「E-Pit」ってなに? BEVも充電網も!ヒョンデの本気度をソウルでチェック。間もなく日本上陸のコナEVに競争力はあるか?

試乗会会場の地下駐車場にて。ずらりと並んでいるのがKONA EVだ。今回の試乗コースは、韓国・ソウルの北西に位置する高陽(コヤン)のヒョンデモータースタジオ(パビリオン的施設)を出発し、国際空港があることで知られる仁川(インチョン)まで往復するコース。ちなみに青いナンバープレートは環境対応車(EVやFCEV)に与えられる。
日本再上陸を果たした韓国の自動車メーカー、ヒョンデはBEVに注力している。IONIQ5(アイオニック5)の次は、コンパクトBEVのコナEVが控えている。いまや世界第3位の自動車メーカーとなったヒョンデがいかにBEVに本気で取り組んでいるか、韓国・ソウルで取材した。
TEXT & PHOTO:高橋アキラ(TAKAHASHI Akira)

ヒョンデのBEV攻勢、次は「コナEV」

2023年3月にワールドプレミアされた新型コナ。ちなみにヒョンデでは、2030年までに新型のEVを11車種発表する電動化加速戦略を発表済み

2023年9月に国内上陸するとされるHyundai KONA(ヒョンデ・コナ)。ヒョンデから再びBEVモデルが投入されるのだ。このHyundaiからのBEV攻勢をどう捉えたらいいのだろうか。ちなみにコナはハワイ島の地域名Konaから付けたという。

7月下旬に韓国・ソウルでKONAに試乗する機会があった。もちろん、韓国仕様のKONAで日本仕様ではない。KONAはBセグメントサイズとされているもののCセグに近い大きさのクロスオーバーSUVだ。国内には未導入モデルだが、初代コナは2017年に発売され、2019年には北米カー・オブ・ザ・イヤーの「SUVカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しているグローバルモデルだ。

生産も韓国、中国、チェコ、インド、ベトナム、アルジェリアで行なわれ、アメリカ、欧州、インドではEVモデルが存在感を高めているモデルなのだ。

意外かもしれないが、すでにHyundaiはグローバルで自動車の販売台数は世界第3位にまで成長している。1位はトヨタとフォルクスワーゲンで競いつつ、3位がヒョンデというわけだ。つまり、ICEモデルやHEV、PHEV、そしてEVモデルを持つフルラインアップの量販メーカーであり、プレミアムブランド「ジェネシス」もあるカーメーカーに成長している。

欧州や北米へ行くとHyundaiのクルマがたくさん走っているのを見た方も多いと思う。それほどグローバルマーケットでは浸透しているメーカーなのだ。

Hyundaiはもともと財閥系でスタートしているものの、その後分裂し、現在、自動車部門は独立して現代自動車になっている。その財閥系グループであることは、ソウル市内を走ると「現代」と書かれたガソリンスタンドがあったり、クルマを造るための鉄鋼産業も「現代」だったりと、その規模は大きい。

Hyundaiは1967年に創業し1972年に「ポニー」というコンパクトハッチバックからスタートしている。歴史は日本のカーメーカーと比較すれば浅い。ジウジアーロがデザインしたポニーは大成功を収め、自動車メーカーとして成長を続けてきたわけだ。

2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーのインポートカー賞では、Hyundaiの「IONIQ5(アイオニック5)」が受賞している。IONIQ5はBEVであり、デザインのインパクトやEV性能においても強烈な印象を残したことを記憶している。

おなじCセグメントのBEVではトヨタbZ4Xや日産アリア、VW ID.4があるが、いずれも似たようなどんぐりの背比べと言われ、突出した何かはない。それだけにICEからの乗り換えに違和感のないBEVであることを強調するブランドもあるほどだ。そうしたなかでIONIQ5はデザイン、ダイナミック性能、コネクテッドなどにおいても高評価を受けたというわけだ。

韓国・ソウルの北西に位置する高陽(コヤン)のヒョンデモータースタジオ(パビリオン的施設)

