『LUPIN ZERO』にトヨペット・クラウンが登場! なぜ『ルパン三世』シリーズには実在のクルマが登場するのか? その秘密はアニメ制作会社にアリ!

DMM TVにて好評配信中の『LUPIN ZERO』の新エピソードとなる第4話が配信を開始した。今回はルパンのハチャメチャなアクションが楽しいのだが、クルマの登場シーンは少なめ。そこで過去のシリーズに登場した名車を振り返りつつ、制作スタジオであるテレコム・アニメーションフィルムについて解説して行く。

『LUPIN ZERO』最新話を見逃すな!

DMM TVで現在公表配信中の『LUPIN ZERO』(毎週金曜日配信)の最新エピソード・第4話「ウィスキー・パイプを狙え」が12月30日から配信を開始した。

■STORY
ルパン一世の屋敷に行ってから数日。遊びに出かけるルパンを、しのぶが厳しく監視するようになった。おちおち出かけられないルパンは一つ妙案を思いつく。「学校にアジトを作っちまえばいいんだ!」。次元を誘い、敷地内にふたりの秘密基地を作り始めるルパン。だが、天才的なルパンの思いつきはハチャメチャすぎてとどまるところを知らず、アジト作りは難航を極め……?

■若さゆえの暴走? 誰もが楽しめる青春譚
今回の『LUPIN ZERO』は宮崎 駿さん&高畑 勲さんが手掛けた『ルパン三世Part1』中盤以降のエピソードを彷彿とさせるスラップスティックコメディ色の強いストーリーだ。
不良アメリカ軍人が密輸するウィスキーを掠め取り、学校に作ったアジトへと配管を繋いで蛇口から飲めるようにと、少年ルパンは画策する。

だが、成長したルパン三世の鮮やかな手口に比べると未熟で杜撰、ムダな虚栄心によって敵に企みが露呈してしまう。だが、成長したルパンの大胆さと実行力、次元との関係がすでに完成していたことをさり気なく示した演出はさすが。彼はこれから失敗を繰り返し、多くのことを学んで誰もが知るルパン三世になるのだと想像するのが楽しい。ルパンシリーズというだけでなく、青春モノとして見ても楽しめるエピソードだ。

初代クラウンのパトカーが登場!

さて、Motor-Fan.jpとしては登場するクルマやバイクに注目したいところだが、第4話では冒頭の花火工場爆発シーンで登場する警視庁のパトカーくらいしか見当たらないのが残念だ。
この一瞬登場するパトカーに注目すると、その特徴的な丸みを帯びたルーフからトヨペット・クラウン(初代・RS系)だとわかる。

花火工場爆発の一報を受けて現場に出動する警視庁の初代クラウンパトカー。昭和の時代からパトカーと言えばこのクルマ。

1955~62年にかけて製造された初代クラウンは、他社が外国メーカーのノックダウン生産やライセンス生産をする中で、トヨタは外国に技術援助を求めることなく独自開発した乗用車であった。
従来の純国産乗用車がフレームをトラックなどの商用車と兼用していたのに対し、クラウンは専用フレームを用い、足周りはフロントにコイルスプリングを用いたダブルウィッシュボーン式独立懸架、リアには半楕円リーフを用いるリジッドアクスルを採用していた。エンジンは1953年登場のトヨペット・スーパーが搭載するR型1.5L水冷直4OHVを流用していたが、変速機はコラム式の3速MTのほか、1960年のマイナーチェンジで2速半自動ATのトヨグライドが追加されている。

初代クラウンパトカーは円谷プロで劇用車を所有していたことから『ウルトラQ』や『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などの1960年代に制作された円谷特撮に頻繁に登場する。昭和の高度経済成長期を舞台にした作品なら欠かすことができない名脇役だ。物価の差を鑑みて、現代的にはレクサスLSクラスに近い感覚か。

大学初任給が1万2907円の頃に初代クラウンの新車価格は98万円(1955年当時)だったので、今の感覚でいうと1500万円以上にはなる。日本初のオーナーカーとは言え買える人はまだまだ少なく、パトカーなどの官公庁やタクシーが主な需要であった。しかし、クラウンの誕生によって街中で幅を利かせていたアメ車が徐々に姿を消して行くきっかけとなった。

マツダR360に日産ブルーバード、セドリック……ルパン三世の少年時代を描いたシリーズ最新作『LUPIN ZERO』はクルマ好きなら要チェック!

