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Lamborghini Mid Engine V12
とうとう“一般的”になった縦置きレイアウト
L539からL545へ。ランボルギーニのフラッグシップエンジンであるV12が世代交代し、サンターガタが繰り出すスーパーカー史上最大の転機をもたらした。ついに電動化されたから、ではない。カウンタック以来、ランボルギーニらしいスタイリングを決定づけてきた縦置きパワートレインの向きがとうとう“一般的”になったからだ。重いリチウムイオンバッテリーと小さなDCTの“おかげ”で……。
新型フラッグシップであるレヴエルトの性能は間違いなくアヴェンタドールを大幅に上回ってくる。すでに公表されている加速スペックだけを見ても明らかだ。高回転型のL545エンジンもまた、いっそう官能的な咆哮を上げてくれるに違いない。
けれどもその一方で、カウンタック由来の逆向きLPスタンツァーニレイアウトを引き継ぎ、ピュアな自然吸気の12シリンダーエンジンを積んでダイレクトなシングルクラッチシステムを組み合わせ、ハードなプッシュロッドサスペンションを持った今や“旧世代”のアヴェンタドールには、絶対的なパフォーマンスだけで表しきれぬ魅力があるとして、今後ますますその価値を増していくように思う。レヴエルトが成功すればするほど、アヴェンタドールの注目度も高まっていく。ムルシエラゴが、ディアブロが、そしてカウンタックがそうであったように。
轟音と共に目を覚ますV12自然吸気
都内と横浜にてランボルギーニ正規ディーラーを営むボロネーゼ社(スカイグループ)から拝借した前期型クーペ(2015年式LP700-4)を久々に駆ってみて、改めてアヴェンタドールの名車ぶりに気づいた。それは、次世代モデルの高い性能云々に関わらず、現時点ですでに不動のスーパースターというべき存在だと確信する。
その核心はもちろん6.5リッターのV12自然吸気エンジンだ。赤いカバーを指でポンと跳ね上げ、ボタンスイッチながらクランキングを確かめるようにスターターを押せば、L539は極めてユニークな、車体後方の軽量物をすべて吹き飛ばすかのような轟音と共に目を覚ます。
右のパドルシフトを引いて、ゆっくりと走り出す。最初はちょっと重々しく感じるかもしれない。けれどもそれは決してエンジンがダルだとか車体が重いからではない。どちらかというと右足に直結するドライバーの心が重苦しくなっているだけだ。これからドライブするという段になって、勝手に恐る恐るという感覚になってしまう。大排気量自然吸気マルチシリンダーエンジンの息遣いがそうさせるのだ。
どこまでも回るような精緻な回転フィール
ダイレクトな変速フィールに慣れているオーナーであれば、もはや恐れを抱くこともなく、4気筒をマニュアルで操っているような感覚でドライブできるに違いない。少なくとも前期型の、余計なエアロデバイスの見えないフルノーマル個体であれば、それくらいの気安さがあった。ポルシェ・ケイマンを転がすような気持ちで普段使いできそうなのだ。
とはいえこのエンジンの真骨頂は“回してナンボ”にあった。販売車両ということで多少遠慮しつつ高回転域を楽しんでみる。前オーナーによってよく躾けられたのだろう。1万km台の走行距離にも関わらず、素晴らしくスムーズで力強いエンジンフィールを楽しませてくれた。回転が上がるにつれて機械としての精密度もまた上がっていく。速度と共にどこまでも回っていくような精緻な回転フィールこそ、このエンジン最大の魅力であったと思い出す。
60年を締めくくるに相応しい
そしてスタンツァーニのLPレイアウトはカウンタック以来となるデザインの奇跡をも生み出していたのだと思う。改めて観察してみれば、初期型アヴェンタドールのスタイリングにはカウンタック的シルエットにミウラ的グラマラスを融合させ、そのインテリアにはフェルッチョが目指したラグジュアリーカー的な雰囲気が漂い、つまりはランボルギーニ60年の歴史がすべて盛り込まれていたのだ。そのシンプルで味わい深い格好良さだけは、固定式のエアロデバイスをもたない初期型でなければ決して味わうことができない。
2つの意味でアヴェンタドールは素晴らしい。ピュアV12のスタンツァーニレイアウトと、その必然によって生まれた21世紀最高のスーパーカーデザインだ。ランボルギーニの60年を締めくくるに相応しいフラッグシップモデルでもあった。
REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年10月号
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ランボルギーニ 麻布
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