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「R」の20周年記念モデルは800万円に迫る価格設定もたちまち完売
3.2リッターの自然吸気・狭角V型6気筒エンジンを搭載し、4MOTIONでそのパワーを受け止めた「R32」の日本導入から、早20年。これを記念した900台の限定モデル「ゴルフR 20 Years」に試乗した。
ゴルフR 20Yearsでまず何より驚かされるのは、792万8000円という、フォルクスワーゲンらしからぬ価格だ。
確かにアクラポビッチのチタンエキゾーストをインストールし、専用のスポイラーやアルミホイールetc.で着飾れば、その価格がポーンと跳ね上がるのはわかる。加えて昨今の円安や原材料費の高騰が重なれば、限定車とはいえゴルフRもここまで高くなってしまうというのは致し方ないところだろう。
しかしながら世の中とは面白いもので、昨年の夏に発売したこの20Yearsは、アッという間に売り切れた。そこにはハイクラスのユーザーたちが“ちょうどいいコンパクトカー”として手に入れたという羨ましい話も聞くし、これだけ日本で長く愛されるフォルクスワーゲンであれば、真性のマニアなら迷わず20Yearsを手に入れようとするはずなのは、筆者も知っている。
ということで今さら手に入らない1台となってしまったゴルフR 20Yearsだが、見るべきところは沢山ある。そこにしばしお付き合い頂きたい。
走りの違いはスペックの数字以上に体感できる
20Yearsになってアップデートされたのは、まずパワーだ。
2.0L直列4気筒ターボのパワーは、ベースのRから13PS増しの333PS/5600-6500rpmとなった。また最大トルクは420Nmと数値こそ変わらないが、その発生回転数が2100-5350rpmから、2100-5500rpmまで高められている。
これによって0-100km/h加速は0.1秒速い4.6秒となり、最高速は250km/hから270km/hまで引き上げられた。数字的には0.1秒と20km/hのゲインを得たわけだが、現実的にはよりトルクバンドが広がって、加速が良くなったということだろう。
実際これを走らせてみても、その加速は切れ味鋭く実に楽しかった。
標準仕様のゴルフR 5ドアと、直接比べたわけではない。また当日の比較車両は60gk重たいヴァリアントだったから、その差が明確なのは当然。
とはいえアクセルを踏めば5ドアの20Yearsは軽い足取りで走り出し、その開度を深めるほどにパンチを効かせて行く。アクラポビッチのサウンドもほどよく乾き気味で、走り出しからやる気にさせられる。ECUとエキゾーストのチューンで一皮むけるのは、ターボ車ならでは。標準仕様のR乗りとしても、これは参考になるカスタムだろう。
シャシーで意外だったのは、その動きが標準仕様よりもしなやかに感じられたことだ。標準仕様はモードが「スポーツ」でも(とはいえこれがゴルフRの標準モードなのだが)、割と減衰力を高めに取って、常に高い荷重に備えている印象。だから筆者はDCCの減衰力をカスタムモードで少し弱めて乗るのがベストだと判断したし、もっといえばロングホイルベースでピッチを抑えたヴァリアントの方が、オープンロードでは乗り味を含めてバランスが良いと感じていた。
最もこの剛性感の塊のようなボディをコーナーへねじ込んで行く走りこそが、ショートホイルベースの5ドアハッチを選ぶ醍醐味だとは言えるのだが。
対して20Yearsはコーナーアプローチから、サスペンションの動きがしなやかだった。特にこの5ドアには、「Rパフォーマンス」という制御がオプションで追加されていた。そこでニュルブルクリンクのテストを反映したプログラミングの「スペシャルモード」に入れると、エンジンやDSGの制御は一段と先鋭化されて激しさを増すのだが、ダンピングはよりしなやかなアシさばきを見せたのだ。アップダウンやアンジュレーションの激しい、ニュルならではのシャシーセットといったところか。
20YearsがDCCのダンパー制御を、標準車に対して変更しているのかはわからない。もしくはRパフォーマンストルクベクタリングを軸とした4WD制御やESC制御の連携が、より旋回方向にセットされて動きの軽快さを演出しているのかもしれない。はたまた全くの個体差かもしれないのだが、その走りは「これぞゴルフR」と膝を打てる、玄人好みな洗練っぷりだった。
クローズドコース専用!「ドリフト」モードの片鱗を確かめる
マニア注目の「ドリフト」モードは、その片鱗だけを確かめた。
なぜならモードを選ぶと同時に「クローズドコース専用」のコーションで脅しを掛けられたし、オープンロードでのマナーもあるからだ。
システム的にはオーバーステアを許容するためにトラクションコントロールがオフになり、Rパフォーマンストルクベクタリングがリア外輪により多くのトルクを伝えるようになる。ESCは介入が遅れるだけで、完全にはオフにならないようだ。
ターンインを終えて旋回中にアクセルを踏み込んで行くと、確かにこのモードでは後輪がムズムズとしてくる。これまで旋回を促しながらもトルクを破綻せず配分していた多板クラッチが、より強く外側のタイヤと締結しているのだろう。
これと同じシステムを搭載するアウディRS3をサーキットを走らせた経験からすると、この先アクセルを踏み込めばリアが巻き込みタイヤが滑り出すのだろう。とはいえ足周りは基本的に弱アンダーステア方向の安定したセットだし、元来安定度の高い4WDをオーバーステアに持ち込むことには変わりないから、FR車のドリフトとはまた違ったスキルが必要だろう。少なくともタイヤには負担を掛けそうだなと、いらぬ心配をしてしまった。
これまでフォルクスワーゲンは徹底した安定志向で、たとえゴルフRでもそのハンドリングをコントロール方向に持ち込むことはしないできた。それがここにきて、ドライビング・ファンを求める方向にシフトしたのが個人的にはとても嬉しい。できれば「ドリフトモード」なんて名前にせず、トルクベクタリングの制御をダイヤル式にして(GC8時代のインプレッサ STIバージョンや、先代のC63 AMGのように!)、ESC制御にも幅を持たせた方がピュアだと思うのだが、話題性とわかりやすさはやっぱり必要か。
ゴルフR 20Yearsはすでに完売!次期「R」のリリースに期待!
繰り返すが20Yearsは、既に完売。そして標準仕様もディーラーに在庫を残すのみとなったようだ。
しかしまだ、諦める必要はない。フォルクスワーゲン自身は8.5世代のゴルフでも、「R」を出すと既にアナウンスしているからだ。願わくば20Yearsとして追加された「Rパフォーマンス」仕様が、ゴルフ8.5でも登場して欲しい。もっといえばマフラーやエアロパーツは遠慮しても、ふたつのトルクベクタリング機能だけ、オプションで選択できるようになれば言うことはない。
ゴルフR 20Years ・Specification ボディサイズ:全長4295mm×全幅1790mm×全高1460mm ホイールベース:2620mm 車両重量:1540kg エンジン:1984cc 水冷直列4気筒DOHC16バルブ・インタークーラーターボ 最高出力:320ps(245kW)/5600rpm-6500rpm 最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2100rpm-5500rpm 燃料:ハイオク56L トランスミッション:7速DSG サスペンション:Fマクファーソンストラット/R4リンク ブレーキ:F/Rベンチレーテッドディスク タイヤ・ホイール:235/35R19 価格:792万8000円(900台限定※完売)