ハイブリッドシステムで新たな境地に到達したフェラーリ SF90 ストラダーレを国内試乗!

フェラーリのハイブリッド、SF90 ストラダーレで味わう「正気の中の狂気」!

フェラーリ SF90 ストラダーレの走行シーン
フェラーリ SF90 ストラダーレの走行シーン
スーパースポーツカーの世界にも電動化の流れが押し寄せてきている。フェラーリが2019年に発表したSF90 ストラダーレはV8と3モーターを組み合わせ、1000psを達成したスーパーマシンである。ついに日本に上陸した新時代フェラーリを試す。

Ferrari SF90 Stradale

フェラーリのまったく新しいチャレンジとなるSF90

試乗コースは東京・六本木ヒルズをスタートして箱根までを往復、というものだった。もちろん一般道での試乗なのだが、ボクは非常に緊張感に満ちていた。その理由は当然、1000psを超える超強力なパワーユニットが搭載されたマシンだからだ。

フェラーリの最新鋭、SF90 ストラダーレ(以下SF90)は780psを発揮する4.0リッターのV8ツインターボエンジンをミッドに搭載し、さらにエンジンと8速DCTの間に1基、フロントに2基、トータル220psのモーターが加わる。最大約25kmのEV走行を可能とし、フロントは左右独立したモーターによるトルクベクタリングも行うという、フェラーリとしてまったく新しいチャレンジとなる1台なのである。しかも価格は5340万円、試乗車両はさらにプラス631万4000円というアセットフィオラーノ仕様である。パワーも価格も最高峰で、緊張するなという方が無理だ。

一般道をほぼ電気モーターのみで走りきる

フェラーリ SF90 ストラダーレのフロントスタイル
試乗車両はアセットフィオラーノを装着して多くのパーツがカーボン製となり、ボディにホワイトのストライプが入る。

操作系も従来とはかなり異なっており、最初にコクピットドリルを受けたが、一発で覚えるのはなかなか難しい。それでもポジションを合わせ、まずは東京の街中を「ハイブリッド」モードで走ってみた。

すると驚くほど自然な走り味に感嘆する。アクセルの動きに対するモーターのレスポンスもとてもスムーズで、違和感はまったくない。首都高速道路に乗るまでの約15分間では結局エンジンがかかることがなく、モーターだけで走り切ってしまった。ハイブリッドモードとはいえパワー的に必要がなければ極力エンジンは使わない設定のようだ。

内燃機と3モーターが奏でるジェントルなフィーリング

フェラーリ SF90 ストラダーレのエンジン
驚くほど低い位置に搭載されるV8ツインターボは488ピスタと同じ名機F154。後退はモーターで行うので8速DCTにリバースギヤはない。

eマネッティーノは「エレクトリック」、「ハイブリッド」、「パフォーマンス」、「クオリファイ」の4モードが選択できる。「エレクトリック」はフロントモーターによるEV走行モード、デフォルトの「ハイブリッド」はエンジンがオンデマンドでアシストする。つまりEV走行のSF90はフェラーリ初のFFなのだ。

「パフォーマンス」はエンジンが常に稼働し、バッテリーの充電レベルを最大化する。そして「クオリファイ」はエンジンと3基のモーターが最大性能を発揮する。今回は一般道なので「クオリファイ」の使用禁止を言い渡されていた。なので高速道路に乗ったところで「パフォーマンス」を選択してみる。だが法定速度レベルの走行では8速DCTもすぐにシフトアップし、低い回転でのクルージングとなる。街中での走りもそうだったが、SF90はかなり大人のクルマという印象である。

F1のようにステアリング周りでほぼすべての操作を完結

フェラーリ SF90 ストラダーレのインテリア
タッチパッドとタッチスイッチを採用したステアリングにより、ほとんどの操作がステアリング上で可能。ヘッドアップディスプレイも装備される。

