日本での使われ方を徹底研究した中国の開発チーム
RACCO(ラッコ)は中国のBYDが日本市場のためにゼロから設計・開発した軽自動車規格の電気自動車(EV)である。日産で軽EVのサクラなどの開発を担当した人物がラッコの開発を主導したとの報道も見られるが、それはない。田川博英氏がBYD Auto Japanに入社したのは2025年8月のこと。ラッコの開発がスタートしたのは2023年のジャパンモビリティショー(JMS)後のことであり、田川氏がBYD入りした頃にはとっくに形はできあがっていた。

要所でBYD Auto Japanをはじめとする日本側の意見を聞き入れたりはしたが(当初、電動スライドドアは助手席側だけだったのに、最終的には両側になったことなどを含めて)、ラッコは純粋にBYDの中国人従業員によって企画・設計・開発が行なわれたクルマである。詳しくは8月31日に発売される『BYDラッコのすべて』(三栄)で触れているが、取材陣の目に触れないように隠したのでなければ、中国・深圳(しんせん)にあるBYDの開発拠点で会った技術者たち(集合写真撮影の際にはゆうに100名を超える従業員が集まった)はみな明るく元気な中国の人たちであった。それに各開発領域のリーダー格の人たちを含めて、みな若かった。

2023年のJMS後にラッコの開発チームが結成されると、2024年の1月には開発チームが日本を訪れ、現地調査を開始した。市場調査レポートや統計データだけに頼ったのでは、日本のユーザーの本当のニーズは見えてこないと考えたからだ。企画・開発・デザインなど各領域の担当者が実際に日本を訪れ、都市だけでなく郊外を走り、地方にも行った。コンビニを使い、ショッピングモールに行った。家族の送り迎えに使われるシーンも見ている。坂道や雪道も走った。自分たちだけで判断したのでは必ず盲点が生まれるので、日本側の意見に耳を傾けた。

装備をそぎ落とせば、そのぶん開発コストも部品コストも抑えることができ、車両本体価格を低く抑えるのに貢献する。だが、開発陣はラッコを単なる移動手段にしたくなかった。だから、毎日の使いやすさを考えた装備をふんだんに盛り込んだ。前席後ろに設けた傘収納ストラップ(下に雨水を受ける引き出し式トレイを設置)がいい例だ。なくてもクルマとしては成立するが、開発陣はこだわった。最上級グレードの300Premiumに装備される保温機能付きの前席カップホルダーも、こだわりのひとつである。

これは便利だと感心したのは、足元投影ガイド付きハンズフリースライドドア(300Premiumに装備)だ。リモコンキーを持った(ポケットやカバンに入れておいていい)状態でクルマに近づくと、スライドドア下部の路面にライトが投影される。そこに足をかざすとラッコは自動的に解錠し、電動スライドドアが開く仕組み。ドアの下に足をかざすと電動スライドドアが自動で開く機能は他車にも設定はあるが、「センサーどこ?」と足をぶらぶらさせることになる。投影ガイド付きなら足でまさぐる必要はなく、両手がふさがって心理的に余裕がない状況ではスマートに操作できて、ありがたい(に違いない)。

日本には導入されていないが、BYDのプレミアムブランド、デンツァ(騰勢)のフラッグシップミニバン「D9」で採用されている技術で、これをラッコに応用した格好だ。「技術は人々を豊かにするためのものであって、見せびらかすためのものではありません」と語ったのは、BYDアジア太平洋地域自動車販売事業部 総経理かつBYD Japan代表取締役社長の劉学亮(りゅう・がくりょう)氏である。
ラッコは幼児置き去り検知機能(後席CPD)を300Plusと300Premiumに標準装備する(200にも設定してほしいと個人的には思う)。車内で動く幼児を検知し、警告音とハザードの点滅により、周囲にいる人に車内の状況を知らせ、それでも救助されない場合はエアコンが自動的に作動する。これも「技術は人のために使う」一例だ。
ラッコに試乗してウインカーを操作することになった際、無意識に右側のレバーを操作することだろう(筆者はそうだった)。国産車なら当たり前だが、輸入車のくくりで見ると、いまだに左ウインカーレバーが主流。ラッコはBYDの他のモデルと同様に、右ウインカーレバーだ。「日本の消費者の習慣に基づくのが私たちの考え」と劉氏。ラッコは日本車に慣れた人が乗り換えても違和感を覚えず、なおかつ安心して快適に、便利に使えるように気を配って開発されている。