ヒョンデが日本にBEVだけ入れる意味

ヒョンデモビリティジャパンの趙源祥(チョ・ウォンサン)社長。日本には子ども時代に3年間ほどに住んでいただけだが、流暢な日本語を話す。日本が好きだと話していた。欧州、中国には駐在経験あり。

そして2023年はKONA EVが上陸してくる。上記のようにKONAにはICE搭載モデルがあるが、日本にはBEVだけ投入してくるのだ。なぜ日本にはBEVモデルだけなのだろうか。

Hyundaiの日本法人ヒョンデモビリティジャパンの趙源祥(チョ・ウォンサン)社長に聞けば「工業製品に対する厳しさは日本が最も厳しいと感じている。その日本で認められれば自信に繋がり世界に誇れ、成長につながるから」という褒め言葉が返ってきた。だが、理由はもっと深いところにあると思う。それはBEVの本気度だ。

BEVへ本気にならなければならない理由として、まず、自動車を取り巻く制約がある。ご存知のように欧州、北米、中国、そして日本でもさまざまな規制があるが、自動車産業はカーボンニュートラルを抜きには語れないフェーズに来ていることも要因のひとつだと思う。

CASE1.0では、従来の自動車産業は製造・販売の収益構造から上流には半導体やソフトウエアがあり、下流には車両データと組み合わせたサービスが展開し、収益構造の変化が起きている。それが2023年はCASE2.0とも言われ、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加わったと。

つまりGXとDXだ。GXは言わずもがなCO₂をどうするか?という課題で、自動車産業ではカーボンニュートラルが求められ、次第にCAFEの規制もクルマからのCO₂排出量を販売台数で割り算する規制からLCA(ライフサイクルアセスメント)へと変化し、リサイクルや製造に使われる電力も含めT2W(Tank to Wheel)からW2W(Well to Wheel)の規制に変化してきている。

そうした収益構造の変化が100年に一度の自動車変革期と言われているわけで、クリーン電力を理想としたBEVの場合、ひとつの解として存在する。

一方で、これからのモビリティの価値はなにか?を考えた時、ひとつにはBEVの基本性能は競争領域として残り、自動運転技術とコネクテッド技術によるサービスという付加価値が生まれてくる。車両データとクラウド情報が作り出すサービスというビジネスで、これらが新しいモビリティの価値になるといわれている。

もっとも、最近ではカーボンニュートラル燃料(CNF)の開発も進み、ICEの存続、延命も現実的になってきている。ただ、CNFと欧州が認めるのはクリーン電力で作られた水素が条件であり、DAC(Direct Air Capture)により得たCO₂で生成されたものに限定されており、e-Fuel(エタノール混流)やBio Fuelなど他の合成燃料は除外されている。

こうした背景を踏まえるとBEVであれば、新しい価値の提供ができると考えられる。とくに日本への導入を踏まえると国産BEVには突出したものはなく、ICEからの移行レベルと言っていい。そうしたことからもIONIQ5がインポートカー・オブ・ザ・イヤーを受賞したことも頷けるわけだ。

またHyundaiが日本にICEを導入したとしても、ICEの歴史は日本より浅く、高性能なICEを数多くもつ日本メーカーに太刀打ちするのはハードルが高いと考えることはできる。

メーカーが充電網を整備する意味

ソウル郊外
日本のETCに相当する場所。ゲートなし、80km/hで通過するだけでOK。右側は出口。
E-Pit。充電ケーブルが360度回転するので、駐車の向きを気にせず停められる充電設備

もうひとつHyundaiのBEVに対する本気は、充電設備への取り組みからも見てとれる。Hyundaiは、欧州ではIONITYに参加し、韓国では「E-Pit」という超急速充電設備を増やしている。充電性能は車両の仕様によっても変化するが最大350kWの充電が可能で、IONIQ 6の場合、バッテリー容量10%→80%まで18分間未満で充電できる性能を持つ。

