを生み出して来たが、これは極めつけの1台と言えるだろう。
ベネッツ氏によれば、ビスポーク仕様のシャシーは、英国シルバーストンサーキット内にあるテストコース、ストウサーキットで徹底的に仕上げたという。マルチマティック社製ASVダンパーとサーキットでのスポーツ走行性能を向上させるべくチューニングされた電子制御が特徴だ。
軽量化とエアロダイナミクス
カーボンファイバー製ボディで軽量化が施されたのはヴァラー同様だが、大型固定式リヤウイングやリヤディフューザーなどのエアロダイナミクスパーツでダウンフォースが増大している。サイドシル後方はフロントスプリッターと連携したボルテックスジェネレーターを備え、乱気流や空気抵抗を低減しているという。ホイールにはマンチャーにインスピレーションを得たというカーボン製ホイールカバーが備わる。
リヤサブフレームなどの主要コンポーネントに最新の3Dプリンターを使用。トルクチューブやホイールにマグネシウムを、エキゾーストパイプにチタンを採用したり、リチウムイオンバッテリーを搭載するなどした結果、仕様にもよるがヴァラーと比べて最大95kgの軽量化を達成したという。
ドライバー重視のインテリアも軽量化されており、剥き出しとなったシフトリンケージがレーシーな雰囲気を醸している。これは雰囲気だけでなくカチッとした節度感も大切にしたと言う。ステアリングホイールは近年流行のDシェイプではない。べネッツ氏によればこれはアロンソのこだわりで、真円のステアリングホイールにはいっさいスイッチ類が装備されない。
90%サーキット志向
ちなみにラゲッジスペースはほとんどないが、ヘルメット2つとシューズを2足入れるスペースがリヤハッチ内にあるという。これはヴァラーがその魅力の90%を公道で感じ、サーキットで10%体感できるとすれば、ヴァリアントは反対に90%をサーキットで、公道では10%となるというベネッツ氏のコメントを裏付けるものだ。
デリバリーは2024年第4四半期に開始予定だが、すでに38台はすべてオーナーが決まっているという。先のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでアロンソがヴァリアントをお披露目ドライブしており、その様子は近日中に動画が公開予定だというので、アロンソの表情からヴァリアントの仕上がりが確認できるだろうとべネッツ氏はプレゼンテーションを締め括った。