メルセデスの最上級BEV、EQSはSクラスを超えるか? 加速・走り・静粛性

メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+ 車両本体価格:2372万円
メルセデスの最上級セダンと言えば、「Sクラス」である。そのBEV版がEQSだ。このEQS、EQシリーズとしては初めてBEV専用プラットフォームを採用した、メルセデスの本気BEVなのだ。果たして、EQSはSクラスの代替となる素質があるのか?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

まずはEQSのアウトラインから

メルセデス・ベンツ初のラグジュアリー電気自動車(BEV)、EQSが発売された。BEVのEQシリーズはすでにSUV系のEQC、EQA、EQBが発売されているが、いずれもエンジン車をベースにコンバージョン(エンジン+トランスミッションなどを降ろし電動系コンポーネントを搭載)したモデルだ。EQSはEQシリーズとしては初めて専用プラットフォームを採用している。

そのため、独特のスタイリングを形成することが可能になった。EQSのボディサイズは全長×全幅×全高が5225×1925×1520mmで、Sクラスの標準ボディ(5180mm×1920mm×1505mm)とオーバーラップする。が、プロポーションはまるで異なっており、エンジンとトランスミッションを縦置き搭載するSクラスはボンネットフードが長い、長らく我々が見慣れたプロポーションをしている。

いっぽう、EQSはボンネットフードが相対的に短く、キャビンは前寄りに位置し、フロントエンドからリヤエンドまで弧を描くようなラインで形成されている。メルセデス・ベンツはこのシルエットを「ワン・ボウ」(bow=弓)と表現している。

EQSのボディサイズは全長×全幅×全高が5225×1925×1520mm
Sクラスの標準ボディは5180mm×1920mm×1505mm

開口部のないブラックパネルを配したフロントフェイスは既存のEQシリーズと共通。構造的には、ボンネットフードをタイヤハウスまで回り込ませているのが特徴で、これはデザインの観点だけでなく、高速走行時にボンネットフードの浮き上がりを防止する意味もあるという(空気抵抗低減の観点)。

そのボンネット、ユーザーが自由に開閉することを前提としておらず、サービス工場でのみ開閉可能だ。それゆえ、左フロントフェンダーにはウォッシャー液を補充するためのサービスフラップが付いている。

フロントボンネットはユーザーが開けることができないようになっている(開ける必要がないから)。
ウインドウウォッシャー液はここから補充する。

EQSのラインアップはふたつで、メルセデス・ベンツEQS 450+とメルセデスAMG EQS 53 4MATIC+だ。前者はリヤに最高出力245kW(333ps)、最大トルク568Nmの永久磁石同期モーターを搭載。後者はリヤだけでなくフロントにもモーターを搭載し、前後合わせて484kW(685ps)の最高出力を発生する。最大トルクは950Nmだ。レーススタートモード選択時の出力は最大560kW(761ps)に跳ね上がる。EQS 450+の0-100km/h加速は6.2秒で、最高速は210km/h。EQS 53 4MATIC+の100km/h加速は3.8秒で、最高速は260km/hだ。ラグジュアリーサルーンでありながら、極めて高いパフォーマンスの持ち主であることがわかる。EQS 53 4MATIC+は前後の駆動トルクを連続可変で制御する機能を搭載している。

107.8kWhという大容量のバッテリーを搭載する。
EQS 450+はRWD、EQS AMG 53は4WD。

長いホイールベース(3210mm)間の床下に敷き詰めるリチウムイオンバッテリーの容量は両モデルで共通しており、107.8kWh。EQS 450+のWLTCモード一充電走行距離は700km、EQS 53 4MATIC+は601kmだ。EQSの場合、大容量バッテリーのおかげで、航続距離を気にする必要はなさそうだ。急速充電はCHAdeMO規格の最大150kW充電器に対応。150kW充電器の場合、バッテリー容量10%から80%までの充電に要する時間は48分、90kW充電器で55分、50kWで110分だ(メルセデス・ベンツ日本調べ)。バッテリーは10年25万キロ(残容量70%)を保証している。

EQCやEQA、EQBより新しい世代のバッテリーを搭載

メルセデスEQS 450+ 車両価格は1578万円 車両重量は2560kg。前軸軸重1210kg 後軸軸重1350kg

試乗したEQS 450+の車両重量は2560kg、EQS 53 4MATIC+は2670kgに達するが、これでも重量エネルギー密度の高い最新のバッテリーを採用したおかげで軽量化を図っている。107.8kWhの容量を持つEQSのバッテリー重量は690kgだ。1kgあたりの容量は0.156kWhである。EQCは80kWhに対して650kgなので、重量エネルギー密度は0.123kWh/kg、EQA/EQBは66.5kWhに対して480kgなので0.139 kWh/kgだ。EQSのバッテリーはEQCに対して約27%、EQA/EQBに対して約13%重量エネルギー密度が向上している。おかげで88~186kgの軽量化を果たしていることになる。

