【フェラーリ名鑑】独自のスタイリングでロングセラーとなった400シリーズ

今見ると直線基調のデザインが斬新な2+2GTフェラーリ「400シリーズ」とは(1972-1985)【フェラーリ名鑑:18】

【フェラーリ名鑑:18】独自のスタイリングでロングセラーとなった400シリーズ
2+2シーターモデルとして1970年代から80年代にかけて人気を博した400シリーズを解説。
根強い人気を誇ったフェラーリの2+2シーターモデルは、1972年にデビューした「365 GT/4 2+2」で大幅なイメージチェンジを果たす。ピニンファリーナによる直線基調のスタイリングをもつ通称「400シリーズ」は、排ガス規制に翻弄されながらもロングセラーになった。

Ferrari 400 Series

17年間にも渡って継続された直線的なデザイン

エッジの立った直線的なエクステリアを手掛けたのはピニンファリーナ。写真は1972年にデビューし、後の400シリーズの祖となる365GT/4 2+2。

フェラーリにとって高性能をセールスポイントとする2シーターモデルは、確かにその中心にあるべきものが、一方でエレガントな2+2のキャビンをもつモデルの存在も上流社会には広く知られていた。もちろんその歴史は古く、最初のモデルとなったのは1948年に誕生した166 インテル。つまり創業初期からフェラーリの2+2を求めるカスタマーは確実に存在していたのは間違いない。

ここまでにも2+2モデルをいくつか紹介してきたが、今回解説するのは1972年に発表された「365 GT/4 2+2」以降のモデルだ。ピニンファリーナが手がけた直線的なボディデザインは、未だに鮮明な記憶として残っている人もいるかもしれない。その前身となる365 GT 2+2は1967年のデビューで、1965年に発表された330 GT 2+2の搭載エンジンをベースに排気量を拡大した、いわばマイナーチェンジ版ともいえるものだったから、ボディデザインそのものを一新した365 GT/4 2+2のデビューがもたらした衝撃は相当に大きなものだった。

搭載されるエンジンは340PSの最高出力を発揮する4390cc仕様のV型12気筒と、365 GT 2+2とほぼ変わらなかったものの、DOHC4バルブの採用などにより実用域でも扱いやすいトルクフルなエンジンにリニューアルされていた。キャビンはブラックを基調色とするもので、センターコンソールなどにはウッドパネルを使用するなど、GT(グランツーリスモ)としてのラグジュアリー性も主張している。

オートマティックの追加、そして排ガス規制

1979年式400 オートマティック i。車名の「i」が示すように燃料供給にはインジェクションが採用されている。

1976年には、さらに高性能版となる「400」、そして「400 オートマティック」が発表される。これは搭載エンジンを4823ccに拡大し、さらに5速MTのほかに3速ATの選択を可能とした正常進化版である。ちなみに3速AT仕様でも、その加速はレブリミットの6500rpmまで、1速なら98km/h、2速なら164km/h、3速では240km/hに到達でき、0-400m加速データは、MTが14.8秒、ATが14.9秒と、ほとんど変化のない数字を達成していた。

しかし、365 GT/4 2+2、そして400、400 オートマティックは、当然ながらアメリカ市場を中心に大きな成功を収めたが、1970年代中盤には高性能車に排出ガス規制が重くのしかかるようになる。それはフェラーリにとっても同様で、その対応を強いられることになった。

400 オートマティック iに搭載されたボッシュのKジェトロを採用した4.8リッターV12エンジン。最高出力は310~315PSを発揮する。

唯一の解決策といえたのは、ほかのモデルと同様に燃料供給を電子燃料噴射に変更すること。すでに4823ccにまで排気量が増加していたV型12気筒エンジンは340PSを発揮していたが、このスペックを維持できるかどうかが、フェラーリにとって大きな問題だった。

結果、フェラーリは1979年に誕生した「400 i」で、その車名が物語るように電子燃料噴射システム(ボッシュ製Kジェトロニック)を採用するが、最終的に最高出力は315PSに、さらにキャタライザーを必要とする市場では310PSにまでスペックシートの数字は下がってしまった。

排気量を拡大してパワーを取り戻した最終型「412」

1985年にリリースされた412。車名は気筒あたりの排気量(4943cc÷12気筒=411.9cc)を示す。

365 GT 2+2に始まる一連の2+2モデルのラストを受け持ったのは、1985年から1989年まで生産された「412」だ。V型12気筒エンジンの排気量を4943ccに拡大し、9.6の圧縮比から340PSの最高出力を発揮。装備や機能の充実も図られている。またこの412という車名は再び気筒あたりの排気量とされているから話はややこしくなる。

約17年にもわたってカスタマーに親しまれた直線的なスタイルをもつ“2+2”フェラーリ。それはその後に誕生するモデル達と比較しても、独特な美しさと個性を持ち合わせたクーペだった。そしてこれらのモデルが開拓した市場は、ここから456 GTシリーズ、612 スカリエッティへと受け継がれていくことになる。

SPECIFICATIONS

フェラーリ 365 GT/4 2+2

年式:1972年
エンジン:60度V型12気筒DOHC
排気量:4390cc
最高出力:250kW(340hp)/6200rpm
乾燥重量:1500kg
最高速度:245km/h

フェラーリ 400 GT/400 オートマティック

年式:1976年
エンジン:60度V型12気筒DOHC
排気量:4823cc
最高出力:250kW(340hp)/6500rpm
乾燥重量:1700kg
最高速度:245km/h(MT)/240km/h(AT)

フェラーリ 400 GTi/400 オートマティック i

年式:1979年
エンジン:60度V型12気筒DOHC
排気量:4823cc
最高出力:228kW(310hp)/6500rpm
乾燥重量:1830kg
最高速度:245km/h(MT)/240km/h(AT)

フェラーリ 412

年式:1985年
エンジン:60度V型12気筒DOHC
排気量:4943cc
最高出力:250kW(340hp)/6000rpm
乾燥重量:1805kg(MT)/1810kg(AT)
最高速度:250km/h(MT)/245km/h(AT)

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…