脱・温暖化その手法 19世紀の技術を使い続けるのはもうやめよう第40回  —電気自動車は3大発明の賜物—

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

もはや電気自動車が一般化する技術はおおよそ整った 

第27回から39回まで、リチウムイオン電池、ネオジム・鉄・ホウ素磁石、GaNトランジスタについて述べてきた。この3つにこれだけの回数を割いたのは、温暖化の抜本的解決のためのひとつの手段として“電気自動車”があると考えるためだ。しかしその電気自動車を世界に普及できる商品としての性能を実現するためには、前述の3つが必要不可欠な発明であり、その工業化であったためである。

現在のところGaNトランジスタがインバータに使われた例はないが、ある時期にはパワートランジスタ素子の主役になると考えている。

リチウムイオン電池とネオジム・鉄・ホウ素磁石は、すでに市販電気自動車の主要技術として使われている。これらを踏まえて、これらの発明を応用した電気自動車について、これから複数回にわたって主題にする。

電気自動車の歴史は19世紀にまで遡るということや、エネルギー危機の度にこれが取り上げられて来たという話は他でもよく聞かれる。しかし、その性能が内燃機関自動車に遠く及ばなかったために、大量の普及には至っていなかったのは周知の通りである。これを可能にするための革命的な技術がリチウムイオン電池とネオジム・鉄・ホウ素磁石であったわけで、その発明と製品化工業化がなければ、すべてが絵に描いた餅に過ぎなかった。

電気自動車技術の最大の課題は“電池である”と長くいわれ続けられたが、リチウムイオン電池を用いることでこの課題は大きく縮まった。

現在も自動車用の12Vないし24Vの電池は鉛電池であるが、これは1859年に発明された古い技術である。しかし、それからの長い期間、これに代わる充電可能な電池が生まれて来なかったことで、現在でもこれが使われている。それは価格と性能が内燃機関自動車に用いるには実用的な水準であったことによる。但し電気自動車に用いるための試みは長年続けられたが、電池に必要な性能である重量当りに貯えられる電力量を示すエネルギー密度と、瞬間的にどれだけの電力を取り出せるかのパワー密度、それに何回充放電ができるかを示す寿命の3つの性能が電気自動車用途に用いるためにすべて不十分であった。

例えば、リチウムイン電池に比べてエネルギー密度でいえばその比は3~8倍、パワー密度では1.4~1.9倍、寿命でも1~1.2倍の違いがある。この比較が故にリチウムイオン電池は電気自動車用の電池として革命的な技術であった。

もうひとつのネオジム・鉄・ホウ素磁石もその最も重要な指標である残留磁束密度において、これに次ぐ磁石のサマリウムコバルト磁石に比べて約2倍の差がある。そのためにこれを用いると電気自動車用モーターに必要な重量当たりの出力と効率という二大重要性能に関して大きな利点となり、電気自動車性能向上に欠かせない技術である。

三菱i-MiEV、日産リーフが現代EVの範となった・・はずなのだが

リチウムイオン電池もネオジム・鉄・ホウ素磁石も2000年過ぎから電気自動車に利用可能な技術として製品化された。一旦製品化されると、それぞれの技術の性能と価格についても良い循環が生まれ、それがより高性能で安価な電気自動車への発展をしてきた。その結果、現在では電気自動車の普及がこれからも加速して行くことを疑う人々はほとんど居なくなっていると言って良い。

ここまでの電気自動車の発展であるが、これらの技術を使って製品化された世界初の電気自動車は三菱i-MiEVであり、2009年のことであった。それに続いて2010年に商品化されたのは日産リーフであった。こうして2010年までは日本は主要要素技術である電池と磁石及び製品としての電気自動車の点で明らかに世界の先頭を切っていた。

三菱i-MiEV
電池にリチウムイオン電池を使い、モーターにネオジム・鉄・ホウ素磁石を
使った世界初めての電気自動車。2009年に発売が開始された。
日産リーフ
2010に発売された初代日産リーフの車体は電気自動車専用に
作られた本格的な電気自動車であった。

しかし現在では、日本は諸外国に比べて立ち遅れているという心配の声が、自動車分野以外の人からも聞かれるようになっている。

この状態をどのように打ち破るかについて次回以降で述べて行きたい。

1997年に開発を始めたKAZのモックアップ
大型の電気自動車として開発したKAZの初期のデザインを
確認するために、高強度の段ボールで製作した実物大のモ
ックアップの制作風景。デザインに基づいて車体外形を再
現するために段ボールを電動のこぎりで切り、組み立てる
ことで、形状を作成した。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…