【ポルシェ年代記】964型「911」こそ当時のポルシェの救世主?

“今だに人気の空冷モデル”964型「911」こそポルシェの救世主だった?【ポルシェ年代記】

今でもファンの多い「964型911」。
今でもファンの多い「964型911」。
スポーツカーの代名詞、ポルシェ──。その主張に意を唱える人はいないだろう。これまでに多くのスポーツカーを生み出し、モータースポーツで勝利し、ファンのみならず多くのクルマ好きを楽しませてきたポルシェの歴史を振り返る。今回は今でもファンの多い964型911だ。

911(Type 964)Carrera 2 / Carrera 4 / Cabriolet / Targa / Turbo / Carrera RS(1989-1992)

“ブラックマンデー”を経て

1980年にCEOとして新たに就任したピーター・シュッツ。その肝入りで誕生した「911 SC カブリオレ」が北米市場を中心に大ヒットしたおかげで、911は再びポルシェにおける主力車種の地位を取り戻した。しかし、その好調の波は長くは続かなかった。

1987年10月にニューヨーク証券取引所で“ブラックマンデー”と呼ばれる史上最大の株価暴落劇が起き、それに伴う世界的不況は容赦なくポルシェも襲い、販売台数が激減した。928カブリオレなど市販直前だったいくつかのプロジェクトが潰れたほか、F1へのエンジン供給、グループCでのワークス活動も撤退を強いられ、ついには倒産を囁かれるほどの深刻な経営危機に直面した。

一方でヴァイザッハの技術陣は、その中でも911の開発を続けていた。特に「959」の開発を続ける中で4WDとともに空力性能の向上を重要視した彼らは、1984年に傾斜したヘッドライト、バンパーやリヤウインドウなど各部のスムージング、サイドスカートやリヤウイングなど、様々な改良でCd値0.27を記録したプロトタイプ「911 E19」を製作している。

そしてブラックマンデーを機に、水冷V8DOHCをリヤに積む4WDのフラッグシップ「965」の開発が凍結されると、ポルシェはそれらのリソースを次期911の開発に集約することを決定。こうして1989年に発表されたのが964型911であった。

911初のフルタイム4WDを採用

カレラ RS
カレラ RS

その最大のトピックは、市販911史上初めてフルタイム4WDシステムを搭載したカレラ4が追加されたことだ。しかし、それは959に採用されたコンピューター制御によるスチール製油圧多板クラッチを内包したフロントデフを介してトルクを自動で前輪に伝達する先進的なトルクスプリット式ではなかった。

ギアボックス先端に備わる遊星ギア式センターデフを介して前輪へ駆動を伝達し、その駆動配分をフロント31%、リヤ69%に固定したうえで、ABSセンサーがホイールスピンを感知すると、センターおよびリヤのデフを自動的にロックしてスピンしていないタイヤにトルクを伝えるデフロック機構と組み合わせるという、比較的プリミティブなものであった。

また4WDシステムを搭載するスペースを稼ぐために、サスペンションのスプリングを長年慣れ親しんだトーションバーからコイルへと変更した。セッティングの自由度が増したほか、911 E19での成果をもとにバンパー、アンダーフロア、ドアミラー、電動リヤスポイラーなど、新デザインを採用することで、Cd値が930の0.395から0.32へと大幅に改善している。

エンジンは排気量を3600ccへと拡大したうえ、シリンダーヘッドにポルシェ市販車史上初のツインプラグを採用するなど全面的に改良を施し、250PSを発生するM64型空冷フラット6 SOHCユニットを搭載した。

ボディはクーペ、タルガ、カブリオレの3種

AWDの「カレラ4」から販売をスタートした964は、1990年にRWDの「カレラ2」を追加。このカレラ2には、ZFやボッシュと共同開発した市販車初となるマニュアルモード付きトルコン4速AT“ティプトロニック”が用意されたのも、大きなトピックと言えた。

ボディはクーペに加え、タルガとカブリオレの3種類を設定。このうちクーペとカブリオレには1991年にワイドフェンダーをもつターボルック・ボディが用意されるようになる。

また1990年にワンメイクレースのカレラカップがスタートすると、翌年3月にリヤシート、パワーウインドウなどを撤去、薄肉ガラス、アルミフードなどを採用した軽量ボディに40mmローダウンした専用チューンのサスペンション、強化ブレーキ、専用デザインのマグネシウム製ホイール、クロスレシオの5速MT、そして軽量フライホイールを備え260PSを発生する3.6リッターユニットを搭載した「カレラ RS」を発表している。

様々な派生グレードの誕生

そして1991年には、1989年以来途絶えていた「911 ターボ」が復活。当初は930から引き継がれた320PSの3299ccユニットが搭載されていたが、1992年には380PSへチューンし、ボディの一部にカーボンを使用することで190kgの軽量化を果たした「ターボS」を80台限定で発売。続く1993年モデルからは、本命というべき最高出力360PSを誇る3600ccユニットが搭載された911 ターボが販売されるようになる。

そのほか1993年にはRS3.6の進化系として、ターボボディをベースに2段式大型ウイングを備え、300PSの3746ccユニットを搭載したGTレース用の「カレラ RS 3.8」、そしてシリーズの最後を飾るモデルとしてカレラ2をベースにした「スピードスター」が登場する。こうして再び911をスポーツカーリーグの最前線に押し戻した964は、5年間で合計6万3762台が生産され、911の命脈を保った。

現代にも連なる“ターボ”はどのように始まったのか?「911 ターボ」草創期【ポルシェ年代記】

スポーツカーの代名詞、ポルシェ──。その主張に意を唱える人はいないだろう。これまでに多くのスポーツカーを生み出し、モータースポーツで勝利し、ファンのみならず多くのクルマ好きを楽しませてきたポルシェの歴史を振り返る。今回は今やEVの「タイカン」にも与えられる特別なグレード名「ターボ」を紹介する。

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藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…