電気の面でEQSの大きな特徴は、クルマから家に電力を供給できるV2H(別途工事が必要)、クルマから電化製品に電気を供給できるV2L(別途充放電器が必要)に対応していることだ。災害時の非常用電源としての使用を想定するなど、日本でのニーズに合わせて特別に設定したとこのことだ。

EQS AMG53のインテリア
EQS 450+のインテリア。Sクラスとは趣が大きく異なる。

インテリアはデジタルな要素に満ちている。最新のSクラスを含め、最新のメルセデス・ベンツのエンジン車は、タブレット端末を立てかけたようなメータークラスターを特徴としている。デジタルの主張が強い点に変わりはないが、EQSは独自のコンセプトでまとめられている。ダッシュボード全体は全面ガラス張り。MBUXハイパースクリーンと呼んでおり、EQS 450+にはオプション設定だ。幅はなんと141cm。そこに3枚のディスプレイがはめ込まれている。運転席の前は12.3インチの液晶、センターは17.7インチの有機EL、助手席ディスプレイも有機ELで、サイズは12.3インチだ。

EQSは既存のエンジン車に輪をかけてディスプレイ表示のバリエーションが豊富だ。センターのメディアディスプレイと助手席ディスプレイは触感フィードバックを採用しており、ハードキーを押したときのようなフィードバックを返してくれる。エンジン車のような縦置きパワートレーンが不要でセンタートンネルを持たない特徴を生かし、センターコンソールは宙に浮いたようなデザインを採用。リヤ席のフロアもフラットだ。

後席は広く静かで居心地がいい。
フロントシートはEQSがドライバーズカーでもあることを如実に伝えてくる。
ラゲッジルームはVDAで580ℓ

バッテリーとフロアの間に発泡材を敷き詰める。大きなテールゲートには吸音部を設ける。ボディシェルの構造材の一部に特殊な防音発泡材を詰める。前後のeATS(モーター)は発泡材で覆って密封する。風切り音についてはドアやウインドウのシールに留意。などなど、EQSは静粛性の向上に関して徹底した。その効果は歴然としており、静粛性の高さこそEQSの最大の価値と言いたくなるほどだ。ロードノイズも徹底的に抑え込まれており、車速を上げても高い静粛性は保たれたまま。静粛性の高さに関しては、SクラスですらEQSには叶わない。

EQSはサウンドの演出に凝っており、アクセルペダルの踏み込み量や車速、回生ブレーキなど、10数種類のパラメーターに連動してスピーカーから効果音を発する。ひと言で表現すればSF映画で宇宙空間を移動しているような雰囲気だ。個人的な好みでいえば、効果音で車室を満たすより、静けさに身を委ねたいと筆者は思う(選択・切り替えは可能)。

車両重量2.5tの走りはどうだ?

車両重量は2.5t超えだが、リヤにしかモーターを搭載しないEQS 450+ですら、動力性能は充分だ。エンジン車も含めてメルセデス・ベンツの定番となりつつあるリアアクスルステアリングを備えており、EQS 450+は最大4.5度、EQS 53 4MATIC+は最大9度も逆相に切れる。最小回転半径はそれぞれ、5.5mと5.3mだ。EQS 450+はMercedes me Storeの利用で最大10度(その場合、最小回転半径は5.0m)までアップデートすることが可能だ(同相側はいずれも最大2.5度)。

リアアクスルステアリングは、巨体のEQSの小回り性を飛躍的に高めている。
EQS AMG53の最小回転半径は、なんと5.3m。

EQS 53 4MATIC+はAMGの名を冠するだけあって走りの次元が異なっていた(AMG初のEQモデルだ)。静粛性よりの高さよりも、電気の力を存分に生かしたパフォーマンスがこのクルマの真骨頂。前述したように、100km/h加速は3.8秒でこなす実力の持ち主で、最高出力は平常時ですら484kW(685ps)である。アクセルをべた踏みにしたときの猛烈な加速ときたら息が止まるほど、首がのけぞるほどで、助手席の乗員からは「踏むなら踏むってあらかじめ言ってね」と釘を刺されたほどだ。

EQS 450+との価格差でEQA250が買えてしまうが、メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+にはそれだけの価値があると納得させられるほどの強烈なパフォーマンスを発揮する。AMGはEQでもやはり、AMGだ。

ボディカラーはハイテックシルバー
メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+
全長×全幅×全高:5225mm×1925mm×1520mm
ホイールベース:3210mm
車重:2670kg
サスペンション:F4リンク式/Rマルチリンク式 
駆動方式:4WD
駆動モーター
形式:交流誘導モーター
モーター型式:FEM0031型 R EM0028型
システム出力
最高出力:658ps(560kW)
最高出力(RACE START時):671ps(560kW)
最大トルク:950Nm
最大トルク(RACE START時):1020Nm
バッテリー容量:107.8kWh
総電圧:396V
交流電力量消費率(WLTCモード):221Wh/km
一充電走行距離(WLTCモードモード):601km
 市街地モード225Wh/km
 郊外モード218kW/km
 高速道路モード221kW/km

車両本体価格:2372万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…