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アクセルを開けるほどクルマとの一体感が増す1.5Lターボ
ホンダの新型ミドルサイズSUVである「ZR-V」を、ガソリンモデルとe:HEVモデルで乗り比べた。
そのアーキテクチャーはシビックのコンポーネンツがベースとなっており、「CR-V」が導入されない関係から、日本市場ではこれが一番大きなSUVとなる。
ちなみに北米市場だとこのZR-VがコンパクトSUVとして扱われる。VEZELでは小さすぎるためだ。それほど日本と北米では、クルマのサイズ事情が異なる。
というわけでさっそくZR-Vを走らせてみると、これがまさに「SUV版シビック」と言うべき仕上がりだった。
特に1.5リッターの直列4気筒VTECターボ(178PS/240Nm)は、走りが軽快だ。試乗車がFFモデルのベーシックな「X」グレード(車重は1460kg)ということもあったが、街中では軽くアクセルを踏み込むだけで車体がスーッと加速する。小排気量ターボながらもCVTとの連携が巧みで、上手に過給圧を上げながら速度を乗せていってくれる。だからギクシャク感がなく、トータルで静かなのだ。
そしてアクセル開度を深めるほどに、クルマとの一体感が増していく。絶対的なトルク感や力強さは後述するe:HEVに譲るが、ターボらしからぬクリアなサウンドと共に小排気量ユニットを精緻に回す感じは、我々が良く知るホンダテイストだった。
サスペンションはやや硬めだが、だからこそ勢いが付くとタイヤがよく転がる。ハンドルを切れば車線変更も軽やかにこなし、大きなカーブは少ないロール量で、狙い通りのラインをトレースしてくれる。
今回は運転席のみでの確認だったが、乗り心地もうまくまとめられていた。ゆったり、まったりとした大人っぽさはないが、そのストロークを生かしながら段差や荒れた路面からの入力を、短い時間で素早く減衰する。特にリアサスの動きは、シビックよりもしなやか。これが距離を経てこなれてきたら、かなりよくなると感じた。
e:HEVの乗り味はまさに別モノ
ただコスパ以上に動的な質感を求めるなら、圧倒的に「e:HEV」がお勧めだ。特に今回は試乗車が4WDモデルだったこともあり、その乗り味には正直大きな差があった。
ご存じ「e:HEV」は、エンジンを発電主体に使うハイブリッド(高速巡航時のみこれを直結して燃費性能を向上)。ZR-Vはシビック同様に自然吸気の2リッター直列4気筒(141PS/182Nm)を搭載しており、この動力が発電用モーターから蓄電され、184PS/318Nmの走行用交流モーターを駆動する。
ホンダ自らが「3リッターV6エンジンなみ」と語る318Nmのモータートルクは確かに頼もしく、かつこれがスムーズに立ち上がることで、滑らかな走行フィールまでもが味わえる。
さらに試乗車はAWDだったため、発進時の出足はもちろん、カーブでの安定性が大きく高められていた。
現在ハイブリッド車のAWDは後輪をモーター制御化することが主流となっているが、ホンダは「リイアルタイムAWD」として、敢えてプロペラシャフトで後輪を駆動している。
これは現状のモーターキャパシティでは得られないより大きなトルクを後輪へ伝えるための判断だが、ゆっくり走らせても緻密な制御が黒子的にその走りを底支えしてくれるのだ。
パワーユニットはコールドスタート時のみエンジンが“ブーン”とうなりを上げたが、常用域では効率良く発電を行っているのだろう、街中から高速道路まで、車内は静かだった。
逆に気になったのはe:HEV自慢の「リニアシフトコントロール」制御で、これがシビックよりもわかりにくいと感じた。
リニアシフトコントロールはアクセルを踏み続けたとき、有効トルクバンドの範囲内でエンジンを疑似シフトアップさせる制御。
あたかも高性能なトランスミッションですばやく加速している感覚が味わえるアミューズメントだが、たとえばスポーツモードに入れたらもっと派手に、短くこれを制御してもよい。今後はエンジンのサウンドジェネレーター同様、こうした周りに迷惑を掛けずにクルマの官能性を楽しむ制御が、もっと大切になってくるはずだ。
総じてZR-Vは、実にホンダらしいSUVに仕上がっていた。そのネーミングにはシビック同様、“Z”世代に向けた“最新”のSUVという意味が込められているとのことだったが、日本ではいっそのこと、「シビック ZR-V」としてもよかったのではないか? と思う。
そのデザインはスポーツカーのようなグリルが個性的。筆者はまったく好みではないが、群雄割拠のSUV市場では好みが分かれることも承知の上だったという。そしてその感性が筆者のような“X世代”の感性に合わなくても、むしろそれは頷ける。
ちなみにe:HEVの、シフトレバーを配したスタイリッシュなブリッヂ式センターコンソールは素晴らしいデザインだ。
ホンダにはZR-Vをベースにした夢のある提案に期待したい!
