東京消防庁が誇る大規模災害の切り札、これは究極の救急車か? / スーパーアンビュランス/トミカ × リアルカー オールカタログ No.116

発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実車の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実車はどんなクルマ?
No.116 スーパーアンビュランス (傷病者室左右拡幅・希望小売価格550円・税込)

『トミカ』のNo.116は『スーパーアンビュランス』です。スーパーアンビュランスとは、東京消防庁に配備されている、大型トラックをベースとした特殊救急車です。

東京消防庁のスーパーアンビュランス。左上は走行時。右上は荷室拡張時。左下は拡張した状態の室内。右下は拡張し、ベッドを展開した状態の室内。(PHOTO:東京消防庁)

スーパーアンビュランスは救急車として患者搬送を行なえるほか、荷台部分が左右に2メートルずつスライドして拡幅することで最大約40平方メートルのフラットな床面を作り出せ、左右各4床、計8床のベッドを有する救護所として大規模災害や多数傷病者が発生した時に活躍する特殊車両です。救急救命士を中心に現場に設定されるこの救護所により、災害現場での応急処置を可能とします。

三菱ふそう・スーパーグレートをベースとした2代目スーパーアンビュランス。商品名としては現場救護車(救急車)の名称になるようだ。こちらも過去に『トミカ』になっていた。(PHOTO:京成自動車工業)
いすゞ 2代目ギガをベースとした最新の4代目モデル。(PHOTO:東京消防庁)

スーパーアンビュランスは1994年に1号車が配備されて以後、代を重ねて、2023年3月現在は、2018年に配備された4代目車両が第二消防方面本部消防救助機動部隊、通称『ハイパーレスキュー』で活躍中です。初代は三菱ふそう・ザ・グレート、2代目は三菱ふそう・スーパーグレートがベース車両で使用され、3代目からはいすゞギガがベース車両となっています。また、初代から3代目までは京成グループの架装メーカーである京成自動車工業が架装を請け負っていましたが、現行の4代目車両は消防向けの拡幅型支援車を多数製造している福島県のヨコハマモーターセールス製造が手がけています。

京都市消防局に2015年に配備された高度救急救護車ハイパーアンビュランス。スーパーアンビュランスに準じた車両だ。(PHOTO:京都市消防局)

近年では京都市消防局に2015年に配備された高度救急救護車ハイパーアンビュランスや日本赤十字社熊本県支部の特殊医療救護車ディザスターレスキューなど、このスーパーアンビュランスに準じた車両は各地で見ることが出来ます。最近では可茂消防事務組合の拠点機能形成車のように、スーパーアンビュランスと同様の車体構成でありつつ、防災拠点や災害拠点の緊急配備・緊急展開に特化した車両なども各地に増えています。

『トミカ』の『No.116 スーパーアンビュランス』は、その車体の特徴から見て、いすゞの大型トラック『ギガ』の初代モデルをベースに2006年に登場した、3代目のスーパーアンビュランスがモデルとなっているようです。

いすゞ『ギガ』は、1994年(トラクタ系は1995年)に810シリーズの後継車として登場した大型トラックです。1994年に登場した初代モデルは好評のうちに代を重ね、衝突時のキャブ変形量を減少し生存空間を確保するため、フレーム構造などに改良を施し安全性の向上を図ったり、エンジンの燃焼効率の向上やフリクションの低減などにより燃費を向上させるなど、安全性と経済性を磨き上げていきました。また、逆止弁を装備した世界初の“ワンウェイ・クールドEGR”をインタークーラーターボ系エンジンに採用するなど、環境性能にも磨きをかけています。2005年にマイナーチェンジをうけて登場した6型が、3代目スーパーアンビュランスのベース車両に選ばれているようです。

