ホンダNSX 最終モデルの開発責任者が語る2代目NSXとはどんな意味があったのか?

2代目ラスト ホンダNSX Type S 開発責任者の想いとは?「正直なところつらいです。やっぱりNSXがなくなるのは寂しい」

ホンダNSX Type Sの開発責任者、水上 聡さん
ホンダNSX(北米ではACURA NSX)のラストモデル、2022年モデルのType Sが日本でもお披露目された。開発責任者の水上 聡さんに、エンディングを迎える2代目NSXへの想いを訊いた。
水上 聡(みずかみ さとし)さん 本田技研工業 四輪事業本部 ものづくりセンター NSX Type S開発責任者。

NSX Type Sの開発責任者である水上 聡さんは、NSXと縁の深いエンジニアだ。水上さんは1986年に本田技術研究所に入社。以来、ダイナミクス性能の開発に携わってきた。初代NSXの初期の開発には関わっていないが、「初代NSXは開発中に携わったということもあります。とくに憶えているのは夜の谷田部のVマックスまでの走行テストに立ち会ったことですね」と初代にも縁がある。

2005年にはインテグラ TYPE-Rの車体研究開発責任者を、2014年からはダイナミック性能統括責任者に就任。2019年からNSXの開発責任者を務めている。

「タイプSは集大成。それでもNSXが終わるのは、寂しい」

北米に行くとオーナーズクラブもあってNSXマニアがいるという。なかには、初代、2代目、両モデルとも持っているオーナーもいるという。北米分の300台は即日完売した。

MF:今回のNSXはタイプSです。タイプRはサーキット、タイプSはワインディンをいかに愉しめるか、を追求したモデルという理解であっていますか?
水上さん:ええ、先代のモデルからそういった定義をしています。

2代目最終モデルとなるNSX タイプSは、世界で350台限定のモデルとなる。350台のうち北米(カナダも含む)その他が320台、日本が30台となる。つまり、ACURA NSXが320台、ホンダNSXが30台という内訳だ。

MF:22年モデルはすべてタイプSになるのですか?
水上さん:そうです。これ(タイプS)一本だけです。レギュラーのモデルはありません。

MF:価格は?
水上さん:2794万円です。

MF:レギュラーモデルが2420万円ですから374万円高です。しかし、改良点を考えるとバーゲンプライスと言ってよさそうですね。
水上さん:僕が言うのも変ですが、お得だと思います、その価値として。2020年モデルを買っていただいたお客様がオプションをつけた価格くらいでベースができる。そのほかにカーボンブレーキを選んでいただくととかということはできますが、ルーフのカーボンと前後サイドのカーボンエアロはタイプSでは標準ですから。

フロントは、バンパー&グリル部分は完全に新設計。それでも「最初からこのタイプSがあってもよかったじゃないかというような感じに見えるようになっていると思います。どこから見ても違和感はないと思います。(水上さん)

MF:北米の反応は? 
水上さん:あっという間に完売です。一日で300台決まったと聞いています。やはり期待値高かっただと思います。待たれていた方もたくさんいらっしゃると思いますし。やっぱりそういうことを聞くと余計悔しくなりますけど……。

MF:今回のこのモデルでこの代のNSX最後になるわけですが、開発責任者としてはどういう想いがありますか?
水上さん:それはもう、正直なところつらいです。やっぱりNSXがなくなるのは寂しい。個人的に私の会社人生のなかでも最初に触れたNSXへの想いがずっとあって、いろんな開発のなかでできたクルマなので。

MF:先ほどのプレゼンテーションのなかで、NSXはスーパーカーだっていうお話がありました。やはりホンダとしてスーパーカーがあるなしは、ずいぶん違うと思います。
水上さん:そうですね。

MF:しかし、先日のプレスリリースで「NSXが終わり」ということではなくて、「2代目NSXが終了」と書いてありました。それならば3代目があるんだろうなという気持ちになりました。そういう希望を持ちました。次のNSXはモーター駆動なのかもしれませんが。三部社長のお話を聞いていると電動化のスーパーカーがまた次のNSXとして出てくる。出てきてほしいと思っています。そのあたりは水上さんとしてはお話になれないと思いますが、2代目開発責任者としてはどういう想いがありますか?
水上さん:初代のときもやはりそうだったんですよね。2代目が出てくるまで10年弱ですか、間が空いたわけです。フェラーリみたいにスポーツカーだけ作っていれば別ですけど、量販メーカーがやれば、そういうことも時代とともに総合的に考えていかなければいけません。そういうことだと、僕は理解したいなと思っています。次がどうなるかっていうのは、何も決まってきませんが、ただこれ(2代目NSX)を一回きちっと閉めるためには、ここまで改良し性能を上げたカタチで終わらせてもらうというのはやっておかなくてはいけないかな、と思っています。それがホンダがスーパーカーを持っている意味だと思うんです。最終モデルががデザインも同じままで色だけ変えてホイってやったんでは、買っていただけないお客様でも憧れている方もたくさんいらっしゃるので、そういう人たちに失礼かなって思っています。

水上さんのタイプSのお気に入りのポイントは「この孔です。ここからちゃんと冷やししています。なおかつ中のベーンでサイドの冷却器にちゃんと持っていいっています。カーボンの一番出っ張っているとんがり、は床下に空気を流すためです。これが効いています」との答えが。

MF:NSXはアメリカに専用工場があります。初代も高根沢に専用工場がありました。NSXが一回終わってしまうと、工場をどうするかまで考えなくてはいけませんよね。そのあたりはどうなるんですか?
水上さん:そこは、いま検討中というのが正直な答です。来年いっぱいまでNSXの生産があるので。そのあとは、小回りが効く工場、巨大なカロッツェリアみたいな少量生産が得意な工場ですから、そういった発展性も考えられると思います。いまもアキュラのPMCエディションとか作っていますからね。