チャージングプラグはCCS1で北米と同様タイプ。ベースは800V。このE-Pitは会員制をとっており、Hyundaiオーナーの料金と他社のCCS1利用では料金に違いがあり、また充電後の放置を防ぐために、充電完了後15分以内にピットアウトしないと料金が加算される仕組みになっている。

コナEVの日本国内導入時には、当然CCSではなくCHAdeMO対応になる予定だ。

E-Pitの超急速充電器

このE-Pitを韓国国内の高速道路や市街地に設置をはじめている(韓国12の高速道路サービスエリアに6基ずつ計72基、主要地点26ヵ所に130基設置する計画だ)。カーメーカーが充電インフラまでカバーしているのは、テスラのスーパーチャージャーとHyundai E-Pitだけだ。レクサスは、オーナー専用の施設として設置し始めているが、いまのところ東京・日比谷の1カ所だけである(レクサス充電ステーションは2030年までに100ヵ所を目標に全国展開する計画だ)。

このE-Pitの便利なことは、充電時間が短いことと合わせて、充電プラグを差し込むだけで、車両認識と課金ができることだ。PnC(プラグアンドチャージ)を取り入れているのもテスラとHyundai、そしてレクサスだけになる。充電渋滞や充電費用の支払いなど煩わしいことを解決する取り組みも行なっており、HyundaiのBEV普及に対する本気度は伝わってくる。

また充電ケーブルが吊り下げ式で、360度回転する充電設備も増やしている。これであれば、充電口がどこにあっても駐車位置を気にすることなく、ケーブルを差し込むことができる利便性がある。

こうしたことなどからヒョンデのEVへの本気度は伝わり、EV戦略の一環で日本へEV投入という流れになっていると想像する。だがE-Pitは横浜のCXC(Customer Experience Center)には設置されているものの、国内では普及していない課題はある。こうして嫌韓感情とは別に技術をフラットに見た時、日本より進んだ開発と取り組みが行なわれていることがよくわかった。

コナEV、価格も魅力的なBEV

さて、KONAのBEVである。これはICEも搭載できるプラットフォーム「K3」を採用している。初代はKIAと共通のGBプラットフォームだったが、K3へと世代替わりした。

試乗した印象からはICEからの乗り換えに抵抗なく乗ることができるBEVで、IONIQ5のようなインパクトはない。だから、ここまで述べてきた新しい価値を提供するニューノーマルなモデルとは言い難く、既存モデルの進化版といった印象なのだ。

しかし、趙源祥社長はユーザーサービスにおいてインパクトのあるものを提案してきたのだ。Hyundaiはご存知のように日本国内ではディーラーを持たずネット販売をしている。もちろん各地域に指定サービス工場を置くことでユーザーサービスには対応している。KONAはIONIQ5(エントリーグレードで479万円)より100万円程度は安い価格で提供できそうだという。そして新車購入から1年、2年目の法定点検は無料で、3年目の最初の車検費用も無料としているのだ。

さらに納期が遅れている自動車業界だが、現代グループの力もあり、通常通りの納期であるという。さらにボディカラーは20色以上のバリエーションから選択できるなど、近視眼的な施策にインパクトを起こして国内に投入するというわけだ。

MX(モビリティトランスフォーメーション)やGX、DXにおいて、日本国の政策に遅れを感じつつも、一般ユーザーの意識もいまだ高いとは言えない感じている。そうした日本市場で、Hyundai KONAはどのように評価されるのだろうか。

ヒョンデ・コナ ロングレンジ 19インチ(韓国仕様)
全長×全幅×全高:4355mm×1825mm×1575mm
ホイールベース:2660mm
車重:1740kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
モーター最高出力:204ps(150kW)
モーター最大トルク:255Nm
駆動方式:FWD
電池:リチウムイオン電池
総電力量:64.8kWh
総電圧:358V
一充電走行距離:368km
タイヤサイズ:235/45R19

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著者プロフィール

高橋 アキラ 近影

高橋 アキラ

チューニング雑誌OPTION編集部出身。現在はラジオパーソナリティ、ジャーナリスト。FMヨコハマ『ザ・モー…