12月1日にローンチした定額制動画配信サービス「DMM TV」のオープニングを飾る独占コンテンツとして、16日から公開を開始した『LUPIN ZERO』。本シリーズは高度経済成長期の昭和30年代を舞台に、これまで描かれることがなかった少年時代のルパン三世にスポットを当てた作品となる。すでにご覧になった方も多いとは思うが、ルパン三世の魅力であるカーアクションは本作でも健在だ。今回はそんな話題作の『LUPIN ZERO』を紹介しつつ、登場するクルマにも注目していこう。

ジブリと並ぶ名門アニメスタジオのテレコム

さて、毎回ハイクオリティかつ美しい作画、誇張とディフォルメを生かした躍動感のある動き、計算され尽くしたキャラクターの芝居と、ルパンシリーズという枠を離れて、ひとつのアニメ作品としても見どころの多い『LUPIN ZERO』。
そんな同作の制作を請け負うのがテレコム・アニメーションフィルム(以下、テレコム)というアニメ制作スタジオだ。

テレコムの名前を聞いてピンと来ないようでは、アニメファン、あるいはルパン三世ファンとしてはモグリと言わざるをえない。
テレコムはセガサミーグループの中にあるトムス・エンタテインメント(旧・東京ムービー)傘下にある制作会社で、制作・作画・仕上げ・背景・コンポジット・編集とアニメ制作行程のすべてを自社で完結できる体制をとっている。
テレコムから紡ぎ出される映像のクオリティは極めて高く、なめらかな絵の動きはアニメ業界の中でも定評があり、スタジオ・ジブリと並ぶ名門スタジオとしてつとに有名だ。

『ルパン三世 カリオストロの城』の冒頭でアニメ史の中でも屈指のカーチェイスを見せたフィアット500F。この一連のカットを手掛けたのは友永和秀さんで、のちに『ルパン三世Part4』の総監督を務めている。
クラリスがウェディングドレスの衣装合わせの隙きをついて逃げるのに使用したシトロエン2CV 。1954~60年にかけて製造されたAZと呼ばれるタイプだ。
カリオストロ伯爵の手下が逃げるクラリスを追うのに使用したハンバー・スナイプMK.1。ハンバーは1868年にトーマス・ハンバーが起こしたメーカーで、自動車製造は1889年に始めた英国車の中でも老舗中の老舗。初期は高級車メーカーであったが、1931年にルーツグループ入りしてからはアッパーミドルクラスの乗用車を得意とした。スナイプMK.1は第二次世界大戦中にイギリス軍のモントゴメリー将軍の専用車となったことでも有名。

そんなテレコムは『ルパン三世』シリーズとも縁の深いスタジオで、不朽の名作として今なお評価の高い『ルパン三世 カリオストロの城』を同スタジオ初の劇場用映画として手掛けたほか、『ルパン三世Part2』では第99話「荒野に散ったコンバット・マグナム」や第145話「死の翼アルバトロス」など、俗に「テレコム回」と呼ばれる11本の制作を担当。
1995年公開の映画『くたばれノストラダムス』、TVシリーズ『Part4』や『Part5』『RD』シリーズの3作などの制作を請け負っている。

日米合作アニメ映画を夢見て藤岡 豊さんが創設

そんなテレコムがハイクオリティな作品ばかりを世に送り出してきたのはワケがある。
もともと同社は、東京ムービーの創設者だった藤岡 豊さんが米国進出を夢見て、海外合作のフルアニメーションを制作するためのアニメーターを育成するため、75年に興したスタジオだった。その合作タイトルを『NEMO/ニモ』と言った。

『ルパン三世Part2』第99話「荒野に散ったコンバットマグナム」でルパンらが使用したルノー4プレーンエア。フランスの実用的な小型車・ルノー4をベースに、フランス陸軍の要請により軍用車として開発されるも正式採用を逃し、500台あまりが民間向けとして販売された。知る人ぞ知るマニアックな車両。大塚康生さんの趣味を反映して登場したのだろうか?

