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新世代フェラーリの幕開けを告げるプラグインハイブリッドモデル
自動車雑誌やバイク雑誌の編集者として20年以上働いている私ですが、恥ずかしながら、これまでフェラーリに乗ったことがありません。「ナポリを見てから死ね」ということわざがありますが、私にとってのナポリはフェラーリです。
しかし、フェラーリのようなスーパーカーに試乗できるのは、自動車メディアに関わるものの中でもごく一部の選ばれし人間だけ。弊社(株式会社三栄)でいえば、スーパーカー専門雑誌『GENROQ』の編集部員くらいでしょうか。それ以外のほとんどの編集部員は、フェラーリのステアリングを握ることなく定年を迎えます。
もちろん、フェラーリを購入できる財力を持っていれば仕事にかこつける必要はありません。しかし、一会社員である私にそんな収入があるわけがありません。出版不況の昨今ですから、給料はここ数年、ずっと据え置きです。
このままフェラーリとは無縁の編集者人生を送るのか…と、あきらめモードだった私。しかし、このたび、フェラーリジャパン主催のプレス発表会に参加することができました。「僕はこの日は出張なので、代わりに行ってくれば?」と、編集長が案内状を譲ってくれたのです。
「ついにこの日が来たか」と、私は軽く身震いしました。プレス発表会なので試乗はできませんが、日本に上陸を果たしたばかりの最新フェラーリを間近で見ることができるのです。こんな機会はめったにありません。私はタンスの奥深くにしまっていたジャケットをいそいそと取り出し、発表会場である渋谷のホテルへと向かったのでした。
会場に到着した私は、さっそく受付を済ませます。普段はまったくお世話になっていませんが、「いつもお世話になっています!」とご挨拶。すると、係の方が新車の資料といっしょに白い手袋を渡してくれました。
「この白い手袋は何だろう?」とフリーズする私。すると係の方は、はじめてのお使いにチャレンジするチビッコを見るような目で「こちらの手袋は、車両を触れる際に傷がつかないようにおはめください」と、優しく教えてくれたのでした。
これまで国産・輸入問わずさまざまな発表会に出席してきましたが、白い手袋を渡されたのは記憶にありません。さすがフェラーリだぜ…。私はシャッポを脱ぎながら、発表会場の最前列に陣取ったのでした。
過去の名車にオマージュを捧げつつ、最新のエアロダイナミクスを導入
さて、この10月14日にめでたく日本上陸を果たしたのは、フェラーリ296GTBというモデルです。フェラーリ・ジャパンのフェデリコ・パストレッリ社長のありがたいスピーチの後、実車をじっくりと拝むことができました(もちろん白い手袋をはめて)。
F8トリブートなどの肉食系デザインとは異なり、296GTBのデザインはモダンでありながらエレガントさを感じさせるもの。事前に写真は目にしていましたが、実車の美しさは格別です。
サイズは全長4565mm×全幅1958mm×全高1187mm、ホイールベースは2600mm。F8トリブートが全長4611mm×全幅1979mm×全高1206mm、ホイールベース2655mmなので、296GTBのほうがわずかに小さい寸法です。
296GTBのティアドロップ形ヘッドライトの内側に設けられたエアインテークはブレーキ冷却用。アンダー部分のグリルは両サイドに収まるラジエターにフレッシュエアを導きます。
グリル中央の盛り上がっている部分には、「ティートレイ」と呼ばれる空力パーツが備わります。空気の渦がアンダーボディに向かって発生し、フロントのダウンフォースを増大させるのです。こういうディテールもいちいちカッコいいですね。
フロントウインドウがサイドウインドウへと連続してつながるバイザースタイルは、J50やP80/Cといったスペシャルなモデルと共通のモチーフだそうです。
テール部には可動式スポイラーが搭載されます。センサーが一定値以上の加速度を検知するとリフトアップし、リヤアクスルにかかるダウンフォースは100kg以上も増加します。
このように296GTBは空力を徹底的に追求しながらも流麗なスタイルを実現しており、まさに機能美と称するにふさわしいエクステリアとなっています。
インテリアは、SF90ストラダーレから続くデジタル・インターフェースを採用しています。メータークラスターはダッシュボードのトリムをえぐった深い位置に埋め込まれ、左右にはタッチスクリーンとエアベントを持つサイド・サテライトが組み合わされます。また、助手席前のダッシュボード部には標準で細長いディスプレイが備わっています。ドライバーと同様、助手席の乗員もドライビングを満喫できるというニクい仕掛けです。
フェラーリのロードカーで初めてホットVを採用したV6ターボエンジン
さて、296GTBと言う車名ですが、フェラーリ伝統のネーミング手法に則っており、「29」は2992ccの総排気量、「6」は気筒数を意味します。そう、296GTBはフェラーリとして初めてのV6エンジン搭載モデルなのです(ディーノは除く)。