全体のプロポーションもクーペライク。モールを廃したルーフはつなぎ目が美しく、これでラックは付くのだろうか? と心配になってしまうほどスタイリッシュさを意識している。
それでも室内空間やラゲッジルームは犠牲にされておらず、リアシートの乗り心地も上々。そしてフルフラットにはならないが、シートを倒せばえぐれたハッチのおかげもあって、前輪を外す必要はあるが自転車が車内に2台詰め込める。
外見と走りはグッとスポーティでも、実用性は妥協しない。こうした「無理を通して道理も引っ込めない姿勢」は、超スクエアなボディで走りを一切妥協しなかったN-BOXと同じで、実にホンダらしい。
だからこそ見た目も走りもスポーティなZR-Vには、スペシャルモデルを用意して欲しい。ずばりそれは、シビック タイプRのエンジンを搭載したハイエンドモデルだ。
なんでもかんでもハイパワーなエンジンを搭載すれば良いというものではないが、国産車はこうした夢のある提案が欧州勢に比べて極端に弱い。たとえそれを万人が買えなくても、イメージリーダーとしていてくれるだけで、そのクルマとメーカーのプレゼンスも高まるはずだ。
もちろんシビック タイプR用の2リッター直列4気筒ターボ「K20C」を搭載するには、様々な高いハードルがある。
そもそも電動化に舵を切り、「e:HEV」をその旗頭とする今のホンダに、ガソリンターボを推せと言っても無理がある。
現実的にはトランスミッションも6MTしか用意できないだろうし、駆動方式としてはAWDが妥当だが、システムがそのトルクに耐えられるのか? という問題もある。
でも確実に、そこには夢がある。そしてホンダも、それがきらいじゃないはずだ。
直列4気筒エンジンのテールパイプを「かっこいいから」という理由でデュアルタイプにするのはサステナブルではないし(筆者はセンター出しがよいと思った)、それならいっそタイプRのエンジンを積んで、トリプルセンターエキゾーストを付けて欲しい。
別に市販前提でなくてもいい。こうした夢のある企画を、たとえば「東京オートサロン」のような会場でみんなに提案して欲しい。
ちょっと熱くなったが、それくらいZR-Vは、走りの気持ち良いSUVに仕上がっていたということだ。
ホンダ ZR-V e:HEV Z(4WD) 全長×全幅×全高 4570mm×1840mm×1620mm ホイールベース 2655mm 最小回転半径 5.5m 車両重量 1630kg 駆動方式 四輪駆動 サスペンション F:マクファーソン式 R:マルチリンク式 タイヤ 前後:225/55R18 エンジン種類 水冷直列4気筒横置 エンジン型式 LFC 総排気量 1993cc 内径×行程 81.0mm×96.7mm 最高出力 104kW(141ps)/6000rpm 最大トルク 182Nm(18.6kgm)/4500rpm トランスミッション 電気式無段変速機 モーター種類 交流同期電動機 モーター型式 H4 最高出力 135kW(184ps)/5000-6000rpm 最大トルク 315Nm(32.1kgm)/0-2000rpm 燃費消費率(WLTC) 21.5km/l 価格 4,119,500円
ホンダ ZR-V X(FF) 全長×全幅×全高 4570mm×1840mm×1620mm ホイールベース 2655mm 最小回転半径 5.5m 車両重量 1460kg 駆動方式 前輪駆動 サスペンション F:マクファーソン式 R:マルチリンク式 タイヤ 前後:225/55R18 エンジン種類 水冷直列4気筒横置 エンジン型式 L15C 総排気量 1496cc 内径×行程 73.0mm×89.4mm 最高出力 131kW(178ps)/6000rpm 最大トルク 240Nm(24.5kgm)/1700-4500rpm トランスミッション CVT 燃費消費率(WLTC) 14.6km/l 価格 2,949,100円