1978年3月に新聞広告でアニメーターを募集した同社は、「アニメーションの経験がないこと」と「TVアニメを見ていないこと」を条件として、月岡貞夫さん(『狼少年ケン』のオープニングムービーを一人で作画したことでも知られる天才アニメーター)の眼鏡にかなった若者を応募1000名の中から 43名を選抜(1名がのちに辞退)。実験的な短編作品の制作を通してアニメーション作りの気構えを徹底的に叩き込んだ。
だが、それが終わると月岡さんは「役目は済んだ」としてテレコムを去ってしまう。代わりに教育係としてやって来たのが、当時シンエイ動画に所属していた大塚康生さんだった。

『Part2』第84話「復讐はルパンにまかせろ」で、次元の師匠だった「スペードのジョー」をパリまで送ろうとした際にルパンが運転した 1957年型のフォード・フェアレーン500スカイライナー。1950年代を代表するフォードブランドのフルサイズ・フラッグシップカーで、オープンモデルは金属製折りたたみルーフをいち早く採用した。

『NEMO/ニモ』はまだ準備段階であったことから大塚さんは新人初期教育代わりに『ルパン三世Part2』の仕事を取ってくるのだが、42名の若者は「自分たちは長編アニメーターだ。TVアニメの仕事はしたくない」と猛烈に反発したという。
そこで大塚さんは田中敦子さんや原恵子さん、丹内司さん、友永和秀さん、山内昇寿郎さんら、のちにジブリ作品や『ルパン三世』シリーズで活躍するアニメーターを指導役として呼び寄せ、ベテランたちの仕事を背中で見せて新人たちの成長を促すことにしたのだった。

『LUPIN ZERO』にはなぜ実在のクルマが多数登場するのか? 『ルパン三世』シリーズから読み解く! キーマンは名アニメーターの故・大塚康生氏!

アニメーターとして『ルパン三世』に深く携わった故・大塚康生さんは、生前筆者にこのように語ってくれたことがある。「最近のルパンはボクや大隅さん、宮崎さんの作り上げたルパン像に引きづられ過ぎているのではないか、若いスタッフにはもっと自由にやってもらいたい」と。だが、現在DMM TVで配信中の『LUPIN ZERO』は大塚さんの懸念を払拭するように、これまでのシリーズとはひと味違ったものとなっている。それは過去のシリーズをリスペクトしつつも、少年ルパンというまったく新しいルパンの姿を描いているからだ。今回はまだ未見の『ルパン三世』ファンに向けて、今『LUPIN ZERO』を見るべき理由を語って行こうと思う。

初仕事は『Part2』の傑作エピソードと『カリオストロの城』!?

『ルパン三世Part2』最終回「さらば愛しきルパンよ」で銭形に扮するルパン三世が、新宿の街を飛び逃げるロボット・ラムダを追跡するのに拝借したスズキGSX400E。独特のタンク形状から「ザリガニ」の愛称で呼ばれた。

こうしてスタジオとしての環境が整うと、3年続いた『ルパン三世Part2』の中でも、屈指の名エピソードの数々が作られるようになる。
テレコム担当回の特徴は、劇場用アニメもかくやというほどの作画クオリティとTVアニメとしては異例なほどの動画枚数、そしてキャラクターの表情が『ルパン三世Part1』に近いというもの。表情については初期は作画監督の北原健雄さんの修正が入っていたが、のちに修正しても修正しても『ルパン三世Part1』風のキャラで作画で描かれるため「好きにしてください」と修正作業を放棄している。
テレコムがなぜ『ルパン三世Part1』風のキャラを描き続けたのかは謎が残るが、おそらくは高い人気を誇りつつもクオリティが停滞しつつあった、他スタジオの制作する『ルパン三世Part2』に対して大塚さんらの反発心があったのかもしれない。

そして79年12月、宮崎 駿さんの初監督作品であり、テレコムが制作を担当した『カリオストロの城』が公開される。この作品については今さら言葉はいらないだろう。公開から40年以上が経過した今尚、ファンから支持を集めている名作中の名作だ。

『ルパン三世Part5』でアバルト595の次に乗ったのがルノー8ゴルディーニだ。ルノー8をベースにチューナーのアメデ・ゴルディーニが手を加えたモデルで、リアに搭載された1.1L直4OHVは、排気量を変更することなくベース車の2倍に当たる95psを発揮した。

