最高出力625PSのSUV「BMW X6 Mコンペティション」に試乗

625PSの真正M「BMW X6 Mコンペティション」に試乗して最高出力以外の魅力に大いに打ちのめされた

BMWが誇るスポーツSUVクーペ、X6 Mがマイナーチェンジを果たした。精悍なフロント&リヤスタイルの意匠を採用したほか、新たに48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載したのが特徴だ。その走りはスーパースポーツに比肩するものだった。(GENROQ 2023年12月号より転載・再構成)

BMW X6 M Competition

真正”M”のこだわり

長らくBMWの旗艦SUVクーペの座を守ってきたX6が(X5ともに)マイナーチェンジを受けた。X6シリーズ全体としては“矢印型”のデイタイムライトを内蔵したヘッドライトや大型フロントバンパーが新しい。インテリアは先に改良されたX7に準じるもので、12.3インチ+14.9インチのTFT液晶を一体化したカーブドディスプレイ、アンビエントライトバーを内蔵した新意匠のダッシュボードなどが目に入る。そして、メカニズム面では、各エンジンのピーク性能に変わりはないものの、12‌PS/200Nmを発揮する48Vマイルドハイブリッド(MHEV)が全車に追加された。

さらに、X6シリーズとしてはシフトセレクターも場所を取らないツマミ型に変更された……のだが、今回の取材車はそのかぎりでなく、見慣れたレバーが残る。ツマミ式セレクターが最新BMWのお約束なら、その中でシフトレバーをあえて残すのは、今回のX6Mコンペティション(以下、X6M)を含めた「真正M」のこだわりというわけだ。

新しいX6Mに搭載される4.4リッターV8ツインターボも、最高出力と最大トルクの数値は従来と寸分変わりない。ただ、その発生回転レンジが微妙に狭くなったのは排ガスや騒音規制への対応のためだろうか。

野獣の如く今どき後輪操

現在、このX6Mを含めた真正MにはMハイパフォーマンスモデルという呼称が与えられている。その下にはハイがつかないMパフォーマンスモデルが用意されて、グレード名は「M〇〇i」となる。新しいX6でいえばM60iがそれにあたる。

X6ではMもM60iも、ともにS68型=4.4リッターV8ツインターボエンジンを積み、750Nmという最大トルク値も選ぶところはない。ただ、X6Mではレブリミットが1000rpm上乗せされる。これが真正Mの聖域というわけだが、結果として最高出力もM60iの95‌PSプラスの625PSまで引き上げられる。

シャシーも真正M専用のスパルタンな仕立てが各部に施される。例えばタイヤはM60iが前後21インチなのに対して、Mは前後ともよりワイドになった上に、後輪が22インチという前後異径の設定となる。可変ダンパーや4WDも「プロ」や「M」を冠する専用チューンだ。

さらに注目すべきは、M60iに標準装備されるインテグレーテッドアクティブステアリング(可変レシオステアリング+後輪操舵)が、X6Mではあえて省かれることだ。操舵レシオはM60iよりスローなのだが、それ以上にリアルでダイレクトなステアリングフィールを優先するのが真正Mだ。ちなみにX6ではMもM60iもコイルサスペンションだが、X5ではMがコイルなのに対して、M60iはエアサスとなる。これもまた、真正Mのクルマ造りを象徴する事象のひとつといっていい。

真正M専用のスパルタンな仕立て

今回のマイチェン直前に、BMWは約40年ぶりのM専用モデルとなるXMを発売した。XMはS68型エンジンにプラグインハイブリッドを組み合わせて、トータル653PSを発揮。そんなXMはX6にかわるBMWの新しい旗艦SUVクーペであり、同時に、車格でも性能でもX6Mを凌駕する最速SUVでもある。

そんなXMとX6Mだが、数値的な動力性能はともかく、少なくとも走りの「キレ味」という意味なら現時点ではX6Mに軍配が上がる。

その大きな理由のひとつは車重だろう。X6Mの車両重量は2400kg。これでも掛け値なしのヘビー級だが、XMはさらに300kg以上も重い(!)超々ヘビー級というほかない。XMが真正Mでありながらインテグレーテッドアクティブステアリングを備えるのも、この車重に対応したものと思われる。低速で後輪を逆位相にステアすれば車重を感じさせない俊敏性が演出できるし、高速で同位相となれば、スタビリティそのものが引き上げられる。

ただ、ステアリングフィールでいえば、そうした可変機構を持たないX6Mの方が、圧倒的に雑味がなくピュアだ。同時に、最新の高級SUVとしては、ステアリング操作はかなり忙しいのは否定できない。特に駐車場などでは意外なほどの切り返しの多さに(これしきで疲れを感じる自分に対して)苦笑いが出ることもあるが、かわりに路面からのフィードバックは格別である。

MHEV効果で明確かつリニアになった

このクラスでコイルスプリングは今や少数派だ。可変ダンパーを柔らかいコンフォートモードにすれば、路面のアタリもまずまず丸くなるが、どこか不敵な雰囲気が残ってしまうのが、前後異径のパイロットスポーツ4Sタイヤに加えて、コイルだからでもあろう。

真正直かつハードなバネなので、コンフォートモードでは落ち着きに欠けるきらいがある一方、最も硬いスポーツプラスにすると一体感が高まり、クルマが飛躍的に小さく軽くなったかのような錯覚をおぼえる。この巨体が、まるでホットハッチのように曲がるのだ。

同じS68型のV8ツインターボでも、M60iあるいはXMのそれに対して、トップエンドの炸裂が加わるのがX6Mの美点だ。今回からMHEVが加わったが、スポーツ走行のような高負荷域での性能や味わいに変化はほとんど見られない。ただ、微妙なアクセルのオンオフに対するレスポンスがより明確かつリニアになったのはMHEV効果だろう。今回は試せなかったが、日常域の実燃費も向上しているはずで、カツを入れた時の珠玉のエンジンフィールやキレはそのままに、普段使いでは、より大人っぽく丸い。それが新しいX6Mの特徴といえるだろう。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年12月号

SPECIFICATIONS

BMW X6 Mコンペティション

ボディサイズ:全長4955 全幅2020 全高1695mm
ホイールベース:2970mm
車両重量:2400kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:460kW(625PS)/6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/35R21 後315/30R22
燃料消費率(WLTC):7.8km/L
車両本体価格:2012万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

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