それでもまだ足りないところはあるかもしれない。BYDはラッコが実際にユーザーの手に渡ってから声を拾い続けることになるだろう。ソフトウェア面で解決できることはOTA(無線通信によるソフトウェアのアップデート)を使い、タイムリーに改善を図ってくるに違いない。ハードウェアは難しいと古い頭では判断しがちだが、即断即決のBYDのこと、商品の魅力が上がると判断した際は速攻でランニングチェンジして、日欧の自動車メーカーがおののくチャイナスピードをここぞとばかりに見せつけてくる気がする。

メディア向け試乗会に参加してラッコを運転したので、本来なら試乗レポート的な文章を記すのが筋だが、そのあたりは他のライターさんの記事を参照していただくことにしよう(と、横着を決め込む)。簡潔に印象をお伝えすると、ラッコの使い勝手と走行性能、何ら不足はない。試乗のスタート地点が富士スピードウェイホテルだったので、7.5kmほど離れた道の駅すばしりまでワインディングロードの走りを堪能した。本来ラッコが想定する使い方から外れているのは承知だが、ロケーションがそうだったので致し方ない(日常使いでも試してみたい)。
車重が1230kg(300Premium)あるので走りはどうかな?と軽く疑念を抱きつつ走り出したのだが、気づいたら我を忘れて楽しんでいた。スイスイ動き、まるで電動ゴーカート感覚である。加速側、減速側双方の車速の管理も、進路の管理もしやすく、気を遣わない。それどころか、気づいたらライントレースする行為を楽しんでいる。ペースを上げても(もちろん、限度はあるが)危なっかしさは感じない。
EVなので当然だが、アクセルペダルを床まで踏み込んでもエンジン車のように騒々しいノイズが発生することもない。静かなままスッと動くのでストレスがない。スーパーやコンビニ、駅への送迎に通勤を想定した使い方をなぞってはいないが、ごくたまに遠出した際の使い勝手については申し分なさそう。ポテンシャルの高さは確認できた。
| 車種 | BYD RACCO 300Premium |
| 全長 | 3395mm |
| 全幅 | 1475mm |
| 全高 | 1800mm |
| ホイールベース | 2520mm |
| トレッド前/後 | 1295mm/1305mm |
| 乗車定員 | 4名 |
| 最小回転半径 | 4.8m |
| 最低地上高 | 130mm |
| 車両重量 | 1230kg |
| 駆動方式 | FWD |
| モーター型式 | TZ180XSAB |
| モーター定格出力 | 25kW |
| モーター最高出力 | 47kW(64PS) |
| モーター最大トルク | 160Nm(16.3kgm) |
| 0-50km/h加速 | 4.4秒 |
| バッテリー種類 | リン酸鉄リチウムイオン電池(ブレードバッテリー) |
| バッテリー総電圧 | 224V |
| バッテリー総電力量 | 35.84kWh |
| 充電方式 | 普通充電:最大6kW 急速充電:最大49.7kW |
| 交流電力量消費率(WLTCモード) | 124Wh/km |
| 一充電走行距離(WLTCモード) | 320km |
| 最終減速比 | 3.410 |
| サスペンション | 前:マクファーソンストラット式 後:トーションビーム式 |
| ブレーキ | 前:ベンチレーテッドディスク 後:ソリッドディスク |
| タイヤサイズ | 165/65R15 |
| 価格 | 249万7000円 |