いすゞ 初代ギガ。

2023年3月現在、『ギガ』の最新モデルは単車系――非トレーラー系車種のこと――が2015年、トラクタ系が2016年にデビューした2代目モデルになります。ちなみに2023年3月現在の現行最新の4代目スーパーアンビュランスは、この2代目『ギガ』をベースとしています。

2代目『ギガ』は、労働力不足や運行コストの低減などの課題、環境や安全に対するニーズの高まりを受け、車両単独性能の追求から“運ぶ”システムへと進化させることを目標に、次世代トラックのあるべき姿を見据え、快適な運転環境の実現、省燃費の追求、トータルセーフティの追求、高積載の確保、情報通信による遠隔サポートといった5つの視点から、その性能を磨き上げています。

外観は新空力骨格キャブにより、空気抵抗を低減させると同時に、昇降ステップやグリップ等を効率よく、かつ美しくレイアウトするなど、使い勝手と経済性能を両立。大型フロントグリルおよび大型インタークーラーにより冷却性能が向上させています。

インテリアは運転操作性の向上として、セミラウンドインパネを採用。スイッチ類をメーター・インパネ周りに集約し、また使用頻度に合わせてゾーン分けして機能的に配置することで、運転時の操作性や識別性が向上させ、より効率的な操作を可能としています。また、ステアリングスイッチと4インチ液晶モニターのマルチインフォメーションディスプレイの採用で、安全で負担のない操作を可能にしています。

初代6型から2代目の『ギガ』にも搭載されている6UZ1型エンジン。改良が重ねられ、現在では出力やトルクが「向上したほか、重量も軽量化されている。

エンジンも大きく改良され、ターボチャージャーの仕様変更、インタークーラーとラジエーターの大型化、EGRクーラーの高効率化、サプライポンプの変更、新インジェクターの採用、超高圧コモンレールの採用により、低・中回転域のトルクアップが図られ、燃費が向上しています。また、進化した自動式変速トランスミッション『Smoother-Gx』により、スムーサーのシフトショックを低減し、より滑らかな発進を実現しています。さらにエンジンリターダを採用することで補助ブレーキの制動力も向上しています。

安全装置関係では、移動障害物に対する衝突回避支援機能がプリクラッシュブレーキに追加されたほか、障害物を検知する手段をミリ波レーダーとカメラを併用する二重検知にすることで、前方の検知精度を大幅に向上させています。

さらにデータ通信とインターネットを融合して車両データを遠隔で解析する仕組み、『MIMAMORI』が標準搭載されており、従来わからなかった車両の状態が、インターネットを介して遠く離れた場所からでも容易に確認することが可能となっています。

岐阜県美濃加茂市の可茂消防事務組合、中消防署に配備されている拠点機能形成車。車両の構造はスーパーアンビュランスに準じているが、防災拠点の緊急展開に特化している。(PHOTO:可茂消防事務組合)

さて、『トミカ』の『No.116 スーパーアンビュランス』は、前述のように2006年から2021年まで使用され、2007年の渋谷温泉施設爆発事故や2018年の多摩テクノロジービルディング建設現場火災などに出場した3代目スーパーアンビュランスをモデル化しています。その頼もしい巨体を上手く再現しているだけでなく、実車のように傷病者室の左右拡幅が出来る仕掛けも備えた、動きも楽しい1台となっています。また、2023年現在、本製品を含めて、『No.55 いすゞ ギガ フライドポテトカー』、『No.101 いすゞ ギガ ダンプカー』の3台のいすゞ『ギガ』の『トミカ』がラインアップされています。No.55が初代のトラクタ型、No.101が2代目のダンプカーと、同じ『ギガ』でもまったく個性の異なる車両ですので、そういういコレクションの仕方も面白いかもしれません。

■スーパーアンビュランス 主要諸元(『トミカ』のモデル車両と同一規格ではありません)

ベース車両:いすゞ ギガ PJ-CYZまたはCYY系

全長×全幅×全高(mm):11000×2500×3780

車両重量(kg):19000

乗車定員:10名

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