【フェラーリ名鑑】バブルを象徴する「赤頭」と「サイドフィン」をもつフェラーリ

当時圧倒的なワイド感の「テスタロッサ」が生んだ興奮とは?(1984-1994)【フェラーリ名鑑:17】

【フェラーリ名鑑:17】バブルを象徴する「赤頭」と「サイドフィン」をもったフェラーリ
フェラーリの一時代を築いたレーシングカーから車名を受け継いだ「テスタロッサ」。今なおそのアピアランスは際立っている。
スーパースポーツカーのカテゴリーで数々のエポックメイキングを成してきたフェラーリだが、ことデザイン面でこれほどセンセーショナルだったモデルはないだろう。180度V12エンジンをミッドに積み、リヤフェンダーを大胆に張り出してサイドフィンを与えた「テスタロッサ」にフォーカスする。

Ferrari Testarossa

1984年の衝撃「テスタロッサ」誕生

1984年のパリ・サロンで発表されたフェラーリ テスタロッサ。その前衛的なデザインは喝采を浴びた。

1970年代から1980年代にかけて厳しい排出ガス規制の中で、BBシリーズを進化させてきたフェラーリ。しかし、もはやBBシリーズのマイナーチェンジでは、スーパースポーツとしての進化を続けることはできないと判断したのだろう、1984年のパリ・サロンでフェラーリは新型12気筒ベルリネッタとなる「テスタロッサ」を発表する。ちなみにこの年のジュネーブ・ショーでは「288 GTO」の発表も行われているからフェラーリのファンにとっては特別な感情が抱かれるネーミングが続々に復活したということにもなる。

1950年代のスポーツカーチャンピオンシップを戦うためにフェラーリが開発した、かつての250 TR(テスタロッサ)に関してはすでに解説しているので、ここではその話は省略して、ロードモデルとして1980年代に復活したテスタロッサの話を進めよう。

美しくも迫力のボディサイズ

張り出したリヤフェンダーやボディサイドに付されたフィンなど、これまでの常識を覆すエクステリアデザインを採用。中でもこのサイドフィンはたちまちトレンドになった。

正確にはパリ・サロン開幕の前夜、パリ市内で行われたワールド・プレミア・イベントに姿を現したテスタロッサは、見る者の言葉を一瞬で失わせるほどに美しく、そしてエレガントな造形を実現したものだった。その時、わずかな沈黙の後に起きたのは、これまで耳にしたことのないほどの歓声と拍手。テスタロッサのボディは、もちろんピニンファリーナの手によるものだが、これまでのフェラーリには見られなかった大胆なボディサイドのスリットや、前後方向に流れるラインの抑揚などは現代の目で見ても十分に魅力的に思える。

さらに驚かされるのは、全長×全幅×全高で4485×1975×1130mmというボディサイズだ。特に全幅は、BBのそれから140mmも拡大されており、当時リヤフェンダーなどは相当なボリュームに感じたものだが、近年のスーパースポーツと比較すると、このテスタロッサでさえもコンパクトに見えるようになってしまった。ちなみにウエイトは、BBシリーズ最終型となる512 BBiから74kg減の1506kgと、軽量化も実現している。

512 BBi譲りの180度V型12気筒エンジンを搭載

ミッドに搭載されるエンジンは、BBシリーズと同様に180度V型12気筒DOHC。4943ccという排気量も512 BBiから変わらないが、DOHC4バルブヘッドを得たことが最大の特徴だろう。シリンダーヘッドは180度V型12気筒というエンジン形式の関係から、はっきりとその全体像を目視するのは難しいが、吸気システムにも同様に赤い結晶塗装が施されている。

燃料供給は1987年半ばまでの前期型はボッシュ製Kジェトロニック、それに続く後期型はKEジェトロニックを採用しているが、最高出力はいずれも390PSと変わりはない。組み合わせられるトランスミッションは5速MTのみ。搭載方法もBBと変わらず、エンジンの直下にこのギヤボックスが配置される仕組みになっている。

キャビンは現代のモデルと比較すると、直線的なデザインが強く印象に残るが、居住スペースの拡大などによって室内の雰囲気はBBより、はるかにラグジュアリーに感じられるようになったのも特徴だろう。

428PSにパワーアップした「512 TR」

排気量はそのままにパワーアップを果たして1991年にリリースされた512 TR。

テスタロッサが初のマイナーチェンジを受けるのは1991年のことだ。LAモーターショー、そしてビバリー・ヒルズで発表イベントを行ったのは、いかにもフェラーリらしく、また最大の市場となることを狙ってだろう。

「512 TR」とネーミングされたその新型は、エンジンを同排気量としたまま428PSに強化。サスペンションのチューニングやシフトレバーにボールベアリングを新採用したほか、タイヤとホイールをテスタロッサの16インチ径から18インチ径に拡大するなど、積極的なチューニングを実施。フレームもこの512 TRからは一体式に改められている。

12気筒ミッドシップ最終型「F512 M」

1994年にデビューしたテスタロッサシリーズの最終型、F512 M。エクステリアでは固定式となったヘッドライトが目立つ。

そして、テスタロッサ世代の最終モデルは1994年デビューの「F512 M」。リトラクタブルヘッドランプは固定式に変更され、ミッドのV型12気筒エンジンは440PSを得るに至った。180度V型12気筒エンジンをミッドに搭載するモデルは、このF512Mが最後となる。

365GT/4 BBの誕生からF512 Mの生産終了まで20年以上にわたり造り続けられてきた12気筒ミッドシップ。その後は、特別なモデルにのみ与えられるレイアウトとなっていく。

SPECIFICATIONS

フェラーリ テスタロッサ

年式:1984年
エンジン:180度V型12気筒DOHC
排気量:4943cc
最高出力:287kW(390hp)/6300rpm
乾燥重量:1506kg
最高速度:290km/h

フェラーリ 512 TR

年式:1991年
エンジン:180度V型12気筒DOHC
排気量:4943cc
最高出力:315kW(428hp)/6750rpm
乾燥重量:1473kg
最高速度:313.8km/h

フェラーリ F512 M

年式:1994年
エンジン:180度V型12気筒DOHC
排気量:4943cc
最高出力:324kW(440hp)/6750rpm
乾燥重量:1455kg
最高速度:315km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…