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2010年時点では日本は先進の電気自動車大国だった
電気自動車は電池と磁石の主要技術と車輌の生産販売において、2010年には日本は世界に抜きん出ていた。このままの勢いで進歩が続けば、今も世界でナンバーワンの電気自動車生産国となっており、電池や磁石でもシェアをとり続けていた筈である。
ところが日産リーフが販売になった後長い間、日本からは新車の販売はなかった。この間に世界の電気自動車は大いに伸長した。
その筆頭は、イーロン・マスクが大株主になったテスラ・モーターズであることは誰もが知っている。同社はイギリスのロータスの車体を用い、自らが駆動部分に関わることで、初めての車輌であるロードスターの販売を始めたのが2009年であった。その後、現在までヒット商品であり続けているモデルSが2014年に発売された。2015年にはサンフランシスコ郊外にトヨタとGMが合弁で作った自動車工場で、両社の提携関係が解消されたあとにこの工場を手に入れることになった。こうしてここでモデルSの生産が始められ、その後モデル3、モデルX、モデルYと販売する車種を増やし、現在、世界一の電気自動車会社になっている。
テスラの席巻、そして中国の進出
次いで中国がこの分野に参入してきた。同国は長年内燃機関自動車で、先進国に追いつくために国内企業と外国企業が合弁する形で生産を行なって来た。狙いはこの分野で独自の技術を持つことであったが、車体開発はすべて合弁相手の外国の自動車会社だったことで、遂に追いつくことができなかった。このため、世界中が黎明状態であった電気自動車なら諸外国に負けない産業に成長させられるのではないかという政策の下で、2016年以降莫大な補助金が中央政府や地方政府から出され、潤った国営企業や新興企業が次々にこの分野に参入を始めた。
その結果、政府の補助金、技術の向上、市場への多数の新車の投入により、電池や磁石技術も日本人の優れた技術者を招き、かつ大型の投資をすることで世界的なシェアを持つに至ったのは電池と磁石の項で述べた通りである。こうして電気自動車の普及の勢いは2022年の統計では年間500万台の生産になろうとしている。これは同国の自動車の総生産台数が2021年に2600万台であったことを考えると約20%にまで及ぼうという数字である。
内燃機関の新たな排ガス問題が契機に
ヨーロッパに目を向けると、フランスやドイツでは古くから細々と電気自動車の研究開発が続けられてきた。しかし、特にドイツではディーゼルエンジンを乗せた乗用車が、燃費が良いということで温暖化対策の有効な手段であるとして、ここに大きな投資がされてきた。ところがそこで発生する窒素酸化物の処理装置に大きな問題があることが偶然発見された。それはそれまでの排ガスの試験は屋内に設置された車ごと大きな回転ドラムに乗せて決められた走行方法で試験を行なう台上試験の結果から排ガス量が基準以下であることを証明することで車の販売が行なわれて来た。この測定法が長く使われてきたのだが、自動車用の排ガス測定装置のトップシェアを持つ日本の堀場製作所が車載型の測定装置を開発した。
これを使って2013年春から研究用にとアメリカウエストバージニア大学でドイツの車輌を用いて路上での試験を行なった結果、基準を大きく上回る排ガス量が測定された。これが世界的なニュースとなり、フォルクスワーゲンはその改良を試みたが、一般路上を走行した測定では基準を満たすことが出来なかった。この事情はディーゼルエンジンの乗用車を販売の主力に据えようとしてきたドイツの自動車会社にとってもすべて同じことで、素早く電気自動車に切り換えることを決定し、猛烈な勢いで電気自動車の開発を始めることになった。もちろんフォルクスワーゲンも急速に電気自動車化を始めた。eゴルフに始まりID.3とID.4及びIDバズの販売を始め、SUVクーペとしてID.5の予約を開始した。このような急激な転換の結果、同社の2021年の電気自動車の売上げは約45万台であり世界シェアとしてはテスラ・モーターズの94万台、上海汽車の61万台に続いて3番目に入っている。
一方で2010年に世界の最先端であった日本の電気自動車は2021年の販売台数でわずか1万2000台に止まっている。これに対して、自動車の専門家でない一般の人々からも日本の電気自動車はどうなのという声が聞かれている。もちろん国内の大手自動車会社は電気自動車の開発に大きな投資を始めている。しかし、これまでの内燃機関自動車の年間生産量を維持し、さらに拡大をさせようとすると、並大抵のことでは実現できない。どうしたら良いか。それに対処するために次回は何故電気自動車が内燃機関自動車に比べて優位性があるかについて述べることにしたい。