じつはこの映画、『NEMO/ニモ』の制作に当たり、ハリウッドに日本のアニメーターの実力を紹介するため、彼の地で英語字幕スーパー版の試写会が度々開かれたという。その度に当時のハリウッドを代表するクリエイターが詰めかけたそうだ。その中には『ジョーズ』や『未知との遭遇』のスティーブン・スピルバーグや『スターウォーズ』のジョージ・ルーカスの姿もあったという。
スピルバーグは1974年の『続・激突! カージャック』以降、カーチェイスシーンのある映画を撮っていないが、その理由を「『カリオストロの城』以上のカーチェイスシーンをボクには撮れないから」と親しい友人に語ったという都市伝説があるほどだ。

『ルパン三世Part4』第20話「もう一度、君の歌声」で歌手のノラ・アニタからルパンが盗み出したフィアット500A。「トッポリーノ」の愛称で親しまれたモデルで、1936~55年にかけて製造された(改良型のB型やC型を含む)。後継のフィアット500F(ルパンの愛車)がRRレイアウトを取るのに対し、こちらはふたり乗りのFFレイアウトを採用する。映画『ローマの休日』に登場したことでも有名。

『NEMO/ニモ』で夢破れるが、実力派スタジオとして名を残す

こうしてその実力を世界に認められたテレコムであったが、肝心の『NEMO/ニモ』は米国側プロデューサーのゲーリー・カーツ(『スターウォーズ』などのプロデュースなどを手掛ける)による独断専行により、時間と資金を浪費するばかりで遅々としてフィルムは仕上がらず、現場は空転し、それに失望した宮崎 駿さんや高畑 勲さん、大塚康生さん、出崎 統さん、近藤喜文さんという参加した綺羅星が如きアニメーターたちは次々と抜けていった。
最終的に藤岡さんはゲーリー・カーツのクビを切り、波多正美とウィリアム・T・ハーツの監督によって構想から10年、製作開始から7年後の1989年にようやく完成する。

残念ながら『NEMO/ニモ』は日米ともに興行的には失敗し、今では映画史の闇にひっそりと埋もれてしまっている。しかし、この作品を制作するために設立されたテレコムは、その後も傑作・名作アニメの数々を世に送り出しており、内外にその実力を知らしめる結果になった。

テレコムの存在がなければ、宮崎 駿さんや高畑 勲さんの活躍は今とは違ったものになったはずで、スタジオ・ジブリの設立もなかっただろう。
また、テレコムからは、矢野雄一郎さんや貞本義行さん、八崎健二さん、北川隆之さんら実力派のアニメーターが多数輩出され、現在のアニメ界の牽引役となっている。
もちろん、職人集団としてのテレコムは今も健在であり、現在DMM TVで配信中の『LUPIN ZERO』にもそのDNAは色濃く受け継がれている。

LUPIN ZERO
原作:モンキー・パンチ
監督:酒向⼤輔
シリーズ構成:⼤河内⼀楼
設定考証:⽩⼟晴⼀
キャラクターデザイン:⽥⼝⿇美
美術監督:清⽔哲弘/⼩崎弘貴
⾊彩設計:岡亮⼦
撮影監督:千葉洋之
編集:柳⽥美和
⾳響監督:丹下雄⼆
⾳響効果:倉橋裕宗
⾳楽:⼤友良英

メインテーマ「AFRO"LUPIN'68"」
作曲:⼭下毅雄
編曲:⼤友良英
エンディングテーマ「ルパン三世主題歌Ⅱ」
歌:七尾旅⼈
作曲:⼭下毅雄
編曲:⼤友良英
劇中歌「かわいい男の⼦」
歌:SARM
作詞・作曲:荒波健三 

アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:トムス・エンタテインメント

声の出演
ルパン:畠中祐
しのぶ:⾏成とあ
次元:武内駿輔
洋⼦:早⾒沙織
ルパン⼀世:安原義⼈
ルパン⼆世:古川登志夫

原作:モンキー・パンチ ©TMS
『LUPIN ZERO』本予告編
アニメ『LUPIN ZERO』公式Twitter

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…