MF:開発責任者としては、この22年モデルのタイプSが2代目の集大成としてやるところまでやりきった感はありますか?
水上さん:そうですね。2代目NSXは電動化をいち早く採り入れたクルマのなかでは世の中に先駆けられてここまでいったんじゃないか、と思っています。

MF:NSXは、他のスーパーカーよりも早く電動化に踏み切ったクルマだと思います。本当だったら、もっと長寿命で……開発者としては「これからじゃないか」という気持ちもおありかと……。
水上さん:……それは当然あります。当然、電動化してきたライバルたちと戦うなかで、比較もしてもらったら本当にうれしいことですけど。でもやはり先を考えたときにこのハイブリッドというか電動化技術のスーパーカーは、NSXが最初だったということを歴史に刻んだと思っています。残念ではあるんですけどね。

「リヤも見てください。これ、ホンモノのカーボンなんですよ。カーボンじゃないとできない形状です。角度、カタチ、形状。先端の流速を速くしないとディフューザーって効果がないんです。これがパフォーマンス・デザインです」(水上さん)

MF:いつNSXの開発終了が決まったかは僕らはわからないのですが、順当に進んでいればこのモデルが22年モデルになったってことなんですか?
水上さん:タイプSとかのバッジの議論はなく、NSXを極めるってことは、19年モデルとか20年モデルを開発するなかでも同時並行で進めていました。これにタイプSっていうバッジが付くというのは、最後の話で総合的に考えた結果です。僕らとしてはそれがどういうモデルになるかというよりも、集大成としてちゃんとパフォーマンスデザインをやりたかった。ちょうど19年モデルのあとくらいには、これとほぼ似た擬装した外観でニュルブルクリンクを走っています。そのときは写真も撮られています(笑)。残念ながら、コロナ禍で最後のこの姿ではニュルには行けてなくて。だから鈴鹿サーキットでタイムが2秒短縮とかしか言えてないんです(笑)。

MF:本当はニュルブルクリンクで何秒って言うはずだったのに……ですね。
水上さん:本当はね(笑)。残念ながらタイプSはヨーロッパには仕向けがないんですが、ないにしてもそこは戦う場だと思っていますし、そこでの証明みたいなのはしたいのです。

タイプRに対する想いは?

MF:2代目NSXにはタイプRがありませんでした。開発責任者としてはRも作ってみたかったんですか?
水上さん:やっぱりタイプRって難しいですよ、この時代になると。シビックがもうひとり背負っているじゃないですか、Rを。それのなかで、皆さんの考えるRってなに?というと、たぶん初代のタイプRをイメージされる。とにかく軽くしないといけないっていうのがひとつ。このシステムを使ったままタイプRをやるとなるともっとパワーを上げなくてはいけない。すると電池をいっぱい積む必要がある。それってなにやっているんだろう、となります。ということを考えるんだったら、サーキットベストのクルマを作るよりは、オールマイティなクルマを作ってサーキットも速いですよ、のほうがいいんじゃないか、という想いでRではなくSにしています。それでなおかつSというのは、単純にタイプR、タイプSって言っている時代じゃなくて「ホンダスポーツの象徴としてのS」という意味合いとして僕が考えています。簡単かどうかわからないですよ。電池とってモーターとって軽くしました、ハイって。でもそれもちょっと味気ないじゃないですか。

MF:イタリアのスーパーカーメーカーでそれをやるところはありますけど。NSXはホンダの看板を背負っていますからね。これが少量生産メーカーならそういうのもアリでしょうけど。
水上さん:たぶん、やっているかもしれません。でもそれってお安いモデル作りましたみたいな感じになるじゃないですか。

MF:せっかく3モーターのすごいスーパーカーを作ったのに、それを外してしまったら軽くたって意味がない気がします。
水上さん:その技術の魂を売るようでなんかイヤだったんです。興味はありますよ。GT3みたいな方向でやるというのもありますから。だけど、このシステムでどこまでいけるかっていうのをやりたかったんです。またこれ面白くらい化けるんですよ、このシステムがまた。

MF:化けるっていうのはどういうことですか?
水上さん:3モーターを使ったSH-AWDは、いろんな使い方ができるんです。駆動力の出し方をどうするのか、アクセル操作に忠実に、オンオフに対しても忠実にっていうのがモーターだから瞬時にできる。どういう挙動を作るかをどんどん学習できる感じでした。どんどん曲げることもできるし、安定させることもできる。その両立ができるんです。

じつに精悍になって「スーパーカー」に見えるスタイルを手に入れたNSX。このモデルが最終モデルになってしまうので、なんとも残念だ。

おそらく、この2022年モデルのタイプSが2代目NSXの後期モデルのスタートだったはずだ。スポーツカーをめぐる環境が急速に変わってきたこと、そしてホンダという企業の戦略も大きく変わる潮目で2代目NSXは2022年モデルでそのライフを終える。ビジネス的には大成功とは言えないかもしれないが、2代目NSXが切り開いたスーパーカーのあり方は記憶にも記録にも残すべきものだ。

開発責任者として水上さんはNSXの集大成ができた、と胸を張るいっぽうで、これで2代目NSXが終わってしまうこと、ホンダにスーパーカーがなくなってしまうことへの残念な想いをにじませていた。

会場に置かれていたカーボンマットグレーメタリックのタイプSには「0/350」のプレートが付けられていた。

「このクルマは、これから酷使されるんですよ。最後の最後に」と話す水上さん。これからタイプSの生産が始まるまで、このクルマを使った過酷なテストが行なわれるという。2代目NSXの総仕上げは、まだまだ続くのである。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…