F163型という型式が与えられた新開発のV6エンジンは120度のバンク角が特徴です。ワイドなバンクの間には2基のIHI製ターボチャージャーが搭載され、最高出力は663ps/8000rpm、最大トルクは740Nm/6250rpmを発生します。
このV6エンジン、開発時には「ピッコロV12(ミニV12)」という愛称が付いていたそうで、自然吸気V12エンジンのような高周波音のハーモニーを奏でるといいます。今回のお披露目は室内で行われたため、エンジンが始動されることがなかったのは残念です。ちなみにトランスミッションは8速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が組み合わされます。
V6エンジンはフェラーリの市販車初と言いましたが、F1ではV6エンジンを搭載していた時代がありました。フェラーリに初のF1コンストラクタータイトルをもたらした1961年の156F1は120度V6エンジンでしたし、1981年のF1マシン、126CKはバンク間に初めてV6ターボを配置するレイアウトを採用していました。こうしたモータースポーツでの歴史を踏まえた上で、296GTBは新たなV6時代の幕開けを告げる存在だとフェラーリは定義づけています。
リヤにモーターを搭載し、25kmのEV走行を可能に
296GTBは、フェラーリの後輪駆動モデルとしては初めてのPHEVでもあります。搭載されるモーターの出力は122kWで、F1で使用されているモーターから派生したという由来もあり、MGU-K(モーター・ジェネレーター・ユニット、キネテイック)という名称もF1から引き継いでいます。エンジンと組み合わせたシステム最高出力は、なんと830psに達します。
電動モードとハイブリッドモードの切り替えは、eマネッティーノで行われます。完全に電動のeDriveモードでは航続距離25km、最高速度135km/hの走行が可能。そのほか、始動時のデフォルトとなるハイブリッドモード、エンジンを常に稼働してフルパワーを発揮するパフォーマンスモード、さらにバッテリーの再充電すら抑えて最大のパフォーマンスを発揮するクオリファイモードも備わります。
そんなフェラーリ296GTBのパフォーマンスは、最高速度330km/h、0-100kmは2.9秒、0-200km/hは7.3秒というもの。720psの3.9LV8ターボエンジンを搭載するF8トリブートは最高速度340km/h、0-100kmは2.9秒、0-200km/hは7.9秒なので、0-200km/hは296GTBのほうが0.6秒上回っています。
296GTBはPHEVシステムを搭載するため、純エンジンモデルのF8トリブートより140kg重くなっています。それでいながら、フェラーリのテストコースであるフィオラノのラップタイムは、F8トリブートが1分22秒5なのに対して、296GTBはそれを上回る1分21秒をマークするというから驚きです。
究極のパフォーマンスを生む「アセットフィオラノパッケージ」も提供
とんでもないパフォーマンスを発揮する296GTBですが、さらに上を目指す上昇志向の強い方向けには「アセットフィオラノパッケージ」も用意されています。アジャスタブル・マルチマチック・ショックアブソーバーの採用のほか、カーボンファイバー製パーツによる軽量化を実施。フロントバンパーには10kgのダウンフォースを上乗せする空力パーツもアドオンされます。250LMをモチーフにしたスペシャル・リバリーをオーダーすることも可能という至れり尽くせりぶりです。
今回は編集者生活22年目にして初めてのフェラーリ発表会参加ということで、たっぷりと目の保養をさせていただきました。定年まであと14年。その間にもしフェラーリのステアリングを握る機会がやってきたら、またご報告したいと思います。
フェラーリ296GTB・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4565×1958×1187mm
ホイールベース:2600mm
車両重量:1470kg(乾燥重量)
重量配分:F40.5%・R59.5%
乗車定員:2名
燃料タンク容量:65L
■エンジン
形式:水冷V型6気筒ターボ
排気量:2992cc
ボア×ストローク:88×82mm
圧縮比:9.4
システム最高出力:610kW(830ps)/8000rpm
最大トルク:740Nm/6250rpm
最高許容回転数:8500rpm
■モーター
最高出力:122kW(167ps)
最大トルク:315Nm
■駆動用バッテリー
容量:7.45kWh
■駆動系
トランスミッション:8速DCT
■シャシー系
ブレーキ:F398×223×38mm・R360×233×32mm
タイヤサイズ:F245/35ZR20・R305/35ZR20
■燃費
ホモロゲーション取得申請中