運転にやや慣れてくると、ステアリング周りに多くのスイッチが集約されていることのメリットを実感する。運転に必要な操作のほとんどをここで行うことができるので、前方の視線を逸らすことなく運転に集中しながら操作を行えるのだ。それはフェラーリのドライバーがレースをしながらステアリングのスイッチを操作しているF1のオンボードカメラの映像を思い出させてくれる。

前方が空いたところでやや強めにアクセルを開けてみると、SF90は大人から野獣に変貌した。エンジンとモーターが連動し、アクセル操作に対して素晴らしいレスポンスで強烈なパワーとトルクを発揮する。アクセル操作に対する遅れはゼロで、瞬間に強烈な加速に移る。とにかく反応とトルク&パワーの出方が強烈に刺激的である。また加速をしていく最後の1000rpmくらいで、もう一段強烈な加速が待っているのだ。正直、今まで様々なハイパワーなマシンに乗った経験があり、多少のことでは驚かない自信があったのだが、このパワーユニットはそれをはるかに上回る異次元なものであった。

モーターによるトルクベクタリングが大パワーを制御

フェラーリ SF90 ストラダーレのメーター
エレクトリックモード時のメーター表示。エンジンとモーターの作動状況もグラフィックに表示される。

箱根のワインディングを走ってみると、ステアリングレスポンスの素早さとリニアさは感動するほど。この楽しさと安心感を生み出しているのがモーターによるトルクベクタリングの4輪駆動システムだ。もしもこれがリヤ駆動なら、あまりのハイパワーにボクでもまともにコントロールできないであろうが、SF90は特にフロントがしっかり上手に左右トルクを制御して完璧にトラクションやグリップをコントロールしてくれる。

もちろんハイパワーによるスリップも発生するのだが、それでも怖さはなく安心感があった。4輪の制御コントロールが現代のトップレベルであるからこそ実現できている走りだ。さらに従来に対して曲げ剛性を20%、捻り剛性を40%高めたというボディ剛性の高さや、重心の低さ、また優れたエアロダイナミクスも影響しているのだろう。また好印象だったのがブレーキで、回生ブレーキ特有の違和感がまるでなく、普通のブレーキであるかのような自然なフィールだった。

普段は上品な大人のスポーツカーだが、その気になれば「狂気」を見せる

フェラーリ SF90 ストラダーレの走行シーン
スクエア形状のテールライトが印象的。ディフューザーの形状を阻害しないよう、マフラーは上に配置される。ルーバーの空いたリヤスクリーンはレキサン製。リヤウイングはハイスピードやブレーキング時に中央部が後端を軸にして下がる。これによりダウンフォースは80kg増大する。

普段のSF90は上品な大人のスポーツカー。そしてドライバーがその気になればいつでも「狂気」を見せてくれるのだが、それを「正気」に感じさせるところが凄い。この反応の速さやダイレクト感は、私が昔すべての情熱をかけていたフォーミュラマシンを思い起こさせる。

今回は全開試乗ではないので、このマシンが本来持つ深い部分まで確認することはできなかったが、それを差し引いてもこのクルマの潜在的パフォーマンスの高さは十分理解することができた。

流石はフェラーリがF1の名前を与えたマシンだ。

REPORT/田中哲也(Tetsuya TANAKA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)

【SPECIFICATIONS】
フェラーリ SF90 ストラダーレ
ボディサイズ:全長4710 全幅1972 全高1186mm
ホイールベース:2650mm
乾燥重量:1570kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
排気量:3990cc
最高出力:233kW(780ps)/7500rpm
最大トルク:800Nm(40.8kgm)/6000rpm
モーター最高出力:162kW(220ps)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前255/35ZR20(9.5J) 後315/30ZR20(11.5J)
最高速度:340km/h
0-100km/h加速:2.5秒
車両本体価格(税込):5340万円

【関連リンク】
・フェラーリ・ジャパン 公式サイト
https://www.ferrari.com/ja-JP

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