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そもそもPHEVとはなにか
欧州自動車メーカーのバッテリーEV(BEV)が続々と日本市場に上陸している。だが、航続距離などの性能や充電の問題から、まだまだBEVを現実のものと捉えられないのが実態ではないだろうか。先日、とある新型BEV試乗会で、運営スタッフが「メディアでも急速充電器に触れたことがないという人が多くて驚いた」と証言していた。短時間の試乗でBEVの素晴らしさを唱えても不安の解消には至らないだろう。
その点、プラグインハイブリッド(PHEV)は、これも欧州自動車メーカーが続々と日本市場に導入しているが、かなり現実的な電動車だ。PHEVはエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車(HEV)をベースに、数十km程度のEV走行ができる外部充電可能なバッテリーを搭載した一部電動車だ。BEVは電気をほぼ使いっぱなし(回生ブレーキで多少充電できるとはいえ)だが、PHEVは走行中にエンジンをかけることで充電可能だ。
多くのPHEVには走行状況やドライバーの都合に応じて、複数のドライブモードが用意される。「スポーツ」モードなど、走行の性格を変えるモノもあるが、ここでは通常走行の「ハイブリッド」モードとバッテリーを蓄える「チャージ」モードに注目したい。たとえば高速道路など、モーター走行よりエンジンによる走行がエネルギー効率で有利な場面では、チャージモードを使って積極的に充電し、渋滞する市街地に入ったらハイブリッドモードに切り替えて、EV走行で燃費を稼ぐ。モードを使いこなすことで、総合燃費が伸びるかもしれない。その攻略法を検証するのだ。
ディスコスポーツのハイブリッドは3モード
検証はランドローバーのPHEV「ディスカバリースポーツP300e」(愛称:ディスコスポーツ)で行った。昨年までの輸入ブランドPHEVの多くは、ハイブリッドモードやEVモードは備わるものの、チャージモードの備わらないモデルが多かった(ゲンロクWeb調べ)。しかしディスコスポーツには「HYBRID」「EV」のほか、チャージモードに値する「SAVE」で都合3モードが設定されていた。
ディスコスポーツは横置きエンジンのCセグベースSUVだ。2020年に登場した「P300e PHEV」は、最高出力200PSを発揮する1.5リッター直3ターボエンジンに、同じく最高出力109PSを発揮するモーターを組み合わせ、システム最高出力309PSを誇る。モーターはリヤアクスルに搭載され、エンジンでフロントをモーターでリヤを駆動するAWDだ。変速機は8速ATで他のグレードの9速ATよりも1段少ない。
早くも目論見崩れる
PHEVに搭載されるバッテリーはBEVと較べて電力量が小さい。今回のディスカバリースポーツPHEVのバッテリーは15kWhでEV航続距離62kmだが、たとえば同じセグメントのBEV「メルセデス・ベンツEQA」は66.5kWh、航続距離422kmだ。もちろんBEVは走行中に充電できないがPHEVはできる。
借り出し直後、トリップ計は0.0kmでバッテリー残量はこの時点で94%EV走行可能距離は45kmだった。燃料とバッテリーの合計走行可能距離は521kmと表示されている。これが満タン状態から1タンクで走れる距離ということになる。これらの数値を観察しながら、「HYBRID」と「SAVE」を使い分けて、どのように走ると効率がいいのか研究してみよう。今回「EV」モードは使用しなかったが、ちなみにディスコスポーツのEVモード最高速は135km/hというから、1ミリリットルも燃料を消費したくなければバッテリーの続く限り走れる。
今回のルートは高速道路を中心に230kmほど走行する予定だ。東名高速を東京から名古屋方面に向けて、まずはHYBRIDモードを選択し、ACCを100km/hにセットして走り出す。渋滞の首都高など低速域は後輪モーター走行、加速時はエンジンがかかり、流れがよくなり巡航する時はほぼエンジンで走行していた。トリップ計で56.5km走ったところで走行可能距離は452kmになった。約60kmも減ってしまった。一方バッテリー残量も56%まで低下して、EV走行可能距離は19km減って26kmに。これまで走ったトリップと燃料とバッテリーで走行可能な距離を合算する1タンクの総走行可能距離は約508kmとなる。ボードコンピューターの燃費も9.2km/リットルと、WLTCモード燃費の12.4km/リットルに遠く及ばない。序盤に渋滞があったとはいえ、いきなり目論見が崩れた感じだ。
高速道路はSAVEモードを選ぶしかない
ここでSAVEモードに切り替える。エンジンは常時かかっているが、高速走行中はバッテリーを使ったモーター駆動よりも、ガソリンを燃やしてエンジンで走る方が効率的だ。そのついでに充電するように制御してくれるはず。はたしてバッテリーに電力はどれくらい溜まるのだろうか?
SAVEモードで57.4km(トリップ=113.9km)走って、往路の目的地に到着した。バッテリー残量は20%も増えて76%、EV走行可能距離は8km増えて34kmになった。トリップ計と走行可能距離を合算する1タンク総走行可能距離は約522kmでバッテリーを充電しながら57.4km走っても44kmしか減らずスタート時点の状態に戻した。しかしボードコンピューターの燃費は9.2km/リットルで変化は無かった。謎である。ともあれ高速巡航になったらSAVEモードは有効のようだ。
復路は、そのままSAVEモードで52.2km(トリップ=166.1km)走ったが、バッテリー残量は78%(EV走行可能距離36km)までしか回復しなかった。どうやら80%あたりがエンジンでSAVEモードで充電可能なバッテリー残量の最大値のようだ。1タンク総走行可能距離を計算すると約538kmで走行開始時と較べて17kmほども伸びていた。やはり高速走行時のSAVEモードによる充電はほとんど燃費に影響しないのかもしれない。むしろボードコンピューターの燃費は9.9km/リットルにまで伸びたほどだった。まあSAVEモードでなかったらもっと伸びていた可能性は否定できない。
HYBRIDモードは市街地で使用しよう
最後は、ふたたびHYBRIDモードにする。多少の渋滞はあったものの流れはまずまず順調だ。67.9km走行(総距離234km)したところで編集部のある新宿に到着した。この時点でバッテリー残は25%(EV走行可能距離13km)だった。ゴール地点での1タンク総走行可能距離は約550kmとなったので、テスト開始時と較べると30km近く伸びたことになる(EV走行可能距離の減りを考えるとむしろマイナスだが……)。ボードコンピューターでの燃費はHYBRIDモードにしたことで1km/リットル伸びて、10.9km/リットルとなった。
というわけでやはり仮説は正しく、高速道路走行時にはSAVEモードで燃費を稼ぎ、市街地や渋滞の高速道路ではHYBRIDモードを積極的に選択すると良さそうだ。もしも車両側がナビと連動して、渋滞や市街地に向けてHYBRIDモードとSAVEモードをスケジュールしてくれれば楽ちんだが、今のところはドライバーが自ら運転計画を立てて、モードを選択していくしかない。今回はPHEV検証の初テストだったので、次回はもう少し系統立ててテストしてみたい。アップダウンや標高や気温などもこだわるとさらに精度の高い検証ができるかもしれない。
古くはトランスミッションやヘッドライト、最近では追従クルーズコントロールなどのように、クルマがオートで作動してくれて、ドライバーが操作するべき機能は減っている。このテストを通じて、今回のPHEVのモード選択のような、マクロ的運転計画に基づいた操作がドライバーに求められる時代が来ているのかもと感じさせた。